俺の妻はそっけない女 の小説カバー

俺の妻はそっけない女

9.0 / 10.0
政略結婚の犠牲となり「愛することはない」と夫に突き放されたデイジー。六年後、彼女は軍隊で大佐へと昇り詰め、強靭な精神を持つ女性として再びエドアードの前に現れる。本作は『俺の妻はそっけない女』というタイトルの通り、冷徹だった夫が変貌した妻に翻弄される姿を描くromance作品。過去の亀裂と息子の存在が交錯する中、二人の関係はどう再構築されるのか。人気web novelの枠を超えた、愛と成長の物語。
「俺の妻はそっけない女」のあらすじ
「お前は名義上の妻に過ぎず、俺が愛することなど一生ない」――。政略結婚を強いられたエドアードは、デイジーに対して非情な言葉を突きつけた。互いの家族の強欲な思惑に翻弄され、犠牲となった二人。愛のない冷え切った関係のまま、彼女は彼の前から姿を消した。それから六年の月日が流れ、デイジーは軍隊で「鉄の意志を持つ大佐」としてその名を轟かせるほどの強靭な女性へと成長を遂げていた。再びエドアードの前に現れた彼女は、かつての面影を覆すほど凛々しく、彼の心を激しく揺さぶる。一変した彼女の姿に、エドアードはこれまでにないほどの恋心を抱き、惹かれていく。しかし、過去に深く刻まれた心の亀裂は、そう簡単に埋まるものなのだろうか。冷遇されていた過去を持つデイジーは、果たして彼の愛を受け入れるのか。そして、二人の間に生まれた息子の存在は、離れ離れになっていた夫婦の絆を再び繋ぎ止める鍵となるのか。すれ違う二人の運命と、再生へと向かう愛の行方を描いた物語。
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俺の妻はそっけない女 第1章

Sシティの大手企業、FXインターナショナルグループは、ホテルチェーン、建設業界、大型商業施設、エンターテインメント会社から遊園地に至るまで手広く事業を展開していた。 Sシティの住民は彼らの市長が誰なのか知らなかったかもしれないが、大家族経営の権力者であり、引く手あまたのビジネスの巨匠の一人であるエドワード・ムーを知らぬ者は誰一人として居なかった。 ムー氏は大富豪の成功者なだけでなく、 そのルックスはほとんどの女性よりもゴージャスで、絶対的な魅力を誇っていた。 噂を耳にした誰もが、そんな話があるわけがないと思うのだが、彼を一目見た瞬間、それが真実であったと認めざるを得ない。 加えて、頭脳明晰な男なので、競合他社の不意を突いて打ち負かすことがよくある。 また、彼に関する艶聞はいつも諸々の雑誌に掲載されていたため、人々に「プレイボーイ」の印象を残した。 彼の秘密を知る者は多くはいなかったが、噂によれば、 ジェシカ・リンがムーの本命ということだった。

FXインターナショナルグループの玄関ホールは、彫像、色とりどりな象眼細工の大理石、金メッキを施した青銅の天井で贅沢に装飾されていた。 接客カウンターには5歳の男の子を連れた一人の女性軍人が立っていた。 容姿端麗な女性だけど、冷たく真面目そうに見えた。 彼女は予約なしで社長に会うことを求めたが、 同社には、約束なしに誰も社長に会うことはできないという規則があった。 女性軍人が至急社長に謁見することを主張するような状況は前代未聞で、職員の間に混乱を招いた。 職員は彼女に来訪者は事前に予約がないと社長に会うことはできないという説明をしたが、ついに88階の社長秘書に助けを求めた。

「チャオさん、今ここに社長に 会いたいと仰る女性軍人がお見えになっています。 お通ししても宜しいでしょうか?」 職員は言った。

「何だって? 女性軍人?」 アーロン・チャオは驚いた。 「ああ、一体何が起こっているんだ? 社長にガールフレンドがたくさんいることは承知しているが、軍人のガールフレンドなんて聞いてないけどな? 補佐官の仕事も楽じゃないよ。 何故僕が社長の日常業務と私生活の両方に責任を負わなければならないんだ?」 彼はぶつぶつと不平を言った。 躊躇しながらもチャオ氏は 社長に尋ねることにし、彼のオフィスに入っていった。

「社長、今あなたに至急会いたがっている女性軍人さんがお見えですが、事前にお約束をされておりません。 お会いになりますか?それともお引き取り願いますか?」 アーロン・チャオは微笑んだ。 彼の明るい瞳は喜びに満ちていた。

「女性軍人?」 エドワード・ムーは読んでいた書類から頭を上げた。 しかし彼は過去に女性軍人と関わったことを覚えているようには見えなかった。 「その人の要件は?」 再び書類に視線を戻しながら言った。

「要件については何も言っていませんが、早急に社長に会いたがっておられます」 アーロンは自分の上司をからかうようににやりと笑ってみせた。

「本当か? 突然予約もなしに俺に会うことを要求するとは余程自信があるんだろうな」 通してあげなさい」 エドワードはこの女性に好奇心をそそられ始めたのだ。

デイジー・オウヤンという女性軍人は、平静を装おうとしていたが、実際のところ少し緊張していた。 彼女はエドワードがまだ自分のことを覚えているかどうかさえも分からなかった。 会見を待っている間、そわそわとした様子で手のひらをこすり合わせていた。 ビクビクしながらも、結婚初夜に彼に大声で言い渡された言葉を決して忘れていなかった。

「結婚したからって、俺がお前の物になることは無い。 一枚の紙切れに書かれているように、お前は俺の妻かもしれないが、 俺の心と愛は決してお前に属さない。 肉体関係を結ぶために俺に薬を飲ませるなんて、 よくもそんなことができたな! もうそんなへまは二度としない!」 男は怒りに震えながら言い放った。

そして、ドアを叩きつけるように閉め、去って行った。 デイジーは、訳が分からず、同時に恥ずかしい思いもした。薬の事など何も知らなかったのだ。 気が付いたら全裸で彼の腕の中で眠っており、体中が痛んだことしか覚えていない。 その男は彼女に何の身に覚えも無い事で彼女を非難し責め立てたのだ。 実際何が起こったのか、いくら思い出そうとしても思い出せなかった。

その夜に起こったことには霞がかかってしまい、 思い出せるのはただ熱くて無力で動けなくなったことだけだった。 恐らく彼女も薬を盛られたのだろう。 過去6年間、エドワードが数多くの女優やアイドルと関係を持っているそうで、それについてのゴシップや噂を聞き、デイジーは折り合いを付けていかなければならなかった。 最悪なのは、それらのことはニュースから知ったのだ。

それにしても、彼女は決して彼に連絡しなかった。 エドワードの放った「お前は所詮名ばかりの妻に過ぎない」という言葉がいつまでも脳裏から離れなかったからだ。 彼が誰と付き合おうが、寝床を共にしようが、彼女の知ったことではなかった。 実のところ、彼はもうずっと前に彼女のことなど忘れてしまった様に見えた。 このような予期せぬ状況がなければ、彼に会うことなど努々思わなかった。 そもそも、エドワードもデイジーも家族の利益のための犠牲者に過ぎなかった。 この結婚には支払われるべき代償があるようだった。

「ママ、痛いよ」 ぎゅっと繋がれた手を引き抜こうと、男の子もがいた時、母親ははっと我に返った。 デイジーはしばらくの間ぼーっと考え込み、男の子の手を力任せに強く握りすぎていた事にも気付かなかった。

「ごめんね、ジャスティン。 前に起こったことを考えていたの」 デイジーは少年の前でしゃがみ込みささやいた。 この小さな男の子は彼女の息子だった。 彼女はあの夜の後に妊娠するなんて夢にも思っていなかった。 幸か不幸か、彼の遺伝子と優れた能力のおかげで、この魅力的な息子を授かった。 ジャスティンはデイジーの人生そのものになって、もしこの先この少年を失ってしまったら、彼女はどうしたら良いのか分からなかった。

「大丈夫、僕痛くないよ、ママ どうしたの? パパのこと? パパは僕たちに会いたくないって?」 ジャスティンは優しい声で尋ねた。 彼は輝く瞳でお母さんを見つめた。

「いいえ、そんなこと無いわ、ハニー、パパは今少し忙しいから、準備ができるまでここで待ちましょうね」 彼女は根気よく説明した。 父親のことについて息子に隠すことなく全部正直に話していた。 息子はいつも何故パパが彼らと一緒に住んでいないのと理由を尋ねたが、パパを探し出そうとおねだりするようなことは一度も無かった。

「お客さま、社長のムーがお待ちしております」 職員は彼女に敬意を持って接した。 その少年にとてもなじみのある何かを感じたからだ。 しかし、職員は以前に彼に会ったことがあるかどうかは思い出せなかった。

「分かりました、ありがとうございます!」 デイジーは丁寧に答えた。 それから彼女は静かにその場を去った。 デイジーは陸軍の軍服を着て非常に真面目で厳格に見えたが、それも彼女の魅力を一層輝かせていた。

興奮を抑えることはできなかった。 これまでの6年間、自分の気持ちを抑えようとし、この関係を諦めていたが、エドワードに会おうと思うと神経が昂った。

今までこのビルに女性軍人が訪れるなんてことは無かったので、デイジーはみんなの注目を集めていた。 着飾ったセレブや有名な女性スターが常連だった。

「お客さま、こちらです」 エドワードの秘書が彼女を案内した。 デイジーは額に小さな汗のビーズができる程に、明らかに緊張していた。 彼女は息子の手をしっかりと握り締めた。 ジャスティンは母親の感情をしっかりと感じ取っていた。ママの強く握りしめた手は痛かったけれど、今度は何も言わなかった。 彼は母親と同じ気持ちだった。 いつもインターネットでしか見かけないパパは彼のことをちゃんと愛してくれていたのか確信を持てずにいた。

秘書がドアをノックした。中から「どうぞ」という太い声が聞こえた。 デイジーは当初、この低く懐かしい声を聞いたらパニックになるだろうと思っていた。 予想に反して、自分でも信じられないほど落ち着いていた。それでも、目の前の男に恐れをなしていることを察されないよう最善を尽くした。 エドワードは真顔で彼女を見た。 彼の目に映ったデイジーはこわばっていて血の気が引いてはいたが、どこから見ても魅力的な女性だった。

「お邪魔をして申し訳ないが、これ以上の方法は見つかりませんでした。 3ヶ月間、息子の世話をお願いします。 任務が終わったらすぐ迎えに来るから」 デイジーは事実を述べるように冷たく言った。 彼に一目さえやらないうちにこれらの言葉を発した。

「ちょっと待って、あなたはどなたですか? お話の意味が分からないのですが」 エドワードは、なぜ自分が知りもしない小さな男の子の世話をしなければならないのか解らずに混乱していた。 目の前の女性が彼の目を見ることが出来ないでいることに気付いた。 エドワードは依然としてとても混乱していた。

自分のことを覚えていないであろうと、デイジーは覚悟をしていたが、まさかエドワードが全く思い出さないとは、心が傷ついた。 そして静かに結婚許可証を手渡した。

「戻ったらすべての質問に答えますが、今は急いでいます」 彼女は言った。 去る際に、彼女の携帯電話から広いオフィス全体に響き渡る程の大きな着信音で軍歌が鳴り響いた。

彼女はすぐに電話を取った。 「もしもし、マーク、 ええ、分かっている。 すぐ戻る。 彼らの位置情報だったら直接軍に連絡して頂戴」 そう言った後、電話を切った。 彼女の発した言葉は彼女の意思と同じ様に固くて迷いがなかった。

エドワードは一瞬凍りついた。 「なぜだ? なぜこの女は俺のことを無視している? 誰も私の魅力に抗うことは出来ないはずなのに、俺って思うほどイケてないのか?」 心の中で思った。

「ジャスティン、もう行かなきゃ お利口にしてるのよ、パパを困らせないでね」 デイジーは息子の顔に優しく触れた。 息子の乳母は、丁度彼女が陸軍の軍事訓練に行くタイミングで辞めてしまった。 短期間で新しい乳母を探すことが出来なかったのだ。 そうでもなければ、その少年を父親に預けたりはしなかったであろう。

ジャスティンは母親を見た。そして母を安心させられるような言葉を探した。 「ママ、心配しないで! いい子でいるから」 優しい笑顔で答えた。 しかし、ジャスティンはその時もう何かを企んでいた。 パパに良き夫となる術を教え込むという計画を。

息子に別れを告げた後、 デイジーは、エドワードに返事をする隙も与えずにすぐにオフィスから走り去った。 エドワードは、その少年が彼の息子である事実を理解できなかった。 テーブルの上の結婚許可証をずっと見つめていた。

「デイジー・オウヤン」と彼はつぶやいた。 彼と6年間婚姻関係にあった女性だった。 そしてただの一度も恋しいとすら思ったことのない妻だった。 彼女は風のように現れ、また風のように去り、残ったのはただ自分を見つめている小さな男の子しかなかった。

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