アルファの偽り、オメガの蜂起 の小説カバー

アルファの偽り、オメガの蜂起

8.0 / 10.0
治癒院での過酷な連続勤務を終えた私は、愛する伴侶、神楽湊の喜ぶ顔を思い浮かべながら帰路を急いでいた。しかし、彼がいたのは縄張りの外れにある別邸。そこには見知らぬ女性と幼い男の子と共に、幸せそうに微笑む湊の姿があった。潜伏して耳にしたのは、あまりに非情な真実だ。湊は私を「繋ぎのオメガ」と蔑み、政治的利用価値がなくなれば捨てる駒だと断じた。私を育てた現アルファ夫妻さえも、この欺瞞に加担していたのだ。運命の絆さえもが仕組まれた嘘だと知った直後、彼から届いた「会いたい」という甘いテレパシーが、私の悲しみを冷徹な怒りへと変えた。彼らは来る晩餐会で、私を公衆の面前で追放し、辱める計画を立てている。だが、私も相応の報いを用意した。彼の息子の誕生日を祝うパーティー、その最中に届くのは、彼らの醜い裏切りと秘密をすべて暴くデータクリスタルだ。偽りの愛に溺れたアルファに、絶望という名の贈り物を。復讐の幕が今、静かに上がる。

アルファの偽り、オメガの蜂起 第1章

36時間ぶっ通しの治癒院でのシフトを終え、私は伴侶であるアルファ、神楽湊(かぐらみなと)の好物を持って帰路を急いでいた。二人きりの穏やかな時間を、心から楽しみにしていたのだ。

しかし、彼を見つけたのは、縄張りの外れにある隠れ家のような別邸だった。そこには、湊が知らない女、そして見たこともない小さな男の子と笑い合う姿があった。

闇に身を潜め、私は耳を疑う言葉を聞いてしまう。彼は私のことを「繋ぎのオメガ」と呼び、新しい条約が結ばれ次第、公に捨て去るための政治的な道具だと言い放った。私を育ててくれた養父母、現アルファとルナも、その計画に加担していた。私の人生そのものが、運命の絆さえもが、巧妙に仕組まれた嘘だったのだ。

その時、彼から精神感応(テレパシー)が届いた。

『会いたいよ、俺の可愛い人』

そのあまりに無造作な残酷さが、私の涙を焼き尽くした。残ったのは、ただ冷たく、硬い怒りの塊だけ。

彼らは盛大な晩餐会で、私に公衆の面前で恥をかかせるつもりらしい。だが、私も贈り物を準備した。彼の息子の誕生日パーティー、その晩餐会と全く同じ時刻に届くように。

中身は、彼らの秘密をすべて記録したデータクリスタルだ。

第1章

月詠(つくよみ)視点:

消毒液と乾燥ハーブの清潔な香りが、服に染み付いている。群れの治癒院での36時間連続シフトを終えた後には、すっかりお馴染みになった香りだ。国境警備隊の小競り合いで負傷した者たちの、引き裂かれた靭帯を繋ぎ、折れた骨を整復する。そのせいで筋肉は深く軋むように痛んだが、その痛みすら心地よかった。疲労など、取るに足らない代償だ。私の頭の中は、ただ一人のことでいっぱいだったから。

湊。私の伴侶。私のアルファ。

断熱容器の中には、彼の好物である分厚いレアステーキと天然キノコのソテーが、まだ温かいまま入っている。彼は今日一日、群れの次なる事業拡大計画を練るため、最高レベルの評議会に缶詰めだった。私がこれを差し入れた時、彼の厳しい顔に浮かぶであろう感謝の笑みを想像する。ささやかなサプライズ。二人だけの、安らぎのひととき。

評議会の間へと続く、壮麗な楢の扉の外では、衛兵たちが微動だにせず、無表情で佇んでいた。

「アルファ・湊に会いに来ました」

私は疲れてはいたが、希望に満ちた笑みを浮かべて言った。

衛兵の一人、拓也(たくや)という名の戦士が、私から目を逸らした。

「アルファは一時間ほど前に退席されました、月詠様」

「退席?」

手にした料理の温かさが、急に鉛のような重みに変わった。

「会議は深夜まで続く予定だったはずですが」

「急用ができた、と」

拓也は私の肩越しの一点を見つめたまま、ぶっきらぼうに呟いた。

胸騒ぎがして、胃がぎゅっと締め付けられる。急用?それなら私に連絡があるはずだ。彼はいつもそうしてきた。

私たちには精神感応(テレパシー)がある。月の女神から運命の番(つがい)に与えられた、神聖な繋がり。それは私たちだけの聖域であり、思考と感情の流れは、二人の間だけで交わされるはずのものだった。何年もの間、私は彼の愛を、自分自身の思考の底を流れる、絶え間ない安定した流れのように感じてきた。

私は目を閉じ、心の静寂に身を沈め、彼に意識を伸ばした。

*湊?大丈夫?*

沈黙。

ただの沈黙ではない。冷たく、意図的な壁。繋がりはそこにあるのに、まるで空っぽの洞窟に向かって叫んでいるかのようだ。冷たく鋭い悪寒が、背筋を駆け下りていく。これは、いつもと違う。もっと冷たい。何年もの間、私は彼の精神的な距離を、リーダーとしてのストレスのせいだと思い込んできた。でも、これは意図的に固く閉ざされた扉だった。

パニックが胸の内で泡立ち始める。私はそれを押し殺し、集中した。番の香りは、その魂の署名。唯一無二で、紛れもないものだ。私は深く息を吸い込み、周囲の森から漂う湿った土と松の匂いを濾過して、彼の香りを探した。

あった。微かだが、間違いない。嵐の後の杉の木に、冬の風のような鋭く澄んだ香りが混じっている。それが彼が私のものだと初めて告げた香りであり、私の内なる狼が「故郷」を感じて喉を鳴らす香りだった。

しかし、その香りは私たちの家に向かってはいなかった。それは遠く、銀月(ぎんげつ)の一族の縄張りの、まさに最果てへと続いていた。

心が追いつく前に、足が勝手に動いていた。その幽かな残り香を追って。道は、見慣れた群れの家々や訓練場から離れ、私が一度も足を踏み入れたことのない、森の奥深くへと続いていた。開けた土地にひっそりと佇んでいたのは、ガラスと黒い木材でできた、現代建築の傑作だった。富と秘密を雄弁に物語るその別邸は、群れのどの地図にも載っていなかった。

中からは煌々と光が溢れ、手入れの行き届いた芝生を照らし出している。心臓が肋骨を激しく打ち付け、恐怖のドラムを刻んでいた。私は古代の樫の木の深い影に身を隠し、そっと近づいた。

床から天井まである巨大な窓ガラス越しに、彼が見えた。

私の、湊が。

彼はアルファの正装ではなかった。柔らかくカジュアルなセーターを着て、笑っていた。ここ何年も聞いたことのない、心からの深い笑い声。彼の肩の上では、四、五歳くらいの小さな男の子が、歓声を上げていた。

そして、一人の女がフレームインしてきた。彼女の手は、ごく自然な親密さで湊の腕に置かれている。

莉央(りお)。

岩嶺(がんれい)の一族のアルファの娘。五年前に彼女の一族は、はぐれ者の襲撃で壊滅したとされていた。私たちは彼女が唯一の生存者で、重傷を負って中立地帯で療養していると聞かされていた。だが今の彼女は、傷ついているようには到底見えなかった。輝くように艶やかで、その瞳は所有欲に満ちた思慕の念で湊に注がれていた。

私自身の喉から、低く唸るような声が漏れた。内なる狼が胸の内側を掻きむしり、ガラスを突き破って目の前の光景をズタズタに引き裂きたがっている。

私は家の壁に沿って音もなく移動した。治癒師の柔らかい靴底は、何の音も立てない。テラスのドアが少し開いていて、涼しい夜の空気と共に、彼らの声が漏れ聞こえてきた。

「……もう少しだけだ、愛しい人」

湊は男の子を下ろしながら、低い声で囁いていた。

「岩嶺との合併条約が最終決定すれば、俺たちはやっと、本当の家族になれる」

「隠れるのはもううんざりよ、湊」

莉央の声は鋭く、焦れていた。

「あなたのルナになりたい。日なたの道を歩きたいの。あの繋ぎのオメガが私のものになるはずの称号を身に着けている間、この金ピカの籠に閉じ込められるのはごめんだわ」

*繋ぎ。*

その言葉は、物理的な打撃のように私を打ちのめし、肺から空気を奪い去った。

「月詠は役目を果たした」

湊は冷たく、現実的な口調で続けた。

「彼女との運命の絆は、俺の狼を落ち着かせるのに役立った。俺がアルファに移行する上で、政治的に必要だったんだ。だが、お前と玲央(れお)……お前たちこそが俺の未来。俺の血統だ」

玲央と呼ばれた男の子が、莉央に駆け寄った。

「ママ、今夜はパパに本を読んでもらってもいい?」

視界がぼやけた。彼らの息子。私を育ててくれた養父母――この群れのアルファとルナ――は、知っていたのだ。知っていたに違いない。こんな場所を維持する資金、この秘密……それは、トップからの承認がなければ不可能なことだ。

かつては安定した、愛に満ちた家だった私の世界が、砕け散った。私が持っていると思っていた愛も、大切にしていた家族も、崇拝していた伴侶も――そのすべてが嘘だった。私を従順で、役に立つ存在に保つための、巧妙に作られた檻だったのだ。

その時、温かく、聞き慣れた存在が私の心に触れた。精神感応(テレパシー)だ。

湊だった。

*会議が終わったところだ。疲れた。会いたいよ、俺の可愛い人。*

その嘘は、あまりに無造作で、あまりに残酷で、私の心臓に突き立てられた銀の短剣を、最後のひと押しでねじ込んだ。痛みはあまりに大きく、涙さえも焼き尽くし、後には冷たく、硬く、恐ろしいほどに澄み切った何かが残った。

粉々に砕け散った心の瓦礫の中から、復讐心が芽生え始めた。

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