欺瞞の結婚 の小説カバー

欺瞞の結婚

9.5 / 10.0
結婚から五年、平穏だと信じていた日常は家畜の競り市で崩れ去った。そこで目にしたのは、死んだはずの従姉妹と、彼女に寄り添い二人の息子を抱く夫の姿だった。すべては私を殺害しようとした女を匿うための、残酷な嘘だったのだ。夫だけでなく、実の祖母までもが結託し、私をアリバイ作りの道具として利用し続けていたという衝撃の事実。愛した日々は完璧に仕組まれた隠蔽工作に過ぎず、私は妻という名の身代わりでしかなかった。裏切りの真相を知ったのは、彼らが息子の誕生日を祝う裏で、私に薬を盛り排除しようと画策していた運命の日。私は一族の莫大な財産をすべて投げ打ち、用意していた離婚届に署名を残して、彼らの前から永遠に姿を消すことを決意した。信じていた絆がすべて欺瞞に満ちていたと悟った時、女としての誇りを懸けた孤独な脱出劇が幕を開ける。この物語は、愛と信頼を奪われた主人公が、自らの意思で偽りの生活に終止符を打ち、過去を断ち切るまでの壮絶な決別を描いた現代ミステリーである。

欺瞞の結婚 第1章

結婚して五年目のこと。家畜の競り市で、私は夫と従姉妹の姿を見つけた。誰もが五年前に死んだと信じていた女。

彼女はその腕に、二人の息子を抱いていた。

私の結婚生活のすべてが嘘だったと、すぐに分かった。私を殺そうとした女を守るため、夫と、そして私の実の祖母が仕組んだ、完璧な隠蔽工作。

私は妻なんかじゃなかった。ただのアリバイだったのだ。

彼らが息子の誕生日を祝うために、私に薬を盛ろうと計画したその日、私は一族の財産のすべてを放棄し、離婚届にサインし、姿を消した。

第1章

MEGUMI'S POV:

結婚して五年目。よりによって家畜の競り市で、私は夫の愛人を見た。誰もが五年前に死んだと信じていた女だった。

彼女は競りの囲いの向こう側、腕に金髪の小さな男の子を抱き、もう片方の手は私の夫、蒼大(そうた)と親密に絡み合っていた。

彼女の名前は真奈(まな)。私の従姉妹。五年前、牛の暴走事故を仕組んで私を殺そうとした女。計画が失敗に終わると、罪悪感から自ら命を絶った、はずだった。

少なくとも、私はそう聞かされていた。

競売人の単調な声、牛の低い鳴き声、群衆のざわめき――まるでスイッチが切れたかのように、すべてが遠のいていく。私の世界が、その一点に収縮していく。北海道・十勝平野の焼けつくような午後の日差しを浴びて、どこからどう見てもごく普通の、幸せそうな家族にしか見えない三人の姿。その焼き付くような光景だけが、すべてだった。

私は巨大な木製の支柱の陰に身を縮めた。冷たい恐怖が、背筋を這い上がってくる。

真奈の、隠そうともしない勝ち誇ったような甘ったるい声が、風に乗って聞こえてきた。

「ねえ、蒼大。本当に感謝してるの。あなたと、時子(ときこ)お祖母様には。二人がいなかったら、私、今頃刑務所で腐ってたかもしれない」

時子……私の祖母。黒木牧場の女当主。

氷のような手が私の心臓をわしづかみにし、息もできないほど強く握りしめた。

続いて、蒼大の低く優しい声が聞こえる。かつて私が愛した、あの声。

「馬鹿言うなよ。あの時の状況じゃ、お祖母様が証拠を消すしかなかったんだ。それが唯一の方法だった。お前に隣の牧場を買い与えたのだって、そうすれば俺たちが会えるからだろ」

「でも、恵には悪いことしたわよね」

真奈の声には、偽りの同情が滲んでいた。

「あなたを五年も彼女と結婚させたままなんて。本当に、苦労をかけたわ」

「お前と悠人(ゆうと)がいるなら、どうってことないさ」

蒼大の声は、愛おしさに満ちていた。

「これは俺の贖罪なんだ。物事を正すための、俺なりのやり方。お前たちが無事でいてくれるなら、俺はなんだって耐えられる」

彼は身をかがめ、小さな男の子の額にキスをした。悠人はきゃっきゃと笑い、小さな腕を蒼大の首に回して「パパ」とさえずった。

パパ……。

私の世界に亀裂が入ったんじゃない。内側から爆発して、木っ端微塵になった。五年間の結婚生活、私が魂を注ぎ込んだ家、私が心から、全身全霊で愛した夫――そのすべてが、嘘だった。犯罪を隠蔽するための、ただの道具。私は妻なんかじゃなかった。彼のアリバイ。彼の生身の、贖罪だったのだ。

彼らはもうしばらくおしゃべりを続け、数日後の計画を立てていた。真奈の「命日」に。蒼大と祖母は、「墓参り」という口実で、真奈の牧場で開かれる悠人の誕生日パーティーに出席するつもりらしい。

足の力が抜けた。私はざらざらした柱の木肌を伝って、ずるずると座り込んだ。激しい震えが体を襲い、胃がねじくれる。私のものだと思っていた人生は、壮大なジョークで、私自身がそのオチだった。

その時、携帯が鳴った。発信者は「お祖母様」。

震える手で電話に出る。時子お祖母様の、いつもの威圧的な声が聞こえてきた。

「恵、どこにいるの?ここは混んでるんだから、うろうろしちゃだめよ」

その声は心配しているように聞こえたが、今の私にはその裏にあるものが分かった。これは恐怖だ。私が迷子になることを心配しているんじゃない。私が真奈と鉢合わせすることを、恐れているのだ。彼女の完璧で、悍ましい嘘が暴かれることを。

私は途切れ途切れの息を吸い込み、平静を装って声を絞り出した。

「大丈夫です、お祖母様。雄牛の囲いのそばにいます。今年の牛は素晴らしいですね」

電話の向こうが、しんと静まり返った。そして、時子お祖母様の声がパニックで鋭くなる。

「絶対にそこを動くんじゃないよ!今すぐ蒼大を行かせるから!」

電話は一方的に切れた。

二分もしないうちに、蒼大の長身が私の前に現れた。その端正な顔は隠しきれないパニックでこわばり、声には偽りの心配と叱責が混じっていた。

「こんな所で何してるんだ?ずっと探したぞ。誰か……誰か知ってる奴にでも会ったのか?」

私は彼を見上げた。かつて、世界のすべてが宿っていると信じていた瞳を。喉までせり上がってくる絶叫を飲み込み、砕け散ってしまいそうな、脆い笑顔を無理やり作った。

「ううん、誰にも。ただ……あなたに会いたかったの」

彼は目に見えて安堵し、肩から力が抜けた。そして、私を腕の中に引き寄せた。

私はされるがままになった。彼の胸に寄りかかり、静かで冷たい廃墟と化した心で、彼が私を家に連れ帰るのに身を任せた。

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