夫が殺した弟の記憶 の小説カバー

夫が殺した弟の記憶

9.0 / 10.0
結婚生活7年目、優歌穂は夫・誠也の書斎で一冊の手帳を見つけ、平穏な日常を失う。そこには、かつての恋人であり現夫である誠也が、優歌穂の弟をいじめ抜き、自死へと追い込んだ冷酷な記録が綴られていた。「これで邪魔者はいなくなった」という歪んだ独占欲に、彼女は戦慄する。しかし、悲劇はそれだけではなかった。誠也は優歌穂を弟の「代用品」として扱い、弟の恋人だった美咲と密会を重ねていたのだ。さらに、家族もまた優歌穂を追い詰める。かつて弟から「大嫌い」と首を絞められた記憶が蘇り、自分が狂った家族の中で孤立していることを痛感する。夫の裏切り、弟の病的で歪んだ依存、そして美咲の無慈悲な振る舞い。四面楚歌の状況下で、昏睡状態だった父が目を覚ましたとき、一族がひた隠しにしてきた最も醜悪な秘密が白日の下に晒される。自身の存在意義さえも揺るがすおぞましい真実を知った優歌穂は、腐敗しきった血縁と愛憎のすべてを断ち切り、彼らを捨てて新たな道を歩むことを決意する。

夫が殺した弟の記憶 第1章

自ら命を絶った弟. その加害者は, 私の元恋人であり, 今の夫だった.

結婚7年目, 夫の書斎で偶然見つけた古い手帳が, 私の日常を地獄へと突き落とした. そこには, 夫が弟をいじめ, 死に追い詰めた冷酷な記録と, 歪んだ愛情の告白が記されていた. 「これで邪魔者はいなくなった. 優歌穂は俺だけのものだ. 」と.

だが, 本当の悪夢はそこから始まった. 夫は私を弟の「代用品」としか見ておらず, 弟の恋人・美咲と密会を重ねていたのだ. 彼は私を通して弟を愛し, 美咲の中に私の父の面影を求めていた.

夫の裏切り, 弟の恋人の無慈悲, そして弟自身の病的な依存. 私を責め立てる家族の中で, 私は孤立無援だった.

「優歌穂姉さんが大嫌いよ! 」弟にそう叫ばれ, 首を絞められた時, 私はすべてを理解した. この狂った家族の中で, まともな人間は私だけだった.

そして, 昏睡状態だった父が目を覚まし, 一族の最も醜悪な秘密が暴かれる. それは, 私の存在そのものを根底から覆す, おぞましい真実だった. 私はこの腐りきった関係すべてを断ち切り, 彼らを捨てることを決意した.

私の人生で最も大切だった弟が, 自ら命を絶った. その加害者の名前が, 私の元恋人, 中尾誠也だった. その事実を知った時, 私の世界は音を立てて崩れ去った.

第1章

中尾誠也が弟・樹生をいじめ, その死を隠蔽していたという秘密は, まるで深淵の淵から這い上がってきたかのように, 私の結婚生活を蝕んでいた.

私は彼の書斎で, 埃を被った古い手帳を見つけた. 好奇心が, 私を引き寄せた.

手帳には, 樹生に関する詳細な記述があった. 彼の毎日の行動, 交友関係, そして彼がいじめられていた時の私の知らない苦悩が, 冷酷なまでに詳細に記されていた. ページをめくるたびに, 私の心臓は鉛のように重くなった.

手記の最後のページに, 私は凍りつくような一行を発見した. 細く尖った筆跡で, こう書かれていた.

「これで邪魔者はいなくなった. 優歌穂は俺だけのものだ. 」

「邪魔者」とは, 樹生のことか. 私の弟のことだ.

あの冷酷な文字は, 中尾の精神の深淵を覗かせた. それは, 私に向けられた歪んだ愛情の裏返しであり, 樹生に向けられた嫉妬と憎悪の結晶だった.

中尾との七年間. 共に過ごした時間は, まるで幻だったかのように思えた. 彼の優しさ, 私への深い愛情. それらは全て, こんなにも恐ろしい真実を隠すための仮面だったのか. 私は何も知らなかった. 中尾の心に潜む暗闇に, 全く気づいていなかった.

手帳が, 私の手の中で突然, ずしりと重くなった. それは, 私の心を覆い尽くす絶望の重さだった. 私は呆然としながら, 手帳を元の場所に戻した. まるで, 何も見なかったかのように.

手帳の表面に積もった埃を, 震える指でそっと拭き取った. それは, この醜い秘密を隠蔽しようとする, 私の無意識の行動だったのかもしれない. だが, 手帳の下には, 他にも同じような手帳が何冊も隠されていた. 中尾がどれほどの計画性と執着をもって, 弟を追い詰めていたのか. その深さに, 私は吐き気がした.

もし, 偶然, 書斎を掃除していなければ, この秘密は永遠に闇の中に葬られていたのだろう. その事実に, 背筋が凍りついた.

私は無心で掃除を続けた. 膝をついて, 床を這うように. 心の奥底で嵐が吹き荒れているのに, 私の手は機械的に動き続けた.

部屋を出ようとドアノノブに手をかけたが, 指先に力が入らない. 視界がぼやけ, 両手が止まらないほど震えていた. 何度も試みたが, ドアは開かない. 苛立ちが爆発し, 私は声を上げて叫んだ.

「うわあああああああ! 」

声は, 喉の奥に吸い込まれるように消えていった. やがて, 私の手は静かに落ち着きを取り戻した.

ドアは, 重々しい音を立てて閉まった. まるで, 誰にも知られてはならない秘密を, 堅く閉じ込めるかのように.

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