白いスープと雲の街 の小説カバー

白いスープと雲の街

8.0 / 10.0
照りつける太陽が眩しい夏の日のこと。裏手の畑で静かに日々を過ごしていた「ぼく」は、平穏を切り裂くような凄惨なバラバラ殺人事件を偶然にも目の当たりにしてしまう。その凄まじい光景に衝撃を受けながらも、純粋な子供たちの未来を守るため、ぼくはたった一人でこの不可解な事件の真相を突き止めることを決意する。しかし、それは想像を絶する恐怖の始まりに過ぎなかった。犯人を追ううちに、少年はやがて街の深淵に潜む、おぞましく巨大な闇へと引きずり込まれていく。本作は、残酷な事件の謎を追うミステリー要素と、背筋も凍るようなホラー、そして幻想的な世界観が複雑に絡み合うホラーファンタジーである。凄惨な殺害現場の描写や、生理的な忌避感を呼び起こすグロテスクな表現、そして精神を追い詰めるような恐怖演出が随所に散りばめられている。孤独な戦いに身を投じた少年が、呪われた街の真実を前に何を見るのか。残酷さと美しさが同居する物語の幕が今、静かに上がる。

白いスープと雲の街 第1章

あれは小学校5年生の夏の時だった。

 暑い日差しの中。

 裏の畑で友達とできの悪いスイカたちとスイカ割りをしていた。

 海を知っている。

 でも、僕たちは行った時はなかった。

 大きな入道雲。潮の匂い。地平線まで続く大海原。想像はするけれど、ここは山に囲まれた小さい町。御三増町。

「右。左。もうちょっと左。あ、そこだ」

 目隠しをして、棒切れを持った僕は友達の篠原君の言葉を頼りに、数十歩先のスイカを見事に一振りで割った。

 スイカはパカリと割れて、中の真っ赤な実と種が辺りに散乱した。

 スイカの匂いが強くなって、同時に緑の匂いと日差しの蒸し暑さが漂った。

「篠原君はいいね。篠原君の声を聞いていると、スイカのところへ簡単に行けるよ」

 篠原君はタイガースの帽子を目深にかぶって、「当たり前だよ」と言った。

「篠原君。こっちもお願い」

 藤堂君も目隠しをして、棒切れを構え。蒸し暑いスイカの匂いで嗅覚が駄目になる場所で、右へ三回クルクルと回る。

「もっと、右」

「こっち?」

「そっちは左。その反対」

 いつもの学校帰りの遊びだったけれど、この日は空の傾く陽を気にしないほど夢中で遊んでいた。

「今度は藤堂君と篠原君の番。僕はここからスイカの場所を教えるよ」

 遠くのカラスの鳴き声を聞いたようだけど、僕は今が何時だろうとは、その日は気にもとめなかった。

 藤堂君と篠原君は畑に散乱するスイカの中央で目隠しをして、クルクルと回った。僕は友達にスイカの場所を教えようとしていた。

 いつの間にか僕の鼻は、スイカの蒸し暑い緑の匂いとは違う異様な腐った臭いを吸い込んでいた。普通なら気付かないくらいの微かな臭いだ。

 畑の奥で野菜がにょっきりと顔をだして、杉林の日蔭で暗闇が覆っているところだ。

 蒸し暑い大根の葉の匂いに混じって、血生臭い腐臭が僅かに混じっている。僕は友達を残して、散乱しているスイカを足でどかして畑の奥へと歩いて行った。臭いがしていそうな畑の土を棒切れで掘り起こしてみた。

 それは、小さい手だった。

 初めは小さい白いカカシの手だと思ったけれど、臭いがそうじゃないと言っていた。人参や茄子が植えてあるところだ。杉林に近いところには大根が顔を出していた。

 僕はしゃがんで更に土を掘り起こすと、今度は顔がでてきた。こちらを見ているようだ。あるいは空にある天国を見ているような綺麗な目をしていた。僕と同じくらいの年の男の子と女の子たちの顔だった。

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