俺本当に邪神の猟犬じゃないから! の小説カバー

俺本当に邪神の猟犬じゃないから!

9.8 / 10.0
異世界へと転移した林介は、静かな街の片隅で古本屋を営み、平穏な日々を送っていた。彼は持ち前の誠実さと慈愛に満ちた性格で、人生の壁にぶつかり絶望の淵に立たされた客たちを温かく迎え入れる。林介は彼らの傷ついた心に寄り添い、癒やしを与える一冊を勧めたり、時には自作の物語を披露したりして、客たちの孤独な魂を救い続けてきた。救われた人々は林介に深い敬意を抱き、感謝の印としてささやかな贈り物を届けたり、新たな客を紹介したりするようになる。しかし、人々の間で彼の存在が神格化され、広まっていくうちに、林介の意図とは裏腹に不穏な二つ名が定着していく。「邪神の猟犬」「血肉福音書の伝道者」「屍食教典儀の執筆者」そして「群星の羊飼い」――。ただ親切に本を売っていただけのはずが、いつの間にか恐るべき異形の存在として崇拝の対象となっていたのだ。周囲からの過剰なまでの心酔と、自身の認識とのあまりに巨大な乖離に、林介はただ困惑するばかり。勘違いが加速させる、奇妙で恐ろしい異世界ファンタジーが幕を開ける。

俺本当に邪神の猟犬じゃないから! 第1章

リン・ジェはいつものように書店の古びた木製のドアを押し開けた。

すると、ドアの端にある銅製のベルが鈍い音を立て、ドアのフレームから流れ落ちた大量の水が、埃と混ざり合ってドアの嵌めガラスを伝い、跡を残した。

空は暗かった。

外ではパチパチと音を立てながら雨が道路に打ち付けられ、周りは深い霧に覆われていた。

書店の前には、靴底を覆うぐらいの水たまりができていた。

「すごい雨だな」

とリンは濡られたシャツとズボンに眉をしかめながら困った顔をした。

「気象情報です。昨夜から続くこの豪雨は約1週間続く見込みです。気象庁は、豪雨黄色警報を発表し、これからは赤警報に引き上げる可能性もあると...」

隣のお店からテレビの音が聞こえてきたが、すぐに雨の音にかき消された。

この天気では、客も来ないだろう。

「仕方ないな」

リンはドアの後ろから三脚と木の板を取り出し、ドアの前に簡易的なスロープを作った。

そしてドアに掛かっている看板を「営業中」へとひっくり返した。

こんな天気で書店に来る客は滅多にいないだろう。

もしかしたら、閉店まで一人も来ないかもしれない。

営業するよりも、家に帰って寝る方が賢明だろうが、

「でも、もしかしたら傘を忘れて、雨宿りに来る人がいるかも」とリンは考えた。

そして貸出本棚から本を一冊取り、明かりをつけると、カウンターにタオルを一枚掛け、暖かいお茶を二杯淹れた。

全てを終えると、椅子に腰かけ、

前回読みかけたページを開いて、淹れたお茶を一杯、机の向こう側に置いた。まるで初めて会う友人を招待しているかのように。

ここには本と温かいお茶があるのだ。

行先のない人の心と体を温めるのには十分だろう。

リンはお茶を一口飲んで微笑んだ。

そう、彼はとても親切でロマンチックな人なのだ。取り立てて目立った才能などはなかったが、客には人生相談に乗るお人よしとして知られ、ここに来る人達の心をいやしていた。

人生は希望に満ちたものでなくちゃいけないだろう?

-

「グキッ!」

キ・シシュは両腕を交差させ、腕の中の首を折った。そして振り向くと同時に、長刀を引き抜き、もう一人の頭を切り落とした。

「グルル…」

目が見開いたまま、頭は転がり落ちた。

彼女は二体の死体を横に捨てると、路地から出た。

後ろでは、数十体の死体が積み上がっており、徐々に焦げていった。ついには、火花を発し、灰へと変わると、

雨の中、路地で戦いが終わりを告げた。

キのピッタリしたドレスからは血がにじみ出て、滴り落ちていた。そこからはまるで硫酸のような臭いが立ち上ったが、それはすぐに雨で洗い流され消え去った。

体温が急激に上昇し、体の肉が再生を始めたので、彼女は骨折した肋骨の数すらはっきり感じられるようになった。

だが、問題ない。

すでに穢れの血を注射されたハンターにとって、これくらいの怪我はたった1時間で完全に自動回復できる。

「時間、時間が必要だ」

と彼女は頭を上げた。

雨の中で、目の前の書店はかすかな光を放ち、ガラス窓からは本棚の列がぼんやりと見えた。

あたりは薄暗く、この書店以外に明かりは見えなかった。

たくさんのお店が並んでいたが、大雨の中で営業しているのは

この店だけであり、ドアには「営業中」の看板が掲げられていた。歩きやすくするためにドアの前に置かれた簡易的なスロープが異様に周囲から浮いていた。

それに、

この店はちょうどあの路地の真向かいにある。

「偶然か罠か?」

キにはためらう時間がなかった。鋭い嗅覚を持つ同僚のハンターたちが雨に混じる彼女の血の臭いに気づいたに違いない。

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