愛が死ぬ時、復讐が始まる の小説カバー

愛が死ぬ時、復讐が始まる

9.7 / 10.0
愛する息子・蓮をひき逃げで失った日、犯人の森佳蓮はあざ笑うかのように棺へ玩具を投げ捨てた。正義を信じる調査報道記者の私は、検事である夫・隆弘と共に罪を問えると確信していたが、現実は残酷だった。権力者の父を持つ佳蓮は無罪となり、あろうことか夫の隆弘が私を重過失致死で起訴したのだ。彼は私の真実をパラノイアの妄想と決めつけ、親友の裏切りさえも重なり、私は三年の実刑を言い渡された。獄中で密かにもう一人の子供を失う悲劇に見舞われながらも、私は耐え抜いた。しかし、出所した私を待っていたのは、想像を絶する光景だった。蓮の墓前で、佳蓮とその息子と共に、睦まじく家族を演じる隆弘の姿。彼は私を陥れただけでなく、私の代わりとなる女を、そして亡き息子の代わりとなる子供さえも手に入れていたのだ。絶望の底で全てを奪われた母親の心に、激しい復讐の炎が灯る。裏切りの果てに待ち受ける真実を暴くため、私は孤独な戦いを開始する。

愛が死ぬ時、復讐が始まる 第1章

四歳の一人息子、蓮をひき逃げで亡くしたその日。

犯人の女、森佳蓮は蓮の墓前に現れた。

そして微笑むと、蓮のお気に入りだったおもちゃをまだ閉じられていない棺の中に放り込み、こう言ったのだ。

「そそっかしい子だったのね」と。

夫の神崎隆弘は、東京地検のエース検事。街の正義の柱。

その彼は、ただ黙って隣に立っていた。

私は、敏腕の調査報道記者。必ず正義を見つけ出すと誓った。

証拠も、目撃者も、菊池寛賞を受賞した実績もある。

だが、森佳蓮は違った。

彼女の権力者である父親に恩義のある裁判官は、すべての証拠を却下した。

彼女は無罪放免となった。

そして、廷吏が私の名前を呼んだ。

「神崎恵麻、あなたを逮捕します」

蓮の父親であるはずの夫が、私を重過失致死で起訴したのだ。

彼は私の悲しみ、真実を求める必死の叫びを、妄想に取り憑かれたパラノイアだとねじ曲げた。

親友の千里までが、私に不利な証言をした。私が精神的に不安定だったと。

陪審員は、私に有罪判決を下した。

女子刑務所での、三年間の服役。

ただ、息子を失い、悲しみに暮れる母親だったというだけで。

刑務所でもう一人、子供を失った。その秘密は、心の奥深くに埋めた。

なぜ?

なぜ彼はそんなことを?

なぜ私を裏切ったの?

出所した日、私は蓮の墓で彼を見つけた。

佳蓮と、その息子と一緒に。

「パパ、もうアイスクリーム食べに行っていい?」

「お兄ちゃんにご挨拶しなきゃね」と佳蓮が甘い声で言う。

私の世界が、粉々に砕け散った。

彼は私を陥れただけではなかった。

私の代わりを見つけていた。

私たちの息子の代わりまで。

第1章

息子、蓮を埋葬した日、空は残酷なほど、完璧な青空だった。

まだ四歳だった。

ひき逃げだった。

車は、真っ赤なオープンカー。

運転していたのは、森佳蓮。

私は小さな、まだ閉じられていない棺のそばに立っていた。

真新しい土の匂いが、むせ返るように立ち込める。

夫であり、東京地検のエース検事である神崎隆弘が、私の肩に腕を回していた。

少し離れた場所からたかれるカメラのフラッシュの前で、彼は悲劇に見舞われた力強い夫を演じている。

私たちは街のパワーカップルだった。

今では、街の悲劇の主人公だ。

私の悲しみは、胸にぽっかりと空いた巨大な空洞のようだった。

叫びたい。息子の後を追って、このまま土の中に崩れ落ちたい。

でも、体は凍りついて動かなかった。

その時、彼女が現れた。

森佳蓮。

黒一色の参列者の中で、彼女が着る白いリネンのドレスは異様に際立っていた。

数歩後ろを、父親である不動産王の黒田源一郎が、厳粛な仮面をかぶってついてくる。

彼は、隆弘の最大の政治献金者だった。

彼女は遠くで立ち止まったりはしなかった。

まっすぐ棺に歩み寄り、まるで博物館の展示品でも見るかのように中を覗き込んだ。

参列者たちの間に、さざ波のような動揺が走った。

蓮に手向けるための一輪の白いバラを握りしめた私の手が、震え始めた。

佳蓮が棺から顔を上げた。

冷たく、虚ろな瞳が、私の目をとらえる。

彼女は、小さく、鋭く、笑った。

「残念なこと」

彼女の声が、そよ風に乗って聞こえてくる。

彼女はブランド物のハンドバッグに手を入れ、小さなぬいぐるみを引き出した。

蓮が大好きだった、恐竜のぬいぐるみ。

先週、公園でなくして、私がずっと探していたもの。

彼女はそれを、開かれた棺の上でぶらりと揺らした。

「この子、これを落としたのよ」

まるで世間話でもするかのように、彼女は言った。

「すぐ、その前にね。そそっかしい子だったのね」

そして、彼女は手を離した。

緑色の恐竜が、ふわりと落ちる。

磨き上げられた、息子の小さな棺の上に、それは静かに着地した。

私の中で、何かがぷつりと切れた。

静寂の空洞だった悲しみが、沸騰するような、燃え盛る怒りで満たされていく。

全身がわなわなと震えた。

隆弘が、私の肩を掴む手に力を込める。警告だった。

でも、もう止められなかった。

私は一歩前に踏み出した。声は、かすれたささやきになった。

「あなたが、殺した」

佳蓮の笑みが、さらに深くなる。

「警察は、私の無実を証明してくれたわ、恵麻さん。悲しい事故だったのよ。あなたが、もっとちゃんと見ていればよかったのに」

私は正義を勝ち取る。

私は調査報道記者だ。

掘り下げ、真実を見つけ出し、白日の下に晒す術を知っている。

夫が体現する法とシステムを使って、この化け物を然るべき場所へ送ってやる。

最初の審理は、メディアのお祭り騒ぎだった。

私は最前列に座った。隣には、親友で同僚の広瀬千里がいる。

千里は私の手を握りしめ、その顔には私と同じ、信じられないという表情が浮かんでいた。

「彼女、黒田源一郎の娘よ」

後ろの席から、誰かのひそひき声が聞こえる。

「隆弘さんの最大の支援者。刑務所に入るわけないわ」

気にしなかった。

私には証拠があった。

画質は粗いが、はっきりとわかる防犯カメラの映像。

猛スピードで走り去る赤いオープンカーを見たという目撃者。

警察が及び腰でやろうとしなかった捜査を、私は何週間もかけてやり遂げた。

黒田源一郎の金でも崩せないほど、強固な証拠を積み上げたのだ。

私は神崎恵麻。

市庁舎の汚職を暴いた記事で、菊池寛賞を受賞した。

これまでにも、権力者たちを引きずり下ろしてきた。

この甘やかされた、魂のない女も、例外ではないはずだった。

だが、彼女は違った。

黒田に恩義のある裁判官は、証拠をすべて却下した。

目撃者は証言を覆した。

森佳蓮は、何の罪にも問われることなく、法廷を去った。

世界がぐらついた。

千里の腕が、私を支えてくれるのを感じた。

まだ終わらない。控訴する。もっと証拠を見つける。

その時、廷吏が私の名前を呼んだ。

「神崎恵麻、あなたを逮捕します」

私は混乱し、呆然と立ち尽くした。

検察側のテーブルに、新しいファイルが置かれる。

夫の神崎隆弘が立ち上がった。

彼は、私と目を合わせようとしなかった。

「被告人を、その息子、神崎蓮の死に至らしめた重過失致死の罪で起訴する」

裁判官が、感情のない声で読み上げた。

私は裁判にかけられた。

人生を共に築き、蓮の父親であったはずの夫が、私を起訴した。

彼は私の悲しみ、事故後の眠れない夜、必死の電話を、精神が不安定な証拠として利用した。

私のジャーナリストとしての調査を、妄想に取り憑かれたパラノイアだとねじ曲げた。

私が蓮を見ていなかった、携帯電話に気を取られていた、怠慢だったと主張した。

千里が証言台に呼ばれた。

彼女の目は涙でいっぱいだった。

私が仕事に追われ、ストレスを抱え、自分らしくなかったと証言した。

それは、息ができないほど鋭い裏切りだった。

彼らは私たちのイメージを最大限に利用した。

完璧なパワーカップルが、妻の不注意によって崩壊した、と。

都知事選への出馬を控えた男にとって、それはより良い物語だった。

よりクリーンな物語だった。

隆弘の最終弁論は、カリスマ性と見せかけの悲しみに満ちた傑作だった。

彼は、たとえ自らの心を引き裂くことになろうとも、公平でなければならない司法制度について語った。

その時、彼は初めて私を見た。

彼の瞳は、私が信じかけてしまうほどの痛みに満ちていた。

陪審員は、私に有罪を宣告した。

三年。

彼らは私に、三年の実刑判決を下した。

ただ、息子を失い、悲しみに暮れる母親だったというだけで。

ただ、息子を失ったというだけで。

その三年間は、コンクリートと灰色の囚人服、生き抜く術を学んだ暴力、そして決して消えることのない虚無感の連続だった。

刑務所での理不尽な暴行で、妊娠していた子供を失った。それもまた、私が心の奥底に閉じ込めた秘密だ。

私がしたことと言えば、生き延びることだけ。

隆弘が決して返事をよこさなかった何千通もの手紙に書き綴った、たった一つの燃えるような疑問に突き動かされて。

なぜ?

出所した日、空はぼんやりとした、無関心な灰色だった。

更生施設には行かなかった。

タクシーを拾い、どうしても行かなければならない場所へ向かった。

息子の墓へ。

手入れもされず、荒れ果てているだろうと思っていた。

私の不在の証として。

だが、墓は完璧な状態だった。

新しい花。墓石のそばには、磨かれた小さな天使の石像。

私がそこに立っていると、見慣れた車が停まった。

黒いセダン。

隆弘が降りてきた。

以前よりも老け、さらに権威を増したように見えた。

彼は今、東京都知事だ。

彼は一人ではなかった。

森佳蓮が助手席から降り、所有物のように彼に腕を絡ませる。

そして後部座席から、ベビーシッターが小さな子供を降ろした。

男の子。三歳くらいだろうか。

隆弘の黒い髪と、佳蓮の鋭い顔立ちをしていた。

彼らは完璧な家族のように、墓に向かって歩いてきた。

男の子が駆け寄り、隆弘の足に抱きついた。

「パパ、もうアイスクリーム食べに行っていい?」

佳蓮が男の子の髪を撫でた。

「もうちょっとよ、坊や。お兄ちゃんにご挨拶しなきゃね」

私の意識が飛んだ。

世界が、轟音を立てる白いノイズに溶けていく。

お兄ちゃん。

パパ。

私はよろめきながら後ずさり、大きな樫の木の陰に隠れた。

叫び声を押し殺すために、口に手を押し当てる。

私は彼らを見ていた。三人家族を。

隆弘が新しい花束を墓に供え、その手が佳蓮の手にそっと触れた。

彼らは、墓参りに来たごく普通の家族に見えた。

私の家族の灰の上に築かれた、家族。

冷たい真実が、物理的な衝撃となって私を襲った。

彼のキャリアのためだけじゃなかった。

選挙戦を有利にするために、私を陥れただけじゃなかった。

彼は、私の代わりを見つけていた。

彼は、私たちの息子の代わりまで見つけていた。

心臓が、ぽっかりと開いた傷口のようになった。

冷たい風が、その中を吹き抜けていく。

体が激しく震え、叫び出さないように唇を強く噛みしめた。血の味がした。

彼は、彼女たちを選んだのだ。

この間ずっと、彼は彼女と一緒にいたのだ。

脳裏に、写真が蘇る。

暖炉の上に飾られた、私たち三人の写真。

一緒に買った家の前で、満面の笑みを浮かべていた。

もっと子供を増やし、笑い声で満たし、一生分の思い出を刻むはずだった家。

私たちは二人とも、何もないところから這い上がってきた。

法科大学院で出会った、場末の出身のハングリーな二人。

必死に上を目指して戦ってきた。

彼の背中に残る、父親のベルトの傷跡を思い出す。

彼がほとんど口にすることのない、あまりにも brutal な過去。

悪夢にうなされる彼を抱きしめたのは、私だった。

まだ若いインターンだった私が、彼の虐待的な父親を刑務所に送る証拠をリークし、自分の未来すべてを危険に晒したのは、彼のためだった。

その夜、彼は私の顔を両手で包み込んだ。

私を止めようとした父親に投げつけられた瓶で、彼の頬には生々しい切り傷ができていた。

「恵麻、お前を傷つける奴は絶対に許さない」

彼は感情のこもった声で、そう誓った。

「もしそんな奴がいたら、俺が一生、刑務所にぶち込んでやる」

私たちは、やり遂げた。

彼は史上最年少で東京地検のエース検事になった。

私はスタージャーナリストになった。

私たちは結婚し、蓮が生まれ、美しい家に引っ越した。

すべてを手に入れた。

蓮の子供部屋で、息子を抱きしめ、目に涙を浮かべていた彼の姿を思い出す。

「俺が今持っているものすべては、君のおかげだ」

彼は私にそう囁いた。

「君に出会えたことが、俺の人生で最高の出来事だった」

すべてが。

嘘だった。

私の完璧な人生。

私の完璧な夫。

私の美しい息子。

すべてが消え去った。

破壊された。

墓地の向こうから、佳蓮の甲高く、嘲るような声が聞こえてきた。

「隆弘さん、聞いたわよ。あなたの元奥さん、今日出所したんですって」

彼女は、私が隠れている場所をまっすぐ見ていた。

「彼女、大丈夫かしら?少しは心配?」

私は息を止めた。

私の全存在が、彼の答えに集中する。

自分でも気づかずに握りしめていた、最後の、脆い希望の糸が、断ち切られるのを待っていた。

隆弘は、私の方を一瞥すらしなかった。

彼はネクタイを締め直し、冷たく、よそよそしい声で言った。

「心配?なぜ?彼女はもう、俺にとって何者でもない」

糸が、切れた。

爪が手のひらに食い込み、皮膚を破る。

血が、足元の乾いた葉の上に滴り落ちた。

彼らは幸せな家族の絵のように車に乗り込み、走り去っていった。

私と、私たちが何であったかの亡霊だけを残して。

私は日が暮れるまで、震えながらそこに立っていた。

そして、三年間隠し持っていたプリペイド携帯を取り出し、残された唯一の番号に電話をかけた。

千里。

彼女の声は、ためらいがちだった。

「恵麻?」

「助けて、千里」

私の声は、ひどくかすれていた。

一瞬の沈黙。

そして、後悔の念が溢れ出す。

「恵麻、本当にごめんなさい。何でもする。何でも。手伝うわ。あいつらを、あいつら全員を、絶対に許さない」

流せなかった涙が、ついに熱く、静かに頬を伝った。

行くあてはなかった。

千里と住んでいたアパートは、もう他人の家のように感じられた。

だから、まだほんの少しだけ自分のものだと感じられる場所へ向かった。

あの家。私たちの家。

鍵は、ドアのそばの緩んだレンガの下に、まだあった。

中に入る。

空気はよどんでいたが、すべてが私が去った時のままだった。

本棚には私の本が並び、流しにはお気に入りのマグカップが置いてある。

一つだけ、違うものがあった。

暖炉の上の、家族写真がなくなっていた。

背後で、床板が軋んだ。

私は振り返った。

隆弘が、戸口に立っていた。

そのシルエットが、消えゆく光を遮る。

彼の瞳は、暗く、読み取れない水たまりのようだった。

私たちは黙って立っていた。

私たちの間の空間は、三年間分の痛みと裏切りで満たされている。

彼は私を見ていた。その顔は、私には解読できない複雑な感情の仮面で覆われていた。

彼は一歩前に踏み出し、ほとんど普通の、穏やかな声で言った。

「おかえり」

彼はペットボトルの水を差し出した。

「喉が渇いただろう」

私は受け取らなかった。

「特別なものが入っていない水がいいわ」

私の声は、氷のように冷たかった。

彼はため息をつき、水を置いた。

キッチンへ行き、温かい紅茶の入ったマグカップを持って戻ってきた。

湯気が、私たちの間の空気を温めた。

「ほら。冷えてるだろう」

今度は、受け取った。

指が、見慣れた陶器を包み込む。その温かさを必死に求めていた。

最初の結婚記念日に彼がくれたマグカップが、手の中で重く感じられた。

そして、それは滑り落ちた。

堅い床の上で、粉々に砕け散る。

熱い紅茶が、私の履き古した靴に飛び散った。

その音が、魔法を解いた。

私は彼を見上げた。

ついに声を見つけた怒りで、体が震えていた。

「あの赤いオープンカー」

私は、震えながらもはっきりとした声で切り出した。

「あの赤いオープンカーのこと、話してちょうだい、隆弘」

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