病床で3年、密通を聞かされて目覚めたら――極道令嬢、京の社交界を血で洗う! の小説カバー

病床で3年、密通を聞かされて目覚めたら――極道令嬢、京の社交界を血で洗う!

9.6 / 10.0
夫のため銃を捨て、七年間も献身的に尽くしてきた夏目綾華。彼女は命懸けで夫を守り、致命傷を負って昏睡状態に陥る。しかし、病床で意識だけが覚醒した彼女を待っていたのは、真の地獄だった。夫の秋山慎決と親友は、眠り続ける綾華の傍らで密通を重ね、彼女の会社を奪い、さらには「事故死」に見せかけた殺害計画を練っていたのだ。三年の月日が流れ、悪夢から目醒めたとき、従順な妻は死に、冷酷な復讐者が誕生する。正体は世界を震撼させるマフィアの正統な後継者にして、闇経済を支配する女王。かつてエプロンを結んだ手で権杖を握り、京の社交界を恐怖に陥れていく。裏切り者に情け容赦ない裁きを下す彼女の前に現れたのは、十三年間も彼女だけを想い続け、街の半分を血に染めて守り抜いた世界最強の武器商人・松平昭彦だった。跪き許しを請う元夫を冷たく突き放し、綾華は忠誠を誓う松平のネクタイを掴み、不敵に微笑む。裏切りの代償を血で洗う、極道令嬢の壮絶な復讐劇が今、幕を開ける。

病床で3年、密通を聞かされて目覚めたら――極道令嬢、京の社交界を血で洗う! 第1章

「ぁ……やめて、慎也お兄様。 すぐそこに、綾華さんが眠っているのよ。 あなたの奥様なのに、こんなベッドのすぐ傍でなんて……」

「何を今更怖がる必要がある? どうせ今のあいつは、 何も見えず、 何も聞こえやしない。 だいたい、 奴の一番の親友であるお前から、 俺を誘惑してきたんだろうが」

「んっ…… 慎也お兄様、 あたしが悪かったわ…… もっと、

優しくして……」

静謐であるべき病室。 その中央に置かれたベッドには、人形のように整った顔立ちの美女が横たわっている。 だが、その神聖な空間を穢すかのように、ベッドの傍らで一組の男女が衣類を乱し、互いの肌を貪っていた。

情事の熱に浮かされながらも、秋山慎也は汗ばんだ額を上げ、昏睡状態の妻――夏目綾華にちらりと視線を送る。 三年の時を経てもなお衰えぬ美貌は、まるで精巧な眠り姫のようだ。 ぴくりとも動かない。

それでいい。 眠っていろ、夏目綾華。 俺のため、お前は永遠の眠り姫でいるんだ。 二度と、その目を開けるな……。

だが、欲望に溺れる二人は知る由もなかった。 このベッドに縫い付けられた綾華の肉体は眠っていても、その意識は、三年間、片時も途切れることなく覚醒し続けていたということを。

閉ざされた瞼の裏で、綾華の意識は氷のように冴えわたっていた。 この耳は、すべてを聞いている。

この三年間、この部屋で交わされた密談も、卑しい嬌声も、すべて。 この恥知らずな裏切り者たちが犯してきた罪の一切を、彼女はその魂に刻み込んできたのだ。 それは、終わりなき精神の凌辱だった。

植物状態になって初めて、綾華は真実を知った。 かつて深く愛し、彼と結ばれるためならばと、かけがえのない家族さえも捨てた夫が、その優しい微笑みの裏に、底知れぬ悪意を隠していたことを。

最初から、すべてが嘘偽りだったのだ。

耳元で絡みつく慎也と佐藤恵奈の喘ぎ声が熱を帯び、ベッドが軋むたびに、綾華の身体までが微かに揺れる。 その振動が、彼女の内に眠る憎悪を揺り起こす。 今すぐこの四肢に力を込め、二人まとめて喉笛を掻き切りたいという、焼け付くような衝動が全身を駆け巡った。

あまりに激しい感情の奔流が、 奇跡を起こしたのかもしれない。 長い間、 石のように動かなかった彼女の指先が、

かすかに、 ぴくりと痙攣した。

その刹那の動きを、 恵奈の目が捉えた。 「し、 慎也お兄様っ、 今、 綾華さんの指が…… 動いた、 みたい……? ま、 まさか、 目が覚めるんじゃ……?!」

「いい子だ、心配するな。 こいつが目覚めることなど、万に一つもあり得ない」 慎也は荒い息のまま、恵奈の唇を塞ぎ、囁いた。

その絶対的な自信に、逆に恵奈は好奇心をそそられる。

「どうして、そんなこと……?」

「この三年間、こいつの点滴に特殊な薬を混ぜ続けてきたからさ。 わざわざ海外から取り寄せた、意識を永遠に沈めておくための代物だ」

だから慎也は、綾華が目覚める可能性など微塵も疑っていなかった。

「ついでに教えてやる。 三年前の事故も、俺が仕組んだ。 夏目綾華を、生きる屍にするためにな。 でなければ、名ばかりの夫の俺が、あいつの会社の株を手に入れることなどできんからだ」

そこまで言うと、慎也の目に一瞬、どす黒い怨嗟の色がよぎった。

「会社の連中があれほど夏目綾華を信奉していなければ、三年前、事故に見せかけて殺していたものを」

「おかげでこの三年間、献身的な夫を演じ続ける羽目になった。 ようやく会社の古株どもも俺に懐き、意のままに動くようになったがな。 ……ああ、虫唾が走るような偽善の日々も、もう終わりだ!」

綾華に意識などないと信じ切っている慎也は、何のてらいもなく、心の奥底に溜め込んだ本音を吐き出した。

どうせ聞こえはしない。 彼女は永遠に眠り続ける人形なのだから。

永遠に――。

だが、彼は知らない。 その言葉の一言一句が、傍らで眠る妻の魂を、地獄の業火で焼き焦がしていることを。

すべて、彼が。

三年前、結婚記念日を祝おうという慎也の誘いに乗り、向かう途中で事故に遭った。

綾華はそれを、ただの不運だと信じていた。 まさか、そのハンドルを握る夫自身が、自分を殺意の淵へ突き落としていたとは。

どうりで、自分だけが瀕死の重傷を負い、同じ車に乗っていた慎也が無傷だったわけだ。

滑稽なことに、意識が遠のく直前、綾華は親友であるはずの恵奈に懇願したのだ。 「もし私に何かあったら、慎也さんをお願い」と。

――ああ、この女は言葉通り、甲斐甲斐しくベッドの上で彼の「世話」をしてくれたというわけか。

許さない。 絶対に。

慎也のために捧げたすべてを思うたび、心が引き裂かれる。

なぜ、こんな無様な姿にまで堕ちてしまったのか。

かつての自分は、国際的な裏社会を束ねるマフィアの令嬢だった。

両親の愛を一身に受け、五人の兄たちからは姫君のように傅かれて育った。

天賦の才にも恵まれ、女でありながら、組織の首領たる父から後継者として嘱望されていたほどだ。

兄たちもまた、妹が跡を継ぐことを何より望んでいた。

それらすべてを、慎也という男のために、塵芥のように捨て去った。 家族と縁を切り、この小さな江城へ来た。 そればかりか、己の才覚で会社を興し、貧窮にあえぐ秋山家を救い上げさえしたのだ。

その結果は、どうだ。

後ろ盾のない嫁だと侮られ、 屈辱的な仕打ちを受けた。 慎也の母親には、 まるで召使いのように扱われた。

それでも綾華は、愛ゆえにすべてを耐え忍んだ。

今、ようやく知った。 自分がどれほど愚かであったかを。

「ピピピッ!」

その時、慎也の携帯がけたたましく鳴った。 彼は不機嫌そうに恵奈から身を離すと、着信画面を見て目を輝かせた。

「やったぞ、恵奈! パーティーの始まりだ!」

三分後、通話を終えた慎也が、興奮を隠しきれない様子で恵奈に向き直る。

「ということは、役員会があなたの提案を……?」 恵奈もまた、期待に満ちた上気した顔で問い返した。

「ああ!」慎也は頷く。

「あの石頭どもが、 ようやく折れた。 今夜のパーティーで、 俺が夏目綾華の地位を正式に継承すると発表される。 長年、

愛情深い夫を演じてきた甲斐があったというものだ!」

かつて会社の幹部は皆、綾華の信奉者だったのだ。

「おめでとうございます、慎也お兄様。 それで、私のことは……」恵奈が甘く慎也の胸に寄り添う。

「心配するな。 約束は守る。 俺が会長の座についたら、お前を妻として迎えよう」慎也は彼女の細い腰を抱き寄せ、口づけを落とす。 そして、その目に冷酷な光を宿した。

「そうなれば……夏目綾華というお荷物は、もう生かしておく必要もない」

「慎也お兄様、素敵!」恵奈は狂喜した。

ついに、この日が。

手を取り合い、権力を手にした夫婦気取りで、二人は病室を後にしていく。

誰も気づかなかった。 二人が去った静寂の中、ベッドの上で。

綾華の身体が、カタカタと激しく震え始めた。 憎悪が冷え切った血を沸騰させ、神経の末端にまで灼熱の命令を送り込んでいく。

閉ざされていた五感が、一つ、また一つと輪郭を取り戻していく。

そして、ついに。

「カッ!」

冷たい病室に響いたのは、瞼が開く音。 血のように紅い双眸が、復讐の炎を宿して闇を見据えた。

――地獄の底から、彼女は蘇った。

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