幼馴染を選んだ元婚約者はご自由に。私はさいこうの男の「永遠」になります の小説カバー

幼馴染を選んだ元婚約者はご自由に。私はさいこうの男の「永遠」になります

8.1 / 10.0
5年もの献身を捧げた結婚式当日、橘明音は絶望の淵に立たされた。婚約者の長谷川冬樹が「死にたい」と繰り返す幼馴染の機嫌取りを優先し、式を放棄したのだ。彼の心が永遠に氷のままだと悟った明音は、過去を断ち切り江南へと逃亡する。しかし、人生をやり直そうと泥酔した夜、彼女は取り返しのつかない過ちを犯してしまう。一夜を共にした相手は、社交界でタブー視される実兄の宿敵、藤堂修祢だった。逃げ出そうとする明音を屈強な腕で引き戻し、彼は艶やかな声で「食い逃げか?」と責任を迫る。冷徹無比な高嶺の花として知られる藤堂だが、その正体は宿敵の妹である明音を狂おしいほどに欲する偏愛の鬼だった。古都を買い取るほどの巨額を投じ、禁欲主義の仮面を脱ぎ捨てて彼女を執拗に追い詰める藤堂。甘美な罠に囚われた明音の運命は、かつての婚約者への復讐さえも飲み込むほどの情熱に塗り替えられていく。冷徹な支配者が唯一愛した女性にだけ見せる、あまりにも過剰で危険な溺愛劇が今、幕を開ける。

幼馴染を選んだ元婚約者はご自由に。私はさいこうの男の「永遠」になります 第1章

「いやー、大騒ぎの結婚式だね。聞いた? 長谷川弁護士の幼馴染が、ホテルの屋上で自殺騒ぎを起こしてるって!」

ドアの外から漏れるひそひそ話に、橘明音の心はずきりと痛んだ。

これが、桜井静香による99回目の自殺未遂だ。

もう慣れっこだと思っていた。

けれど、今日は違う。

今日は、明音と長谷川冬樹の結婚式なのだ。

静香がこうして騒げば、自分がまた一歩引かなければならないことを、明音は理解していた。

冬樹と付き合って五年、静香もまた五年間、騒ぎ続けてきた。

そのたびに、冬樹は真っ先に彼女の元へ駆けつけ、なだめてきたのだ。

この恋において、自分こそ日陰者の浮気相手なのではないかと錯覚するほどに。

だが前回、自分を置いて静香の元へ向かった際、冬樹は約束してくれた。「これが最後だ」と。

明音は彼の「最後」という言葉を信じ、今日の結婚式を迎えた。

『死にたいなら勝手に死なせろ!俺に電話して何になる?』

明音はハッとして顔を上げた。バルコニーのドアは完全に閉まっておらず、冬樹の低く冷淡な声が隙間から漏れ聞こえてくる――。

『飛び降りるだと? できないだろうな!彼女が今まで何度自殺騒ぎを起こしたと思ってる? 一度でも血を見たことがあったか?』

最後に、冬樹は声を潜めて何か指示を出したが、あまりに小声だったため、明音には聞き取れなかった。

通話を終えた冬樹が振り返ると、ちょうど明音と目が合った。

明音の心臓が早鐘を打つ。今回、彼は静香のところに行かなかった……。

つまり、彼、嘘ついてなかったんだ?

本当に、これが最後なのか?

「何そんなに見てるんだ? もうすぐ式が始まる。準備はいいか?」冬樹の顔には何の感情も浮かんでいない。

それでも、明音は嬉しかった。

彼女は知っている。冬樹という男は、生まれつき感情が欠落しており、他人に共感することが難しい質だということを。

青春時代の淡い恋心から始まり、心からの愛を捧げるに至った今、明音はようやくその思いが実を結んだと感じていた。

彼にとって、自分は特別な存在のはずだ。

そうでなければ、結婚なんて承諾するわけがない。

明音は花のような笑顔を浮かべ、彼の腕に身を寄せ、「冬樹、私たちやっと結婚できるんだね……」と感慨深げに言った。

冬樹は相変わらず無表情のまま、「ああ、わかってる」とだけ答えた。

控室のドアが開く――。

「さあ、新郎新婦の入場です!」 司会者のよく通る声が、瞬時に会場の空気を掌握した。

明音は幸せいっぱいの表情で、冬樹の腕を組み、ステージへと歩き出した。

「皆様、盛大な拍手を……」

言葉の途中、唐突に冬樹の携帯電話が鳴り響いた。

司会者の顔に気まずさが走り、会場からはどっと笑い声が上がる。

明音の笑顔が凍りついた。その着信音は、彼女にとって悪夢のような音――静香専用の着信音だったからだ。

冬樹は懐から携帯を取り出し、電話に出た。『もしもし、また何かあったのか?』

司会者は慌てて場を取り繕い、再び雰囲気を盛り上げようとする――。 長年司会をしていて、こんな事態に遭遇するのは初めてだろう。

だが、彼が口を開くより先に、冬樹の声が響いた。

『すぐに行く』

冬樹はその一言を残し、大股でステージを降りていった。

一瞬にして、会場全体が騒然となる。

「行かないで……」明音はウェディングドレスの裾を持ち上げて追いかけ、すがるような表情で訴えた。「最後だって言ったじゃない」

冬樹はわずかに眉を寄せ、冷徹に損得を計算しているかのようだった。

数秒後、彼は冷静に説明した。「静香が本当に飛び降りたらしい。行って確認しなきゃならない。お前は客の相手をしててくれ、すぐ戻る」

「冬樹!」明音は彼の手首を掴み、離さなかった。「もし行くなら、私はもう結婚しない!」

冬樹は無造作に彼女の手を振りほどいた。「なら、後悔するなよ」

明音の心は粉々に砕け、涙が不意にこぼれ落ちた。

その涙を見て、冬樹の心臓がわずかに震えた。しかし彼は、これも明音の妥協のサインだと解釈した。

いつものように。

彼女は自分を見捨てられないはずだ。

明音がいかに自分を好いているか、冬樹は知っていた。箱入りのお嬢様でありながら、家族と絶縁してまで宮都で働く自分についてきたのだ。

何があっても、彼女は常に自分の味方だった。

彼女の最大の願いは、彼と結婚することだ。

それに、以前静香が何度も騒ぎを起こしたときも、彼女が尻拭いをしてくれた。

だが今回、「結婚しない」と脅してくるとは、よほど追い詰められているのだろう。

とはいえ、静香のほうは本当に緊急事態だ。

明音のわがままに付き合っている暇はない。

冬樹は反射的に何か言おうと唇を動かしたが、ポケットの携帯が再び震えたため、電話に出ながらきびすを返し、外へと走り去っていった。

一瞬、招待客一同はポカンと顔を見合わせた。

これ……どういう状況だ?

新郎が逃げた?

混乱が広がる中、明音は涙を拭い、気力を振り絞って振り返ると、呆然と立ち尽くす司会者からマイクを奪い取った。「皆様、申し訳ありません。本日の結婚式は中止とさせていただきます……」

会場は一瞬にしてざわめきに包まれた。

だが、明音にはもうどうでもよかった。

今日という日を境に、自分が宮都最大の笑い者になることはわかっていた。

誰もが知っているのだ。明音が冬樹に惚れ込み、数多のエリートたちを蹴って、貧しい彼を選んで共に苦労を重ねてきたことを。ようやく苦労が報われたと思った矢先、結婚式当日に捨てられたことを。

明音がホテルを出たところ、入り口は野次馬で埋め尽くされていた。

少し離れた場所で、静香はすでに救助マットから降ろされ、冬樹に抱きかかえられていた。彼女もウェディングドレスを着ており、目を真っ赤にして泣いている。

「冬樹、どうして私を一人にしたの? ずっと一緒にいるって約束したじゃない」

「無茶するな」冬樹はわずかに眉をひそめたが、その顔には相変わらず表情がなかった。

静香はいきなり彼の顔を両手で包み込み、その漆黒の瞳を覗き込んだ。「やだ!」

その行動を見て、明音は咄嗟に冬樹が怒ると思った。

かつて明音も、若かりし頃に彼の顔を包み込み、見つめたことがあった。だが彼は、冷ややかな目で彼女を見下し、こう言ったのだ。「俺の顔に触られるのは好きじゃない」

その声は氷のように冷たく、瞳には一片の感情もなかった。

しかし今、冬樹は拒絶する素振りすら見せず、 静香が彼の整った顔を揉みくちゃにするのを許し、最後には彼女を泣き笑いさせた。

明音はこれまで、冬樹の感情欠落は誰に対しても等しく冷淡なのだと思っていた。けれど今この瞬間、静香を抱きかかえて救急車へ向かう彼を見て、自分がどれほど滑稽なピエロだったかを思い知らされた。

来る日も来る日も、いつか自分の想いが冬樹の凍った心を溶かし、彼が自分を愛してくれる日が来ると信じていた。そして、その涼やかで美しい瞳が、自分への愛おしさと甘やかさで満たされる日を心に描いていた。

だが結果は――。

現実は残酷にも、彼女の頬を張り飛ばした。

なるほど、冬樹にも感情はあったのだ。ただ、それは自分に向けられたものではなかった。

明音は笑いながら、涙を流した。

この五年間。

(私は一体何だったの?)

(明音、あんたって本当に単純で、笑っちゃうくらい馬鹿だわ。)

この五年間は、ただの長い夢だったのだ。

夢が砕けた今。

もう、目を覚まさなきゃ。

明音は控室に戻り、ウェディングドレスを脱ぎ捨て、私服に着替えた。

結婚式のドタキャン騒動の余波はまだ激しく、明音が法律事務所に戻ると、噂話をしていた同僚たちの声がピタリと止んだ。

だが、明音は気にしなかった。昔から図太かったのだ。法学部の秀才だった冬樹を追いかけ回していた学生時代、すでに全校生徒の笑い者だったのだから。

ただひたすらに猪突猛進し、ようやく頭を打って血を流したことで、彼女は悟ったのだ。冬樹は本当に自分のことを好きではないのだと。

明音は自分のデスクに戻り、パソコンから退職願をプリントアウトした。署名を済ませると、それを冬樹のオフィスのデスクに置いた。

置いた瞬間、携帯が震えた。

冬樹からの電話だ。

『結婚式を中止にしたと聞いたぞ? なぜ事前に相談しなかった? 事務所の評判にどれだけ悪影響があるか分かっているのか?』

『中止にしなくてどうしろって言うの?』 明音は冷ややかな声で反論した。『大勢の招待客に、あなたが悲劇のヒロインを助けて戻ってくるのを待っていろとでも?』

冬樹は数秒沈黙した。明音が口答えするとは予想していなかったようだ。

付き合い始めた頃から、明音は太陽のように彼を照らし、常に活力に満ち、笑顔を絶やさなかった。

彼に怒りをぶつけたことなど一度もなかったのだ。

『俺が悪かった』 冬樹はどこまでも理知的で冷静だった。『配慮が足りなかった』

明音は自嘲気味に笑った。当時の自分は本当に怖いもの知らずだった。なぜ、生まれつき感情のない人間が自分を愛してくれるなどと思い込んだのだろう?

明音はデスクの上の退職願を一瞥して言った。『冬樹、私の辞しょ……』

言葉が終わらないうちに、受話器の向こうから甘ったるい声が割り込んできた。『冬樹、腰が痛いの。早く揉んでよぉ』

『今取り込み中だ。また後で話そう』

電話はすぐに切れ、無機質な切断音が響いた。

続きを読む

幼馴染を選んだ元婚約者はご自由に。私はさいこうの男の「永遠」になります 目次一覧

Ch. 1 Ch. 2 Ch. 3
Ch. 4
Ch. 5
Ch. 6
Ch. 7
Ch. 8
Ch. 9
Ch. 10
Ch. 11
all

おすすめの作品

新着リリース小説

運命の番アルファの隠し子――私を打ち砕く拒絶 の小説カバー
8.4
聖なる白狼の血を引く私は、一族を統べるルナとなるべく育てられた。運命の番であるアルファの戒は、私の魂の片割れ。そう信じて疑わなかったが、彼には五年間隠し続けてきた別の家族がいた。皮肉にも、彼の息子の誕生日は私と同じ日。ガラス越しに見たのは、見知らぬ女と愛を囁き、私が憧れた遊園地へ行く約束を交わす番の姿だった。さらに残酷なことに、私の両親もこの裏切りの共犯者だった。彼らは一族の金を横領して戒の二重生活を支え、私の誕生日には薬で私を眠らせ、密かに彼らだけの祝宴を開こうと企んでいたのだ。私という存在は娘でも番でもなく、ただ純血の後継者を産むための便利な道具に過ぎなかった。絶望の淵に立たされた十八歳の朝、私は母が差し出した毒入りのお茶を飲み干し、死を偽装して彼らの前から姿を消す決意をする。もちろん、ただでは去らない。戒たちの息子の誕生会に、彼らがひた隠しにしてきた醜悪な真実をすべて詰め込んだ、特別な「贈り物」を届けさせてから。偽りの愛に満ちた世界を、私は自ら壊して自由を手に入れる。
覇王の略奪、裏切られた高貴な令嬢を支配する の小説カバー
9.1
After witnessing her fiancé’s betrayal with her cousin, noblewoman Elena is left shattered. In her moment of despair, she encounters Shoma Nakazawa, a ruthless billionaire and her fiancé’s business partner. He seduces her with a dark proposition: to ruin those who hurt her by descending into a world of sin. Despite her family’s ruinous state and her fiancé’s humiliating demands at a yacht party, Elena finds a dangerous ally. As Shoma touches her in secret while her oblivious fiancé bows to him, she decides to stop being a victim. Embracing Shoma’s cold obsession, she resolves to use this devil to drag her enemies into the depths of hell.
離婚届にサインしたら、私は元夫では手の届かない真の令嬢でした の小説カバー
9.5
交通事故で視力を失い、誰からも見捨てられた蕭明隼人を救ったのは、明石凛ただ一人だった。彼女は彼と結婚し、三年の歳月を費やしてその目を治療する。しかし、視力を取り戻した隼人が彼女に突きつけたのは、あまりに非情な離婚届だった。かつての恋人・秋子との時間を奪ったと凛を責め立てる彼は、三億円の宝飾品を贈り、彼女を冷酷に追い出す。世間からも「身の程知らず」と嘲笑され、全てを失ったかのように見えた凛。だが、彼女こそが隼人の目を治した名医であり、三億のジュエリーを手がけたデザイナー、さらにはウォール街やハッカー界を震撼させる伝説の天才にして、大統領家の真の令嬢という正体を持っていた。真実を知り、後悔に震えながら復縁を乞う元夫の前に、京の実業界に君臨する冷徹な権力者が現れる。「彼女は俺の妻だ」と宣言し、凛を抱き寄せる男。その傍らで、彼女は余裕に満ちた微笑を浮かべる。かつての献身を捨て、真の輝きを取り戻した令嬢による、華麗なる逆転劇が幕を開ける。
彼の結婚式、彼女の完璧な復讐 の小説カバー
8.7
路地裏で血に塗れていた神崎依央を救い出し、兜町の頂点へと君臨させたのは私だった。持てる知識の全てを授け、帝国を築き、密かに夫婦の契りを交わした彼は、まさに私の最高傑作。しかし、そんな彼が私を「看守」や「足枷」と呼び、疎んでいる事実を突きつけられる。裏切りはそれだけに留まらない。彼は私が与えた権力を振るい、死産した愛娘・希を悼んで設立した小児がん病棟を破壊したのだ。その跡地に新恋人への贈り物として高級スパを建設する暴挙に出ただけでなく、娘の死すら私の責任だと冷酷に言い放った。私がゼロから育て上げ、共に歩んだ歴史も亡き子への想いも、彼は無残に踏みにじったのだ。自分を焼き尽くした灰の上で、彼が新たな幸せを掴めると信じているのなら、それは大きな間違いだ。届いた結婚式の招待状を手に、私は静かに決意する。奈落の底へ突き落とす前に、まずは完璧な幸福という絶頂を味わせてやろう。それが、全てを奪われた私から彼へ贈る、最後で最高の復讐の幕開けなのだから。
婚約破棄?構わない。神木さんを骨抜きにしてみせる の小説カバー
8.4
酔った勢いで冷徹な神木に絡んだ桐谷ひなた。鋭い眼差しで「後悔するぞ」と警告されるが、婚約破棄され居場所を失った彼女は彼の家へ向かう。結婚後、義母が育てていたのは亡き想い人の子だった。彼はひなたの顔に、かつて愛した人の面影を重ねていたのだ。従順な身代わりに過ぎない。そう悟った彼女が離婚を告げると、彼は豹変して背後から抱きしめる。「……離さない」と縋るような掠れた声。自分なしではいられなくなった彼の姿に、ひなたは口角を上げ、静かに微笑む。「神木さん、私を必要とするなんて……ずるい人」愛憎と執着が交錯する、二人の歪な関係の行方は。
振り向かないお嬢様は、京の大物に骨まで寵愛される の小説カバー
8.3
幼い頃から天野健吾を慕い、彼に相応しい花嫁になるため、舞踊や作法を完璧に身につけてきた新井裕美。しかし、健吾が彼女に返したのは、度重なる無視と冷酷な拒絶だった。命の危機にさらされた際にも見捨てられたことで、裕美は彼への愛が微塵もないことを悟り、決別を決意する。執着を捨て去り、本来の自分を取り戻した彼女は、没落しかけていた新井家を京都の頂点へと押し上げ、社交界で最も輝く存在へと成長を遂げた。かつての面影を失い、凛とした美しさを放つ彼女の瞳に、もう健吾の居場所はない。立場が逆転し、焦燥感に駆られた健吾は「すべてを捧げるから戻ってほしい」と縋り付くが、時すでに遅し。裕美の傍らにいたのは、京都の実権を握る健吾の叔父だった。叔父は、自らのものになった裕美を独占するように、艶やかな痕跡を刻みながら健吾を冷たく突き放す。かつての婚約者を「叔母」と呼ばざるを得ない、残酷で甘美な支配が幕を開ける。
今すぐ読む
共有