THE EARTH―灰が降り積もる世界で少女と旅をする― の小説カバー

THE EARTH―灰が降り積もる世界で少女と旅をする―

8.2 / 10.0
地表のほとんどが分厚い灰に埋め尽くされた絶望的な終末世界。傭兵として生きるカラスは、過去から受け継がれた遺物武器を手に、突如として現れる謎の機械兵器群との死闘を繰り広げていた。そんな過酷な日々の中で、彼は奇妙な少女オーと出会う。彼女は人類を脅かすはずの機械兵器を「家族」と呼び、慕っていた。オーは記憶の一部を失っており、世界の現状については理解しているものの、自分自身が果たすべき重要な使命を思い出せずにいた。カラスは人々を襲撃し続ける機械兵器の正体とその真実を暴くため、そしてオーは失われた自らの目的を取り戻すため、二人は果てしなく広がる砂漠へと足を踏み出す。過酷な環境と未知の脅威が待ち受ける旅路の果てに、彼らは世界の崩壊に隠された秘密にたどり着くことができるのか。灰に覆われた大地を舞台に、孤独な傭兵と謎を秘めた少女による決死の冒険が幕を開ける。本作は公募用に構成された物語であり、より詳細な物語を描いた長編用の本編も別途公開されている。公開されている。

THE EARTH―灰が降り積もる世界で少女と旅をする― 第1章

この世界で生きる人々の安寧を脅かす者たちの襲撃。それを表した警鐘はけたたましい音を掻き鳴らし、村中に避難を伝えていく。

 多くの家々は移住を想定した簡易的なテントのようなものであるため、全て置いて逃げたとしてもそれほどの痛手はなかった。そんな状況でもなるべく多くのものを持って逃げようとするのは、人の罪深い欲望からだろうか。

 しかし命の危険が迫っているなか、慌てふためき逃げていく者たちとは違い、その襲撃者に対して立ち向かっていく者たちもいた。

 物を言わずにただ銃を構え、襲撃者目掛け弾丸を放つ傭兵たち。しかし彼らの弾丸はその乏しい技量が故に命中するものはない。

 そんな彼らの中に未だ発砲せず、狙いを定め続ける傭兵が一人。彼の名前は|有馬烏《アリマカラス》。

 皆が持っているものと同じ疑似駆動銃を手に、スコープ越しに掃除屋と呼ばれる機械兵器の二輪車型を狙った弾丸は、一直線の華麗な軌道を描く。そして弾丸は掃除屋の核とも言える通信機器を確実に破壊し、掃除屋の数を一つ減らした。

 他の傭兵の弾丸が一つとて命中しなかったように、この灰が舞う世界でこれほど確実な射撃を行える兵士は少ない。

 カラスは二輪車型の停止を確認した後、もう一度その銃に弾丸を装填し、エアコッキングによる空気の加圧を行った。

 そして別の兵士が撃ち漏らした何台かの二輪車型は彼らの間をすり抜けた後、急激な転回を行い、その車体から機関砲を露出させ、兵士たちに狙いを定める。

 あと数秒もしないうちにあの機関砲からは鋭い弾丸が無数に放たれる。もちろんまともな防具をつけていない人間がその弾を食らえば、ハンバーグよろしくミンチだ。

 自らが弾を外したからだというのに、その事実に気付いた傭兵たちは、その武器を投げ捨て、ここから逃げ出そうとする。

「一、二、三……。流石にこれ以上減らされたら困るか……」

 今残っている兵士を数えた後、そう呟いたカラスは疑似駆動銃をその場に置き、背負っていたライフルを構えた。他の疑似駆動銃とは違い、複雑な機構を搭載したそのライフルからは先に針のついた管が伸びている。

 カラスはそれを腕に突き刺すことでそのライフルを起動する。カラスの腕からは管を伝い、赤黒い血液がライフルに流れていき、その血液が機関部分に到達すると、内部がじんわりと光始める。組まれたパーツの隙間から漏れる光は鈍い色で、黄色とも赤とも言えないような色をしている。

 そしてカラスが呟く。

「駆動装置起動――」『――認証、確認』

 瞬間、トリガーを引かずとも銃口から真っ赤な弾丸が飛び出し、こちらへ迫り来るバイクの集団の中心へ着弾した。そこから目を覆いたくなるほどの閃光が放たれ、巨大な爆発が掃除屋たちを呑み込んでいく。

「傭兵さんや。生憎あんたらに渡せるような食料はもう残っとらんのだ。村の女子供に配る分はあれど、男どもの分はもう無くて、傭兵を雇ったものの上げられるようなものは限られておる……」

 自らたちを雇った村の村長にそんなことを言われた兵士たちは口々に文句を垂れる。

「俺は食料は要らない」

 そんな中、暗い声音でカラスは言う。

「ここ周辺の地図、若しくは過去の遺物があれば」

 過去の遺物。響きだけであれば貴重な代物のような印象を受けるが、砂と灰に塗れ緑という色を失い、荒廃しきった世界では、身の糧にならないものは全てゴミ同然であった。

 そのためカラスは村民からすると、命を救ってくれた報酬にゴミを寄越せと言う都合の良い傭兵であった。もちろん村長はその言葉に驚きを隠すことはできず、それと同じように他の傭兵たちはカラスを笑う。

「そ、そんなもので良いのか?」

「ああ」

 その返事に対し、村長は一人の青年に声を掛け、心当たりのある遺物を持ってこさせることにした。

「いやあ、それにしても変わった傭兵さんは変わった武器を使うんだな?」

 と、傭兵の内の一人がカラスの腕に張られた絆創膏を見ながら言った。この絆創膏は先ほどの駆動装置の管を血管に繋いだ際にできた傷を保護するための物だ。

 今この世界で主流となっている武器はカラスが最初に使っていた銃を代表とする疑似駆動銃と呼ばれる兵器であった。それは火薬を扱うものであったり、カラスの銃のように空気圧を利用したエアライフルであったりと種類は様々であるが、それら全ては旧世界に存在していた駆動装置を利用した武器のまがい物であった。

 そしてカラスの背負っているものこそ最大の過去の遺物、生命力を消費することでその絶大な効果を発揮させる駆動装置を搭載した兵器であるが、その存在はほぼ伝説となっており、一目で判断できる者は数少ない。

「ああ、まあな。友人に優秀な技術者がいるんだ」

 と、適当な嘘で誤魔化し、カラスは報酬を受け取り、その場を後にする。

 駆動装置で破壊したバイクは既にガラクタに成り下がっていたが、最初の疑似駆動銃で通信機器のみを破壊したバイクはその原型を留めたまま、村の外に転がっている。カラスはそれを持ち上げ、自らのポーチから工具を取りだし、徐にバイクの機関部分を弄り始める。

 先ほど傭兵たちに優秀な技術者の友人がいると述べていたが、それは嘘であり、機械兵器や過去の遺物に対する技術と知識を持っていたのはカラスだった。

 背負っている駆動装置の搭載された兵器も自らが改造したものであったため、ほぼ無傷の機械兵器を自らの乗り物として改造するなんてことは赤子の手をひねるよりも簡単な作業であった。

 通信機器及びその周りの機械を外してしまえば、掃除屋たちの中枢である世界システムからの通信を遮断でき、掃除屋の攻撃性を、遠隔操作を取り除くどころか、この世界では既に作ることが出来なくなった機械を獲得することが出来る。

 しかし通信機器のみを破壊する難易度と、機械兵器自体の危険性からそれ自体を懐柔するという発想に辿り着く者はおらず、その中でもカラスはそれを体現して見せた数少ない人類の一人だった。

 改造し終わったバイクに跨り、カラスはアクセルを捻る。腹の奥を響かせるようなエンジンの音を鳴らした後、地面に降り積もった灰を巻き上げながら砂漠に新たな道を作り始める。

続きを読む

THE EARTH―灰が降り積もる世界で少女と旅をする― 目次一覧

Ch. 1 Ch. 2 Ch. 3
Ch. 4
Ch. 5
Ch. 6
Ch. 7
Ch. 8
Ch. 9
Ch. 10
Ch. 11
all

おすすめの作品

新着リリース小説

男装17年、女帝はじめました の小説カバー
8.0
生まれた瞬間、母の野心によって性別を偽る運命を背負わされた皇太子。あるはずの「男の証」を持たぬまま、過酷な胸の締め付けと男装に耐え、十七年もの歳月を皇太子として完璧に演じ抜いてきた。文武両道で聡明な後継者として名を馳せるも、ついにその正体が露見する日が訪れる。裏切られたと感じた忠臣たちが怒りの眼差しを向け、死罪を免れない絶体絶命の窮地に立たされた時、彼女は静かに剣を抜き放ち、世の理を覆す宣言を放った。「女が皇帝になってはならぬと、誰が決めたのか」と。自らの力で帝位を掴み取った彼女を待っていたのは、かつて共に学問に励んだ文官と、武芸を叩き込んでくれた武官による、熾烈な寵愛争いだった。かつての仲間から側室候補となった彼らの肩を抱き寄せ、女帝は不敵に微笑む。後宮にさらなる新人が増える未来を見据え、嫉妬に燃える男たちを軽やかにいなしていく。男装の皇太子から前代未聞の女帝へ。彼女の歩む道には、華やかな恋の火花と波乱の治世が待ち受けていた。
後悔してももう遅い、覚醒した天才妻は輝き出す の小説カバー
9.5
結婚七周年という節目の記念日、園田理穂を待っていたのは夫からの冷酷な拒絶だった。急な会食を理由に約束を反故にされた彼女は、偶然にもデパートで衝撃的な光景を目の当たりにする。そこには、見知らぬ女性と実の息子、そして夫が、まるで理想的な家族のように睦まじく笑い合う姿があった。息子がその女性を「ママより優しい」と慕い、夫が慈愛に満ちた表情を向ける中、理穂は東大博士課程という輝かしいキャリアを捨てて尽くしてきた七年間の無意味さを悟る。さらに、夫が自宅の最新AIロボットに、理穂を侮辱し嘲笑する音声を密かに仕込んでいたという残酷な事実までもが発覚。家庭という名の監獄で精神的虐待を受けていた現実に直面し、彼女の悲しみは鋭利な怒りへと変貌を遂げる。もはや未練などない。理穂は結婚指輪を投げ捨て、自らの足で家を出ることを決意する。敏腕弁護士である親友の助力を得て、かつての天才と呼ばれた彼女は、失われた尊厳を奪還し、裏切った家族へ報いを受けさせるための静かなる反撃を開始した。
幼馴染を選んだ元婚約者はご自由に。私はさいこうの男の「永遠」になります の小説カバー
8.1
5年もの献身を捧げた結婚式当日、橘明音は絶望の淵に立たされた。婚約者の長谷川冬樹が「死にたい」と繰り返す幼馴染の機嫌取りを優先し、式を放棄したのだ。彼の心が永遠に氷のままだと悟った明音は、過去を断ち切り江南へと逃亡する。しかし、人生をやり直そうと泥酔した夜、彼女は取り返しのつかない過ちを犯してしまう。一夜を共にした相手は、社交界でタブー視される実兄の宿敵、藤堂修祢だった。逃げ出そうとする明音を屈強な腕で引き戻し、彼は艶やかな声で「食い逃げか?」と責任を迫る。冷徹無比な高嶺の花として知られる藤堂だが、その正体は宿敵の妹である明音を狂おしいほどに欲する偏愛の鬼だった。古都を買い取るほどの巨額を投じ、禁欲主義の仮面を脱ぎ捨てて彼女を執拗に追い詰める藤堂。甘美な罠に囚われた明音の運命は、かつての婚約者への復讐さえも飲み込むほどの情熱に塗り替えられていく。冷徹な支配者が唯一愛した女性にだけ見せる、あまりにも過剰で危険な溺愛劇が今、幕を開ける。
砕けた心の鎮魂歌:冷徹な夫への永遠の別れ の小説カバー
7.9
結婚3周年の記念日に小松原静が目撃したのは、夫である鷹司暁が別の女性と情事に耽る衝撃的な姿だった。暁は静に贈られたネクタイを外し、静との関係をただの政略結婚だと冷酷に切り捨てる。怒りを抑えて離婚を突きつけた静だったが、鷹司グループの権力者である暁は書類を破り捨て、跡継ぎを産む義務を強要して彼女を力ずくで押さえつけた。さらに彼は静のカードを止め、職を奪うことで彼女を孤立させ、徹底的な支配を試みる。しかし、暁は知らない。4年前に彼を救うために遭った事故で、静がすでに子供を産めない体になっていることを。代わりの女のために妻としての尊厳を無惨に踏みにじる夫の傲慢さが、静の心に冷徹な復讐の炎を灯す。絶望の淵に立たされた彼女は、自分を追い詰めた夫を「死人以下」と断じ、その権力に抗うための壮絶な反撃を開始する。愛が憎しみに変わる時、静はすべてを賭けて自らの尊厳を取り戻す戦いに身を投じていく。
愛を欺いた男に、最後の裁きを—— の小説カバー
9.3
見知らぬ女に肉体を乗っ取られた私は、絶望の淵に立たされていた。その女は私の人生を蹂躙し、愛する両親と絶縁させただけでなく、最愛の兄を事故に遭わせ、植物状態へと追いやったのだ。すべては一人の身勝手な男を追い求めるための暴走だった。長い歳月を経てようやく自身の体を取り戻した私は、人生を狂わせた男への復讐を誓う。華やかな大スターの仮面を剥ぎ取り、社会的地位を失墜させた私に、男は涙ながらに縋りつく。だが、私の怒りは収まらない。あえて離婚を拒み、男を追い詰めると、彼は私を殺害するために刺客を放った。張り巡らされた幾重もの罠が交錯するなか、男の真の正体と罪状が暴かれ、彼は富も名誉もすべてを失って終身刑の判決を受ける。ついに私の意識を侵食し続けていた女の存在も消え去り、忌まわしい過去から解放された。奪われた時間と絆を取り戻すため、私は静かに、そして力強く新たな人生の一歩を踏み出す。愛と憎しみの果てに掴み取ったのは、真実の裁きと平穏な未来だった。
ゴミ扱いされた私が、実は世界的権力者だなんて言えない の小説カバー
8.8
幼い頃に全てを奪われ、孤独の中で育った池田新奈。彼女はかつて自分から母や居場所を奪った者たちへ復讐し、本来あるべき権利を取り戻すため、再び上京市へと足を踏み入れる。しかし、世間は彼女を「落ちこぼれの不良娘」と蔑み、冷酷な視線を向けるばかりだった。そんな中、街を牛耳る権力者・横山宴之介が彼女を妻に迎えると宣言し、周囲は「正気か」と騒然となる。だが、宴之介だけは新奈の真の姿を見抜いていた。彼女は伝説の神医、世界屈指のハッカー、そして王室すら畏敬する天才調香師という、世界を揺るがす複数の顔を持つ実力者だったのだ。夫の執拗なまでの溺愛に戸惑いながらも、新奈は彼の手を借りずとも圧倒的な力で敵を追い詰めていく。会議中であっても彼女を離そうとしない宴之介の過保護ぶりに周囲が呆れる中、新奈の隠された正体が次々と暴かれていく。かつて彼女をゴミのように扱った人々は、そのあまりに強大な真実に直面し、絶望と後悔に震えながら跪くことになる。愛と復讐が交錯する中、最強の令嬢による華麗なる逆襲劇が今、幕を開ける。
今すぐ読む
共有