出来損ないの娘が死んだ日 の小説カバー

出来損ないの娘が死んだ日

9.5 / 10.0
ゴミの山から発見された無惨な腐乱死体。現場に駆けつけた刑事の父と監察医の母は、その遺体を「汚らわしい」と蔑み、顔をしかめた。二人は、目の前で横たわる無残な骸が、自分たちが「出来損ない」と冷遇し続けた実の娘、栞であることに全く気づいていない。母は栞の指から、かつて自分が誕生日に贈った手作りの指輪を無造作に引き抜き、安物だと嘲笑う。解剖中も、二人の口から出るのは優秀な養女である妹への称賛ばかり。魂となった私は、両親にとって自分が死してなお「処理すべきゴミ」でしかない現実に絶望していた。しかし、胃の内容物から見つかった一枚のレシートが、平穏な日常を地獄へと変える。鑑識の結果、被害者が実娘であるという残酷な真実が突きつけられた瞬間、父の顔は土気色に変わり、母の悲鳴が解剖室に虚しく響き渡った。ゴミ溜めの中で再会し、実の親から汚物として吐き捨てられたあの瞬間こそが、私と彼らの最後の対面となったのだ。皮肉な運命が、親子の絆を無慈悲に暴き出していく。

出来損ないの娘が死んだ日 第1章

ゴミの山で発見された腐乱死体.

それを前にして, 刑事の父と監察医の母は「汚らわしい」と顔をしかめた.

彼らは気づいていなかった.

その無惨な遺体が, 自分たちが「出来損ない」と蔑み続けた実の娘, 私であることに.

母は私の指から, かつて私が誕生日に贈った手作りの指輪を無造作に引き抜いた.

「こんな安っぽい指輪... 被害者は貧しい生活をしていたのでしょうね」

彼らは私の体を解剖しながら, 養女である妹・萌のピアノコンクールの話題で盛り上がっていた.

「萌は私たちの誇りだ. この死体のようなゴミとは違う」

魂となった私は, その光景を絶望の中で見つめていた.

死んでなお, 私は彼らにとってただの「処理すべき案件」でしかなかったのだ.

しかし, 胃の内容物から発見された一枚のレシートが, 残酷な真実を突きつける.

「おい, 嘘だろ... 」

鑑識の結果を見た父の顔色が, 一瞬にして土気色に変わった.

「DNAが一致しました. 被害者は... 梅田栞さんです」

その瞬間, 母の悲鳴が解剖室に響き渡った.

あのゴミの山の中で両親が私を見つけた時, 彼らは私の体を汚らわしいものだと吐き捨てた. それが, 私と彼らの最後の出会いだった.

第1章

梅田栞視点:

腐敗臭が鼻腔を突き刺した. 私はそこにいた. 私の体だった. 山中に放置された廃墟の一角で, 私の体はスーツケースの中に押し込められていた. 発見者の男が顔を覆って嘔吐している声が耳に届いた. その男はすぐに震える手でスマートフォンを取り出し, 警察に通報した. 彼の声は恐怖で上ずっていた.

数時間後, パトカーのサイレンが遠くから響き渡り, やがて目の前で止まった. 車から降りてきたのは, 見慣れた顔だった. 私の父, 梅田仁翔. 県警捜査一課の敏腕刑事. そして私の母, 梅田澄恵. 優秀な監察医. 彼らはいつも通り, 冷静で, プロの顔をしていた. 彼らが現場に近づくと, 鑑識の人間が顔を覆うマスクを差し出した. 彼らは無言でそれを受け取り, 装着した.

父は鑑識のチーフに何かを尋ねていた. 母は顎に手を当て, 現場全体を鋭い眼差しで見渡していた. 彼らは数々の凄惨な現場を見てきたはずだ. しかし, 私の体を見た瞬間, 二人の顔に一瞬だけ, 微かな動揺が走ったのが見えた. 父の眉間に深い皺が刻まれ, 母は唇をきつく引き結んだ.

私の体は, 見るも無残な状態だった. 高温のせいで大きく膨張し, 皮膚は水ぶくれで破裂していた. 顔は何度も殴られたせいで原型を留めておらず, 私だとわかるものは何一つ残っていなかった. 体中には無数の傷跡が刻まれていた. 犯人の激情がそのまま表れているようだった. 首は, 辛うじて皮膚一枚で繋がっているだけだった.

現場に充満する腐敗臭は, まさに地獄絵図だった. 母は深く息を吸い込み, ゆっくりと目を閉じた. その動作は, まるで手術室に入る前のようだった. 彼女は手袋をはめ, 私の体に近づいた. その指が, 私の左手の薬指に触れた. そこには, 私が作った不格好な銀の指輪がはめられていた. 生きていた頃, 私に向けられたことのない感情が, 一瞬だけ母の目に宿ったように見えた.

その一瞬の憐れみが, 私の心を締め付けた. 生前の私は, 一度もそんな風に優しく見られたことがなかった. 母の白い手が, 私の指から指輪を外しにかかる. 私の心臓は, まるで止まってしまったかのように感じられた.

あの指輪を作った時のことを思い出した. それは, 父の誕生日プレゼントだった. 家族みんなでつけられるようにと, 私が必死に作ったものだった. でも, 私の指には少し大きすぎた指輪は, 父には小さすぎた. 父はそれを手に取り, 眉をひそめて言った.

「栞, またこんなガラクタを作って. 萌ちゃんにまた迷惑をかけるつもりか? あいつは繊細なんだぞ. 」

母もそれに続いた. 「あなたは, いつになっても私たちを困らせる. なぜ萌のように賢く, 素直になれないの? 」

萌は父の腕に抱きつき, わざとらしく小さく咳払いをした. 「お姉ちゃんは, 私のために作ってくれたんだよね? でも, 私にはちょっと…」

私は何も言えなかった. ただ, 萌が父の背後で, 私を嘲笑うように口角を上げていたのを覚えている. あの時, 私は萌に手を上げてしまった. その結果, 父に初めて殴られた. 母は私を罵倒し, その罰として私の髪を丸坊主にした. それでも私は, 父と母が私を愛していると信じていた. この指輪を見れば, きっと私の気持ちが伝わるはずだと, 愚かにも思っていたのだ.

「この指輪も証拠品として押収して. 鑑定に回して. 」母の声は冷たかった. まるで, それがただの, どこにでもある不潔なゴミであるかのように.

もう期待するべきではなかった. 彼らの目の中で, 私は, ただの邪魔者だった. 血の繋がりのある娘だという事実でさえ, 何の価値も持たなかったのだ.

続きを読む

出来損ないの娘が死んだ日 目次一覧

Ch. 1 Ch. 2 Ch. 3
Ch. 4
Ch. 5
Ch. 6
Ch. 7
Ch. 8
Ch. 9
Ch. 10
Ch. 11
all

おすすめの作品

新着リリース小説

クズ夫に捨てられた彼女は、京の大御所の溺愛花嫁となった の小説カバー
9.4
結婚式を三日後に控えた曽根明里に突きつけられたのは、愛の誓いではなく冷徹な離婚協議書だった。婚約者は「命の恩人への責任を取る」という身勝手な理由で、彼女に一時的な別れと我慢を強いる。三年間献身的に尽くしてきた明里だったが、その傲慢な態度に愛想を尽かし、未練を断ち切るように婚約書を破り捨てて彼の前から去った。後悔に苛まれた元夫が必死に彼女を捜し出したとき、明里の隣には実業界の帝王として恐れられる圧倒的な権力者の姿があった。独占欲を隠そうともせず彼女を抱き寄せるその男は、元夫を「ただのゴミ」と切り捨て、彼女の薬指に輝く指輪を愛おしげに撫でる。かつての惨めな立場から、大御所の最愛の妻へと生まれ変わった明里。彼女は冷徹な眼差しで元夫を一瞥すると、格の違いを見せつけるように優雅に微笑み、二度と関わらないよう最後通牒を突きつける。裏切りから始まった絶望の淵で、彼女は真に自分を慈しむ至高の愛を手に入れたのだ。
拾った子がまさか億万長者の息子だったなんて!? の小説カバー
8.0
「不妊である」という冷酷な宣告を突きつけられ、清水瞳は四年前、鈴木家を追われるように去った。絶望に打ちひしがれた彼女は、逃げるように辿り着いた地方の町で、激しい雨に打たれ捨てられていた赤ん坊を救い出す。その子を育てる決意をした瞳にとって、息子との暮らしは生きる希望そのものだった。しかし四年後、彼女の質素な住まいに高級車が列をなし、一人の男が現れる。大富豪である天草蓮は、ブラックカードを無造作に差し出し、多額の報酬と引き換えに実子である少年を連れ去ろうとした。瞳は必死に息子を庇い、命を懸けて守り抜く覚悟を鋭い眼差しで蓮にぶつける。我が子を誰にも渡さないと言い放つ彼女の強い意志と、眩しいほどの気高さに触れた蓮は、不敵な笑みを浮かべた。彼は息子を抱き上げるだけでなく、瞳の腕をも強引に引き寄せ、驚くべき宣言をする。子供だけでなく、彼女自身もまとめて自分の手中に収めるというのだ。そこから、孤独な母子と傲慢な億万長者の、新たな運命が動き出す。
見捨てられし愛玩、マフィアの女帝 の小説カバー
9.7
8歳の冬、燃え盛る炎の中から私を救い出した黒崎龍司は、絶大な権力を握る裏社会の支配者だった。それから10年、私は彼を唯一無二の守護者として、神のごとく崇めて生きてきた。しかし、二つの組織を統一するという野望のため、彼は他家との婚約を一方的に発表する。家に連れてこられた婚約者は、周囲の目の前で私に安物の金属製首輪をはめ、「ペット」と呼び捨てて嘲笑った。龍司は私が金属アレルギーであることを知りながら、冷徹な視線でそれを受け入れるよう命じる。その夜、壁越しに聞こえてくる二人の情事の気配に、私は幼い日の約束がすべて偽りだったことを悟った。私は家族ではなく、ただの所有物に過ぎなかったのだ。10年に及ぶ献身的な愛は、絶望の中で完全に灰へと帰した。彼の誕生日、新たな門出を祝う宴の裏で、私は黄金の鳥籠を抜け出す決意をする。用意されたプライベートジェットは、私を真の父親のもとへと運んでいく。それは、龍司にとって最大の宿敵である男だった。
夫の歪んだ二重生活 の小説カバー
8.9
夫・健斗との結婚生活は、すべて巧妙に仕組まれた偽りの演劇だった。五年前、死んだはずの義妹・杏奈の命日を弔うために訪れた軽井沢の別荘。そこで私が目撃したのは、死んだはずの杏奈と、私の両親、そして夫に生き写しの幼い子供が睦まじく笑い合う光景だった。家族の愛情を一身に受ける義妹の姿と、私を「騙しやすい女」と嘲笑う夫の冷酷な本性。実の両親さえも私を裏切り、彼らは真実の家庭を隠れて築いていたのだ。健斗は私をただの「都合のいい道具」として扱い、用済みとなった今、私を精神病院へ永久に監禁しようと画策していた。すべてを失い、逃亡の末に火を放った私は、燃え盛る絶望の中で一つの決断を下す。それは、夫が唯一恐れる最大の宿敵に助けを求めることだった。奈落の底に突き落とされた私は、奪われた人生を取り戻すため、危険な男の手を取り復讐へと踏み出す。
この夏、私は家族の命綱にはならない の小説カバー
8.9
記録的な猛暑が予想される夏、義姉の強引な提案で家族は避暑地へと向かう。異変を察した私は早期帰宅を促すが、義姉と母は聞く耳を持たず、私を罵倒するばかり。現地では理不尽なトラブルに巻き込まれ、支払いを押しつけられた。やがて磁場の乱れにより、避暑地は逃げ場のない灼熱地獄へと変貌する。空港は閉鎖され民泊に孤立する中、外出禁止令を無視して海へ向かった義姉が危機に陥る。その瞬間、兄は義姉を救うための「踏み台」として私を海へ突き落とした。熱湯のような海水にのまれ、命を落とした私。しかし、実の娘を冷酷に見捨てた家族への怒りと絶望の中で意識が途絶えたはずが、次に目を開けると、あの忌まわしい旅行の計画が始まった瞬間に戻っていた。家族の命綱として理不尽に搾取され、最期は生贄にされた前世。今度はもう、身勝手な彼らの盾になるつもりはない。凄惨な死の記憶を糧に、私は自分一人の命を守り抜くため、破滅へと突き進む家族との決別を決意する。運命を塗り替えるための、孤独で熾烈な戦いが幕を開ける。
籠の中の身重な鳥、冷酷な御曹司の甘い束縛 の小説カバー
9.5
秘書として、そして妻として二年間、三谷美月は冷徹な夫・鷹司彰のために尽くし続けてきた。しかし、彼が心に抱くのは初恋の女性・佐野佳世への想いだけであり、美月の献身が報われることはなかった。佳世の帰国を機に二人は離婚。その半年後、美月は予期せぬ妊娠に気づく。彼女は長年の片思いに終止符を打ち、お腹の子を守るために誰にも告げず遠くへ姿を消した。彰と佳世の幸福な知らせを耳にするたび、美月は静かに彼らの幸せを願っていた。ところが、平穏な日々は出産という人生の転機に一変する。佳世と再婚するはずだった彰が、突如として美月の産室の前に現れたのだ。彼は再び共に歩みたいと切実に訴えかける。美月は「この子はあなたとは無関係」と拒絶するが、彰は「たとえ誰の子であろうと、二度と離さない」と強引なまでの執着を見せる。一度は壊れたはずの絆が、赤ん坊の誕生をきっかけに歪んだ愛へと形を変え、美月を再び甘く冷酷な束縛の中へと引き戻していく。
今すぐ読む
共有