私の彼氏が「人」じゃなくなるまで、あと3日 の小説カバー

私の彼氏が「人」じゃなくなるまで、あと3日

8.4 / 10.0
運動を楽しんでいた最中、私は恋人から贈られた愛の証である玉のペンダントを不注意で壊してしまった。その瞬間、彼はこれまでに見たこともないほどの激しい怒りを見せ、我を忘れて豹変してしまう。その恐ろしい形相は、優しかった普段の彼とはまるで別人のようであった。結婚式をわずか三日後に控えたタイミングで起きた不可解な変貌に、私は強い不安を抱き、解決の糸口を求めて恋愛相談を専門とする配信者にオンラインで助けを求める。配信のチャット欄が「結婚すべき」という意見と「別れるべき」という意見で激しく割れ、混沌とした状況になる中、画面越しの配信者は険しい表情を浮かべて私にこう告げた。「今すぐそこから逃げなさい。あなたが持っているそれは、そもそも狐仙玉墜などという縁起物ではない。それどころか……」信じていた恋人の正体と、ペンダントに隠された恐ろしい真実が、幸せなはずの結婚式を目前にして暴かれようとしていた。私はこの絶望的な状況から逃げ延びることができるのだろうか。

私の彼氏が「人」じゃなくなるまで、あと3日 第1章

……まさか、この中に妖怪でも隠れているとでも言いたいのだろうか。

私は口の端を吊り上げ、軽く鼻で笑った。

この恋愛相談配信者の名前は玄月。すっと通った鼻筋に薄い唇、凛々しい眉と星のように鋭い瞳を持つ男だ。 二十歳そこそこの若さでありながら、その物言いは常に核心を突き、一切の無駄がない。

端正な顔立ちと、愛想のない仏頂面とのギャップが意外にもネットユーザーの心を掴み、彼の配信は常に一万人以上の視聴者を集めているという。 その人気は凄まじく、イケメン好きの親友までもが彼のファンになっていたほどだ。彼女が毎日飽きもせず語っていた「玄月様」が、まさかこの男だったとは。

恋愛相談を専門とする配信者が、ひょんなことから悪霊に取り憑かれた少女を救った一件で、ファンたちはようやく悟った。いつも不機嫌そうな顔をしていた玄月が、実は道家の弟子であったことに。

突拍子もないようで、どこか腑に落ちる設定。

イケメン、恋愛カウンセラー、そして道士。なんとも斬新な組み合わせは、

たちまち何万人もの新たなファンを惹きつけ、彼の配信は月間ランキングでトップ3に食い込むほどの熱狂ぶりを見せた。

親友によれば、最近の玄月様は「恋愛相談+四柱推命」という新企画を打ち出し、

その人気はさらに天井知らずになっているらしい。

そんなわけで、私がスマホを何気なくスワイプしているだけで、彼の配信に辿り着いたのも偶然ではなかったのだろう。

しかし、配信が始まった途端、私の翡翠のペンダントに問題があると指摘するなんて。

あまりに……無責任じゃないだろうか。

だが、コメント欄は私の抱いた疑念などお構いなしに、興奮した書き込みで溢れかえっていた。

【マジか!今回もまた、配信者様と鬼とのバトルを最前列で見られるってこと!? あああ、興奮してきた!】

【わかる、もう鳥肌立ってる!早く悪霊退治して!そういうの大好き!】

【なんでこの配信者って、いつも妖怪とか悪霊とか、そういう胡散臭い話にばっかり出くわすわけ?どうせヤラセでしょ!前の悪霊退治配信で味をしめて、ファンが数百万も増えたのにまだ足りないわけ!】

【↑同感。どう見てもヤラセ。ただの恋愛相談配信者が、いつの間にとんでもない方向に舵切ってるし。悪霊退治とか笑わせるな! 適当な視聴者捕まえて、あなたには霊が憑いてますって言ってるだけじゃないの?】

【でも、この前の配信で本当に女の子の命を救ったんだよ。私たち、みんなこの目で見たんだから!】

【ライブ配信なんて、特殊効果も画像加工もやりたい放題でしょ。私にはヤラセにしか見えないね!】

……

次々と流れる懐疑的なコメントを前にしても、玄月の表情は微動だにしない。

【信じるなら、まずはリンクから申し込みを】

視線を左下の黄色いカートに移すと、わずか一ヶ月で個人鑑定の料金が三倍に跳ね上がっていた。

インフルエンサーとは、かくも儲かる商売なのか。

もちろん、彼の言う妖怪だの悪霊だのという話を信じたわけではない。ただ、ちょうど気分が滅入っていたこともあり、彼の語る与太話で気晴らしでもしようと思ったのだ。一体どこまで話を盛るのか、見届けてやろうじゃないか。

料金を支払い、言われるがままに生年月日を伝えると、玄月は無表情のまま引き出しから亀の甲羅を取り出し、もう片方の手でしきりに指を折って何かを計算し始めた。

わずかな沈黙の後、彼の指の動きが止まる。

【四柱推命によれば、あなたは財を蓄える運命にあるが、結婚運には恵まれない。あなたの星に、縁談の相はない】

そもそも、私は神仏の類をあまり信じていない。ましてや、画面越しでは、どんな特殊効果やAI技術が使われているか分かったものではない。目に見えるものが真実とは限らないのだ。

彼の化けの皮を剥がしてやろうと、私はわざとらしく口元を覆って驚いてみせた。

【えっ!? でも、私、三日後には彼と結婚するんです。招待状ももう発送してしまいました】

何を隠そう、運動嫌いの私がジムで汗を流しているのも、そのためだった。

私の言葉を皮切りに、コメント欄が再び勢いよく流れ始める。

【あはは、ボロが出たな。前の悪霊退治も、仲間と組んで再生数を稼ぐためのヤラセだったんじゃないの!】

【↑支持する。あの配信の後から、こいつのチャンネルはうなぎ登りで大儲けしてる。仕組まれたヤラセに決まってる!】

【で、でも、前回のは全部見たけど、すごくリアルだった!偽物だなんて思えない!あの日、怖くて電気を消して眠れなかったんだから!私は配信者様を信じる】

【そうだよ!私も信じる。だって、あの悪霊は本物だったもん。AIの特殊効果じゃ、あんなの絶対に作れない】

玄月はコメント欄に一瞥をくれただけで、意にも介さず話を続けた。

【その狐のペンダントは、彼からの贈り物だろう?】

【ええ】

【あなたたちは付き合ってから今まで、一度もペットを飼ったことがないはずだ。 犬や猫の類を】

それは、確かに彼の言う通りだった。

私は再び頷く。

【私は犬も猫も大好きなんですけど、彼が好きじゃないみたいで。それで、飼ったことはありません】

付き合い始めたばかりの頃、一度だけ捨て猫を拾って帰ったことがある。 生後二ヶ月ほどの、痩せて小さな子猫だった。段ボール箱に入れてやると、安心したように丸くなった。

しかし、仕事から帰ってきた江臨は、その子猫を見つけるなり烈火のごとく怒り出し、「猫を取るか俺を取るか、どっちかにしろ」とまで言い放った。

その夜は、雨と雷が荒れ狂っていた。彼は、そんな嵐の中へ子猫を捨ててこいと私に迫ったのだ。

怯えているようでもあり、冷酷でもあるその姿は、私の知っている彼ではなかった。

後に江臨は、自分は重度の猫アレルギーで、接触すると命に関わるほどの症状が出ると説明した。

だからこそ、あれほど強く反応してしまったのだと。

世の中には動物アレルギーを持つ人も少なくない。私の彼氏が、たまたまその一人だったというだけのことだ。

玄月はさらに問いを重ねる。

【この数年、彼が寺や道観に足を踏み入れるのを見たことがないのではないか?】

私は、三度頷いた。

コメント欄には「怖い」という言葉が飛び交い始めたが、その一方で、あるユーザーが罵声を浴びせた。

【お前ら、本気で信じてるのかよ!騙されやすすぎだろ! ペットを飼わないのだって、単に好きじゃないだけかもしれないだろ。犬猫が万札じゃないんだから、全員が好きになる必要なんてねえよ。 それに、寺や道観に行かない奴が何だってんだ? 信仰が違うだけかもしれないし、 唯物論者って可能性もある。いくらでも説明がつくだろ! オカルトかぶれが……どいつもこいつも狂ってる!】

それに、別の誰かが反論する。

【だとしても、配信者様は二つとも当てたじゃないか】

【配信者様のプロフィールには道家の弟子って書いてあるし、前の悪霊退治配信のことも考えれば、これは本物だよ。信じられないなら、黙って見てな!】

先ほどの男は、さらに語気を強めた。

【この子のプロフィール動画を見ろよ。自宅で撮ったものばっかりで、犬猫に関する動画は一本もない。素人の俺だって、ペットを飼ってないことくらい一目で見抜けるぜ】

【それに、寺や道観に参拝しないのが何だってんだ。俺だってそういう場所は好きじゃない。 まさか、俺にも何か問題があるとでも言うのか?】

ほとんどの視聴者が、その意見に納得しかけていた。

玄月は泰然自若と構えている。対照的に、私の心は乱れ始めていた。

江臨がペットを好まないのは理解できる。だが、寺や道観に入らないことだけは、どうしても解せなかった。

江臨は、商売人だ。

会社にも自宅にも財神様を祀り、毎日朝晩、線香をあげて祈りを捧げている。

それは、彼が唯物論者でも無神論者でもないことの証左だ。

むしろ、彼は極めて信心深い。

会社の業績が悪化すれば、海外から高名な祈祷師を呼び寄せ、会社全体の運気を上げるための儀式を執り行うほどだ。

それほどまでに神仏を信じている男が、私と一緒に山に登り、寺や道観の前を通りかかるたびに、頑として一歩も足を踏み入れようとしない。

その矛盾が、私には不思議でならなかった。

あれは、ある年の夏だった。山登りの最中、突然、土砂降りの雨に見舞われた。

天から叩きつけられるような豪雨に、目も開けていられない。

誰もが前方に霞む道観を目指して必死に走り出す中、江臨だけが、来た道をゆっくりと引き返そうとしていた。

雨に濡れ続ければ風邪を引いてしまう。焦った私は彼の手を掴み、道観へと走り出した。

しかし、二歩も進まないうちに、その手を荒々しく振り払われた。彼の怒号が、叩きつける雨音に混じり、はっきりと聞き取れない。

ただ、行け、俺のことは構うな、とだけ言っているようだった。

私はその場で立ち尽くした。これほどの雨だ。道観で少し雨宿りするだけなのに、何故そこまで拒むのか。

私がいくら説得しても、彼はただ頑なに大雨の中に立ち尽くすばかりだった。

為す術もなく、

私も彼に従って、一歩、また一歩と、雨の中へと踏み出していった。

あの後、私たちは二人とも体調を崩し、半月もの入院を余儀なくされた。

それ以来、私の免疫力はすっかり落ちてしまい、些細なことで病気になるようになった。

私は長い間、そのことを彼に愚痴っていたが、彼はプレゼントをくれたり、優しく慰めてくれたりして、私も次第に怒りを収め、その件を追及することはなくなった。

玄月は、そんなことまで知っているというのか。だとしたら、彼はただ者ではない。

私の胸は、不安と期待で激しく脈打っていた。

【私の彼に、一体どんな問題があるんですか?】

玄月はゆっくりと瞼を上げると、射るような眼差しで私を捉えた。

【彼は、狐仙を飼っている】

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