獣王の花嫁は美しきΩの王子 の小説カバー

獣王の花嫁は美しきΩの王子

9.1 / 10.0
ネコ科の獣人たちが支配する軍事強国・サバニア王国の脅威にさらされているアルベニア王国。国家の存亡をかけた危機を乗り越えるため、王家は隣接するエクセリア王国との強固な同盟を模索し、その証として王女をエクセリア王のもとへ嫁がせるという政略結婚の計画を進めていた。しかし、当事者である王女はこの縁談を断固として拒絶し、事態は混迷を極める。国家間の約束を違えるわけにはいかない絶望的な状況のなか、身代わりとして白羽の矢が立ったのは、王女の兄であり、稀少な性質を持つオメガの王子であった。妹の身代わりに、そして愛する祖国を守るための盾として、王子は自らの運命を捧げる決意を固め、異国の地へと赴くことになる。本来の性別を隠し、王女に成り代わって獣王のもとへ嫁ぐことになった王子の運命は、激動の物語へと動き出す。政略と宿命が複雑に絡み合うなかで、種族や立場の垣根を超えた愛の形が試される。運命に翻弄される王子が、新たな環境でどのような絆を築き、過酷な状況を切り拓いていくのかを描いた、切なくも壮大なファンタジー・ロマンス。

獣王の花嫁は美しきΩの王子 第1章

獣人と人間が共存する世界。

ユークリット大陸はその昔、人間が治めるアルバニア王国とイヌ科獣人が治めるエクセリア王国の二国からなっていたが、エクセリアの使節団が他の大陸で見つけたネコ科獣人を生け捕り奴隷として王へ献上した。

それ以降、美しいネコ科獣人を奴隷として飼うことが上流貴族のステータスとなり、より強く美しいネコ科獣人を競って飼っていはじめた。

強いネコ科獣人が増えていくことで次第に力をつけていき、ついにはネコ科獣人の反乱によりアルべニアの領地のうち砂漠地域を奪われることになる。

そこにネコ科獣人によるサバニア王国が建国され、ユークリット大陸は3つの王国からなる大陸となった。

9年前

エクセリアのセレステン王が第3王子であるテオドールを伴い、アルべニアのルイ王の誕生日のお祝いにアルべニア城を訪問していた。

ルイ王は第1王子フレデリック、第2王子ヴァレリー、王女ブリジットの三人をテオドールに紹介するが、ブリジットは獣人を嫌っているため挨拶もそこそこにどこかへ行ってしまった。

さすがにフレデリックは長兄であるため礼儀をつくした挨拶をしてから自室へ戻って行った。

そんな二人の姿をルイ王はため息交じりに見送ったが、末の王子ヴァレリーは自分より6歳年上の16歳ながらすでに王者の風格を備えたテオドールに興味と好意を抱き、テオドールもヴァレリーと同じく獣人である自分にも物怖じしない美しい王子に興味をもった。

その姿に気をよくしたルイ王は

「ヴァレリー、テオドール王子に城内を案内してあげなさい」

「はい、お父様。こっちだよ」

そういって、満面の笑みのヴァレリーはテオドールの手を握って歩き出した。

急に手をとられたテオドールはすこし驚いたが、それ以上に鋭い爪と黒く光る毛に覆われた手を握るヴァレリーの白く美しい手に見惚れて心臓が破裂しそうなほど動悸がした。

全身が沸騰するほどであるが、オオカミ特有の黒い毛に覆われているおかげで顔が赤くなっているのを気づかれずに済んだ。

城内を歩きながらヴァレリーは見たことのないエクセリアの話に夢中になっていた。

本を読むのが好きなヴァレリーにとって、エクセリア湖に住むというウォータードラゴンや城の北にある島にすむドラゴン族、北の半島にはコボルトの村もあるという。

さらには、エクセリア湾にはマーマンや人魚などの海中の民がやってくるという話をきいて

ヴァレリーは目をキラキラさせた。

「エクセリアに行ってみたい」

「いつでも歓迎しますよ、その時はわたしが案内します」

「そうそう、エクセリア湾で養殖されている真珠は世界一の美しさと言われてます。是非それも見せてあげたい」

「真珠かぁ、お母様に合うだろうな」

きっとヴァレリーにも合いますよと言いたかったがそれは黙っていた。

楽しく話をしていると庭の中心にある温室に着いた

中は色とりどりのバラの花が咲き乱れていた。

「見せたいバラがあるんだ」

そういってテオドールの手を掴もうとしたときに

赤いバラに手が引っかかってしまった

「あっ」ヴァレリーは指を抑えた。

抑えている所を見ると白く形のいい指の先から真紅の雫が流れていた、反射的にヴァレリーの指を口に含む。

驚くヴァレリーにあわててあやまった。

一瞬驚いたが指先にのこるテオドールの温度に少し照れながらゆっくりと顔を横に振り

「このバラは嫌い、美しいけど棘があって王妃様のよう」

「僕が好きなのは母様が好きなアレッサというバラ」

そう言うとテオドールの手を取って歩き出す、

温室の中はむんと甘い香りが漂う。

ヴァレリーに手を引かれて温室の最も奥へ行くと、そこには薄いピンクに黄色が溶け込んだ上品で優しげなバラが咲いていた。

「このアレッサには棘がないんだ、この名前はアレトゥーサからきていて神話のアレトゥーサはアルテミスに使えた美しい人だったんだ、だけど恋や結婚に興味がなく、ある日狩の帰りにアルペイオスの河で水浴びをしていたら、アレトゥーサに一目ぼれしたのだけど、驚いたアレトゥーサは逃げ出したんだ。どこまでも追いかけてくるアルペイオスから逃げるためにアルテミスに助けを求めて純潔を守るために泉になったんだって」

このバラについて話すヴァレリーがとても幸せそうに見えた

「美しいバラだね」

「うん僕の母様もこのアレッサのようにやさしくて美しいんだ」

テオドールにはヴァレリーこそこのバラに似ていると思ったが

「お母様は?」と聞いてみた

「母様とはもう何年も会ってない」

そういうと、ふとヴァレリーの美しい顔に陰りが入る、

「申し訳ないことを聞いてしまった」そういってうなだれるテオドールに

「違うよ、母様はこの城のどこかにいるのだけど王が隠してしまったんだ。お母様は逃げ切ることができなかったんだ」

「そうかそれはさみしいね」

ヴァレリーはテオドールがその雄々しい姿とは反対に、とても繊細で優しい気持ちを持った人なんだと思うとますます、この王子が好きになった。

「ここにくるとこのアレッサを見て母様の事を思うことができるから大丈夫」

そう言いながらもテオドールの手を握っていた手に力が入っていた。

先ほどの第一王子と王女とは母が違うと聞いた、

ヴァレリーはここでさみしい思いをしているのだろうか

だとしたら、力になりたい。今日会ったばかりなのに、この小さくて美しい王子を守りたいという気持ちがいっぱいになった。

テオドール様

テオドール様どちらにいっらっしゃいますか?

どこかでテオドールを探す声が聞こえる。

「そろそろ戻らないといけない、案内をしてくれてありがとう。」

「また会える?」

「ああ、きっと会えるよ」

・・・・

・・

そう言って別れたのが9年前

あの頃僕は10才だった。

いつかテオドールに会えると本気で思っていたのに

12才の時、僕がオメガであることが分かったのだ。

発情したときに王子である僕が誰かわからないものと番になることがないように

城の西にある塔の住人となった。

僕は籠の中の鳥だ

それにくらべてテオドールは20歳になった年、エクセリア王の急死により王位を継承し、大国の王となったと聞く。

もう二度とテオドールに会うことは無い。

もうあの精悍な顔つきの優しい狼の王に会うことはかなわない

テオドールの元にはブリジット、僕の異母妹が嫁ぐことになったと知らされた。

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