灰燼より不死鳥:愛の再生 の小説カバー

灰燼より不死鳥:愛の再生

8.2 / 10.0
火災から命を救い、4年間の介護を捧げた婚約者に裏切られた主人公の復讐と再生を描く『灰燼より不死鳥:愛の再生』。恩を仇で返し、幼馴染と結託して自分を貶めた男を捨て、彼女は結婚式当日に新天地へと旅立つ決意を固める。本作は、自己犠牲の果てに絶望を味わった女性が、自らの尊厳を取り戻す現代のromance novelです。愛が負債へと変わった時、彼女が選ぶ衝撃の結末とは。過酷な運命に立ち向かう女性の成長を綴った、人気のweb novelを今すぐチェック。
「灰燼より不死鳥:愛の再生」のあらすじ
爆発寸前の車内から婚約者の隼人を救い出した代償に、私の背中には無惨な火傷の痕が刻まれた。彼が昏睡していた四年間、私は人生を捧げて献身的に支え続けたが、目覚めた彼が復帰会見で愛を誓ったのは、私ではなく幼馴染のエステルだった。以来、隼人の一族と彼女による執拗な虐待が始まる。パーティーでドレスを裂かれ、傷痕を晒し者にされても、隼人は助けるどころか冷淡な言葉を浴びせるだけだった。暴漢に襲われ傷ついた私を放置し、狂言だと罵りながら怯える彼女の元へ駆けつける彼。私との婚約など「どうでもいい負債」に過ぎないと語る本心を耳にし、私の犠牲と愛はすべて無意味だったと悟る。そして迎えた結婚式当日、エステルの嘘の体調不良を理由に、私はウェディングドレス姿のまま高速道路に置き去りにされた。遠ざかる車を一人で見送った私は、静かにタクシーを拾う。行き先は空港。もう二度と、この場所へ戻ることはない。灰の中から立ち上がる不死鳥のように、私は彼らへの未練を捨て、自分自身の人生を取り戻すために新たな一歩を踏み出す決意を固めた。
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灰燼より不死鳥:愛の再生 第1章

爆発する数秒前、大破した車から婚約者を引っ張り出した。

その火事で私の背中は見るも無惨な傷痕に覆われたけれど、彼の命は救えた。

彼が昏睡状態にあった四年間、私はすべてを投げ打って彼の介護に尽くした。

彼が目覚めて半年後、復帰会見のステージに彼は立っていた。

私に感謝を述べるはずだった。

なのに彼は、観客席で微笑む幼馴染のエステルに、壮大でロマンチックな愛の告白をしたのだ。

それから、彼の一族とエステルは私の人生を生き地獄に変えた。

パーティーで辱められ、ドレスを引き裂かれて傷痕を晒された。

エステルが雇ったチンピラに路地裏で暴行されたとき、隼人は「注目を集めたいだけの狂言だ」と私を罵った。

私が傷だらけで病院のベッドに横たわっている間、彼は「怖い」と怯えるエステルの元へ駆けつけた。

彼が彼女に愛を告げ、婚約者である私のことなど「どうでもいい」と語るのを、私は聞いてしまった。

私の犠牲も、痛みも、揺るぎない愛も――すべてが無意味だった。

彼にとって私は、憐れみから返済すべきただの「負債」でしかなかったのだ。

そして結婚式当日。

エステルが腹痛のふりをしたせいで、彼は私をリムジンから蹴り出し、ウェディングドレス姿のまま高速道路の路肩に置き去りにした。

彼を乗せた車が消えていくのを見送る。

それから私は、タクシーを拾った。

「空港まで。それと、飛ばしてください」

第1章

詩織(しおり)の手は、黒崎隼人(くろさきはやと)の腕に置かれていた。

振動する車の闇の中、小さく、でも確かな重みで。

「本当にやるの、隼人」

彼は前方を睨みつけていた。

特別仕様のマクラーレンのハンドルを握る指の関節が、白く浮き上がっている。

窓の外を、街の光がネオンと野心の残像となって流れ去っていく。

「やらなきゃならないんだ、詩織。誰もが見てる」

彼の声は張り詰めていた。

これはレースのスリルを楽しむためじゃない。

彼の王座を奪還するための戦いだった。

東京の金融界を牛耳る黒崎財閥の跡取り、黒崎隼人が、完全復活を証明しなければならないのだ。

エンジンが咆哮する。

その重低音は、絶対的なパワーを約束していた。

前方に、もう一台の車。流線形の黒いフェラーリが、非公式のスタートラインでアイドリングしている。

ハンドルを握っているのは、美咲エステル(みさきえすてる)。

彼女はエンジンを吹かし、あからさまな挑戦状を叩きつけてきた。

開け放たれた窓から、隼人へと向けられる視線。

それは、誘惑と嘲笑が入り混じった、悪魔の眼差しだった。

その一瞥が、引き金になった。

隼人はアクセルを床まで踏み込んだ。

マクラーレンが跳ねるように飛び出し、詩織の体はレザーシートに強く押し付けられる。

世界が、スピードと騒音のトンネルへと溶けていく。

彼は天才的なドライバーだった。無謀だが、卓越した技術を持っていた。

その時、エステルのフェラーリがハンドルを切った。

鋭く、意図的な動き。

それが、こちらの後輪を弾いた。

世界が、回る。

金属がアスファルトを削る、甲高い悲鳴。

私の乗っていた助手席側が、コンクリートの壁に叩きつけられた。

すべてを終わらせる、耳をつんざく轟音だった。

スローモーションのように、エンジンが炎上するのが見えた。

ぐしゃぐしゃになったボンネットから、炎が舌のように這い上がってくる。

隼人は気を失い、ハンドルに突っ伏していた。こめかみから血が流れている。

パニックは、冷たい使命感に変わった。

私自身の体は悲鳴を上げていたが、無視した。

彼のシートベルトを外し、次に自分のを外す。

火の勢いは増し、焼ける燃料の匂いが鼻をついた。

重たい彼を、運転席側から引きずり出す。

残骸から完全に離れた、その瞬間。

車が、爆発した。

衝撃波が二人を前方に吹き飛ばし、熱波が私の背中を洗い流す。

痛みは即座にやってきた。

肌を、そして私の未来を焼き尽くす、灼熱の痛み。

意識を失う直前、最後に心に浮かんだのは彼の名前だった。

隼人。

それからの四年間、その名前が私の世界のすべてだった。

彼は昏睡状態に陥り、無菌室の白い部屋で、美しく壊れた人形のように眠り続けた。

黒崎家は最高の医療環境を用意したが、昼も夜も彼のそばにいたのは詩織だった。

私はすべてを捨てた。

将来を嘱望されていたアートの道も、友人も、「成金の家」と黒崎家から蔑まれていた実家からの遺産も。

点滴の交換を覚え、見えない世界のことを何時間も彼に語りかけ、背中から首筋にかけて這う醜い火傷の痕への憐れみの視線を無視することを学んだ。

それは、私の犠牲の永久的な証だった。

そしてある日、彼は目覚めた。

それから半年後の今日。

彼は仕立ての良いスーツに身を包み、ステージの上に立っていた。

王国に帰還した王として。

彼の回復後初となる公式会見は、生中継で配信されていた。

詩織はステージの袖で、高鳴る心臓を押さえながら立っていた。

傷痕の大部分を隠すため、ハイネックのドレスを着ている。

これも、私のための瞬間のはずだった。

彼が命の恩人であり、結婚を約束した女性に、公式に感謝を述べる瞬間。

隼人は魅力的だった。

記者や投資家たちを、完全に掌握している。

「私の復帰は、ある一人の人物の揺るぎない支えなしには不可能でした」

彼の声は感情に満ち、会場に響き渡った。

彼は言葉を切り、聴衆を見渡した。

一瞬、詩織は彼が自分を探しているのだと思った。

だが、彼の視線は私を通り過ぎ、後方の誰かに注がれた。

美咲エステル。

まばゆい赤いドレスをまとい、完璧で、傷ひとつない美貌でそこに立っていた。

「ずっと昔、軽井沢の星空の下で交わした約束がありました。何があっても、必ず帰ってくるという約束を」

その言葉が、物理的な衝撃となって私を打ちのめした。

それは、私たちの思い出じゃない。

彼とエステルの思い出。

かつて彼が、初恋の物語として私に語ってくれた話だった。

理解した。

この壮大な公の告白は、私のためではない。

エステルのためのものだ。

吐き気がこみ上げてくる。

私の四年間は? 献身も、痛みも、犠牲も……私は、何だったの?

彼の借金返済のための、ただの看護師?

会場が拍手に包まれた。

彼の言葉を、献身的な婚約者へのロマンチックな賛辞だと勘違いしたのだ。

人々は私の方を向き、称賛に満ちた顔で微笑みかけてくる。

彼らの祝福が、まるで硫酸のように感じられた。

視界がぼやける。

ステージの眩しい光が、私の傷痕と、私の愚かさを照らし出し、嘲笑っているようだった。

ドレスの下の、ざらついた傷痕の感触が蘇る。

一方的な愛の、永久的な烙印。

四年間。

私は彼の手に触れ、励ましの言葉を囁き、彼の沈黙の存在が約束だと信じてきた。

黒崎家の主治医が見放したとき、私は自分の会社の株を売り払い、彼の実験的な治療費を工面した。

彼の父、剛三(ごうぞう)とも戦った。あの冷酷な男は、跡取りを救うための必要投資としてしか私を見ていなかった。

隼人が目覚めたとき、私への最初の言葉はこうだった。

「結婚しよう、詩織。君は命の恩人だ」

義務。

彼は私に借りがあるだけ。

愛してるなんて、一度も言われなかった。

その認識は、献身の霧を切り裂く、冷たく鋭い刃だった。

彼は私を愛したことなどなかった。

すべては感謝であり、返済義務のある借金だったのだ。

部屋が回り始める。

ここから出なければ。

私は踵を返し、よろめきながら出口に向かった。

隼人は私が去るのに気づいた。

彼はスピーチを終えると、戸惑ったように眉をひそめた。

廊下で壁にもたれて立つ私を見つける。

「詩織? 大丈夫か? 今、探しに行こうとしてたんだ」

彼を見た。

本当に、彼を見た。

そこにいたのは私が愛した男ではなく、見知らぬ他人だった。

男の体をした、感情的に盲目な子供。

「どうしてあんなことを言ったの? 軽井沢のこと」

私の声は、かろうじて聞き取れるほどの囁きだった。

彼は気まずそうに視線を逸らした。

「いや……つい口から出たんだ。エステルがいたから。なんだか……」

彼は最後まで言わなかった。

言う必要もなかった。

ちょうどその時、エステル本人が滑るようにやってきた。

その表情は、無垢な心配事を装った仮面だった。

「隼人、素敵なスピーチだったわ。それに詩織さん、あなた……疲れているのね。こんなこと、あなたには荷が重すぎたのよ」

隼人の注意は、完全にエステルへと移った。

彼の体は、物理的に私から背を向けた。

「大丈夫か、エステル?」

「私……わからないわ」

エステルは囁き、その目に涙を溜めた。

「運転手が……急にいなくなっちゃって。どうやって帰ればいいのか。それに、今夜はアパートがガス漏れで、泊まれないの」

あまりにも見え透いた嘘。

あまりにも透明な策略。

だが隼人は、それを完全に信じ込んだ。

「心配するな。俺が送る。帝国ホテルにスイートを取るよ」

彼は詩織の方を向き、その口調はぞんざいだった。

「詩織、お前は車で帰ってろ。こっちは俺がなんとかする」

彼は私の返事すら待たなかった。

エステルの肩に腕を回し、廊下の向こうへと彼女を導いていく。

詩織は、そこに一人、取り残された。

予想していた痛みは、来なかった。

その代わりに、奇妙に空っぽな静けさが訪れた。

解放感。

四年間、私がしがみついてきた希望は、ついに、慈悲深く、死んだのだ。

私は車を使わなかった。

冷たい夜気が火照った頬に心地よく、歩いて帰った。

アパートに着くと、ノートパソコンを開く。

指がキーボードの上を飛ぶように動き、「人道医療支援 アフリカ」と打ち込んだ。

国境なき医師団の申請フォームに、昔取った医大の資格と、長期介護の経験を記入していく。

一時間後、受信トレイにメールが届いた。

合格通知だった。

出発日は、三週間後。

私が、黒崎隼人と結婚するはずだった日。

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