マフィアの御曹司に心を打ち砕かれた の小説カバー

マフィアの御曹司に心を打ち砕かれた

8.0 / 10.0
二十二歳の誕生日、それは愛する彼との新しい人生が幕を開ける輝かしい節目になるはずだった。主人公は、彼が所属する黒澤組の新会社のために心血を注いでデザインしたロゴを手に、喜びを胸に抱いて彼のもとへと向かう。しかし、高級クラブの個室の外で彼女を待ち受けていたのは、あまりにも残酷な真実だった。静まり返った廊下で耳に飛び込んできたのは、彼が若頭に対し、彼女を自分から遠ざけるために偽りの婚約を演じていると淡々と語る声。その瞬間、手にしていた大切なロゴは指先からこぼれ落ち、柔らかな絨毯の上で力なく静止した。店内に流れる低音の音楽が、その小さな落失音を無慈悲にかき消していく。信じていた未来が、たった数秒の会話によって無惨に打ち砕かれた衝撃。最愛の人に裏切られ、利用されていたことを知った彼女の心からは、色が失われ、世界のあらゆる音さえも消え去ってしまう。マフィアの御曹司との甘く切ない関係が、冷酷な虚構へと変貌した瞬間を描く、絶望と裏切りの物語。

マフィアの御曹司に心を打ち砕かれた 第1章

私が二十二歳の誕生日に、そして私たちの人生が始まる証として贈った、黒澤組の新会社のためにデザインしたロゴ。

それが私の指から滑り落ちたのは、彼が私を追い払うために婚約の芝居を打つと、若頭に話しているのを聞いてしまった瞬間だった。

それは高級クラブの個室の外、ふかふかの絨毯の上に、ことり、と軽い音を立てて落ちた。

店内に低く響く音楽が、その小さな音をいとも簡単に飲み込んでいく。

私の世界から、すべての音が消えた。

第1章

水咲 熾苑 POV:

私が黒澤組の跡取りである「影」こと黒澤弾に恋をしたのは、十五歳の時だった。

私は、彼の父親が最も信頼する幹部、水咲正臣の娘。

この世界では、彼は私の「若」であり、私の運命そのものだった。

十六歳の時、黒澤組が主催するチャリティーパーティーで、私はその運命を確信した。

頭上で、重く巨大な照明機材が、軋む音を立てて外れたのだ。

弾は稲妻のように動いた。

高級なスーツに身を包んだ、圧倒的な力の塊。

彼は私の腕を鉄のような力で掴んで引き寄せた。

その直後、私が立っていた場所に、金属の塊が叩きつけられた。

彼は何も言わなかった。

ただ、その黒い瞳で私を見下ろし、品定めするように一瞥すると、震える私の手に銀色のジッポを押し付けた。

そこには黒澤組の代紋が刻まれていた。

声なき、所有の証。

私の守護者。

私はそのジッポを、私たちの未来を繋ぐ神聖な絆として、肌身離さず持ち歩いた。

シャンパンと愚かな勇気に満たされた十八歳の誕生日。

私はすべてを告白した。

彼にキスをした。

彼は退屈そうに、唇の端に微かな笑みを浮かべただけだった。

「二十二になって大学を卒業したらな」

彼の低い声が、私の中で響いた。

「まだお前が、その…忠誠心とやらを持ち続けているなら、俺たちの運命を結びつけることを考えてやってもいい」

それは、若からの命令だった。

私は彼の気まぐれな言葉を、神聖な誓いとして、私たちの家族を結びつけるための婚約の約束として受け取った。

私の人生のすべてを、その約束を中心に築き上げた。

彼が支配する帝国の中心に近い、東京の多摩美術大学に通った。

四年間、私は自分の技術を磨きながら、ただひたすら待ち続けた。

今夜は、私の二十二歳の誕生日。

すべての集大成。

私は彼の新しい表の会社のために、完璧なロゴをデザインした。

美しく、同時に威圧的な、洗練されたモダンなエンブレム。

それは紙の上に描かれた私の魂であり、私の献身の証。

私たちの家族の絆を固めるための贈り物だった。

今、彼の個室の外に立ち、私は真実を聞いてしまった。

「あいつは邪魔なんだよ、坂東」

弾の声には、隠しきれない苛立ちが滲んでいた。

「あの執拗な忠誠心は、今や足枷でしかない」

「では、若。どうなさいますか?」

若頭である坂東の声が尋ねる。

「一条麗奈は野心家だ。自分の役をきっちり演じるだろう。婚約を発表する。子供もだ。それで水咲のあの小娘も、諦めて永久に消えてくれるはずだ。あいつはこの世界には純粋すぎる。あいつのためでもあるんだ」

女の笑い声がした。

喉の奥で響く、自信に満ちた声。

一条麗奈。

外部の人間で、野心家の成り上がり。

「ご心配なく、弾さん。私が、真実味たっぷりに演じてさしあげますわ」

息が喉に詰まり、鋭い痛みが走った。

私の捧げものだったロゴは、足元で忘れ去られている。

ポケットの中の銀のジッポが、氷のように冷たく感じられた。

私は踵を返し、歩き出した。

走らなかった。

まるで他人事のように、自分の動きが現実感を失っている。

クラブの重い扉を押し開け、東京の冷たい雨の中に足を踏み出した。

雨はすぐにドレスを濡らしたが、寒さは感じなかった。

ハンドバッグの中で携帯が震えた。

弾から。

そして兄の玲央から。

私はそれを無視し、バッグの奥深くに押し込んだ。

彼は私の忠誠心を望んでいなかった。

私を切り捨てたがっていた。

ならば、そうしよう。

この絆は、私自身の手で断ち切ってやる。

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