禁断のシルク の小説カバー

禁断のシルク

8.4 / 10.0
袖を通すだけで、いとも容易く難関大学の首席を勝ち取れる……。そんな夢のような衣類が存在するとしたら、あなたはその誘惑に抗えるでしょうか。私の母は、人ならざる「蚕女」という存在です。彼女がその身から吐き出す特殊な糸で織り上げられた服には、どんなに学力に乏しい者であっても、一瞬にして最高峰の秀才へと変貌させる恐ろしい力が宿っています。その奇跡の恩恵を授かり続けた結果、かつては平凡だった私たちの村は、いつしか「首席村」という名で広く世に知れ渡るようになりました。村には合格を渇望する人々が溢れ、栄華を極めているように見えます。しかし、富と名声に酔いしれる者たちは、まだ誰もその代償に気づいていません。合格を手にした若者たちの瞳から、生気が失われ、次第に虚ろな深淵へと沈んでいっている事実に。禁断の糸が紡ぎ出すのは、輝かしい未来か、それとも逃れられない破滅か。村の繁栄の裏側に潜む、底知れぬ恐怖と謎が静かに進行していきます。

禁断のシルク 第1章

もし、着るだけで大学統一試験の首席になれる服があるとしたら、あなたはどうするだろうか?

私の母は蚕女。母が吐き出す糸で織られた服は、たとえ愚か者であっても、袖を通せば首席合格者へと変えてしまうのだ。

この奇跡のおかげで、私たちの村は近隣にその名を轟かせる『状元村』となった。だが、村の誰も気づいてはいない。優秀な成績を収めた子供たちの瞳から、次第に光が消えていくことに。

1.

私たちの村は深い山々に抱かれ、麓の町からたどり着くには、険しい山道を三時間は歩かなければならない。

教育環境には決して恵まれていないこの地から、ここ数年、立て続けに天才が生まれている。いつしか県は、この村を『状元村』と改名した。

そして今年、村長の息子が大学統一試験で県の理科首席に輝いた。テレビ局が取材に訪れたその時、私は地下室で母に食事を与えていた。

露に濡れた新鮮な桑の葉が山と積まれている。その傍らで、母は藁のベッドに横たわっていた。閉じた瞼、わずかに開いた唇からのぞく鋭い歯。一口、また一口と桑の葉を咀嚼するたびに、雪のように白いその贅肉が、まるで巨大な蚕のようにうごめいた。

階上から、記者の耳障りな追従の声が響いてくる。「いやはや、この村は本当に素晴らしいですね!前回の市首席は文系も理系もこの村からでしたし、今年はなんと県の理科首席ですか。まさに人傑地霊の地ですね!」

おだて上げられた村長は、待ってましたとばかりに自慢話を始めた。「ご存じないでしょうが、うちの天宝は幼い頃から神童でしてな。二歳で字を覚え、三歳で新聞を読み、五歳になる頃には琴棋書画のすべてを修めておりました。県首席というのも、あれの実力からすればまだまだ。もう一度受けさせれば、全国の理科首席間違いなしですな」

私は隣で鼻をほじっている愚か者に目をやり、思わずため息を漏らした。(あんたのお爺さん、よく言うよ)

彼は私が何を考えているのか知る由もなく、ただへらへらと笑いかけてくる。

村長の孫である天宝が、生まれながらの愚か者であることは村の誰もが知っている。三歳になっても歩けず、六歳でようやく言葉を覚え、去年になってやっと一人で食事ができるようになったばかりなのだ。

記者が不思議そうに尋ねた。「では、なぜもっと早く天宝君を都会の学校へ? 教育資源はこちらよりずっと豊富でしょうに」

村長がわざとらしく咳払いを二度すると、父がすかさず涙声で答えた。「我々は貧しいですから。子供は物心がつけば家の手伝いです。勉強する時間など、とても……」

記者はさらに食い下がる。「二、三年前、道路を舗装するという話があったではありませんか。 コンクリートの道ができれば、子供たちも外の学校に通えますし、村人の生活も便利になるはず。なぜ、計画は進んでいないのですか?」

その理由は知っている。数年前、村に道を通す計画が持ち上がり、県からの補助金も決まっていた。だが、そのことで父と村長が大喧嘩をしたのだ。

普段は村長に恭順な父が、その日に限っては鬼のような形相で村長の襟首を掴み、吐き捨てるように言った。「もし道を舗装し、この秘密が外に漏れたらどうなるか。あんたの孫の天宝は、二年後の試験どころじゃなくなるんだぞ」

すべては、母の存在を隠し通すためだ。

私の母は、この村で最も特別な存在――村の『蚕女』なのだ。

物心ついた頃から、母の住処は地下室だった。蚕のようにただ横たわり、毎日新鮮な桑の葉を喰らい、そして春になると、特別な絹糸を産み出すのだ。父はその糸で一着の服を仕立て、売りさばく。

その服は、袖を通した人間を、超人的な頭脳の持ち主へと変貌させる。

しかも、母が産み出す服の効能は年々増しており、今年のそれは、愚か者だった天宝を省の首席にまで押し上げたのだ。

記者の執拗な質問に、父は少し間を置いてから答えた。「この村の子供たちは、苦労に耐えることを美徳として育ちます。道を舗装するなど、子供たちを甘やかすだけですからな」

苦し紛れの言い訳だったが、記者はそれ以上追及せず、天宝の居場所について尋ねた。 「ところで、首席様は本日ご在宅ではないのですか?」

村長は、天宝は隣村の祖父母を訪ねている、と口ごもり、記者を追い返そうとした。

私は思わず吹き出してしまった。彼らは息をするように嘘をつく。この愚か者に祖父母などいない。いたのは気の狂った母親だけで、それも数年前に父親に殴り殺され、その父親もまた、崖から落ちて死んだのだから。

それでも記者は諦めきれないようだった。「去年、市の首席にお会いできなかったんですよ。今年は県の首席です。今回こそ、是が非でもお目にかかりたい!」

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