神は僕と彼女の琴線に触れる の小説カバー

神は僕と彼女の琴線に触れる

8.1 / 10.0
上司との衝突で仕事に絶望した去来川唯生は、ある日、半透明の体とオーロラ色の羽を持つ不思議な少女と出会う。現実の世界に現れた非日常的な存在が、彼の運命を大きく変えていく。本作は現代を舞台にした切なくも美しいfantasyであり、孤独な魂が交錯する珠玉のromanceです。謎の少女の正体と、彼が選ぶ未来とは。人気のwebnovelで、新しいfiction fantasy romance booksの世界を体験してください。
「神は僕と彼女の琴線に触れる」のあらすじ
社会の荒波に揉まれ、日々の業務に追われる会社員の去来川唯生。ある日、彼は職場で上司との深刻な意見の対立に直面してしまう。仕事上の衝突から生じた大きな挫折感に打ちひしがれ、将来への希望を見失いかけた唯生は、深い絶望の淵に立たされていた。しかし、そんな彼の人生が大きく動き出す出来事が訪れる。心身ともに疲れ果てた唯生の前に、現実のものとは思えないほど幻想的で不思議な雰囲気を纏った一人の少女が姿を現したのだ。その少女の身体は向こう側が透けて見えるほど半透明で、彼女の背中には、夜空を彩るオーロラのように美しく輝く、神秘的な色彩を放つ羽が備わっていた。この奇跡のような出会いが、絶望の中にいた唯生の運命をどのように変えていくのか。現代を舞台に、孤独な青年と人ならざる美しき存在が織りなす、幻想的で心揺さぶる物語が幕を開ける。神聖な光を背負った少女との邂逅は、唯生が失いかけていた心の琴線に触れ、止まっていた彼の時間を再び動かし始めることになる。
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神は僕と彼女の琴線に触れる 第1章

遮るものがない一面のガラス窓。

透き通った空、日差しが窓に降り注ぎ、はっきりと浮かぶ青々と美しい…富士山。

ここは、富士山世界遺産センター。窓ガラス越しにシャッターを切る。

すると、光の加減でうっすらとスマホを持つ僕が映り込んだ。

 僕の名前は去来川唯生(さきかわゆいき)。

今日は、会社の社員旅行。コロナ渦もあり近場で日帰り。

雄大な富士山を臨む河口湖で景色を楽しみ、鳴沢氷穴では、ひんやりとした洞窟内に無数にできた氷柱が並ぶ神秘的な自然の世界を堪能した。感染者数は落ち着いてきたが、コロナが完全に消えていないこの時世もあり、皆、マスクをし、例年より静かであった。それでもそれなりに社員旅行を満喫していた。昼飯は山梨名物ほうとうを食べた。

そして、最後に立ち寄ったのが、富士山世界遺産センターだった。

 旅行から帰ると、写真をいくつかピックした。河口湖と富士の圧巻の景色や魅惑的に輝く氷穴の氷柱、それにお昼のほうとう。ふと世界遺産センターで写した写真に手が止まった。若干、僕がガラス窓に映っている。

僕は、以前から趣味でSNSに写真をアップしていた。写真映えするスポットを積極的に探して写真を撮ってるわけではないが、なにとなく日常で気に入ったものを写真に写し投稿していた。僕のモットーは人が映り込んでプライバシーや肖像権の侵害にならないこと。必ず人が写らないように気を付けてシャッターを切っていた。

(これはやめようか。)自分の顔だし、顔自体もスマホで隠れていたけど、なんとも人間臭さが残る。そう思い僕が今までアップしてきた写真を改めて見直した。富士山や四季折々の花々、夕焼けや朝焼け、雨露のしたたる景色や歴史文化財の写真、美味しかった食べ物たちが並ぶ。今度は逆に、人が全く写っていない写真の数々がなんだかやけに不自然に感じた。SNSの名前も、“四季折々(しきせつせつ)”という個人名が想像つかない名前で、このSNSの主はどのような容相の何者なのか分からない。まるで小型のドローンカメラが自動的に写真を拾ってきたようで人の息を感じる要素が少し足りなく感じた。

(たまには、顔が隠れた姿がほんの少し写っててもいいのかな。)だけども、やっぱりなんだか不釣り合いだった。なるべく心が動いたとっておきの景色を収めてきたのに、こんな不格好で何の絵にもならないような男が、またこんな安価なスマホを掲げてるところなんて見たら、今までの写真を汚してしまう。それは一目瞭然なのに、もう少しだけこのSNSの写真に息を吹き込みたい気がし、揺らいでいた。

 僕はスマホに内蔵されている過去の写真をくるくるとスクロールして眺めていた。SNSに投稿していない写真がたくさん撮りためられていた。ふと、一枚の写真で指が止まる。

車の窓越しから撮影したひまわり畑の写真…。

(一昨年の夏、か…。)

脳裏に満面の笑みで微笑む“彼女”の顔が浮かぶ。否、付き合ってはいない。彼女は、一昨年の新年に催された同窓会で、久々に会った元クラスメートの八弥子(ややこ)。

同窓会の日、宴会がはじまってから皆大分飲み食いし、にぎやかになった頃に、隅の方で親友の和也と二人だけで喧騒をさけるように静かに語らっていた僕の隣の席に八弥子はやってきたのだ。突如、僕の手前のテーブルにカランと空のグラス置き、

「一杯もらえる?」

と、八弥子が首を傾け僕の目を見つめて言った。

「あ、はい。」

僕は、まるで接客用AIロボットにでもなったかのように、自動で静かにグラスにビールを注いだ。

「ひさしぶりーっ。もう、愛想ないなぁ。」

彼女はえくぼを凹ませて笑う。下から僕を更に深く見つめた時、少しなで肩からずれ込んだ洋服の首元を、を片手で直した。いくらか飲み食いした唇は、つやっと煌き僕の心を揺らした。

 「ねぇ、ここ行ったことある?」

 八弥子はそう言うと、僕の腕に手を回して僕を近づけそしてスマホと画面を見せた。たっぷりの柔らかなクリームの上に、ルビーのような赤色の苺がまんべんなく飾られたふわふわのパンケーキ。

 「この間、友達と行ったらもうお口がとろけて、ふわとろ!写真もインスタ映えするよね?」

 そしてさらに僕に身体を密着させた。ふわりと八弥子の身体の柔らかさが僕の腕に伝わる。

八弥子は新緑と真っ青な空の景色を見せた。

 「ここのカフェからこんな素敵な景色が眺められるの。」

 「へぇ、そうなんだ。綺麗だね。」

 「でしょ?どう?二人で行かない?」

 「二人?和也もいかないかな?」

 僕は、ふと先ほどまで談話してた和也が気にかかり振り返ると和也はそこにはいなかった。あちこち周囲を見回すと離れた席で別のクラスメートとお酒を飲んでいた。和也は、ふと僕の視線に気づき、にやりと微笑んでまた隣にいたクラスメートと話をし始めた。

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章
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