四十九冊の本、ただ一つの清算 の小説カバー

四十九冊の本、ただ一つの清算

9.3 / 10.0
夫の彰人が不倫を繰り返すたび、私の本棚には希少な古書が増えていく。四十九回の裏切りと高価な謝罪。そんな歪な夫婦関係は、亡き母への冒涜を機に終わりを告げる。復讐を誓った選挙プランナーの妻は、自らのスキルを駆使して冷徹な計画を開始する。本作は、現代を舞台にした切ない愛憎が渦巻くromanceであり、嘘に塗り固められた関係を暴く重厚なmystery story。五十冊目の本は謝罪ではなく、彼の破滅を記す最後の声明となる。実力派が描く、手に汗握る人気のmodern novelを今すぐチェック。
「四十九冊の本、ただ一つの清算」のあらすじ
夫・彰人が不貞を働くたび、私の本棚にはその代償として希少な古書が増えていく。四十九回の裏切りと、沈黙を買うための四十九冊の謝罪。そんな歪な均衡は、彼のあまりに無慈悲な嘘によって崩壊した。彰人は亡き父との約束を反故にし、高校時代の恋人・樹里にマンションを買い与えるため、父の授賞式を欠席したのだ。さらに彼は、私の母の追悼庭園を樹里の愛猫の墓で汚すことを許し、あろうことか私に「彼女への思いやりを持て」と言い放つ。私の流産という深い悲しみさえ不倫相手に漏らしていた彼に、もはや慈悲の心など残っていない。母の記憶と自らの尊厳を蹂躙された私は、彼と共に築き上げた偽りの日々をすべて解体することを決意する。私は数々のキャリアを葬ってきた選挙プランナーだ。眠る夫の端末に盗聴器を仕掛け、反撃の準備を整える。次に本棚へ並ぶのは、彼からの謝罪の品ではない。私による冷徹な清算の記録であり、彼への最後通牒となるのだ。
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四十九冊の本、ただ一つの清算 第1章

私の夫、彰人にはあるパターンがあった。

彼が浮気し、私がそれに気づくと、私の本棚には希少な古書が一冊増える。

四十九回の裏切りと、四十九回の高価な謝罪の品。

それは取引だった。美しい物と引き換えに、私は沈黙を守る。

だが、四十九回目が限界だった。

彼は、死にゆく父の手を握って交わした約束を破り、父の授賞式をすっぽかした。

高校時代の恋人、樹里のためにマンションを買うためだった。

その嘘はあまりにもあっけらかんとしていて、不倫そのものよりも私の心を粉々に砕いた。

そして彼は、彼女を私の母の追悼庭園に連れて行った。

母のベンチの隣に、彼女が飼っていた死んだ猫の記念碑を建てようとするのを、彼はただそばに立って見ていた。

私が二人を問い詰めたとき、彼は臆面もなく私に思いやりを求めてきた。

「少しは思いやりを持とう」と彼は言った。

母の記憶を冒涜する女への思いやり。

私が経験した流産という、神聖な悲しみを、汚らわしい秘密のように彼が漏らした女への思いやり。

その時、私は悟った。

これは単に心が傷ついたという話ではない。

これは、私が彼と共に築き上げた嘘を、解体する物語なのだと。

その夜、彼が眠っている間に、私は彼のスマートフォンに盗聴アプリを仕込んだ。

私は選挙プランナーだ。これより少ない情報で、いくつものキャリアを潰してきた。

五十冊目の本は、彼の謝罪にはならない。

私の、最後の声明になるのだ。

第1章

家に帰って、私が最初にしたことは、グラスにたっぷりとワインを注ぐことだった。

リビングを通り過ぎ、ダイニングテーブルに山積みになった選挙活動の資料には目もくれず、まっすぐ書斎に向かった。

ガラスキャビネットの鍵を開け、空っぽの棚にその本を慎重に置いた。

『グレート・ギャツビー』の初版本。

美しく、希少で、馬鹿みたいに高価な本。

彰人が私にくれた、四十九冊目の本だった。

四十九回の裏切りに対する、四十九回の謝罪。

私がキャビネットを閉めようとしたちょうどその時、彼が入ってきた。

「杏奈、帰ってたんだ」

彼の声は滑らかで魅力的。有権者の票を勝ち取る時と同じ声だ。

彼は私の後ろに回り、腰に腕を巻きつけてきた。

私は体をこわばらせた。彼の感触は、嘘そのもののように感じられた。

「あなた、来なかったわね」

私は感情のない声で言った。

私が話しているのは、父の生涯功労賞の授賞式のことだ。

彰人が「何があっても絶対に行く」と誓った、あの授賞式。

彼は父の手を握り、その目を見て約束したのだ。

父は病気だった。

あの約束は、すべてを意味していた。

「わかってる、ハニー。本当にすまなかった」

彰人は私の肩に顎を乗せて言った。

「直前に献金者の会合が入ってしまって。本当に緊急だったんだ。わかるだろ?」

私には、よくわかっていた。

一時間前、不動産エージェントの友人から電話があったのだ。

彼女は都心の高級マンションの契約をまとめたばかりだった。

買い手は、永田彰人。現金一括払い。

名義は、高橋樹里。

高橋樹里。

彼の高校時代の恋人。

私たちの結婚生活から決して消えることのなかった亡霊。

その嘘はあまりにもあっけらかんとしていて、彼にとっては簡単なことだった。

それが、不倫そのものよりも私を打ちのめした。

彼は、別の女との愛の巣を買うために、死にゆく私の父を待たせたのだ。

何年もの間、これが彼のパターンだった。

彼が浮気し、私が気づくと、希少な古書が現れる。

私が受け入れることを期待された、静かで高価な謝罪。

それは取引だった。美しい物と引き換えに、私の沈黙。

私は、五十冊目の本が最後になると決めていた。

私たちの終わり。

しかし、彼の嘘の重圧に押しつぶされそうになりながらそこに立っていると、もう待てないと思った。

父を傷つけたこの裏切りが、限界点だった。

「美しい本ね」

彼は私の首筋に温かい息を吹きかけながら囁いた。

いつものように、贈り物がすべてを解決したと彼は思っている。

「ええ」

私は彼の方を向き、無理に微笑んで言った。

「本当に」

証拠が必要だった。

すべてを焼き尽くす前に、醜い真実のすべてをこの目で見なければならなかった。

その夜遅く、彼がシャワーを浴びている間に、私は彼のスマートフォンを手に取った。

手は震えていたが、頭は冴えわたっていた。

私は選挙プランナーだ。これより少ない情報で、いくつものキャリアを潰してきた。

簡単な盗聴アプリをインストールすることなど、朝飯前だった。

二分もかからなかった。

シャワーの水が止まるのと同時に、私はスマートフォンをナイトスタンドに戻した。

彼はバスルームから出てきた。腰にタオルを巻き、完璧な候補者の笑みを浮かべて。

「君と、君のお父さんには必ず埋め合わせをするよ。約束する」

彼はそう言った。

彼はキスをしようと身を乗り出したが、私はわずかに顔をそむけた。

彼の唇は私の頬に触れた。

「ただ疲れているだけよ」

私は言った。

彼は簡単にそれを受け入れた。

自己陶酔に浸る彼は、私の瞳の冷たさに気づくこともない。

一時間後、彼が隣で静かにいびきをかいていると、ナイトスタンドのスマートフォンが震えた。

メッセージの通知が画面を照らす。

私のスマートフォンでは、アプリが即座にそれをミラーリングした。

樹里:あなたのこと考えてる。新しい私たちの場所で早くお祝いしたいな。

私は眠っている彼を見つめた。

この、私が人生を共に築いてきた男を。この、見知らぬ他人を。

私は彼女の公開されているインスタグラムのプロフィールを開いた。

二時間前に新しい投稿があった。

大理石のカウンタートップの上に置かれた、大きな安っぽいハート型のキーホルダーがついた鍵の写真。

キャプションにはこう書かれていた。

『新しい始まり。彼は私の心の鍵を知っている』

彰人はその投稿に「いいね」をしていた。

赤いハートの絵文字一つでコメントまでしている。

彼は自身の選挙キャンペーンページに載っている、完璧な政治家夫婦として微笑む私たちの何十枚もの写真をスクロールして通り過ぎ、愛人のために買ったマンションの鍵の写真に「いいね」を押したのだ。

すると、樹里からまたメッセージが届いた。

樹里:明日は?同じ時間で?

彰人のスマートフォンが再び震えた。

彼は寝返りを打ったが、起きることはなかった。

私は息をのんだ。

私の画面に表示された返信は、彼が眠る前に設定したに違いない、予約送信メッセージだった。

彰人:待ちきれない。杏奈には予算会議だと言っておく。

嘘はすでに準備されていた。

いとも簡単に。

私は暗闇の中で横たわっていた。

スマートフォンの画面が、私の顔を青白く照らす。

頭の中の戦略家はすでに動き出し、次の一手を計画していた。

これはもはや、単に心が傷ついたという話ではない。

これは、嘘を解体する物語。

私の嘘。私が彼と共に築き上げた人生を。

五十冊目の本は、贈り物にはならない。

私の、最後の声明になるのだ。

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四十九冊の本、ただ一つの清算 目次一覧

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