六十六回キャンセルされた花嫁 の小説カバー

六十六回キャンセルされた花嫁

8.7 / 10.0
今日、私の結婚式は通算六十六回目のキャンセルという最悪の節目を迎えた。原因はいつも同じ。誓いのキスの直前、幼馴染の千結が嘘のアレルギー発作で倒れると、婚約者の直哉は私を祭壇に置き去りにして彼女のもとへ駆けつけたのだ。直哉は私との約束のために克服したはずの高所恐怖症を、実は裏で千結と観覧車に乗って克服しており、私に肌身離さず着けるよう強いたペアネックレスさえ彼女に与えていた。私は外科医になる夢を諦め、胃に穴が開くほど彼に尽くしてきたが、彼の心に私の居場所など最初からなかったのだ。裏切りを知った私は、震える手で六十七回目の式の予約を自ら取り消した。「さようなら、直哉。今度は私があなたを捨てる番よ」私は未練の象徴であるウェディングドレスをゴミ箱に叩きつけ、かつて志した医療の道へ戻ることを決意する。愛に溺れた過去を断ち切り、戦火が渦巻く国際医療援助の最前線へと私は旅立った。

六十六回キャンセルされた花嫁 第1章

私の結婚式は, 今日で六十六回目のキャンセルを迎えた.

そして今回も, 原因はあの女だった.

誓いのキスの直前, 千結が嘘のアレルギー発作で倒れると, 婚約者の直哉は迷わず私を祭壇に置き去りにした.

「アレルギーは命に関わるんだ! 」

そう怒鳴って去った彼は, 私のために克服したはずの「高所恐怖症」を, 実は千結との観覧車デートでとっくに克服していたのだ.

しかも, 私に「二度と外さない」と誓わせたペアの鍵のネックレスは, いつの間にか千結の首元で揺れていた.

私は彼のために外科医の夢を捨て, 胃に穴が開くほど尽くしてきたのに, 彼の心には最初から私なんていなかった.

私は震える手で, 六十七回目の結婚式の予約を取り消した.

「さようなら, 直哉. 今度は私があなたを捨てる番よ」

私はウェディングドレスをゴミ箱に捨て, 戦火の舞う国際医療援助の最前線へと旅立った.

第1章

西村佳代 視点:

私の結婚式は, 六十六回目のキャンセルを迎えた. そして, 今回もあの女のせいだった.

私は白いウェディングドレスを着て, 教会の祭壇の前に立っていた. 透き通るようなベールが顔を覆い, 心臓は期待と不安で激しく脈打っていた. 直哉は, きっと来てくれる. そう信じていた.

教会には, 私たちの結婚を祝うために遠くから来てくれた友人たちがいた. 両親も, 心配そうな顔で私を見守っている. 彼らの前で, また失望させるわけにはいかない. 私の胃はキリキリと痛み, 息をするのも苦しかった. これはストレス性の胃潰瘍だ. もう, 何年も患っている.

祭壇の横に立つ直哉の姿が見えた. 彼はタキシードを完璧に着こなし, 教会のステンドグラスの光を浴びて, まるで絵画のようだった. 彼の横顔はどこか緊張しているように見えたが, その視線は私の友人たちではなく, その隅にいる千結に向けられていた. 千結は, 薄い水色のドレスを着て, まるで場違いな妖精のように見える.

直哉は千結と親密そうに話していた. 千結は彼に何か耳打ちし, 直哉は小さく頷いた. 私の心臓が, 嫌な予感を察して重くなる. 直哉のその優しい表情は, かつて私だけに向けてくれていたものだったのに. 私は祈るような気持ちで, ただ時間が過ぎるのを待った. このまま, 何事もなく式が終わってほしい.

その瞬間, 千結が突然, 顔を真っ青にしてその場に倒れ込んだ.

私は息をのんだ. 教会全体がざわめきに包まれる. 千結の隣にいた直哉は, 一瞬にして表情を凍らせた. 千結は苦しそうに喉を押さえ, か細い声で直哉の手を掴んだ.

「ふ, 藤田さん…助けて…」

千結の声はか細く, まるで今にも消えそうだった. 直哉は彼女の腕を掴み, その目が心配そうに見つめる.

「どうしたんだ, 千結! ? 」

直哉の声は焦っていた. 千結はぜいぜいと息をしながら, 震える声で訴えた.

「た, 多分…アレルギー…私, キノコ類, ダメなのに…」

直哉の視線が, 瞬時に私へと向けられた. その目は, 怒りに燃えている. 私はその視線に凍りついた. 彼は, 私を責めている. 私が, 千結のアレルギー源であるキノコを料理に使ったとでも言うのか?

しかし, 私は今日の食事にキノコなど一切使っていない. 完璧なメニューを, 千結のアレルギーがあることを考慮して組んだはずだ. 私は何も言えず, 千結の演技のような苦しさに呆然としていた.

直哉は千結を抱き上げた. まるで, 壊れ物を扱うかのように. その姿は, 私を抱きしめた時の何倍も優しそうに見えた.

「大丈夫だ, 千結. 私がついている. すぐに病院に行くぞ」

直哉は, 私の目を全く見ることなく, 千結を抱えて教会の裏口へと向かった.

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