彼の望まれない番、彼女の禁断の魔法 の小説カバー

彼の望まれない番、彼女の禁断の魔法

8.4 / 10.0
大和の番として生きてきた主人公は、崩落事故の最中に愛人を守る彼から突き飛ばされ、狼としての力と絆を失う。絶望の中で告げられた離縁の儀により命を落とすが、その体には彼の跡継ぎが宿っていた。本作は『彼の望まれない番、彼女の禁断の魔法』というタイトルで贈る、裏切りと再生を描いたWerewolf Stories。過酷な運命に立ち向かう主人公の選択が、群れの未来を揺るがしていく。切ない愛と復讐が交錯するファンタジー要素満載のromance novel。話題のweb novelを今すぐチェック。
「彼の望まれない番、彼女の禁断の魔法」のあらすじ
狼族の頭領である夫・大和の「番」として五年の月日を過ごした私。しかし、彼の心は常に別の女、玲奈に向けられていた。そんな仮面夫婦の終焉は、華やかなパーティーの最中に突如として訪れる。天井から巨大なシャンデリアが落下したその瞬間、大和が選んだのは私を救うことではなく、玲奈を身を挺して守り、私を破片が降り注ぐ危険な場所へと突き飛ばすことだった。一命を取り留めたものの、私の心身と内なる狼との絆は修復不可能なほどに傷ついてしまう。追い打ちをかけるように、見舞いに訪れた大和は後悔の念も見せず、神聖な番の契りを断ち切る「離縁の儀」を冷酷に宣告した。魂を引き裂く激痛に私の心臓は停止し、死の淵へと追いやられる。しかし、静止したモニターを前に、駆けつけた医師の絶叫が響き渡った。大和が冷酷に切り捨てた私の体には、彼との間に宿した新たな命が息づいていたのだ。あまりにも残酷な裏切りの果てに、隠されていた真実が暴かれる。
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彼の望まれない番、彼女の禁断の魔法 第1章

五年もの間、私は「頭領の番」だった。けれど夫である大和がその愛情を注いだのは、ただ一人の女だけ。

盛大な会のパーティーで、私たちの脆い見せかけの夫婦関係は崩れ落ちた。巨大なクリスタルのシャンデリアが天井から引きちぎれ、私たち三人の頭上へと落下してきたのだ。

恐怖に凍りつく一瞬、大和は選択をした。

彼は私を乱暴に突き飛ばした。安全な場所へではない。砕け散る破片が降り注ぐ、その真っ只中へ。彼は自らの体を盾にした。けれどそれは、愛人である玲奈だけを守るためのものだった。

医務室で目覚めた私の体はボロボロで、内なる狼との繋がりは一生癒えないほどの傷を負っていた。ようやく彼が見舞いに来た時、その顔に後悔の色はなかった。彼はベッドに横たわる私を見下ろし、究極の裏切りを口にした。神聖な絆を無慈悲に引き裂く、「離縁の儀」を執り行ったのだ。

魂が引き裂かれるほどの苦痛に、私の心臓は止まった。

心電図のモニターが一本の直線を描く中、会の医師が血相を変えて飛び込んできた。彼は命のない私と、大和の冷酷な顔を交互に見て、恐怖に目を見開いた。

「なんてことをしたんですか!」彼は絶叫した。「月女神様にかけて…!彼女は、あなたの跡継ぎを身籠っているんですよ!」

第1章

ローズマリーと、じっくり火を通した骨付きラム肉の香り。私たちの小さな家を暖かな空気で満たすはずだったその匂いは、私が神聖なものだと信じていた五年間の絆の証となるはずだった。

なのに、部屋の空気は薄く、冷え切っている。どんな香りも、待つことの沈黙に飲み込まれてしまった。

私はシンプルなリネンのワンピースの皺を、もう十回も指で伸ばした。肌に触れる柔らかく着慣れた生地は、そのすぐ下で波打つ神経質な昂ぶりとは対照的だ。

テーブルの真ん中に置かれた細い花瓶の一輪の白い薔薇を整える指が、微かに震える。完璧な、ただ一輪の花。まるで今の私みたい。

*彼なら、これを見てくれるはず。*

私は自分に言い聞かせた。それはもう何度も繰り返してきた、絶望的な祈り。

*この努力を、この愛を見て、きっと昔を思い出してくれる。*

でも、この一年で疲れ果て、賢くなってしまった私の一部は、そんなことはないと知っていた。それは愚かな希望。私が抱きしめようとし続けている、ただの幻。

ホールの大きな古時計が九時を、そして十時を告げた。ラム肉は冷め、グレービーソースは固まっていく。灯した一本の蝋燭の炎が揺らめき、まるで私の孤独そのものが亡霊になったかのような、長い影を踊らせた。

いつもは心の奥で丸まって安らぎを与えてくれる私の狼が、落ち着きなくクンクンと鳴いている。私の苦痛を感じ取っているのだ。彼女も私と同じくらい、番である彼の不在を痛切に感じていた。

ようやく玄関のドアが、十一時半に開いた。その音はあまりに唐突で、私が守ってきた静かな夜を乱暴に壊すようだった。

翠明会の頭領であり、私の番である大和が中へ入ってくる。その瞬間、私がしがみついていた脆い希望は、ガラス細工のように粉々に砕け散った。

彼はテーブルに目を向けなかった。私を見ることもなかった。嵐の海のような色の瞳は、どこか遠くを見ている。高価なレザージャケットの下の力強い肩はこわばり、顎は硬く、非情な一線を描いていた。

でも、何よりも先に私を打ちのめしたのは、匂いだった。肺から空気を奪う、物理的な一撃。それは第二の皮膚のように彼にまとわりついていた。雨に洗われた土の匂い、野心的な野性の匂い、そして、玲奈の、甘ったるくて鼻につく香水の匂い。

私の心臓が、愚かで頑固な臓器が、胸の中で固く締め付けられた。

*またなの。お願い、今夜だけはやめて。*

「遅かったのね」

私が発した声は、自分でも驚くほど小さかった。耳の中で轟く失望の音にかき消されそうな、ただの囁き。

彼はようやく私に目を向けた。その視線は、丁寧に準備されたテーブル、手つかずの食事、そしてたった一輪の希望の薔薇をなぞるように動いた。そこには温かみも、謝罪の言葉もない。ただ、私の存在そのものが背負わされた重荷であるかのような、深く、骨の髄まで染みるような疲労感だけがあった。

「仕事が長引いたんだ、詩織」

彼の声は荒々しく、苛立っていた。彼はジャケットを脱ぎ捨て、椅子の上に無造作に放り投げる。その無頓着さが、全てを物語っていた。玲奈の香りが一層強くなり、私たちの家を満たし、全てを汚していく。

「あなたの好物を作ったの」私はもう一度試みた。悲しく冷めていくディナーを指差しながら。「私たちの、記念日だから」

彼の顎の筋肉がぴくりと動いた。彼は苛立ちを隠しもせず、黒髪を手でかき上げた。

「お前のそういう感傷的なところは、正直うんざりするんだ。義務だからって、いちいち付き合ってられるか」

一つ一つの言葉が、狙いすました矢のように飛んできて、全て私の心に突き刺さった。*うんざり。義務。付き合う。*

彼は私の愛を贈り物としてではなく、面倒な雑用として見ていた。私が何時間もかけて準備した食事も、一日中大切に育んできた思い出も、彼にとってはただの時間の無駄遣い。頭領としての彼の壮大な人生における、ただの邪魔者でしかなかった。

私の内なる狼が、私の魂の痛みに共鳴するように、低く、傷ついた声でクンと鳴いた。私は唇を固く結び、涙がこぼれるのを必死でこらえた。泣けば、彼をさらに苛立たせるだけだから。

彼は私を通り過ぎてキッチンへ向かう。その体重で床板が軋んだ。冷蔵庫が開き、瓶がカチリと鳴る音が聞こえる。彼はビールを一本持って戻ってくると、手首のスナップだけで王冠をひねり開けた。

彼は長い一口を飲み干す。喉が動き、その目は私の肩越しの一点をじっと見つめていた。まるで私が、すでに壁紙に溶け込んで消えてしまったかのように。

「会の幹部会が長引いてな」

彼はそう言った。それは形ばかりの、空虚な言い訳。嘘だとわかっていた。彼の全身から、真実の匂いがしたから。

*聞いてしまいなさいよ。*

自己破壊的な小さな私が、そう囁いた。

*対決するのよ。この地獄を終わらせて。*

でも、できなかった。私は臆病者だった。この悪夢を現実に変えてしまう言葉を聞くのが、怖くてたまらなかった。

だから私はただそこに立っていた。自分のための祝宴に現れた幽霊のように。私の番がビールを飲み干し、別の女の匂いをさせている間、ただじっと。

*

二日後、胸の傷はまだ生々しく、膿んでいた。

私たちは会の公式な晩餐会に出席していた。大和が、体面のために出席しろと強く主張したイベントだ。

会の本部の広間は、会話と笑い声で賑わい、ワインとロースト肉の匂いが立ち込めている。銀食器が磁器に当たる音が、絶え間なく、耳障りな合唱のように響いていた。

私は上座で大和の隣に座っていた。親友の美咲が「絶対に着るべき」と言ってくれた深い青色のドレスを身にまとった、完璧な頭領の番の肖像画のように。

「綺麗だよ」彼女は私にそう言ってくれた。その瞳には、私が耐えられないほどの同情が浮かんでいた。「彼に、自分が見過ごしているものの価値を思い知らせてやりなよ」

でも、大和は見ていなかった。彼の注意は、いつものように、テーブルの向こうの玲奈に釘付けだった。

彼女は取り巻きに囲まれ、その笑い声は甲高く、私の神経を逆撫でした。彼女が美しいことは否定できない。艶やかな黒髪、きらめく瞳。彼女の狼は活気に満ち、攻撃的で、自信に溢れていた。私が持っていない、全てのものを。

その時、鋭く、慣れ親しんだ痛みが腰を貫いた。何年も前に縄張りの境界での小競り合いで負った古傷の、悪意に満ちた反響。それは決して完治することなく、ストレスや寒さで再発する。今夜は、耐え難いほどだった。

私は息を呑み、痛む場所に手を当て、指の関節で強く押し込んだ。平静を装い、息を整えようとしたが、めまいの波が襲ってきた。頭上のシャンデリアのきらめきが、視界の中で揺らぐ。

私は大和の方へわずかに身を寄せ、かすれた声で囁いた。

「大和、痛みが…今夜はひどいの」

彼は顔を向けなかった。微動だにしない。彼の意識は完全に玲奈の上にあった。彼女はちょうど、些細な社交上の侮辱を大げさに語り終えたところで、下唇を震わせ、完璧な悲劇のヒロインを演じていた。

「あの女に、あんな口の利き方をされる筋合いはないわ」玲奈の声がテーブル中に響き渡った。「屈辱的よ!」

即座に、大和の態度ががらりと変わった。彼は身を乗り出し、その表情は、私がもう何年も向けられたことのない気遣いで和らいだ。彼の声は低く、心を落ち着かせるような響きだった。

「気にするな、玲奈。あんな女、どうでもいいだろう。お前は、そんなものよりずっと上の存在だ」

彼は私を、完全に、徹底的に無視した。私の肉体的な苦痛は彼には見えず、玲奈が作り出した感情的なドラマよりも重要ではなかった。

それは公の場での宣言であり、明確で残酷な優先順位の表明だった。私は二の次。私は無価値。

腰の痛みは鈍い炎だったが、心の痛みは燃え盛る業火だった。他の会のメンバーたちの視線を感じた。哀れみ、憶測。屈辱が、まるで物理的な熱となって首筋を這い上がってくる。

もういられない。もう一秒たりとも、彼の人生の小道具としてここに座っていることはできなかった。

番に気づかれることもなく、静かに椅子を引いて、震える足で立ち上がった。私は背筋を伸ばして広間を歩き去った。一歩一歩が、腰の痛みと、自分の無価値さという crushing weight との戦いだった。

*

私のアトリエだけが、私の聖域だった。

家の裏にある、小さな小屋を改装したその場所は、乾燥させたハーブとオゾン、そして古い羊皮紙の匂いがした。

ここは、私が大和の顧みられない番以上でいられる場所。ここでは、私は私自身だった。

棚にはきらめく粉末や希少なクリスタルが入った瓶が並んでいる。梁からはハーブの束が吊り下げられ、唯一の窓から差し込む月明かりの中に、香しい影を落としていた。

私の魔術は、私たちの会では珍しいものだった。ほとんどの仲間が腕力と政治力に頼る中、私は元素に親和性を持っていた。それは忍耐と集中を要する、静かで難しい魔術。それが私の慰めだった。

私はスツールに腰を下ろした。使い慣れた木の感触が心地よい。腰の疼きを無視し、浅い銅製のボウルの上に両手をかざした。

目を閉じ、大和が玲奈を慰める姿を心から追い出す。私は自分の中にある冷たく空虚な場所、かつて彼の愛情があった場所に意識を集中させた。その冷たさ、その痛みを引き出し、それを魔力に変換した。

ゆっくりと、ボウルの縁に霜が降り始めた。それは繊細で複雑な模様を描きながら広がり、私の痛みから生まれた美しいものだった。

手のひらの上に、完璧な雪の結晶が一つ現れ、静かに回転してから、儚く溶けて消えた。

それは小さな創造の行為。私の世界が崩壊している時でさえ、私はまだ美しいものを生み出せるのだという、ささやかな証明だった。

柔らかなチャイムの音が、私の集中を破った。作業台の上に置かれた、安全な長距離通信用の小さな魔法のタブレットからだった。私がメッセージを受け取ることは滅多にない。まだ冷たいエネルギーで痺れている指で、画面をタップした。

メッセージは暗号化され、白銀ギルドの印章が記されていた。それは全ての魔術分野を監督する、権威ある中立組織。

私は息を呑んだ。震える手で、メッセージを解読する。

言葉が画面に浮かび上がった。アトリエの薄明かりの中で、それはあまりに鮮やかで、信じがたいものだった。

*翠明会所属、詩織殿*

*貴殿の特異な元素の資質は、評議会の認めるところとなりました。よって、本日より一ヶ月後の満月の夜に開催される『星辰の集い』への参加を、正式に招待いたします。前夜祭へのご出席をお願い申し上げます。詳細は追って通知いたします。*

星辰の集い。十年に一度の魔術の祭典。あらゆる領域から最も強力な術者たちが集う。それは伝説であり、夢だった。

地位でも、所属でも、番が誰であるかでもなく、ただ実力だけが全てを意味する場所。

心臓が肋骨を激しく打った。狂おしく、希望に満ちたリズム。

これは単なる招待状ではなかった。これは逃げ道。チャンス。息が詰まるような同情と、望まれないという絶え間ない苦痛から解放された、完全に私自身の人生。

本当に、本当に久しぶりに、自然な、心からの笑みが私の唇に浮かんだ。それは小さく、脆いものだったけれど、本物だった。

息苦しい暗闇の中に差し込んだ、希望の光だった。

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