奪われたルナ ― 彼の究極の後悔 の小説カバー

奪われたルナ ― 彼の究極の後悔

9.7 / 10.0
「血月の一族」のアルファ、遠野彰人の運命の番として、私は五年間ルナの座を守り続けてきた。しかし、彼の心は常に別の女、藤堂詩音の元にあった。運命が残酷に牙を剥いたのは、私と詩音の共通の誕生日だ。彰人が私への贈り物だと約束していた銀色のドレスを纏い、詩音は一族の前で彼に口づけを贈る。彰人は詩音を「守るべき弱き存在」と呼び、私にはルナという空虚な肩書きだけを与え、裏では彼女への愛を育んでいた。私の苦しみは無視され、絆を通じて聞こえてきたのは「番というだけで自分を縛るな」という彼の不満だった。溺れるような孤独の中で、私は悟る。彼は運命の相手などではなく、ただの臆病者であり、私は彼を閉じ込める鳥籠に過ぎなかったのだと。私は絶望の果てにホールを去り、彼との絆を自ら断ち切る決断を下した。砕け散った絆を前に、彼は初めて狼狽し、縋るような言葉を口にする。だが、自由を手に入れた私の心に、もはや彼が入り込む余地はない。五年間に及ぶ偽りの愛と後悔の物語が、今ここに幕を閉じる。

奪われたルナ ― 彼の究極の後悔 第1章

五年もの間、私は「血月の一族」のアルファ、遠野彰人の運命の番(つがい)として、ルナの座にいた。

でも、その五年間、彼の心はたった一人の女――藤堂詩音のものだった。

私と詩音、二人の誕生日。

私の希望を繋ぎとめていた最後の糸が、ぷつりと切れた。

詩音が、大階段をゆっくりと降りてくる。

煌びやかな銀色のドレス。

彼が私へのサプライズだと約束してくれた、あのドレスを身にまとって。

一族全員が見守る前で、彼女は彰人の元へ歩み寄り、その頬にキスをした。

彰人はいつも言っていた。

詩音はか弱く、心に傷を負った狼なんだ、と。

守ってやる必要があるのだ、と。

何年もの間、私はその嘘を信じていた。

彼が私の夢を彼女に与え、私の誕生日には知らんぷりで、裏では彼女の誕生日を祝い、私にはルナという空っぽの称号だけを押し付けている間も、ずっと。

彼を問い詰めても、私の痛みなど気にも留めなかった。

「あいつは分かってないんだ」

千切れかけた絆を通して、彼の声が脳内に直接響く。

詩音にだけ向けられた、不満げな声。

「番だっていうだけで俺を縛れると思うな。息が詰まる」

息が詰まる?

彼の無関心という名の水の中に沈み、溺れかけていたのは、私の方なのに。

彼は私の番なんかじゃない。

ただの臆病者。

そして私は、女神が彼に押し付けた鳥籠に過ぎなかった。

だから私は、ホールから歩き去った。

そして、彼の人生からも。

私は、正式に彼を拒絶した。

絆が砕け散った瞬間、彼は初めて狼狽え、考え直してくれと懇願した。

でも、もう遅い。

もう、彼の鳥籠でいるのは終わり。

第1章

芙蕾雅(フレイヤ)視点:

「血月の一族」が所有する軽井沢の山荘、その大広間は、暖炉で燃える松の香りと、祝宴のテーブルに並んだ猪の丸焼きの匂いで満ちていた。

今夜は年に一度の祝祭。

そして、私の誕生日であり、詩音の誕生日でもある。

月の女神が、遠野彰人を私の番だと定めてから、五年目の記念日でもあった。

五年。

その一日一日が、まるで他人の人生を借りているかのような感覚だった。

毎年、彼の視線は、人混みの中からまず詩音を見つけ出すのだ。

私の内なる狼が、肌の下で落ち着きなく歩き回る。

不安の唸り声が、胸の奥で低く響いた。

彼がいない。

踊り狂う一族のメンバーたちを、もう十数回も見渡したのに、彰人の姿はどこにもなかった。

冷たい恐怖が、馴染みのある鋭さで、胃の腑に居座る。

私は祝祭の喧騒からそっと抜け出した。

柔らかなスリッパは、冷たい石の床に音を立てない。

どこを探すべきか、分かっていた。

アルファの書斎だ。

重厚な樫の扉が、わずかに開いていた。

耳を押し当てる必要すらない。

彼が忌み嫌っている、この微かで、途切れがちな番の絆を通して、彼のプライベートな精神感応(マインドリンク)の残響が伝わってくる。

アルファだけが授けることのできる特権。

彼の思考に直接繋がる回線を、彼は彼女との逢瀬に使っていた。

「もう少しだけだ、俺の小さな炎(ほのお)」

二人の精神空間にだけ響くはずの、低く、甘い囁き声が、毒のように私の心に染み込んでくる。

「真夜中の鐘が鳴ったら、一番にお前の声を聞く。お前に『誕生日おめでとう』って言う最初のアルファになるって、約束する」

息が、喉の奥で詰まった。

鮮やかで、希望に満ちた記憶が、目の裏で閃く。

二週間前、縄張りで一番の高級仕立て屋でのこと。

彼は月光を閉じ込めたようにきらめく、壮麗な銀色のドレスを手に取った。

「祝祭で、お前にサプライズがあるんだ、芙蕾雅」

その時の彼の瞳には、珍しく温かな光が宿っていた。

「今年は、違うから」

私は、信じてしまった。

愚かにも、その小さな希望の火種を大きく育ててしまった。

今年こそ、彼がやっと私を見てくれる。

運命の番である、彼のルナである私を、と。

今、書斎の外に立ち、私はすべてを理解した。

あのドレスも、あの約束も、サプライズも――何一つ、私のためのものではなかった。

すべて、詩音のためだったのだ。

千切れかけた絆が、彼の苛立ちで脈打つ。

彼女にだけ向けられた、苦々しい不満。

「あいつは分かってないんだ」

私のことだと、すぐに分かった。

「番だっていうだけで俺を縛れると思うな。息が詰まる」

息が詰まる?

私の方はどうなるの?

五年間、ずっと彼の無関心に溺れてきたというのに。

「祝祭が終わったら、お前の部屋に行く」

彰人は詩音に約束する。

その声は、吐き気がするほど甘く、温かいものに変わっていた。

「俺のために、あのドレスを着ていてくれ」

私の中で、何かが砕け散った。

しがみついていた最後の希望の糸が、ついに断ち切られた。

私は彼の愛する人じゃない。

本当の意味で、彼のルナですらない。

私は障害物。

女神が彼に押し付けた鳥籠で、詩音は彼の反逆であり、歪んだ自由の象徴だった。

私は扉に背を向けた。

体はこわばり、心臓は胸の中で氷の塊と化していた。

大広間に戻ると、ちょうど真夜中の鐘が鳴り始めた。

そこに、彼女がいた。

詩音が、大階段を降りてくる。

きらめく銀色の月光をその身にまとって。

私のドレスを。

彼女は最後の段で足を止め、勝ち誇ったような笑みを唇に浮かべると、闇の中から現れたばかりの彰人の元へ、まっすぐに歩み寄った。

そして、一族全員の前で、つま先立ちになり、彼の頬にキスをした。

私の狼が、苦痛に満ちた悲鳴を上げた。

私にしか聞こえない、純粋な苦悶の叫び。

私は顎を上げ、部屋の向こうにいる彰人と視線を合わせた。

彼は驚いたように目を見開き、一瞬罪悪感に顔を歪めたが、すぐに挑戦的な表情に変わった。

結構よ。

その反抗的な態度、好きなだけ見せていればいい。

私は一族全員に向けて、精神感応(マインドリンク)を開いた。

私の声は冷たく、明瞭で、祝祭のざわめきを切り裂く一本の思考となった。

「臆病者よ。くれてあげるわ」

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