ボーさん、あなたの腕の中の女の子は大物です の小説カバー

ボーさん、あなたの腕の中の女の子は大物です

9.2 / 10.0
異国の地で絶望の淵に立たされていた少女。その窮地を救ったのは、四千億円という巨額を投じて彼女を強引に連れ出した男、薄晏だった。彼は少女を「薄星」と名付け、自らの懐へと囲い込む。周囲の目には、薄星は慈悲なき暴力を振るい、殺めることさえ厭わない冷酷な存在として映っていた。しかし、薄晏の前で見せる彼女の素顔は、驚くほど純粋で素直な子供そのものだった。物語が進むにつれ、謎に包まれていた彼女の驚愕の正体が次々と暴かれていく。伝説的な神医、世界屈指の暗殺者、そして神秘に包まれた大富豪の継承者――。その圧倒的な身の上を知った人々は、恐怖に震え「彼女に逆らえる者などいるはずがない」と戦慄する。若く従順な人形のような少女が、実は世界の頂点に立つ大物であったという衝撃。圧倒的な体格差を持つ二人の関係性と、薄星が自らの力ですべての敵を屈服させていく凱旋劇が今、幕を開ける。現代を舞台に描かれる、孤独な少女の救済と華麗なる逆襲の物語。

ボーさん、あなたの腕の中の女の子は大物です 第1章

太平洋の只中に、ぽつりと浮かぶ私有島。

その地下深くに穿たれたオークション会場は、外界の闇とは裏腹に、眩いほどの光で満たされていた。

ここが他の会場と一線を画すのは、出品されるのがありとあらゆる珍獣、あるいは奇っ怪な生物のみという一点に尽きる。

ここでは金さえ積めば、いかなるものも――たとえそれが命であろうと――手に入ると、まことしやかに囁かれている。

会場の熱気が頂点に達しようとした、その時だった。

「本日最後にご紹介いたしますお品は、今宵の目玉――『血液奴隷』でございます。 最低入札価格は一億ドルからとさせていただきます!」

競売人の言葉に、それまでの熱狂が水を差されたように、会場は戸惑いの声で満ちた。

「『血液奴隷』? ただの人間ではないか。 一体何の価値があるというのだ!」

「とんだ期待外れだ。 大袈裟に煽りおって!」

疑念の声が渦巻く中、黒絹のベールに覆われた巨大な檻が、天井から静かに降下を始める。 やがて展示台に音もなく着地すると、競売人は芝居がかった仕草で、そのベールを一息に引き剥がした。

檻の中、一人の少女が力なく身を横たえていた。

不意に浴びせられた強烈な光に、少女は僅かに瞼を震わせる。 身を包むのは薄い白紗一枚きり。 しなやかな肢体の曲線があらわになり、濡れたような漆黒の長髪が床に広がる様は、雪のように白い肌との対比で、どこか神聖なまでの輝きを放っていた。

美! まさに絶美!

これほどの逸物が、なぜ「血液奴隷」などという名で……。

だが、それはあまりにも無防備に差し出された玩具のようでもあった。

息を呑む者、欲望の火を瞳に宿す者、そしてなおも懐疑の声を潜める者。 会場の空気は、期待と失望、そして新たな好奇心がない交ぜになって揺れていた。 競売人はひとつ咳払いをすると、再びマイクに口を寄せた。 「皆様、ご静粛に。

わたくしがこの天国島の名誉にかけて保証いたします。 彼女は、世界で唯一開発に成功した、いわば“歩く霊薬”。 その血液はあらゆる毒を無効化し、その肉体は瞬時に傷を癒し――そして、持ち主に長寿をもたらすのでございます!」

百毒を解し、長寿をもたらす。にわには信じがたい言葉が、しかし万雷の拍手のように人々の欲望を打ち鳴らした。

それが真実ならば、これ以上の至宝は存在しない。

静まり返っていた会場は、一転して興奮のるつぼと化した。

「それほど奇跡的な効能があると言うなら、口先だけでは信じられん。 我々の目の前で実演してもらおうではないか!」誰かが叫ぶと、それは会場全体の総意となった。

競売人は待ってましたとばかりに優雅に微笑むと、パチン、と指を鳴らした。

その瞬間、東側の貴賓席で鈍い音が響き、どっと悲鳴が上がる。 日本のIT界を牽引する若き寵児、高橋光希が椅子から崩れ落ち、床に蹲っていた。 その顔は見る間に土気色を通り越して黒ずみ、口の端からは血の泡が溢れている。

駆け寄った専属医が必死に救急箱を漁るが、症状はあらゆる知見を超えており、ただ為す術もなく首を振るばかりだった。

競売人の目に射るような光が宿る。 彼の合図で、スタッフが檻に備え付けられた採血装置を起動させた。 無機質なアームが伸び、透明なチューブの先端が、檻の中の少女の白い首筋へと狙いを定める。

冷たい針先が肌を貫く。 その瞬間、少女の長い睫毛が苦痛に微かに震えたが、それきりだった。 抵抗する素振りも見せないその様は、この痛みが彼女にとって、とうに日常の一部であることを物語っていた。

三十ミリリットルの鮮血が抜き取られ、特殊な器具を介して光希の体内に注がれると、会場は息を呑んだ。 奇跡は、衆人環視の中で静かに始まったのだ。 死の硬直に囚われていた身体から強張りが解け、失われたはずの血の気がみるみるうちに顔に戻ってくる。 虚ろだった瞳に光が宿り、やがて焦点が結ばれた。

ごほっ、と激しく咳き込むと、高橋は黒い血痰を吐き出し、まるで溺れていた者が空気を求めるように、深く、大きく息を吸い込んだ。

「皆様、解毒はあくまで余興に過ぎません。 この至宝の真価は――長寿にこそあるのです!」競売人の巧みな話術が、再び会場の支配権を握る。

その言葉と共に、舞台脇の錦の幕が引かれる。 現れたのは、車椅子に乗せられた一人の老婦人だった。 骨と皮ばかりに痩せ衰え、手首の生命維持モニターが示す心拍数は三十八。 いつその灯火が消えてもおかしくない、まさに死の淵にいる病人だ。

競売人はスタッフと目配せすると、先ほど高橋の治療で使った血液の残りを、躊躇なく老婦人の腕に注入した。

突如、けたたましいアラームが鳴り響く。 だがそれは、終焉を告げる音ではなかった。 心拍数は六十八に急上昇し、四十パーセントで低迷していた血中酸素飽和度は、一気に八十パーセントまで跳ね上がったのだ。

やがて、深く閉じられていた瞼がゆっくりと持ち上がる。 老婦人の掠れた声が、しかし確かに会場に響いた。 「……ここは……どこかね? もしかして、あんたは……わしを迎えに来てくれた天女様かい……?」

一瞬の静寂。 そして、地鳴りのようなどよめきが会場を揺るがした。 その狂騒の頂点で、競売人がマイクを高々と掲げ、叫んだ。 「それでは皆様! 競売を開始いたします!」

開始価格一億ドルは、瞬く間に五十億ドルへと吊り上がっていく。

その狂乱を、二階の特別個室から一人の男が見下ろしていた。

革張りのソファに深く身を沈め、組んだ脚。 長い指先が、テーブルを規則的に、とん、とん、と叩いている。

彫りの深い端正な顔立ちは、まるで精緻な彫刻のようだったが、その双眸に宿るのは氷のような冷ややかさだけだ。

彼の視線は、階下の熱狂には目もくれず、ただ一点――採血された後もぴくりとも動かず、虚ろに横たわる少女に注がれていた。 まるで外界のすべてを拒絶しているかのようなその姿に、男は無意識に眉根を寄せた。

「竜也のアニキ」側近の五条川が歩み寄り、耳元で囁いた。 「例の骨董は、梱包が済みました。 いつでもお発ちになれます」。

だが、男――石神竜也は応えない。

五条川は、主の視線がなおも階下の少女に釘付けになっていることに気づき、探るように口を開いた。 「アニキ、あの娘を……落としますか? もしかすれば、二若の病に……」

その言葉を遮るように、竜也は手を振った。 忌々しげに鼻を鳴らすと、長身をすっと立ち上がらせ、そのまま個室を出て行こうと踵を返す。

「インチキだ、人に弄ばれるだけの、出来損ないめ」

吐き捨てるような言葉に、五条川は慌ててその後を追った。 同時に、とんでもない失言をしたと内心で舌打ちする。

思えば長年、この方の傍に女性の影があったことなど一度もない。 それどころか、雌の動物さえ近づけたことがないのだ。 ましてや、あの娘がどれほど多くの男の手を経てきたかも知れないというのに。 いかに絶世の美貌とて、この御方には塵芥にも等しい。

その短いやり取りの間にも、競りの値は百億ドルに達していた。

カン、カン、カーン! 三度目の槌音が高らかに響き渡り、落札を告げる。

競り落としたのは、太鼓腹の年配の富商だった。 彼は満面に下卑た笑みを浮かべ、己の戦利品をすぐさま誇示せんと、その場で檻を開けるよう要求した。

前例のある要求だ。 上客を前に、競売人は逆らえない。 恭しく頷くと、檻の前に屈み込み、手にした鍵で錠前を回した。

カチリ、と錠の開く乾いた音がした、その刹那。 それまで虚ろに伏せられていた少女の瞳が、カッと見開かれた。

諦観と無気力に満ちていたはずのその双眸に、射るような光が宿る。 それは、すべてを計算し尽くした、狡猾な獣の眼差しだった。 呆気に取られる富商に、少女は悪戯っぽくウインクを一つ送ると――

次の瞬間、彼女は弾かれたように身を起こした。 傍らの黒いベールをひったくって競売人の頭に被せると、電光石火の速さで舞台から駆け下りていた。

警備スタッフが我に返るより早く、少女のしなやかな身体は出口へと舞う。

どこから取り出したのか、その手には数本の銀針が握られている。 追っ手のボディガードたちに向け、それを無造作に振り撒くと、男たちは声もなくその場に崩れ落ちた。 悲鳴。

怒号。 阿鼻叫喚。 栄華を極めたはずのオークション会場は、一人の少女によって、一瞬にして混沌の渦に叩き込まれた。

続きを読む

ボーさん、あなたの腕の中の女の子は大物です 目次一覧

Ch. 1 Ch. 2 Ch. 3
Ch. 4
Ch. 5
Ch. 6
Ch. 7
Ch. 8
Ch. 9
Ch. 10
Ch. 11
all

おすすめの作品

新着リリース小説

初恋を捨てた夜、彼の親友に美味しく蹂躙されました の小説カバー
9.4
Mio Katayama's world shattered when her secret crush on her uncle, Rintaro Kanzaki, was exposed, leading to her exile and a life branded by scandal. Years later, despite becoming a brilliant scientist, she is forced into a strategic marriage with the formidable Soma Fujiwara to protect Rintaro’s reputation. Believing it to be a cold business arrangement, Mio is stunned by Soma’s intense, possessive passion. As she finds true devotion in his arms, a pregnant Mio finally discards her past feelings. When a regretful Rintaro returns to reclaim her, he finds himself locked out, while Soma claims his prize with ruthless, suffocating love.
戻れない約束、離れられない心 の小説カバー
8.2
家族から見放され、冷酷な悪党の手に堕ちていた彼を、私はただ同情心から救い出した。地獄から抜け出した彼は、一生をかけて私を大切にすると誓ってくれたはずだった。しかし、彼が本来の家族に受け入れられ、かつての地位を取り戻したとき、現実は無情に崩れ去る。私は偶然にも、彼が友人の前で放った本心を聞いてしまったのだ。「あんな女は愛に飢えた年増に過ぎない。下心を抱いて俺に近づいたんだ。もし命の恩人でなければ、そばに置く価値もない」と。彼にとって私は、救済者ではなく打算的な女に過ぎなかった。真実を知った私は絶望し、彼の望み通りその前から姿を消す決意をする。ところが、いざ私が離れると、彼は激しい後悔に苛まれることになる。かつての傲慢さは消え失せ、彼は充血した瞳に涙を浮かべながら、震える声で私に縋り付いてきた。「お姉さん、僕を捨てないと言ったじゃないか」と。一度壊れた約束と、冷め切った心。すれ違う二人の愛の行方は、あまりにも皮肉な結末へと向かっていく。
裏切られた妻の覚醒:天才研究者の華麗なる復讐 の小説カバー
8.1
夫の親族が集まる法事の最中、私は夫の暁と未亡人・絢子の不貞を目の当たりにする。私は研究者としての輝かしいキャリアを捨て、妻として彼を支え続けてきた。しかし夫は、私の研究成果を絢子の手柄として横流しし、心臓病を患う娘が発作で苦しむ夜さえも、嘘をつく絢子を優先したのだ。献身を裏切られた絶望と、愛する娘をないがしろにされた怒りが私を突き動かす。降りしきる雨の中、私は決意した。奪われた研究データと娘の親権を必ず取り戻し、二人には相応の報いを受けさせると。どん底に突き落とされた天才研究者による、冷徹で華麗な復讐劇がいま幕を開ける。
愛を諦めた妻:冷酷な財閥夫の遅すぎる執着 の小説カバー
8.5
流産手術直後の孤独な病室で、私は夫である九条グループ社長が人気女優をエスコートする姿をテレビで目撃する。夫からの連絡は体調を気遣うものではなく、冷徹な呼び出しだった。這うように向かった先では、義母と義妹から「跡継ぎも産めない無能」と罵倒されるが、夫は私を庇うどころか、女優からの電話一本で態度を変え、高熱に苦しむ私を嵐の山道に置き去りにした。彼は、五年前の火災で自分の命を救った真の恩人が、女優ではなく私であることに気づいていない。理不尽な仕打ちと深い絶望の果てに、私の中で何かが決壊した。私は離婚届に署名し、これまでの惨めな自分を捨て去る。真っ赤なルージュを引き、自分を虐げた者たちへの冷徹な反撃を開始する。同時に、亡き兄の死に隠された真相を暴くための孤独な戦いが幕を開ける。もう誰にも媚びることはない。愛を捨てた妻の、苛烈な逆襲劇が今ここから始まる。
新婚初夜、車椅子の御曹司がいきなり立ち上がってキス!? の小説カバー
9.2
結婚式当日、バージンロードで婚約者に裏切られた星川理緒。隣の式場でも、車椅子の御曹司・一之瀬悠介が花嫁に逃げ出されるという悲劇に見舞われていた。互いに伴侶を失った最悪の状況下、理緒は廊下で出会った悠介に「私たちで結婚しない?」と大胆な提案を持ちかける。世間の嘲笑を背に始まったのは、利害が一致しただけの“契約結婚”だった。悠介は彼女を金目当てのスペアだと蔑み、「足に触れるな、用が済めば即離婚だ」と冷淡に突き放す。しかし、献身的な理緒と過ごすうちに、彼の心には冷徹な態度とは裏腹な感情が芽生え始めていた。ある日、悠介が枕元の離婚届を見つけ、彼女を失う恐怖に焦りを感じた瞬間、物語は急展開を迎える。新婚初夜、動かないはずの足で車椅子を蹴り捨てて立ち上がった悠介は、驚く理緒を強引に抱き寄せた。足の麻痺はすでに完治していたのだ。「離婚なんて認めない。この契約は一生有効だ」と、彼は満面の笑みで宣言する。嘘から始まった二人の関係は、甘く執着に満ちた真実の愛へと変貌していく。
愛を欺いた男に、最後の裁きを—— の小説カバー
9.3
見知らぬ女に肉体を乗っ取られた私は、絶望の淵に立たされていた。その女は私の人生を蹂躙し、愛する両親と絶縁させただけでなく、最愛の兄を事故に遭わせ、植物状態へと追いやったのだ。すべては一人の身勝手な男を追い求めるための暴走だった。長い歳月を経てようやく自身の体を取り戻した私は、人生を狂わせた男への復讐を誓う。華やかな大スターの仮面を剥ぎ取り、社会的地位を失墜させた私に、男は涙ながらに縋りつく。だが、私の怒りは収まらない。あえて離婚を拒み、男を追い詰めると、彼は私を殺害するために刺客を放った。張り巡らされた幾重もの罠が交錯するなか、男の真の正体と罪状が暴かれ、彼は富も名誉もすべてを失って終身刑の判決を受ける。ついに私の意識を侵食し続けていた女の存在も消え去り、忌まわしい過去から解放された。奪われた時間と絆を取り戻すため、私は静かに、そして力強く新たな人生の一歩を踏み出す。愛と憎しみの果てに掴み取ったのは、真実の裁きと平穏な未来だった。
今すぐ読む
共有