
傷ついたルナの秘めたる復讐の誓い
章 2
月島 玲奈 POV:
「素晴らしい」
有栖川理事長の声が電話の向こうから聞こえた。
「あなたの配属を確定します。一週間後にスイスでお待ちしています」
一週間。六ヶ月間の完全な隔離。完璧だった。今や純粋な毒の源となった絆を断ち切るには、それしか方法がなかった。
宗佑と共有していたアルファスイートを、私は自分の人生の中の幽霊のように歩き回った。部屋全体が、私たちの愛の博物館のようだった。番の儀式で贈られた、私たちの名前が刻まれた銀の杯。初めて一緒に旅行した時の額入りの写真。彼の腕が私を包み、二人とも馬鹿みたいに笑っている。
激しい嫌悪感が、私を襲った。
キッチンからゴミ袋を掴んだ。最初に銀の杯を投げつけた。大理石の床に叩きつけられ、それは快感さえ覚えるほどの音を立てて砕け散った。写真立てもそれに続いた。ガラスが、彼の嘘つきの顔の上で粉々になった。
クローゼットを荒々しく開け、彼の服を引きずり出した。彼が「外交会議」に着ていく高価なスーツ。それら全てに、他の組織、他の雌狼の微かな香りが染み付いていた。彼の出張土産、彼の裏切りの証拠品、その全てを袋に詰めた。
最後に、自分の荷物をまとめた。私の本、服、治癒師の道具。親友の亜紀がいる銀泉会の領域に、宅配便で送る手配をした。夜が明ける頃には、私の身体を除いて、私の痕跡は全て消え去っていた。
翌日の夕方、彼が帰ってきた。彼は微笑みながら入ってきて、私を腕に抱こうとした。
「会いたかった」
彼はそう呟き、顔を私の首筋に近づけてきた。
しかし、彼から香るのは沙耶の匂いだけだった。彼女の安っぽく、むせ返るようなオメガの香りが、彼の肌に、髪に、こびりついていた。私は火傷でもしたかのように身を引くと、私たち二人を驚かせるほどの力で彼を突き飛ばした。
「玲奈?」
彼の眉が、困惑に寄せられた。
彼はポケットから小さな箱を取り出した。
「土産だ。出張の」
中には、華やかな銀の容器に入ったエッセンシャルオイルの小瓶があった。それは沙耶が使っているのと同じオイルだった。そして彼は、嘘の網の中で忘れてしまっていたのだ。私が銀に重度のアレルギーを持っていることを。その金属は私の一族を焼く、人狼なら誰もが知る弱点。自分の番がそれを忘れるのは、不注意では済まされない。それは、彼の心の中で、私がすでに存在しなくなったという証だった。
私は銀を、彼の完全な無関心の証拠を、見つめた。腹の底で冷たい怒りが渦巻いた。
「宗佑さん」
私は、平坦な声で言った。
「私たち、子供を作りましょう」
彼の顔が見たかった。この嘘をどうやって切り抜けるのか、見たかった。
彼はこわばった。
「玲奈、話しただろう。今は組織に全力を注ぐ必要がある。まだその時じゃない」
彼の電話が鳴った。彼が画面を一瞥すると、沙耶の名前が見えた。背景で、子供の泣き声が聞こえる。
「仕事だ」
彼は素早く言い、背を向けた。
「出なければ」
彼はバルコニーに出て、声をなだめるような囁き声に落とした。
彼がいない間に、私のスマートフォンが未知の番号からのメッセージで鳴った。一つだけの、匿名のリンク。胃の腑に不安の塊が締め付けられるのを感じながら、私は震える指でそれをクリックした。
それは、公開されている写真ギャラリーに繋がった。
彼女のページは公開されていた。彼女の人生のギャラリー。私の番との人生。宗佑と怜央の写真が何十枚も。ブランコに乗る怜央を押す宗佑。組織の祭りで怜央を肩車する宗佑。ソファで眠る宗佑の胸で、怜央が丸くなっている。
そして、それぞれの写真の下には、私たちの組織のメンバーからのコメントがあった。
『なんて美しいご家族でしょう、アルファ!』
『怜央くんはあなたにそっくりですね!』
組織の誰もが知っていた。私以外の全員が。私だけが、馬鹿だった。次期ルナなど、ただの飾り物に過ぎなかったのだ。
激しい吐き気が私を襲った。私はバスルームに駆け込み、胃の中身を便器にぶちまけた。そこで震えながら膝をついていると、恐ろしい事実に気づいた。これは、ただの衝撃のせいではない。
生理が、遅れている。
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