ご近所物語  ハイブラウ・シティ の小説カバー

ご近所物語 ハイブラウ・シティ

9.0 / 10.0
西暦2068年、超高齢化の果てに経済が衰退し、治安が悪化した日本。人々の仕事は「ノウハウ」と呼ばれるアンドロイドに奪われ、社会には銃声が響き渡っていた。そんな荒廃した世界で、主人公の夜鶴公は、困窮を極める田舎のA区と富裕層が独占するB区という、極端な格差の板挟みとなって生きている。ある日、B区を追放されA区へと流れ着いた公は、そこで意外な人物と出会う。それは、時の総理大臣の娘であった。この運命的な出会いを機に、二人は周囲の対立に翻弄されながらも、命を懸けた危険な恋へと踏み出していく。やがて彼らの純粋な想いは、国家の根幹を揺るがす巨大な事件「ハイブラウ・シティ」の渦中へと飲み込まれていく。分断された近未来の日本を舞台に、世界の在り方を問う激しいガンアクションと、困難な状況下で育まれるラブコメディが幕を開ける。果たして二人の恋路は、歪んだ社会を是正する光となるのか。おうみ舟氏が表紙を手掛ける、緊迫感溢れるSFロマンス巨編。

ご近所物語 ハイブラウ・シティ 第1章

超高層ビルのオフィスから高速エレベーターで降りた。

エントランスで彼女の髪飾りに気付き手を振った。

 停車してある車窓から彼女はにっこりと笑って、シボレーから降りて来た。資料片手にこちらに手を振る。道路を走るスポーツカーの群はまるで何かのレースのようだ。

「おはよう」

「おはよう。その手の資料は何?」

 彼女は小さく微笑んで、「ちょっとね」と言い。私をこのビルの真向かいのコーヒーショップへと誘う。

 丁度、横断歩道があるので、信号が青になったらまっすぐに店へと行ける。

 私は何度か彼女に誘われていた。

「コーヒー飲みながら話しましょ」

 彼女と私の関係はどっちかというと、友達だった。彼女にはボーイフレンドが五本の指では足らないほどいるのだ。その中の私はただ単に話やすい人であった。

「昨日は御免なさいね。私おっちょこちょいで……」

「いや……いいさ。でも、そのせいで俺が上司に怒られるだけさ」

 私はそう言うと、ロレックスで時間を見てみる。午前の10時だ。

 彼女の仕事でのちょっとしたミスを、私がもみ消すのはこれが初めてではない。

 店内に入ると、彼女が席に着いてから口を開く。

「あの、それで話したいことがあるの。ねえ、聞いてくれるでしょ」

 コーヒーショップは人が疎らである。コーヒーの香りだけでもゆったりとできる空間に、彼女の醸し出す雰囲気は微妙にそぐわなくなってきた。

「また。もみ消して……今度のはちょっと大きいけど」

 歯切れの悪い言い方で彼女の口から音が漏れる。

 けれども、私はまたかとは思わない。

 しょうがないなと思う。

 私は素材のいい背広のポケットから手を引張り出し、両手を揉んだ。

「解った。いったい……どんなことをしたんだ?」

 …………

 ここはB区という場所。西暦2058年の日本だ。2042年頃から少子超高齢化が急速に進み、今では65歳以上の人が、8千万の総人口の58パーセントまで達し。日本国内の総人口のうち二人に一人は老人ということになった。国債も信じられないほど膨らんで2300兆円となった。経済力で各国とせめぎ合うことが困難になった時代。

 2038年に現首相は日本の発展という希望のため日本の中央へ全国民を収集した。

 A区。B区。アルファベットで地名を表すようになってから、日本全土の区画整理でもう20年余りが経つ。アルファベットの地区は一つでも人口が約3千万人以上の巨大な地区だ。現首相は日本の急激な発展が責務となり、B区には日本の国の経済を左右するほど巨大な都市を造り、B区より広大なA区には、B区の周辺部には商店街や中小企業など、農村部には農業や漁などといったB区をサポートするかのような造りにした。

 けれども、そのためか貧富の差からくる不満や差別が横行し、2038年に世界で大きな戦争が起きた後に、銃を持つ程の治安の悪い世界となった。 

 A区やB区とアルフャベットの地区をまとめて云話事町と呼ぶ人もいる。AやBというよりは、云話事町の方が解りやすくていいのだが……地区なのだが、何故町なのかというと。

理由を知っている人はいないだろう。理由はA区やB区を提唱した現首相の出生地が云話事町という場所だったからだ。

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