裏切りの婚礼と魂の行方 の小説カバー

裏切りの婚礼と魂の行方

9.2 / 10.0
幸せの絶頂であるはずの結婚式当日。莉紗を待っていたのは、家族による残酷な裏切りだった。両親は、心臓病で余命幾ばくもないという双子の妹・楓枝の「最後の願い」を叶えるため、莉紗の婚約者である純斗を妹に譲るよう迫る。母の手で控室に監禁された莉紗は、抗う術もなく謎の男に刺殺されてしまう。魂となって式場を彷徨う彼女が目にしたのは、自分のウェディングドレスを纏い、純斗と愛を誓う楓枝の姿だった。両親は満面の笑みで二人を祝福し、そこには莉紗への罪悪感など微塵も存在しない。妹の病も、婚約者の愛も、すべては莉紗を陥れ、その人生を奪い去るための卑劣な嘘だったのだ。絶望と憎悪の中で真実を悟った瞬間、莉紗は再び目を開ける。そこは、惨劇が始まる直前の控室だった。胸に残る刺された感触と血に染まったドレスとともに、彼女は自身の死から逆行し、二度目の人生を歩み始める。自分を裏切ったすべての人間に復讐を果たすために。

裏切りの婚礼と魂の行方 第1章

結婚式当日, 両親は私の双子の妹, 楓枝を連れて現れた.

希少な心臓病で余命わずかだという彼女の最後の夢は, 私の婚約者である純斗と結婚することだと言い放った.

「莉紗, お願いだ. 楓枝にこの最後の夢を叶えさせてやってくれ」

父は震える声で懇願し, 母は私を力ずくで控室に閉じ込めた. 婚約者の純斗は, ただ黙ってそれを見ていた.

私は抵抗も虚しく, 見知らぬ男に刺され, 命を落とした.

魂となった私が式場へ向かうと, そこでは私のウェディングドレスを着た楓枝が, 純斗と愛を誓っていた. 両親は満面の笑みで二人を祝福している.

なぜ? なぜ私だけがこんな目に?

その瞬間, 私はすべてを理解した. 楓枝の病気も, 純斗の愛も, すべてが私から全てを奪うための嘘だったのだと.

再び目を開けると, 私は血まみれのドレスのまま, 式の控室に立っていた. 刺されたはずの胸の痛みは, まだ生々しく残っている.

第1章

沢村莉紗 POV:

結婚式当日, 両親が莉紗の双子の妹, 楓枝を連れて現れたとき, 私の心臓が凍りついた. 楓枝は青白い顔をして, 呼吸が荒かった. 両親は私に, 楓枝が希少な心臓病で余命いくばくもないと告げた. そして, 彼女の最後の夢は, 私の婚約者である黒川純斗と結婚することだと.

「莉紗, お願いだ. 楓枝にこの最後の夢を叶えさせてやってくれ」父の声は震えていた. 母は私の手を握りしめ, 懇願するような目で私を見つめた.

私の頭は真っ白になった. 何が起こっているのか理解できなかった. これは冗談? 悪夢?

「そんな…ありえない」私は声にならない声で呟いた. 純斗は, 私の隣でただ黙って立っていた. 彼の顔は蒼白で, 私を見ることもできなかった.

「莉紗, 楓枝はもう長くはないんだ. お願いだ, たった一度でいい, 楓枝に幸せな思い出を作ってやってくれ」母が涙ながらに訴えた. 彼女の言葉は, まるで鋭い刃物のように私の心を切り裂いた.

「でも, 今日は私の結婚式よ. 純斗は私の婚約者なの! 」私は叫んだ. 震える声が, 空虚な控室に響き渡った.

その瞬間, 純斗がゆっくりと口を開いた. 「莉紗, すまない. でも, 楓枝の命がかかっているんだ. 僕も, 君を裏切りたくはない. でも, このままでは楓枝が…」

彼の言葉は, 私の心を打ち砕いた. 裏切り. その言葉が, 私の頭の中で何度も反響した. 彼は私を裏切るのか? 私たちの愛は, これほどまでに脆かったのか?

「純斗, あなたもなの? 」私は信じられない思いで彼を見上げた. 彼の瞳には, 迷いと苦痛が入り混じっていた. しかし, その迷いの奥には, 私への愛情よりも, 楓枝への同情が深く根付いているように見えた.

「莉紗, 後でちゃんと説明する. これは, 楓枝のためなんだ」彼はそう言って, 私から目を逸らした. その瞬間, 私の心の中に, 冷たい虚無感が広がった.

「嫌よ! 私は譲らない! 」私は必死に抵抗した. この結婚式は, 私が長年夢見てきたものだった. 純斗との未来を信じて, これまで全てを捧げてきたのだ.

しかし, 私の抵抗は無意味だった. 両親は私を力ずくで引っ張り, 純斗は無言でそれを傍観した. 彼らは私を奥の部屋に押し込み, 鍵をかけた. 暗闇と沈黙が, 私を包み込んだ.

「大丈夫だよ, 莉紗. 式が終わったらすぐに迎えに来るから. 楓枝の最後の願いなんだ」父の声が, ドアの向こうから聞こえた. その声は優しかったが, 私には全く響かなかった.

私は暗闇の中で震えていた. 裏切り, 絶望, そして底知れない孤独. なぜこんなことになったのか, 理解できなかった.

その直後, 突然ドアが乱暴に開け放たれた. そこに立っていたのは, 見知らぬ男だった. 彼は私の顔を見るなり, 無表情な顔でナイフを振り上げた.

私は悲鳴を上げる間もなく, 鋭い痛みに襲われた. 視界が急速に暗くなり, 意識が遠のいていく. 私の人生は, こんなにもあっけなく終わってしまうのか. 純斗, 両親, 楓枝…彼らの顔が走馬灯のように脳裏をよぎった.

次に目覚めたとき, 私は宙に浮いていた. 自分の体が, その場に横たわっているのが見えた. 血まみれのドレス, 冷たくなった肌. ああ, 私は死んだのだ.

私の魂は, そのまま式場へと向かった. そこでは, 私の結婚式が執り行われていた. しかし, 花嫁の座にいるのは, 楓枝だった. 彼女は, 私のために用意されたウェディングドレスを身につけ, 純斗の隣で微笑んでいた.

祝福の拍手と, 幸せそうな人々の声. その全てが, 私には遠い幻のように聞こえた. これは, 私の結婚式のはずだったのに.

純斗は, 楓枝の手を握り, 愛の誓いを立てていた. その声は, 私に誓ったときと同じくらい, いや, それ以上に情熱的に聞こえた. 私の心は, 凍りついたままだった.

両親は, 楓枝の隣で満面の笑みを浮かべていた. 彼らの目には, 私への後悔の念など微塵もなかった. ただ, 楓枝が幸せそうであることに, 心から満足しているようだった.

私はその光景をただ見ていることしかできなかった. 痛みも, 悲しみも, もはや感じなかった. ただ, 深い虚無感が私を支配していた.

楓枝は, 純斗の胸に顔をうずめた. 彼女の耳元で, 純斗が何かを囁いている. 楓枝は顔を上げ, 満面の笑みで純斗を見つめた. その笑顔は, 病弱な妹のそれとはかけ離れた, 悪意に満ちたものに見えた.

私は, あのドレスが, 私のためにデザインされたものであることを知っていた. 純白のシルク, 繊細なレース, そして手刺繍のパール. 純斗が私に贈ってくれた, 世界に一つだけのドレス. なのに, 今それを身につけているのは楓枝だ. まるで, 私の存在が最初からなかったかのように.

祭壇の上の純斗は, 楓枝の腰に手を回していた. その指輪は, 私が選んだデザインだった. あの時, 純斗は「君に似合う最高の指輪だ」と言ってくれたのに. 私の心は, 粉々に砕け散った.

式は滞りなく進み, 二人は誓いのキスを交わした. その瞬間, 私の魂は激しく震えた. 純斗は, 私とキスをする時よりも, もっと深く, もっと情熱的に楓枝とキスをしているように見えた.

両親の顔は, 喜びで輝いていた. 彼らは, 楓枝の病気が治ったかのように, 心から安堵しているようだった. その姿を見て, 私は確信した. 楓枝の病気は, 嘘だったのだ. 全ては, 私のものを奪うための, 巧妙な策略だったのだと.

私は, 私たちの出会いを思い出そうとした. 純斗は, 私に一目惚れしたと言っていた. だが, それは真実だったのか? もしかしたら, 彼は最初から楓枝に惹かれていたのかもしれない. 私との交際は, 楓枝の病気を隠すための, あるいは私を油断させるための偽装だったのかもしれない.

結婚式の準備中, 純斗は時折, 奇妙な行動をとることがあった. 私が忙しい時に限って, 楓枝の様子を尋ねたり, 彼女の体調を気遣ったりする回数が多かった. 当時は, 優しい人だと思っていたが, 今思えば, 全ての言動が不自然だった.

私は死んだ. 私の全てを奪われた. なぜ? なぜ, 彼らは私を犠牲にしたのか? 私が何をしたというのか? 私は, あの男に殺された. あの男は, 誰の指示で私を殺したのか? 楓枝なのか? 純斗なのか?

私は自分の死に, 深い怒りと絶望を感じた. しかし, それ以上に, 彼らが私の死を, 自分たちの幸せの踏み台にしたことへの, 激しい憎悪に駆られた.

式が終わり, 純斗と楓枝は, 拍手喝采の中, 堂々とバージンロードを歩いていく. 彼らは, 私という存在が, まるで最初からなかったかのように振る舞っていた. 私の魂は, 冷たい風に吹かれ, 彼らの後ろをただ虚しく漂うしかなかった.

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