身籠ったのは、元カレの叔父でした。 の小説カバー

身籠ったのは、元カレの叔父でした。

8.6 / 10.0
新婚初夜、信じていた夫の裏切りを知った彼女は、失意のあまり泥酔し、見知らぬ男の寝室へと迷い込んでしまう。そこで交わされた狂乱の一夜が、彼女の運命を大きく変えた。腹に宿った新しい命。その父親は、京城の頂点に君臨する絶対権力者であり、あろうことか裏切った元夫の「叔父」だったのだ。恐ろしさのあまり逃亡を図る彼女だったが、冷酷な支配者が放つ執拗な包囲網からは逃げられない。一方、身勝手な未練を抱く元夫は、再び彼女に復縁を迫るという愚行に出る。そんな元夫に対し、彼女は背後に立つ最強の庇護者を見据え、冷徹に言い放った。「復縁したいなら、あなたの叔父様に許可を取ってみて」と。衆人環視のなか、女嫌いとして知られる冷徹な男が彼女の腰を強く抱き寄せ、隠しきれない独占欲を露わにする。「これからは彼女を叔母上と呼ぶがいい」――。その一言に、元夫は絶望し言葉を失う。権力者の歪んだ愛と復讐が交錯する、衝撃のロマンスが幕を開ける。

身籠ったのは、元カレの叔父でした。 第1章

清水汐里は妊娠していた。

――だが、その子は、夫の子ではない。

診察室を出た彼女は、妊娠検査の紙を強く握りしめたまま、足元がふらついて思わず立ち止まった。あまりに突然の出来事に、頭が追いつかない。まさに晴天の霹靂だった。

つい最近、五年間付き合ってきた恋人と結婚式を挙げたばかりだ。しかし新婚初夜、彼女は知ってしまった。夫の裏切りを。彼のスマートフォンには、見知らぬ女との親密な写真が、これでもかというほど並んでいた。

胸が張り裂けそうになり、汐里は酒に溺れた。そして、ふらふらと歩いた先で、彼女は誤って別の部屋に足を踏み入れてしまった。

そこで出会ったのは、見ず知らずの男だった。その夜のことを、彼女ははっきりとは覚えていない。ただ、男の放つ圧倒的な存在感。やけに広い部屋。そして、息が詰まりそうになるほどの重圧だけが、今も身体に焼きついている。

翌朝、彼女は相手の顔をきちんと見る勇気もないまま、逃げるように部屋を後にした。

まさか、あの一夜の過ちが、こんな形で現実になるなんて――。

汐里はどうすればいいのか分からず、焦りと不安に心をかき乱されていた。

そのとき、新婚の夫からメッセージが届く。

「汐里、もう病院の外に着いた。待ってるよ」

画面を見つめたまま、汐里は何も返さず、静かにスマートフォンをポケットにしまった。そして、そのままエレベーターへと向かう。

ここ数日、食欲がなく、めまいも続いていた。耐えきれず受診しただけだったのに、まさか妊娠だなんて。

病院の正面玄関を出ると、汐里は一目で伏見彰人の黒いベンツを見つけた。

胸いっぱいに息を吸い込み、彼女は足早に車へと向かう。

彰人は車を降り、彼女のためにドアを開けた。仕立てのいい黒いスーツに身を包み、その姿は相変わらず端正で、どこか知的な雰囲気すら漂わせている。

「先生は、何て言ってた?」

「胃の調子がよくないって」

「君、普段から辛いもの好きだろ。これからは少し控えないと。胃を悪くしたら大変だ」

汐里は軽く、曖昧に相槌を打った。車に乗り込んだ瞬間、ふわりと鼻をかすめる香りがあった。ごく淡い、女物の香水の匂い。彰人は、車内に香水を置くのを嫌う人だった。つまり――この香りは、別の女が残していったものだ。

彰人は何も知らない顔で彼女の頭に手を伸ばし、優しく撫でる。「今日は家まで送るよ。ゆっくり休んだほうがいい。俺はそのあと会社に戻らないと」

「うん」

車は信号待ちで止まり、彰人は電話に出た。

その間、汐里は無意識に身体を動かし、座席に手を伸ばす。指先に触れたのは、柔らかな布地。――ピンク色のシルクのスカーフだった。

汐里はそれを手に取り、目を伏せた。見覚えがあった。はっきりと。

通話を終えた彰人が、こちらを向いて穏やかに言う。「汐里、家に送ったら、そのまま会議で――」

彼女はスカーフを持ち上げ、低い声で遮った。「……これ、誰の?」

一瞬、彰人の瞳が揺れた。ほんの一瞬だけ。だがすぐに、気まずそうに笑みを浮かべる。「今朝の取引先の人じゃないかな。車に忘れていったんだろ。明日、返しておくよ」

彰人が手を伸ばしてスカーフを取ろうとした、その瞬間――汐里はさっと身を引き、彼の手を避けた。「彰人……私たち、離婚しましょう」

車内の空気が、一気に張り詰める。「汐里、たかがスカーフ一本だろ?なんでそんなに大げさにするんだ。離婚なんて、そんな軽々しく言うものじゃない」

「……ふふ」汐里は乾いた笑いを漏らした。「いつまで、私を騙すつもりだったの?新婚初夜、あなたが外に出て行ったのも――あの女のところだったんでしょう?」

それまで平静を装っていた彰人の表情が、わずかに崩れた。焦りが、隠しきれずに滲み出る。「違う。あれは急な打ち合わせが入っただけだ。君が思ってるようなことじゃない」

汐里は、もうそれ以上聞く気にもならなかった。彼は裏切った。そして自分は、別の男の子を宿している。この結婚が、もう続けられないことなど、考えるまでもない。

「……長い付き合いだったんだから。せめて、きれいに終わりましょう」 そう言い残し、彼女はドアを押し開け、車を降りた。

後部座席に取り残された彰人は、呆然としたまましばらく動けずにいたが、やがて苛立ちを爆発させるように、ハンドルを強く叩いた。

汐里はタクシーを拾い、ひとりで家へ戻った。玄関を開けた瞬間、目に飛び込んでくるのは、まだ色褪せない祝祭の名残。部屋中に飾られた、赤や白の装飾。リビングの中央には、幸せそうに笑う二人のウェディングフォトが飾られている。――あまりにも、皮肉だった。

新婚初夜のあの晩、彼女のもとには、彰人が小林穂香と関係を持っている証拠の写真が、次々と届いた。目を背けたくなるほど、露骨で、不快なものばかりだった。

あんなことを、平然とできる人だったなんて。そう思うたびに、胸が締めつけられる。怒りと悲しみがない交ぜになり、込み上げてくる。五年間――彼に捧げた青春は、全部が笑い物に終わった。

汐里は、その場に崩れ落ちるように膝をついた。両手で胸元を強く掴み、息が詰まるのも構わず、必死に耐える。積もり積もった屈辱と痛みが、この瞬間、堰を切ったように溢れ出していった。

涙は、切れた数珠のように、止めどなく頬を伝って落ちた。

どれほど泣き続けたのか、自分でも分からない。気づいたときには、身体の奥まで力が抜けていた。

深夜になって、彰人が車で帰ってきた。

汐里は新婚の寝室のベッドに、静かに横たわっていた。背中に、広い胸板の温もりが触れたとき、彼女はゆっくりと目を閉じる。

彰人の身体は、外の夜気をまとってひんやりとしていた。布団越しに彼女を抱き寄せ、低い声で囁く。「汐里……もう、喧嘩はやめよう。今日のことは、俺が悪かった。謝る。もう二度と、あんなことはしない。……愛してる」

その言葉に、胸がざわついた。汐里は、彼の腕の中にいること自体が耐えがたく、わざと内側へと身をずらす。

彰人は小さく、くすりと笑った。衣擦れの音がして、彼はさらに距離を詰めてくる。

「今夜、ちゃんと夫婦になろう。もう、気分は落ち着いたんだろ?」

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