魂だけが知る残酷な真実 の小説カバー

魂だけが知る残酷な真実

8.2 / 10.0
意識が肉体を離れ、幽体となった私は、手術台に横たわる無残な己の姿を見下ろしていた。執刀医としてメスを振るうのは、かつて愛を誓い合った男、光登。彼は最愛の女性を救うという名目のもと、私の腎臓を冷酷に抉り出していく。その作業の最中、彼は私のお腹に宿る小さな命の兆しに気づいた。それは紛れもなく、彼との間に授かった新しい命だった。しかし、光登の瞳に慈悲の色はない。彼は「残りは処分しろ」と吐き捨てると、まだ温かみの残る私の体を硫酸が満ちたプールへと容赦なく投げ込んだのだ。かつて彼が病に倒れた際、自らの腎臓を一つ捧げて命を繋ぎ止めたのは誰だったのか。その身に彼の子供を宿し、誰よりも彼を愛し抜いたのが私であることに、彼は最後まで気づくことはなかったのだろうか。裏切りと残酷な殺意の果てに、魂だけが知るあまりにも悲劇的な真実が浮き彫りになっていく。愛した男の手によって、母子ともに闇へと葬られた女の怨嗟が、静かに、そして深く響き渡る。

魂だけが知る残酷な真実 第1章

私の魂は, 手術台に横たわる自分の体を見下ろしていた.

メスを握るのは, 私が愛した男, 光登. 彼は私の腎臓を彼の想い人のためにえぐり出すと, 冷たく言い放った. 「残りは処分しろ」

その時, 彼は私のお腹にかすかな膨らみを見つける. そこには彼の子供が宿っていた.

それでも光登は躊躇わず, 私の体を硫酸のプールへ投げ込んだ.

彼を救うため片方の腎臓を捧げ, 彼の子供を身籠った私だと, 本当に, 本当に気づいていなかったの?

第1章

松永翔世 POV:

私の体は, 簡素な手術台の上に冷たく横たわっていた.

まだ, わずかなぬくもりが残っていたけれど, それはもう私のものではなかった.

周りの人々は, 私の存在にまるで関心がなかった.

彼らの視線は, 無機質な器具や, 次に何をすべきかを示す指示書に向けられていた.

私の魂は, 宙を漂い, この信じられない光景をただ見下ろしていた.

ひんやりとした空気が肌を撫でる.

誰かが私に近づいてくるのが分かった.

手には, 鈍く光るメス.

その人物は私の胸に手を置いた.

まるで彫刻家が傑作を完成させるかのように, ゆっくりと, そして精密に, 私の胸郭を切り開いていく.

血がにじみ, 鮮やかな赤色が白い布に滲んでいく.

痛みはなかった.

ただ, すべてを冷徹に見つめているだけだった.

「腎臓は一つだけか…? 」

その声が聞こえた時, 体の奥底で何かがざわめいた.

私は, その言葉の意味を理解した.

そして, その驚きが, 彼らにとってはただの事実確認でしかないことに, 深い絶望を感じた.

しかし, 彼の手は止まらなかった.

迷わず, 次の作業へと移る.

その手つきは, あまりにも熟練していて, あまりにも冷酷だった.

彼の専門性が, 私をさらに非人間的な存在へと貶める.

温かい血に染まった臓器が, 私の体から抜き取られた.

それは, まるで宝石のように, 特別な容器に入れられた.

ガラスの向こうで, 私の体の一部が脈打っているのが見えた.

皮肉にも, それは私自身よりも, ずっと生き生きとして見えた.

「これをすぐに病院へ. 移植の手配をさせろ. 」

彼の声は命令だった.

その臓器が, 誰かの命を救うために使われるのだと分かった.

だが, その「誰か」のために, 私の命が奪われたのだという事実が, 私の心を締め付けた.

「残った方はどうしますか, 光登さん? 」

もう一人の声がした.

健吾の声だった.

私の魂は, その声に反応して, 彼の顔を見上げた.

彼の表情には, かすかな戸惑いが見えたけれど, それはすぐに消え去った.

「こんなもの, どうせ誰も探しに来やしないさ. 身元不明の死体だ. 警察に連絡しても, 面倒が増えるだけだ. 」

光登は冷たく言い放った.

その言葉が, 私の魂を深く切り裂いた.

私は, 彼にとって, もうただの「もの」でしかなかったのだ.

健吾は, 少し不満そうな顔をしていたが, 光登の言葉に逆らうことはできなかった.

光登は, 血に濡れた手を洗い流した.

その顔には, 一切の感情が宿っていなかった.

まるで, ただの日常業務を終えたかのように, 淡々としていた.

「念のため, 処分してしまえ. 」

彼の声は, 疲れているように聞こえた.

だが, その言葉には, 深い冷酷さが潜んでいた.

私の体は, 彼にとって, もう何の価値もない, ただの邪魔な存在だった.

健吾は, 光登の言葉に納得できないようだったが, 何も言い返せなかった.

彼は, 私の体を, まるでゴミのように扱う光登の姿を見ていた.

私という存在は, あの時, 完全に消え去った.

ただの「胴体」として扱われ, その残骸すらも, 彼らの手によって消されようとしていた.

臓器だけが, 彼らにとって価値のあるものだった.

健吾の疑問は, 光登によって一蹴された.

彼の目には, 私への軽蔑と, 深い無関心しかなかった.

私の魂は, そこで, すべての希望を失った.

「念のため, 処分してしまえ. 」

その言葉が, 私の最期の記憶となった.

続きを読む

魂だけが知る残酷な真実 目次一覧

Ch. 1 Ch. 2 Ch. 3
Ch. 4
Ch. 5
Ch. 6
Ch. 7
Ch. 8
Ch. 9
Ch. 10
Ch. 11
all

おすすめの作品

新着リリース小説

男装17年、女帝はじめました の小説カバー
8.0
生まれた瞬間、母の野心によって性別を偽る運命を背負わされた皇太子。あるはずの「男の証」を持たぬまま、過酷な胸の締め付けと男装に耐え、十七年もの歳月を皇太子として完璧に演じ抜いてきた。文武両道で聡明な後継者として名を馳せるも、ついにその正体が露見する日が訪れる。裏切られたと感じた忠臣たちが怒りの眼差しを向け、死罪を免れない絶体絶命の窮地に立たされた時、彼女は静かに剣を抜き放ち、世の理を覆す宣言を放った。「女が皇帝になってはならぬと、誰が決めたのか」と。自らの力で帝位を掴み取った彼女を待っていたのは、かつて共に学問に励んだ文官と、武芸を叩き込んでくれた武官による、熾烈な寵愛争いだった。かつての仲間から側室候補となった彼らの肩を抱き寄せ、女帝は不敵に微笑む。後宮にさらなる新人が増える未来を見据え、嫉妬に燃える男たちを軽やかにいなしていく。男装の皇太子から前代未聞の女帝へ。彼女の歩む道には、華やかな恋の火花と波乱の治世が待ち受けていた。
裏切られた女、結婚式で笑う の小説カバー
8.1
婚約から3年、信じていた彼に裏切られた。彼は私の親友と不倫関係に陥り、それを隠すどころか周囲に堂々と見せびらかしたのだ。かつては幼なじみとして絆を育んだはずの私は、業界内の嘲笑の的にされていた。彼は、私が彼への執着ゆえに何をされても耐え忍び、決して離れないと高を括っていたのだろう。しかし、そんな彼の独りよがりな確信は、ある日突然崩れ去ることになる。私の隣に新たな伴侶となる名家の御曹司が現れ、彼のもとに結婚式の招待状が届いたのだ。さらに追い打ちをかけるように、私と新しいパートナーの婚姻届が世間に公開された。迎えた式の当日、かつての傲慢な姿は消え失せ、必死に土下座して謝罪を繰り返す彼の姿があった。そんな彼を冷徹な眼差しで見下ろしながら、私は隣に立つ夫の腕を抱き、静かに告げる。「あなたのような人と関わっていた過去こそが、私にとって最大の恥だわ」と。これは、裏切りに甘んじていた女が完璧な復讐を果たし、真の幸せを掴み取るまでの物語である。
愛を諦めた妻:冷酷な財閥夫の遅すぎる執着 の小説カバー
8.5
流産手術直後の孤独な病室で、私は夫である九条グループ社長が人気女優をエスコートする姿をテレビで目撃する。夫からの連絡は体調を気遣うものではなく、冷徹な呼び出しだった。這うように向かった先では、義母と義妹から「跡継ぎも産めない無能」と罵倒されるが、夫は私を庇うどころか、女優からの電話一本で態度を変え、高熱に苦しむ私を嵐の山道に置き去りにした。彼は、五年前の火災で自分の命を救った真の恩人が、女優ではなく私であることに気づいていない。理不尽な仕打ちと深い絶望の果てに、私の中で何かが決壊した。私は離婚届に署名し、これまでの惨めな自分を捨て去る。真っ赤なルージュを引き、自分を虐げた者たちへの冷徹な反撃を開始する。同時に、亡き兄の死に隠された真相を暴くための孤独な戦いが幕を開ける。もう誰にも媚びることはない。愛を捨てた妻の、苛烈な逆襲劇が今ここから始まる。
新婚初夜、車椅子の御曹司がいきなり立ち上がってキス!? の小説カバー
9.2
結婚式当日、バージンロードで婚約者に裏切られた星川理緒。隣の式場でも、車椅子の御曹司・一之瀬悠介が花嫁に逃げ出されるという悲劇に見舞われていた。互いに伴侶を失った最悪の状況下、理緒は廊下で出会った悠介に「私たちで結婚しない?」と大胆な提案を持ちかける。世間の嘲笑を背に始まったのは、利害が一致しただけの“契約結婚”だった。悠介は彼女を金目当てのスペアだと蔑み、「足に触れるな、用が済めば即離婚だ」と冷淡に突き放す。しかし、献身的な理緒と過ごすうちに、彼の心には冷徹な態度とは裏腹な感情が芽生え始めていた。ある日、悠介が枕元の離婚届を見つけ、彼女を失う恐怖に焦りを感じた瞬間、物語は急展開を迎える。新婚初夜、動かないはずの足で車椅子を蹴り捨てて立ち上がった悠介は、驚く理緒を強引に抱き寄せた。足の麻痺はすでに完治していたのだ。「離婚なんて認めない。この契約は一生有効だ」と、彼は満面の笑みで宣言する。嘘から始まった二人の関係は、甘く執着に満ちた真実の愛へと変貌していく。
離婚届にサインしたら、私は元夫では手の届かない真の令嬢でした の小説カバー
9.5
交通事故で視力を失い、誰からも見捨てられた蕭明隼人を救ったのは、明石凛ただ一人だった。彼女は彼と結婚し、三年の歳月を費やしてその目を治療する。しかし、視力を取り戻した隼人が彼女に突きつけたのは、あまりに非情な離婚届だった。かつての恋人・秋子との時間を奪ったと凛を責め立てる彼は、三億円の宝飾品を贈り、彼女を冷酷に追い出す。世間からも「身の程知らず」と嘲笑され、全てを失ったかのように見えた凛。だが、彼女こそが隼人の目を治した名医であり、三億のジュエリーを手がけたデザイナー、さらにはウォール街やハッカー界を震撼させる伝説の天才にして、大統領家の真の令嬢という正体を持っていた。真実を知り、後悔に震えながら復縁を乞う元夫の前に、京の実業界に君臨する冷徹な権力者が現れる。「彼女は俺の妻だ」と宣言し、凛を抱き寄せる男。その傍らで、彼女は余裕に満ちた微笑を浮かべる。かつての献身を捨て、真の輝きを取り戻した令嬢による、華麗なる逆転劇が幕を開ける。
彼の秘められた跡継ぎ、彼女の逃亡 の小説カバー
9.8
画家として念願だった初の個展。その輝かしいオープニングの夜、夫は私の隣に現れなかった。彼がどこで何をしていたのか、私は残酷な形で知ることになる。テレビのニュース画面の中で、夫は無数のフラッシュを浴びながら、別の女性を熱心に守っていたのだ。ギャラリー中の視線が突き刺さる中、私の世界は音を立てて崩壊した。追い打ちをかけるように届いたのは、「佳菜子さんが俺を必要としている。君なら一人でも大丈夫だろう」という冷酷なメッセージ。夫は数百億円規模の企業を築き上げたが、その礎が私の芸術であったことなど忘れ去り、長年私の活動を「趣味」と蔑んできた。私は彼にとって、もはや存在しないも同然だったのだ。これ以上の屈辱に耐えるつもりはない。私は弁護士に連絡し、夫の傲慢さを利用したある計画を打ち明けた。私を会社から追い出すためなら、彼は中身も見ずに書類に署名するはずだ。私は離婚届を退屈な知的財産の許諾書類に偽装し、彼に突きつける決意を固めた。静かな復讐と、自由への逃亡がここから始まる。
今すぐ読む
共有