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娘の葬儀を逃した夫、転生した私に狂う の小説カバー

娘の葬儀を逃した夫、転生した私に狂う

午後3時14分、娘のチーちゃんが静かに息を引き取った。最期の瞬間まで「パパに会いたい」と泣き続けた娘の願いは届かず、夫の鷹司暁は愛人の新田凛と密会していた。娘の治療費を頼んだ際も、彼は愛人を優先して私を冷酷に突き放したのだ。絶望の底で娘を一人で見送った私は、自らの夢も人生も捧げて尽くしてきた5年間の犠牲を激しく後悔し、血の涙を流して彼を呪った。すると突如、眩暈と共に意識が遠のき、目を開けるとそこは1年前のパーティー会場だった。視線の先には、まだ命の灯が消えていない愛しい娘の姿がある。私はもう二度と、大切な宝物を理不尽な死に追いやるつもりはない。自らの手で運命を書き換えるため、私は夫の目の前で結婚指輪を床に投げ捨て、毅然と離婚を突きつけた。かつてJAXAの天才エンジニアという未来を捨てた私が、今度は娘を守り抜き、失ったすべてを取り戻すための戦いを始める。後悔に狂う夫を背に、私は愛する娘を抱きしめて新たな人生を歩み出す。
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3

「誰がそんな許可を?」

鷹司暁の鋭い声が、静寂を切り裂いた。火葬完了、という言葉の意味を、彼の脳が理解することを拒絶している。

「社長……あなた様ご自身のサインが……」

秘書の震える声が、無慈悲な現実を突きつける。暁の記憶が、数時間前の光景にフラッシュバックした。靜の氷のように冷たい顔。デスクに置かれた二枚の書類。自分が何を承認したのかを、彼はその瞬間、全身の血が凍るような感覚と共に理解した。

「ぐっ……!」

獣のような呻き声が漏れる。彼はデスクの上の書類を全て腕で薙ぎ払った。高価な万年筆やクリスタルのペーパーウェイトが床に散乱する音も耳に入らない。狂ったようにオフィスを飛び出し、エレベーターホールへと走る。

ポケットからスマートフォンを取り出し、何度も靜の番号をタップするが、聞こえてくるのは冷たい機械音声だけだった。

『おかけになった電話は、電源が入っていないか……』

地下駐車場で愛車のエンジンを咆哮させ、彼は火葬場へと向かった。アクセルを床まで踏み込む。脳裏に、チーちゃんが掠れた声で「パパ」と呼んだ記憶が蘇る。父親としての感情が、永遠に失われるという恐怖の直前になって、堰を切ったように噴き出してくる。

火葬場に滑り込むように車を停め、彼は建物の中に駆け込んだ。

そして、見てしまった。

職員が、小さな白木の箱を、靜に手渡しているところを。

その箱が何であるか、理解した瞬間、暁の世界は音を立てて崩壊した。

「やめろ……!」

彼は叫びながら駆け寄ろうとするが、異様な雰囲気を察した職員に両腕を掴まれ、制止される。

靜が、ゆっくりと振り返った。彼女は骨壷を、まるで壊れ物を扱うように、大切に胸に抱いている。その顔には、何の感情も浮かんでいない。美しいだけの、魂の抜け落ちた人形のようだった。

「靜!なぜだ!なぜこんなことを!」

暁は、捕らえられた獣のように吼えた。

靜は、ただ彼を一瞥した。その瞳は、道端の石ころを見るように冷え切っていた。そこには、かつて夫に向けられた愛情も、憎しみさえも、何もなかった。完全な無。

その視線が、暁の心を完全に打ち砕いた。

「あ…ああああああああああッ!」

膝から崩れ落ち、彼は生まれて初めて、人前で慟哭した。後悔と絶望が、彼のプライドを粉々に砕き、ただの無力な男へと引きずり下ろす。

その時だった。

靜の体が、ぐらりと揺れた。目の前で泣き崩れる男の姿が歪み、耳元で響いていたはずの悲鳴が急速に遠のいていく。激しい眩暈。

次の瞬間、彼女を包んでいたのは、火葬場の厳粛な空気ではなく、喧騒と、香水の甘い香り、そして人々の楽しげな笑い声だった。

「……え?」

彼女は自分が、鷹司家の豪奢なパーティーホールの真ん中に立っていることに気づいた。体には、窮屈なオートクチュールのドレス。手には、飲みかけのシャンパングラス。

自分の手を見つめる。緊張で握りしめ、爪の跡がついていたはずの掌は、今は優雅にグラスを支えている。

「ママ、僕のプレゼントはまだ?」

不機見な声と共に、小さなタキシードを着た男の子が彼女のドレスの裾を引っ張った。

ナナ。

今日は、ナナの5歳の誕生日パーティー。

一年前の、今日。

「っ……!」

巨大な衝撃に、靜の体が震えた。彼女は周囲を見回す。あの小さな、愛しい姿を探して。

いた。

パーティーホールの隅。きらびやかな輪から外れた場所で、サイズの合わない、少し色褪せたワンピースを着たチーちゃんが、不安そうにこちらを見ていた。その小さな手には、不格好なラッピングのプレゼントが固く握られている。

生きてる。

チーちゃんが、生きている。

涙が視界を滲ませる。靜は、周囲の目も、マナーも、何もかもを忘れて、娘の元へ駆け寄った。

「チーちゃん!」

小さな体を、壊さないように、しかし力いっぱい抱きしめる。温かい。柔らかい。確かに、ここにいる。

「ママ、どうしたの?ナナ兄ちゃんの誕生日だよ」

突然のことに驚いたチーちゃんが、腕の中で戸惑ったように呟いた。

「……うん、そうね……」

喜びと、前世の記憶からくる恐怖で、声が震えて言葉にならない。

わかった。私は、戻ってきたんだ。全ての悲劇が始まる、一年前のこの日に。

「凛ママ、ママがチーちゃんばっかり!」

不満そうなナナの声がした。彼はいつの間にかそばに来て、新田凛の手を引いて告げ口をしている。

凛は優しくナナを宥めながら、靜に向かって言った。その声は、完璧に計算された優しさに満ちている。

「靜さん、主役はナナくんなのよ」

そこへ、鷹司暁も眉を顰めながら近づいてきた。

「みっともない、客が見ている」

前世で、幾度となく聞かされた言葉。彼女の全てを否定する、冷たい声。

前世の絶望と、今生の希望が、靜の頭の中で交錯する。

彼女は、ゆっくりと立ち上がった。チーちゃんを腕に抱いたまま、目の前に立つ、「幸せそうな家族」を見つめる。鷹司暁。彼に庇われるように立つ新田凛。そして、その凛に甘えるナナ。

靜は、微笑んだ。

そして、パーティーホールにいる全員に聞こえる、凛とした声で言った。

「ええ、そうね、だから、主役のナナくんと、彼の本当の母親であるあなたを、鷹司暁さんにお返しするわ」

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