血に染まる羽衣 の小説カバー

血に染まる羽衣

9.6 / 10.0
「血に染まる羽衣」は、母の命を奪った帝国への復讐を誓う少女の物語です。仙女であった母は、皇帝に羽衣を奪われ囚われの身となっていました。母の最期を看取った主人公・阿狸は、復讐のために過酷な運命へと足を踏み入れます。本作は緻密な謎が絡み合うmystery要素と、壮大な世界観で描かれるfantasyの魅力が詰まった作品です。母の遺志を継ぎ、一人で歩み始めた彼女を待ち受ける真実とは。手に汗握るactionシーンも必見の、今すぐ読めるwebnovelです。fiction fantasy novelsの中でも、一際異彩を放つ復讐劇をオンラインで体験してください。
「血に染まる羽衣」のあらすじ
世間では美談として語り継がれる、天上の仙女と人間の皇帝による愛の物語。しかし、その裏側に隠された凄惨な真実を、娘である阿狸だけは知っていた。母は法力の源である羽衣を奪われ、父によって無理やり人間界に繋ぎ止められていたのだ。七歳の夜、阿狸が目にしたのは、皇帝の腕の中で屈辱に耐え、心身ともに衰弱しきった母の姿だった。母は死の間際、娘の身を案じて「早く逃げなさい」と告げ、自らの命を賭して阿狸に自由を託す。血に染まりながらも、最後には呪縛から解き放たれたような晴れやかな笑みを浮かべて息を引き取った母。その冷たくなった亡骸を抱きしめ、阿狸の手には一本の小刀が固く握りしめられていた。母を苦しめ、その尊厳を蹂躙し続けた者たちへの激しい憎悪が、彼女の心に消えない復讐の火を灯す。母が命を懸けて切り拓いてくれた孤独な道の先で、阿狸は誓う。母を虐げたすべての人間に、必ずや死の報いを受けさせることを。悲劇の連鎖を断ち切るため、彼女は修羅の道へと足を踏み出す。
もっと見る

血に染まる羽衣 第1章

母は、天上の仙女であった。

父のために人界に残り、その貞淑な愛は美しい物語として語り継がれた。

けれど、私だけが知っている。母は全ての法力をその身に宿す羽衣を奪われ、無理やりこの地に縛り付けられているのだと。

七歳の夜、私は母の部屋の扉を叩いた。

肌も露わな母は、ぐったりとしたまま帝である父の腕に抱かれ、屈辱に唇を噛んでいた。

母は私を抱きしめ、言った。「阿狸、早くお行き。二度と戻ってきてはだめ」

後に、母は血まみれで私の腕の中に横たわり、晴れ晴れとした顔で笑った。

「阿狸、母さんがしてあげられるのは、ここまでよ」

「この先の道は、あなた一人で歩きなさい」

母の亡骸を抱きしめ、私は手の中の小刀を強く、強く握りしめた。

「母さん、安心して」

「すぐにあの人たちを、あなたの元へ送ってあげるから」

……

私は丞相の一人娘であり、帝に公主の称号を与えられ、摂政王の義理の娘でもある。

あの三人は皆、母の美しさにひれ伏し、それはそれは丁重に、慈しむように母を扱った。

私が生まれる前から、母は太后に仕えるという名目で宮中に召されていた。

私も生まれてすぐに、特例として宮中で養われることになった。

母の宮殿は豪奢を極め、調度品はどれも千金の価値があり、何十人もの侍女が母の身の回りの世話をしていた。

なぜなら母は、天上の仙女だから。

愛のために、人界に残ることを選んだのだと、人々は噂した。

母は丞相である父と貧しい頃に結ばれ、支え合いながら父を丞相の地位まで押し上げた。

二人の愛の物語は、民衆の間で美談として語り継がれている。

愛も権力も手にした世界で一番幸せな女。母を羨まない女はいなかった。

だが、誰もが間違っている。

母は、無理やり人界に留め置かれているのだ。

仙術を受け継ぐ羽衣を父に奪われ、妻となることを強いられた。

傾国の美女、という言葉は母のためにあった。

出世欲に駆られた父は、その母を帝と摂政王に差し出した。

そうして、丞相の地位まで上り詰めたのだ。

やがて、母は身ごもった。

帝である父は激怒し、母に子を堕ろすよう命じた。

丞相の父も、それに賛成した。

母を淫らな女と見なし、腹の子が自分の血を引いているとは思えなかったからだ。

しかし母は、頭に挿していた豪奢な簪を抜き取り、自らの白い首筋に突き立てて血を流した。

「この子は、必ず産みます」

「どうしても堕ろせと言うのなら、私も死にます。亡骸すら残しはしません」

あれほど激しい剣幕の母を、彼らは初めて見たのだろう。

二人の父は、顔を見合わせた。

最後に口を開いたのは、母の腹を撫でながら、意味ありげに言った摂政王の父だった。「兄上、何もそこまで追い詰めずとも良いではありませんか」

「もし万が一、阿织の身に何かあれば、彼女の血を残す者が必要でしょう?」

その言葉に二人の顔は揺らいだが、まだ迷いが見えた。

彼らの心を決めたのは、摂政王が続けた、笑っているのかいないのか分からない一言だった。

「それに、妊婦とはどんな味がするものか……少々、興味がありましてな」

その言葉に、三人は顔を見合わせ、獣のように笑った。

彼らは母の想いも、まだ生まれぬ私の命も、意に介してはいなかった。

私を生かすことを選んだのは、

ただ彼らが獣だったから。

欲望に満ちた、獣だったからだ。

幼い頃から、私が母に会うことは滅多になかった。

母の広大な宮殿の離れで、私はたった一人の乳母に世話をされて育った。

物心ついた時から、母はいつも疲れているように見えた。

ひどく寒がりで、どんなに暑い日でも、肌を隠すように衣を重ねていた。

そして、離れの戸口から、いつも遠く私を見つめていた。

幾度となく夜中に泣き喚いては、母を求めた。

乳母はいつも困ったように私をなだめるだけだった。「お嬢様、奥様は……とてもお忙しいのです。お相手をするお時間がなくて」

一度だけ、こっそり離れを抜け出し、母の寝殿の扉を叩いたことがある。

母の悲しげな声が聞こえたからだ。

扉を開けたのは、帝である父だった。彼は興醒めした様子で私を見下ろした。「璃、どうしたのだ」

母は、扉の正面にある長椅子に座っていた。

襟元は乱れ、肌には青紫の痣がいくつも浮かんでいる。

結い上げた髪はほつれ、その瞳は潤み、この世のものとは思えぬほど妖艶だった。

まだ幼かった私は、それが何を意味するのかは分からなかったが、ただならぬ雰囲気であることだけは感じ取っていた。

私は駆け寄って、無邪気に声を上げた。「母さん!会いたかった。どこか具合でも悪いの?」

母は私を見つめ、紅を引いた唇をわななかせた。

その瞳には私の知らない深い哀しみが宿り、慌てて襟元を掻き合わせた。

そして、私の髪を撫でた。

瞳から、糸の切れた真珠のように涙がこぼれ落ちる。

「阿狸、良い子ね。どうしてここに?」

「具合は悪くないのよ。ただ、あなたに会いたくなっただけ」

私を抱きしめる母の体からは、甘い茉莉花の香りがした。

それに混じる、生臭い匂い。

嫌な匂いだと思ったけれど、母を悲しませたくなくて、

その気持ちを小さな胸の奥にしまい込んだ。

母は私の額に口づけを落とすと、帝である父に懇願するような視線を向けた。

帝はすっと目を細め、余裕綽々の笑みを浮かべた。その真意は読めない。

「お前を屈服させられるのが、この子供だとはな」

「そう考えると、産ませたのも悪いことではなかった」

母は私の頬を撫でながら、優しくも哀しい眼差しを向け、その体は小刻みに震えていた。

母さんは、とても苦しそうだった。なぜだろう。

私がそばにいるのに、どうして嬉しそうじゃないんだろう。

だから私は、潤んだ瞳で母を見つめ、精一杯の笑顔を作ってみせた。

乳母が言っていた。私は母の美しさをそっくり受け継いだ、綺麗な子なのだと。

特にこの目は、母と瓜二つで、

見つめられると誰でも心が和らぐのだと。

けれど、母はもっと悲しそうな顔をした。

頬に涙を伝わせたまま、私の手を握り、そしてすぐに離した。

そして、人形のように無抵抗で、帝のもとへ歩み寄った。

「宋路、あなたのそばにいます」

「ただ、阿狸はまだ幼すぎます。どうか、お願いです。この子を丞相の屋敷へ移し、そこで育てさせてください」

帝は母の顎をくいと持ち上げると、その手を着物の合わせ目から滑り込ませた。

ならば、お前の働き次第だな」

母は耐えがたい屈辱に唇を噛み、喉からくぐもった声が漏れた。

それから帝を強く突き放し、最後の力を振り絞るように私を抱きしめた。

熱い涙が私の首筋に落ちる。母は、まだ温かい玉の飾りを私の手のひらに握らせた。

そして、囁いた。「阿狸、自分を守るのよ。二度と、宮中に戻ってきてはだめ」

「誰の命令でも。たとえ、この母が呼んでも」

「決して忘れないで。いいわね?」

続きを読む

血に染まる羽衣 目次一覧

Ch. 1 Ch. 2 Ch. 3
Ch. 4
Ch. 5
Ch. 6
Ch. 7
Ch. 8
Ch. 9
Ch. 10
Ch. 11
all

おすすめの作品

新着リリース小説

結婚記念日が復讐記念日になるなんて の小説カバー
8.9
幸せな結婚記念日、私は夫がかつて使っていた古いスマートフォンを手に取った。二人の思い出を動画にまとめようとしたのだが、起動した画面に表示されたのは「赤ちゃんの成長記」と題された見知らぬメモだった。そこには、妻である私には身に覚えのない妊娠の記録と、生まれてくる子供への深い愛情が綴られていた。動揺を抑えながら仕事中の夫に問い詰めると、彼は友人の代わりに記録を代筆しただけだと平然と嘘をつく。しかし、私は夫の言葉を信じるふりをしながら、密かに端末内のゴミ箱から削除された画像を復元した。そこに残されていたのは、見知らぬ女性の名前が記された一枚のエコー写真だった。夫の裏切りを確信した私は、怒りに震える代わりに静かに微笑みを浮かべる。そして、次なる一手として義母の連絡先を呼び出した。祝うべき記念日は、愛する夫への冷徹な復讐が幕を開ける記念日へと変貌を遂げる。真実を知った妻による、音を立てない反撃がここから始まる。
裏切りと、母の最後の誓い の小説カバー
8.9
末期の再生不良性貧血により、余命三ヶ月と宣告された美心。骨髄移植だけが唯一の希望だったが、ドナーとして適合した姉の聖穂と恋人の一歩は、彼女の救済を冷酷に拒絶する。二人の目的は、美心の死を早めることで彼女のすべてを強奪することだった。美心が心血を注いで築き上げたブランドも財産も、二人の手に渡ってしまう。さらに残酷なことに、最愛の娘までもが「聖穂ママがいい」と美心を突き放し、姉のもとへ去っていった。信頼していた者たちに裏切られ、居場所も愛も奪われた美心の心は完全に打ち砕かれる。なぜ自分だけがこれほどまでに踏みにじられ、絶望の淵に立たされなければならないのか。理不尽な運命を前に、彼女は静かに決意する。このまま無念のうちに死ぬつもりはない。自分の命が尽きるその瞬間まで、彼らの幸福を永遠に呪い、残酷な報いを受けさせるための「従順な復讐」を。裏切った者たちへの凄絶な復讐劇が、今幕を開ける。
Fire Phoenix (Japanese) の小説カバー
8.3
「Fire Phoenix」は、過酷な運命に抗いながら自らの道を切り拓く者たちの姿を鮮烈に描いたファンタジー・アクション作品です。物語の舞台となるのは、古より伝わる神秘的な力と、絶え間ない戦火が交錯する激動の世界。主人公は、伝説の霊鳥である不死鳥の如き不屈の精神を胸に、強大な敵勢力や避けられぬ宿命に立ち向かっていきます。手に汗握る手に汗握る戦闘シーンでは、緻密な戦術と圧倒的な力がぶつかり合い、読者を物語の深淵へと引き込みます。仲間との絆、裏切り、そして自己の限界を超えた成長。重厚な世界観の中で繰り広げられる人間ドラマは、単なる勧善懲悪に留まらない深みを持っています。失われた真実を追い求める旅の果てに、主人公が手にするのは希望か、それとも絶望か。緻密な構成とスピード感あふれる筆致で綴られる本作は、王道ファンタジーの醍醐味を凝縮した一冊となっています。燃え盛る炎のように熱い情熱が、静かに、しかし確実に読者の心を揺さぶることでしょう。壮大なスケールで贈る、魂を震わせる冒険譚が今、ここに幕を開けます。
夫の裏切りから始まる復讐 の小説カバー
8.1
骨髄移植を目前に控えた私を待っていたのは、最愛の夫・誠二郎による残酷な裏切りだった。彼は愛人である滝口直恵にドナーを譲るため、私を離れに監禁して治療を妨害したのだ。監禁場所では誠二郎の妹・文佳から無慈悲な暴行を受け、さらには飼い犬に腕を噛みちぎられるという地獄を味わう。激痛の中で私はお腹の子供を失い、生死の境を彷徨った。私が「死んだ」という報告を受けた際も、誠二郎は愛人との間に産まれた子を祝うばかりで、「どうせまた芝居だろう」と冷酷に言い放った。私の命も、失われた我が子の命も、彼の野心と愛欲の前では塵に等しかったのである。しかし、私は絶望の淵から這い上がった。父の助けを借りて偽装死を遂げ、北岡家の正当な後継者として新たな人生を歩み始めたのだ。それから数ヶ月後。すべてを奪われ、どん底に堕ちた誠二郎の目の前に、私は冷徹な復讐の女神として再び姿を現す。受けた屈辱と痛みのすべてを、今度は彼に味わわせるために。
国民的俳優の甘い裏切り の小説カバー
9.4
国民的俳優として絶大な人気を誇る長谷部譲康。テレビ越しに愛を囁く彼の裏の顔は、白い車の中で別の女と密会を繰り返す裏切り者だった。その不実な関係は数年にも及んでいたが、妻である私は何も知らずにいた。しかし、自身の妊娠が判明した直後、悲劇が襲う。不慮の事故に遭い、激痛の中で助けを求めて夫に電話をかけた私。だが、受話器から聞こえたのは、不倫相手である前島瑞希の艶めかしい声と、私を突き放すような夫の怒号だった。さらに瑞希からは、夫婦の営みを侮辱するような冷酷なメッセージが届き、私の心は粉々に砕け散る。絶望の淵で、私はお腹の子との別れを決断し、震える手で手術同意書に署名した。もはや夫への愛も、未来への希望も残っていない。私は自らの戸籍を捨て、社会的な死を選んでこの国から姿を消すことを決意する。偽りの仮面に隠された愛の終焉と、全てを捨てた女の再出発が今、幕を開ける。
最強奥様、裏も表も顔を持つ の小説カバー
9.7
名門・森田家の「無能な令嬢」として蔑まれ、婚約者にも見捨てられた森田柊音。そんな彼女に執着し、心を奪われたのは国際的な武器商人として恐れられる黒崎零時だった。周囲は零時の正気を疑い、柊音が彼の権力を利用していると罵声を浴びせる。しかし、彼女を破滅させようと過去を暴こうとした人々は、驚愕の事実に直面することになる。掘り起こされた彼女の真の姿は、世界を震撼させた天才科学者であり、伝説的な名医、さらには冷酷な手腕で裏社会を支配する次期ボスという、あまりに強大で多才なものだった。ネットや財閥がその正体に激震する中、当の柊音は、自分を溺愛する零時を敵のように警戒し続けていた。最強の武器商人でありながら、愛する妻に心を開いてもらえず、弱気な悩みを吐露する零時。表と裏の顔を使い分ける最強の令嬢と、彼女に翻弄される冷徹な男。二人の常識外れな関係が、世界の秩序を塗り替えていく。
章
今すぐ読む
共有