フォローする
共有
ゲームのような新世界~王道の通り冒険者で食っていこう~ の小説カバー

ゲームのような新世界~王道の通り冒険者で食っていこう~

幸運にもアルファテスターの枠を勝ち取った主人公は、最新技術が注ぎ込まれたゲームの世界へと足を踏み入れる。目の前に広がるのは、実写と見紛うほどの圧倒的なテクスチャと、五感を刺激する驚異的なリアリティを備えた未知の光景だった。しかし、没入感溢れるプレイ体験とは裏腹に、運営側からは次段階であるベータテストの告知がいつまで経っても届かない。ネット上の関連スレッドも一向に盛り上がる気配がなく、期待感は次第に言いようのない違和感へと変わっていく。周囲に漂う奇妙な静寂に包まれながら、孤独なテストプレイを継続する日々。そんな不可解な状況のままアルファテストの開始から一年の歳月が流れたとき、停滞していた物語は音を立てて動き始める。現実と仮想の境界が揺らぐような世界で、王道の冒険者として生きていくことを決意した男の軌跡がここから幕を開ける。緻密な描写で綴られるゲームライクな新世界での冒険譚。果たしてこの世界の先には何が待ち受けているのか。一人のテスターが直面する、真実へと繋がる長い旅路がいま始まる。
共有

2

夕飯を食べながら、先ほどのゲームの評判をネットで検索してみる。

 日本人テスターは殆どいないのか、検索をかけてみてもヒットするのは英語やドイツ語といった外国語の掲示板ばかりがヒットし、自動翻訳をかけつつ流し見していく。

 すると、やはり皆ケタ外れのグラフィックやサウンドに驚いているといったレビューが多く、まるでその世界にいるようだという感想が多くを占めていた。

 しかし、中には疑問に思うレビューも多く、スティックタイプのコントローラーを使っているのに、その操作感覚はVRゲームをしている時とは違う。といったものや、スティックを倒していないはずなのに歩こうと思ったら歩けたといった奇妙なものもチラホラと見受けられた。

「そういや……」

 そして何より、配信プレイをしている実況者がいない。

 普通、マーケティングという意味でも有名な実況者に配信を依頼してテスターをしてもらう。というケースはそう珍しくもないはずだ。

 それなのに、あのゲームをプレイしている配信者は有名無名を問わず一人もいないのだ。

「運営は……何もなしか」

 どこかオカルトじみた不安が首をもたげるが、調べてもデータハックだとかクラッシュしてパソコンが使い物にならなくなったというような悪評は書かれていないようだ。

「とりあえず、遊べるうちに遊んどくか……」

 俺は再びVR機器を身に着け、ゲームの世界へと入り込む。

「おかえり!」

「おう、待たせたな」

「出来ればチュートリアルで門番の人と……って言いたいんだけど、言葉が通じないからなあ」

 アテナはログインすると同時に「待ってました!」と言わんばかりに話しかけてきた。

「まあ、ぶっつけ本番でもいいんじゃないか?」

「まあいいんだけど……やられちゃうかも」

「そん時はそん時さ、またリスポンしてやり直しさ」

「ん、そうだね。ちょっと待ってね、口頭で説明できる部分はしておくからさ」

 アテナの説明だが、予想に反して思ったよりも世界観に没頭できるようなものではなかった。端的にまとめると次の通りだ。

 剣を振る時は周りの物に当たらないように注意する事。

 転がって回避するといった動きをしようとすると、非常に危険なので絶対にしてはいけない事。

 魔法を使う際は詠唱をする必要はない為、あまりにのめり込んでご近所の迷惑にならないようご注意ください。

 他にも様々な注意を受けたが、主に戦闘における操作というよりもその際にのめり込みすぎないように、といったものが主であった。

「剣を振ったりした事は無いんだけど……」

「そこは大丈夫! 色んなゲームで何となく動きのイメージは出来るでしょ?」

「イメージだけなら……な」

「それなら問題ナシ! その知識が君の力になるからね! まあハイになりすぎないようにだけ気を付けてね!」

 チュートリアルらしい説明は何もなしだ。

 若干呆れながら村の外へと向かい、アテナの指示で街道に沿って歩き続ける。

 本来であれば鬱陶しく感じる移動の時間だが、やはりNPCのAIはかなりレベルが高いのか、他愛ない会話をして時間を潰す事ができ、それはそれでまた一つの面白みだと思えるものだった。

 街道を歩き続けて10分ほど経った頃だ、二足歩行する犬のような姿が街道から外れた平原に見ることが出来た。

 その姿は非常に目立っており、その理由は彼の毛色にある。

 赤毛なのだが一般的に想像する赤毛とは違い、その色はえんじ色が一番しっくりくるような色で、周囲の風景に馴染む気が全くない毛色なのだ。

「あれがコボルト、知ってるかな?」

「比較的メジャーな雑魚敵のアレか?」

「そうそう、アイツははぐれコボルトみたいだし、試しに戦ってみるのがいいかも!」

 アテナのその言葉につられるようにして剣を抜く。

 太陽の光を受けて銀色に輝く刀身は、どこか惚れ惚れとするほどに美しく、これがゲームであるというのを忘れさせるような出来栄えのテクスチャだ。

「ええと、剣は普通に振ればいいのか?」

「そうそう、ブンブンって振ってれば大丈夫!」

 コボルトの方へと近付くと、向こうもこちらに気付いたようで吠え声をあげながら棍棒を手に駆け寄ってきた。

「っ――!」

 たかがゲーム。そうとは思えないほどの殺気を感じ、思わず腰を抜かす。

 逃がしまいと再び振るわれる棍棒を転がって避け、どうにか体勢を立て直す。

「ほら、起き上がって攻撃して!」

「わ、分かってる!」

 体全体を使って剣を思い切り振り回す。

 コボルトの体へと刃が当たった瞬間、手ごたえを感じながら剣を思い切り振りぬく。そのまま返す勢いで再び斬撃をコボルトへと叩きつけた。

 コボルトは短い悲鳴を上げ、斬られた箇所からは血は流れてはいなかったが、斬ったところが赤く光っており、明らかにダメージを受けたといった見た目になっている。

 コボルトはまだ戦う気力が残っていたのか棍棒を振り上げたが、反射的に突き出した俺の剣はそれが振り下ろされるよりも早く、彼の喉元を貫いていた。

「はぁ……はぁ……」

「思ったより苦戦したねえ」

 コボルトのHPが0になったのか、地面へと倒れるとコボルトはいくつもの光の玉となって消えて行った。

「ったり前だろ……マジな殺し合いみたいだったぞこれ……」

「まあ、ね?」

「慎重にプレイした方が色んな意味で良さそうだな……」

 肩で息をしており、心臓が早鐘のように打っているのがよく分かる。

 このゲームは目を見張るものがあるが、リアリティが高すぎる。

おすすめの作品

白いスープと雲の街 の小説カバー
8.0
照りつける太陽が眩しい夏の日のこと。裏手の畑で静かに日々を過ごしていた「ぼく」は、平穏を切り裂くような凄惨なバラバラ殺人事件を偶然にも目の当たりにしてしまう。その凄まじい光景に衝撃を受けながらも、純粋な子供たちの未来を守るため、ぼくはたった一人でこの不可解な事件の真相を突き止めることを決意する。しかし、それは想像を絶する恐怖の始まりに過ぎなかった。犯人を追ううちに、少年はやがて街の深淵に潜む、おぞましく巨大な闇へと引きずり込まれていく。本作は、残酷な事件の謎を追うミステリー要素と、背筋も凍るようなホラー、そして幻想的な世界観が複雑に絡み合うホラーファンタジーである。凄惨な殺害現場の描写や、生理的な忌避感を呼び起こすグロテスクな表現、そして精神を追い詰めるような恐怖演出が随所に散りばめられている。孤独な戦いに身を投じた少年が、呪われた街の真実を前に何を見るのか。残酷さと美しさが同居する物語の幕が今、静かに上がる。
離婚届と黒いグローブ の小説カバー
9.3
結婚七周年を迎えた記念すべき日、子作りに対する価値観の相違から陸原湊と激しい口論になり、二人の仲に亀裂が入った。その直後、彼の幼なじみがSNSに投稿した写真には、サーキットで親密に微笑み合う湊と彼女の姿があった。周囲も二人を公認のカップルのように扱う。この七年間、危険だからという理由で一度もレース場に招かれなかった自分とは対照的に、彼の傍らには常に彼女がいたのだ。かつては優しかった湊の言葉も、今では義務的な拒絶にしか聞こえない。彼が本当に大切に想っていたのは私ではなく彼女だったのだと悟り、私は結婚指輪を外して湊に離婚を突きつけた。悲しみに暮れる暇はない。私は長年封印していたガラスケースの中の黒いグローブを再び手に取る。時速三百キロの世界を危険だと決めつけ、私を遠ざけた彼への答えは、ハンドルを握るこの手で証明する。愛を捨て去った元妻が、かつての情熱を取り戻して再起する物語。
清水さん、お元気でしたか。元夫の天敵に三年越しで溺愛されています の小説カバー
8.0
結婚生活を送った三年間、清水瑠衣は冷徹な夫・立川蒼空の心を愛で溶かせると信じていた。しかし、その期待は土砂降りの夜に打ち砕かれる。彼女が命懸けで撮影したユキヒョウの写真は、夫が新恋人を写真界の頂点へ導くための道具に利用されたのだ。夫が別の女を抱き表彰台に立つ影で、瑠衣はアフリカの病院で生死の境を彷徨っていた。絶望した彼女は離婚届を残して失踪し、自らの力で栄光を掴むと誓う。月日が流れ、セレンゲティでカメラを構える彼女の前に現れたのは、元夫の宿敵であり、巨大資本を操る極東グループの支配者だった。彼は瑠衣を車との間に追い詰め、独占欲を孕んだ声で囁く。「同情ではない。立川が手放した至宝を愛おしんでいるだけだ」と。逃げ場を失った彼女は、その掠れた告白から真実を知る。彼は三年前から、密かに彼女を我が物にしたいという情熱を燃やし続けていたのだ。元夫の天敵による、執着と溺愛に満ちた逆転劇が幕を開ける。
追放されたら、私が億万長者の万能チートだった件! の小説カバー
7.9
20年間、名家のお嬢様として育てられた清辞だったが、DNA鑑定で血縁がないと判明した途端、婚約破棄と追放の憂き目に遭う。SNSで嘲笑され実家を追い出された彼女を待っていたのは、想像を絶する「真の実家」だった。ハスキーボイスが魅力的な実父に加え、金融界の天才やトップ俳優、医学界のエースに敏腕社長という、妹を溺愛する4人の兄たちが彼女を迎え入れる。しかし、清辞自身もただ守られるだけの存在ではない。伝説のハッカー、フォーミュラカー開発者、ダンス界最年少審査員といった驚愕の裏の顔を次々と露わにし、世界を震撼させていく。かつて彼女を蔑んだ元家族が「名前を出すな」と吠えれば、電話一本でその供給網を壊滅させ、浮気した元婚約者が新しい恋人を自慢すれば、京の街を支配する絶対的権力者が彼女の夫として立ちはだかる。偽物という汚名を返上し、圧倒的なスペックと権力で敵を徹底的にねじ伏せる、最強お嬢様の逆転劇が幕を開ける。文句がある奴は全員、その実力で黙らせるのみ。
旦那様、もう降参を。奥様は“表も裏も”すべての顔を持つ女です の小説カバー
9.7
国際的な最強武器商人として恐れられる黒崎零時が、世間で「無能な令嬢」と蔑まれる森田柊音に心を奪われた。彼女は婚約者に嫌われ破棄された過去を持ち、周囲は零時の選択を「外見だけの女に騙された」と冷ややかに見ていた。柊音の周囲に大物たちが集まり始めると、世間は零時の威光を利用した売名行為だと彼女を激しく非難し、その正体を暴こうと躍起になる。しかし、調査が進むにつれて驚愕の事実が次々と判明する。彼女の真の姿は、世界が驚嘆する天才科学者であり、医学界の頂点に立つ異才でもあったのだ。さらに、裏社会で最も恐れられる組織「ブラック・カタストロフ」の次期継承者という、冷酷な女王としての顔までもが露わになる。ネット上や名門家がこの衝撃に揺れる中、最強の夫であるはずの零時は、ある悩みに直面していた。自分の正体を隠し、敵を警戒するように冷たい視線を向けてくる愛妻をどう攻略すべきか。かつてない最強夫婦が繰り広げる、裏と表が交錯する波乱のロマンスが幕を開ける。
炎の終末世界、私はペットと氷菓を の小説カバー
8.5
姑によって七年共にした愛犬を毒殺され、五年間慈しんだ愛猫を撲殺された主人公。夫からも「子供とペットのどちらが重要か」と詰め寄られ、家族の絆は完全に崩壊していた。そんな中、世界は灼熱の炎に包まれる終末の日を迎える。彼女は出産を終えた直後、用済みと言わんばかりに家を追い出され、容赦なく照りつける太陽の下で焼き尽くされるという悲惨な最期を遂げた。しかし、意識を取り戻すと、そこは世界が滅びる直前の過去だった。今度こそ大切な家族を守り抜くと誓った彼女は、迷わず堕胎を選択し、犬や猫を連れて地獄のような家から脱出する。極限の高温によって姑一家が飢えと渇きに苦しみ、絶望的な生活を強いられる一方で、彼女は自ら築き上げた強固なシェルターへと逃げ込んでいた。外の世界が灼熱の地獄と化す中、彼女は涼しい冷房の効いた部屋でアイスを堪能し、愛する猫や犬と心穏やかに戯れる。かつての裏切り者たちを尻目に、誰よりも贅沢で幸福な終末生活を謳歌していく。