愛しているから の小説カバー

愛しているから

7.9 / 10.0
高校時代に出会った三人。私と、私が心から愛した彼、そして何でも打ち明け合えるほど仲睦まじかった親友。かつての私たちは、恋人とその友人という理想的な関係を築いていた。しかし、学校を卒業し、それぞれが異なる未来へと歩み始めたことで、穏やかだった三人の絆は少しずつ形を変えていく。そしてある日、あまりにも残酷で不可解な悲劇が訪れた。かつての恋人と、かけがえのない親友が、なぜか同じ日に自らその命を絶ってしまったのだ。残された私には、彼らが死を選んだ理由も、その日が重なった真相も一切知らされていない。幸せだった過去の裏側に、一体どのような秘密が隠されていたのか。愛し合っていたはずの彼と、信頼していた彼女が抱えていた葛藤とは何だったのか。変わり果てた関係性の果てに起きた、あまりにも悲しい事件の真相を追い求める。若さゆえの純粋さと残酷さが交錯するなかで、失われた二人の足跡を辿り、隠された真実を解き明かしていくミステリー・ロマンス。愛しているからこそ見えなかった、彼らの本当の姿とは。

愛しているから 第1章

夏の甲子園の野球中継を見ていた。 

試合に勝利したチームが校歌を歌っている。

学生の頃は、まともに歌ったこともなかった校歌。 歌詞の意味もわからず、魅力も感じなかった歌。 なのに一生懸命頑張った高校球児が歌うと、どうしてこうも晴れがましく気持ちよく聞こえるのだろうか。

  ____どんな歌だったっけ?

 ふと思い立ち、ネットで母校の検索をしてみる。 【〇〇高等学校が83年の歴史に幕を閉じた】

_____うそ、廃校?

卒業してもう20年近い。 誘われた同窓会にも出席していなかったからか、廃校になったことを今まで知らなかった。

故郷は遠きにありて思うもの。 それは、何かしらのカタチが残っているから思えるものかもしれない。 校舎もなくなってしまうと、帰省したとしても思い出がよみがえりにくい気がする。

 _____高校生の頃が一番、思い出に残っていたのになぁ…

あの頃流行った、サイン帳を引っ張り出してみた。 卒業式を前に、仲のよかった友達に1ページずつ何かを書いてもらうもの。 漫画が書いてあったり、手紙みたいな物があったり、四字熟語だけ、というのもある。 読み返して思い出して、笑いがこみあげる。

 _____あぁ、そう、そう!

 みんな同じことが書いてある 。

“誠と結婚するときは結婚式に呼んでね”

“もう、あっちで同棲しちゃえば?”

“やっとラブラブを見せつけられなくてすむわぁ”

高校生の頃付き合っていた人、永野誠。 誠実に私のことを好きだと言ってくれた人。

 “二十歳になったら結婚しよう!”

どちらからともなく、そんな約束をしていたのに、それは叶わなかった。  

そんな懐かしいことを思い出す。 その時、ハラリとサイン帳から落ちた一通の封書。

 “渡辺優子様”  

少し癖のある筆跡で書かれた私の名前。 25才になる少し前に、親友の神谷浩美から届いたもの。

 “誠君とお付き合いすることを、許して欲しい”    

同じ封筒に、誠からも手紙が入っていた。

“ヒロと付き合うことになりました” 

許すも何も、その頃はもう誠と私は付き合ってなかった。 でも、わざわざそういうことを報告してくるところが、誠と浩美らしい。

_____そういえば、誠と浩美はどうしてるんだろう?

高校を卒業して、私と誠は隣県の企業にそれぞれ就職した。 同じ会社ではなかったけど、電車一本で会える距離だった。 せっせと働いて、貯金に励んで早く結婚したいね!といつも話していた。 この気持ちはずっと続くと、卒業してすぐの頃までは思っていた。

けれど、少し離れて違う環境にいると、気持ちは変わってしまう。

“二十歳になったら…”

そう、二十歳になって、それぞれが見ている未来の姿がズレていることに気づいた。 そして多分、私の親友の浩美はずっと誠のことが好きだった…私はそのことに気づかないふりで、誠と付き合っていた。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

高校生の頃、誠は美術部でたくさんの油絵を描いていて、たまに受賞もしていた。 付き合ったきっかけは、ある日突然私のクラスにやってきて、なぜか彫塑のモデルになって欲しいと言ってきたから。

「裸婦像じゃないでしょうね!」

「高校生でそれはハードル高いって!首から上だから」

「美人にしてくれるならいいよ」

「デフォルメしちゃったらごめん!」

「なに?それは」

うーんと、と誠が説明しようとしたとき。

 「強調して表現するってことかな?」

話に入ってきたのは、同じクラスになって一気に仲良くなった浩美だった。

性格は、私と反対で慎重でおとなしめ、見た目も可愛らしい。なのに何故か、気がつけばいつも一緒にいる。

そして、浩美はバスケ部と美術部の掛け持ちをしていて、水曜日だけ美術部に参加している。

「強調?美人になるならそれでもいいけど」

「いや、冗談だよ、普通に作らせて」

「普通が酷かったら怒るからね」

「真面目にやるよ、秋の県の文化祭に出すつもりだから」

「私も何か出品しようかなぁ?ね、誠君、どう思う?」

浩美と誠は、美術部同士ということもあって話も合うし、いつもなにかしらでじゃれあっていた。 兄と妹?そんな感じ。

二人が付き合うと手紙で知らされたときは、なんだか複雑な気もした。 けれど大好きな親友と大好きだった元彼が付き合っても、イヤな気分にはならなかった。  

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

今になってそんなことを思い出すなんて、不思議だった。 甲子園の映像から、懐かしいことを思い出して、ノスタルジックな気分になった。 後になって思えば、あれは予感だったのかもしれない。

それから2日ほどして、郵便物が転送されてきた。 引っ越してしばらくは転送されるように手続きをしていたことを思い出した。

_____あー、まだ転居の知らせを忘れてるとこがあったか

真っ白な封筒の差出人は、神谷昭三、浩美のお父さんの名前だった。 思いもかけない人からで、何故か緊張しながら封を切る。

中から出てきたのは、厚手の紙に印刷された告別式の挨拶状だった。

それも、亡くなったのは、誠と浩美、2人での連名。

_____え?なにこれ、おかしいでしょ?

姓が同じ永野ということは、2人は結婚していて、そして同じ日に亡くなった? 私は急いで卒アルを出して、同じクラスで2人と仲がよかった人を思い出して Facebookで、検索した。

_____いた!溝口君!  

懐かしい名前を見つけて、コメントを送った。

「こんにちは。私、渡辺優子、おぼえてるかな?」 

『久しぶり!おぼえてるよ。元気だった?』

「うん、元気。ちょっと聞きたいんだけど、誠と浩美のこと…」

『あ、聞いた?』

「訃報の知らせが届いた、ね、どういうこと?なんで?事故?」

『今週末でも帰って来れない?会って話さないと長くなるし』

私はカレンダーと予定を確認する。 何年ぶりかで、遠い故郷に帰ることにした。

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