絶壁の裏切りを越えて、不滅の愛へ の小説カバー

絶壁の裏切りを越えて、不滅の愛へ

8.9 / 10.0
結婚五周年を祝うため、夫の彰人に誘われて訪れた絶壁のピクニック。太陽のような微笑みを浮かべる彼からシャンパンを注がれ、幸せを噛み締めていた玲奈だったが、その直後、背中に向けられた夫の掌が彼女を奈落へと突き落とした。岩肌に叩きつけられ、激痛と鮮血の中で意識を取り戻した玲奈の耳に届いたのは、彰人とその愛人・愛奈の冷酷な会話だった。事故死を装い、精神不安定な妻の悲劇を捏造しようとする夫の冷徹な言葉は、墜落の衝撃以上に玲奈の心を切り裂く。絶望の淵で死を待つ彼女の胸に宿ったのは、夫への凄まじい復讐の炎だった。意識が遠のく中、激しい雨を切り裂いて現れたのは一台の高級車。そこから降り立ったのは、彰人が最も忌み嫌い、その破滅を誰よりも望んでいる宿敵、一条蓮だった。裏切りの果てに、死の淵から這い上がろうとする玲奈の運命は、この男との邂逅によって大きく動き出す。愛と憎しみが交錯する、衝撃のリベンジ・ミステリー。

絶壁の裏切りを越えて、不滅の愛へ 第1章

結婚して五年になる夫の彰人から、ロマンチックな崖の上のピクニックに連れて行ってあげると言われた。

彼はシャンパンをグラスに注いでくれた。その笑顔は、太陽のように温かかった。

これまでの私たちの人生を祝うためだ、と彼は言った。

でも、私が景色に見とれている隙に、彼の手が私の背中を強く突き飛ばした。

空と岩肌がぐにゃりと混じり合う。

私は、眼下に広がる奈落の底へと落ちていった。

全身が砕け散るような痛みと、おびただしい流血の中で意識を取り戻したとき、ちょうど頭上から彼の声が聞こえてきた。

一人ではなかった。

愛人の愛奈と一緒だった。

「彼女…死んだ?」と彼女は尋ねた。

「かなり落ちたからな」彰人の声は平坦で、感情が一切なかった。「あれで助かるはずがない。遺体が見つかる頃には、悲劇的な事故にしか見えないだろう。可哀想に。精神的に不安定だった玲奈が、崖っぷちに近づきすぎたんだ」

彼の言葉の何気ない残酷さは、地面に叩きつけられた衝撃よりもひどかった。

彼はすでに私の死亡記事を書き上げ、私が嵐の中で死んでいくのを放置しながら、私の死の物語を作り上げていたのだ。

絶望の波が押し寄せてきた。

でも、そのとき、別の何かが燃え上がった。

白く燃え盛る、猛烈な怒りだった。

視界が消えかける寸前、ヘッドライトの光が雨を切り裂いた。

高級車から一人の男が降りてきた。

彰人じゃない。

一条蓮。

夫が最も憎むライバルであり、私と同じくらい彰人の破滅を望んでいるであろう、唯一の男だった。

第1章

最初に感じたのは痛みだった。

目も眩むような、カミソリで切り裂かれるような激痛が脚を駆け上り、目の奥で爆発した。

次に感じたのは、湿った土と踏み潰された松葉の匂い。

あまりに濃密で、まるで泥を呼吸しているかのようだった。

私の頬は、冷たくて雨に濡れてぬるぬるしたものに押し付けられていた。

霞む視界を晴らそうと、瞬きをした。

雨で髪が顔に張り付き、一滴一滴が氷のように肌を刺す。

見上げると、黒い枝々が絡み合う向こうに、嵐雲が渦巻く青紫色の空が見えた。

世界は不幸の交響曲だった。

容赦なく降り注ぐ雨音、遠くで唸る雷鳴、そして、私自身の途切れ途切れで必死な呼吸音。

そのとき、声が聞こえた。

彼の声が。

「彼女…死んだ?」

もう一つの声は女の声で、聞いているだけで胸が悪くなるような甘ったるさがまとわりついていた。

愛奈だ。

「かなり落ちたからな。あれで助かるはずがない」

彰人の声は平坦で、この五年間、彼が偽ってきた温かみは微塵もなかった。

それは、たった今殺そうとした妻についてではなく、まるでビジネスの取引について話している男の声だった。

私の心は混乱し、点と点を繋ごうともがいた。

崖の上のピクニック。

頭がくらくらした「特別」な紅茶の入った水筒。

背後からの突然の、残忍な一突き。

地面が迫ってくる中、世界がぐるぐると回転する、あの吐き気を催す感覚。

事故なんかじゃなかった。

あの人が、私を突き落としたんだ。

叫ぼうとした。

助けを呼ぼうとした。

でも、喉から漏れたのは、詰まったような喘ぎ声だけだった。

喉はひりひりして、口の中に鉄の味が広がった。

血だ。

「もう行きましょうよ」愛奈が甘ったるい声で言った。「誰かに車を見られるかもしれないわ」

「こんな天気の中、こんな所に来る奴はいない」彰人は、そっけない口調で言った。「彼女はもう死んだも同然だ。遺体が見つかる頃には、悲劇的な事故にしか見えないだろう。可哀想に。精神的に不安定だった玲奈が、崖っぷちに近づきすぎたんだ」

彼の言葉の何気ない残酷さは、地面に叩きつけられた衝撃よりもひどい、物理的な打撃だった。

彼はすでに私の死亡記事を書き上げ、私の死の物語を作り上げていた。

問題を抱えた妻を悼む、愛情深い夫。

吐き気がこみ上げてきた。

頭上で砂利を踏む彼らの足音が聞こえ、やがて遠ざかっていった。

車のエンジンがかかる音、そしてタイヤが走り去る音が嵐に飲み込まれていく。

彼らは行ってしまった。

私を死ぬために置き去りにしたのだ。

冷たく黒い絶望の波が押し寄せ、転落がやり残したことを終わらせてしまいそうだった。

私はそこに横たわり、雨に打たれるままになっていた。

森に捨てられた、壊れた人形のように。

でも、そのとき、私の魂の冷たい闇の中で、別の何かが火花を散らした。

怒りだ。

絶望を焼き尽くす、白く燃え盛る、猛烈な怒り。

彼が勝つなんて許さない。

私を消させたりしない。

肘を使って、崖の下から離れようと体を前に引きずり始めた。

動くたびに新たな激痛が全身を駆け巡ったが、怒りはそれよりも強力な燃料だった。

私は深い下草の中を這い進んだ。

鋭い小枝や石が、すでにぼろぼろになったドレスを引き裂いた。

彼が記念日に買ってくれた、柔らかなシルクの生地は、今や泥まみれのぼろ切れに過ぎなかった。

私の手が、土の中の小さくて硬い何かに触れた。

冷たさで感覚のなくなった指で、それを引き抜いた。

それは精巧に彫られた小さな木製の鳥で、泥にもかかわらず、その表面は奇妙なほど滑らかで傷一つなかった。

この悪夢の真っ只中で、それは私の手のひらに確かな、現実的な存在感を与えてくれた。

私は無意識のうちに、それを薄いコートのポケットに押し込んだ。

嵐が本格的になった。

空が裂け、雨が目もくらむほどのシートとなって降り注いだ。

気温が下がり、激しい震えが体を襲った。

低体温症が始まっていた。

私は戦いに負けかけていた。

視界が狭まり、端が灰色に変わっていく。

迫り来る闇に身を委ねようとしたそのとき、一対のヘッドライトが雨に煙る木々を切り裂いた。

その光は目に痛いほど眩しかった。

滑らかな黒い高級車が、林の向こうの曲がりくねった道でゆっくりと止まった。

心臓が肋骨を激しく叩いた。

戻ってきたの?

彰人が、私の死を確認しに戻ってきたの?

運転席のドアが開き、力強い光を背に、背の高い人影が現れた。

彼は不気味なほどの優雅さで動いた。

まるで、縄張りを荒らされて不機嫌な、頂点捕食者のように。

彰人じゃない。

この男はもっと背が高く、肩幅も広く、その存在は冷たく危険な権威を放っていた。

彼が近づくにつれて、ヘッドライトがその顔を照らし出した。

鋭く、貴族的な顔立ち。

雨に濡れて後ろになでつけられた黒髪。

そして、嵐雲の色をした瞳。

私はその顔を知っていた。

雑誌で、経済ニュースで、彰人がテレビに向ける怒りの視線の先で、何度も見てきた顔だ。

一条蓮。

冷酷な一条グループのCEOであり、私の夫の最大にして最も憎むべきライバル。

彼は私を見下ろし、その表情は冷たい軽蔑の仮面に覆われていた。

彼の瞳には同情の色はなく、ただ苛立ちだけがあった。

彼の唇が、私を認識して嘲るように歪んだ。

「ほう。高遠玲奈か。旦那のくだらないゲームも、ようやくお前を追い詰めたようだな」

彼は私の壊れた体、血、泥、そして私の瞳に浮かぶ恐怖を見て取ったが、その表情は和らがなかった。

まるでその光景を楽しんでいるかのようだった。

彼は背を向け、車のドアに手をかけ、私を運命に委ねて去ろうとした。

生の、原始的なパニックが私を突き動かした。

最後の力を振り絞って、私は飛びかかった。

指が彼の高価な革靴の素晴らしいレザーに食い込み、足首を掴んだ。

私の手は、彼の完璧さに泥だらけの汚点をつけた。

彼は凍りつき、まるで蛇でも見るかのように私の手を見下ろした。

「お願い」私は喘ぎながら言った。その言葉は喉から引き裂かれるように出てきた。恐怖に大きく見開かれた私の目が、彼の目を捉えた。「あの人が…私を殺そうとしたんです」

私の声に含まれた、否定しようのない生の恐怖が、彼の氷のような冷静さを切り裂いたようだった。

彼の車への手は止まった。

彼はそこに立ち尽くしていた。

夫への根深い憎しみと、目の前にある恐ろしく血まみれの犯罪の証拠との間で、彼は捕らえられていた。

嵐が私たちの周りで荒れ狂い、私の命が敵の手に委ねられた瞬間にふさわしい背景となっていた。

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