フォローする
共有
捨てられ妻、敵の将に奪われて の小説カバー

捨てられ妻、敵の将に奪われて

敵対する部族のアルファに捕らえられたその瞬間、かつての夫は運命の番とともに美しい日の出を眺めていた。私の窮地を知らされても、彼は冷淡な声で「拘束しておけ」と言い放つ。少しばかり苦痛を味わえば、自分に縋りつくこともなくなるだろうと突き放したのだ。生死の境に立たされ、逃げ場を失った私は、生き延びるために敵の将へと縋りつくしかなかった。「殺さないで。何でも言う通りにするから」と震える声で懇願し、自らの身を差し出したのだ。時が経ち、ようやく彼が私の存在を思い出した頃には、すでに状況は一変していた。敵方のアルファは、隣で安らかに眠る私の横顔を愛おしげに見つめ、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。かつての夫に向かって、彼は静かに告げた。「来るのが遅すぎたな。今の彼女は、もうお前のもとへ帰れるような状態ではないのだから」と。捨てられた妻が敵の腕の中で新たな運命に翻弄される、愛と執着の物語。
共有

2

体に食い込む縄を固く握りしめ、落下への恐怖に耐えていた。

「お願い、殺さないで」

『私を殺したところで、ロックは気にもしない』――先ほど投げかけられた男の言葉の意味を、私はすでに理解していた。

返ってきたのは、彼の沈黙だけだった。

突如、スマートフォンが狂ったように振動し始めた。すべてデビーからのメッセージである。

画面には、ロックの体に乱れた姿で横たわる彼女の姿が映し出されていた。

ロックは優しく彼女の手を取り、その腹部へと導いている。

慈しむような、その手つき。

デビー:【彼が言ってたわ。私が子を産めば、月の女神様も私を認めてくださるって。そうなれば私は最も尊い首領の伴侶。あなたは、何者でもなくなるのよ!】

返信する余裕などなかったが、彼女はそれを意図的な無視と受け取ったらしい。

あろうことか、ロックとの情事の写真が次々と送りつけられてくる。

家で、ホテルで、議事堂で……

森の中ですら。

彼らは人目につかないあらゆる場所で、体を重ねていた。

こみ上げてくる吐き気に、私は思わず縄から手を離して口元を押さえた。

その動きで、背後の木が微かに揺れる。

それまで凪いでいたロンの瞳が、刹那、鋭く引き締まった。彼は即座に駆け寄ると私の縄を掴み、力強く引き戻す。

「この状況で動くとは、命が惜しくないのか」彼は私を睨めつけ、吐き捨てるように言った。

しかし、自身の語気の強さに気づいたのか、すぐに表情を和らげた。

「お前を捕らえればロックを脅せると踏んだが、どうやら考え違いだったらしい」

「お前は彼にとって、何の価値もないようだ」

息が詰まり、私は唇を強く噛みしめた。

ロックの言葉が頭から離れず、唇が切れて血が滲んでいることにも気づかなかった。

不意にロンが歩み寄り、私の口角をそっと指で拭った。

彼の白い指先に付着した赤い血が、やけに目に焼き付く。

次の瞬間、彼はその指を自身の唇へと運び、血を舐め取った。「一つ頼みを聞いてくれれば、解放してやろう」

私は緊張のあまり半歩後ずさり、彼との距離を取る。

ロンは喜怒哀楽を表に出さず、残虐で気まぐれだという噂だった。些細なことで人を殺す、と。

そして先ほどの彼の行為は、言いようのない不快感を私に与えた。

まるで自分の領域に土足で踏み込まれたような。

私の様子を見て、彼はかすかに笑みを浮かべた。「安心しろ。お前を殺す気はない」

「ロックの元へ戻り、以前お前が彼に贈った指輪を取り返してこい」

私は呆然とした。「なぜ、指輪のことを……?」

彼は問いには答えず、部下に私を送るよう命じた。

ロンが口にした指輪は、私の両親が結婚の際に手作りした形見の品だった。

かつてロックの部族は私の両親に救われた恩があり、部族の誰もが両親に感謝していた。

だからこそ、あの指輪は部族の中で絶大な影響力を持っていたのだ。

ロックと付き合い始めた頃、私は愛の証として、その指輪を彼に贈った。

まさか、ロンはこの指輪を利用してロックの部族を乗っ取ろうと企んでいるのか?

重い足取りで、私は部族へと戻った。

私に向けられる人々の視線から、かつての尊敬の念は消え失せ、

今はただ軽蔑の色が浮かんでいるだけだった。

「どの面下げて戻ってきた! 未来の首領様を危険に晒したくせに!」

「追い出せ!」

「出ていけ!」

口では激しく罵るものの、実際に手を出してくる者はいなかった。

私はまっすぐ、かつて我が家だった場所へと向かう。

ロックは指輪を寝室のベッドサイドテーブルに保管していたはずだ。

だが、扉を開けた先に待っていた光景は、私の予想を遥かに超えていた。リビングで抱き合う二人の姿が、目に飛び込んできたのだ。

私の存在に気づいたロックの表情は、陶酔から一転、冷たい嘲笑へと変わった。

「誘拐されたのではなかったのか? ずいぶんと早いお帰りだな」

デビーは私の衣服を上から下まで品定めするように眺めると、わざとらしく口元を覆って悲鳴を上げる。

「誘拐犯の中には“条件”次第で取引してくれる人もいるって聞いたわ。ジュリー、あなたの服、そんなにボロボロで……まさか……」

彼女は故意に言葉を濁し、悪意に満ちた想像の余地を残した。

ロックは立ち上がると、私の目の前で空気を吸い込むように、匂いを嗅いだ。

案の定、私の体にまとわりつく、他のアルファの匂いを嗅ぎ取ったのだろう。

彼の表情がみるみる険しくなる。「誰に抱かれた」

「あなたには関係ない。今日は自分の物を取り返しに来ただけ」私は彼を無視して寝室へ向かおうとした。

「あなたの荷物なら、全部玄関にまとめてあるわよ。見なかったの?」デビーがゆったりとした口調で口を挟んだ。

「これからは私がここに住むから、ロックが私の好みに合わせて模様替えしてくれたの」

その言葉で、私はようやく気づいた。この部屋から、かつての面影はひとかけらも消え去っていたことを。

心が、音を立てて沈んでいくようだった。

おすすめの作品

棄てられたLunaの逆襲:最強の息子と共に、偽りの狼王を裁く の小説カバー
7.9
妊娠五ヶ月の身でありながら、彼女は最愛の番から屈辱的な命令を下される。母の命を救うため、道化として酒を煽り、泥を啜るような宴の余興に耐え忍んだ。しかし、そこで突きつけられたのは、母は三ヶ月も前に彼の手で葬られていたという残酷な真実だった。裏切りと絶望の果て、彼女は衆人環視の中で伴侶の契約を断絶し、身籠ったまま夜の闇へと姿を消す。残された男は狂乱し、血を吐く思いで五年の歳月を費やして彼女の行方を追い続けた。そして五年後、彼女は伝説の「最高位魔薬師」として華麗なる帰還を果たす。その傍らには、男の面影を色濃く残す毒舌な息子の姿があった。再会したかつての傲慢な狼王は、土砂降りの雨の中で跪き、卑屈なまでに許しを請い縋りつく。だが、冷徹にその行く手を阻んだのは幼き息子の容赦ない一言だった。「おじさん、下手な芝居はやめて。死んだ元カレだけが、唯一の良い元カレだってママが言っていたよ」。偽りの愛を掲げた狼王への、母子による壮絶な逆襲劇が今幕を開ける。
アルファ・キングの消されたメイト の小説カバー
8.9
最強のアルファであるリアムは、かつて私との絆を「月の女神が授けた至高の愛」と謳った。しかし、その言葉が残酷な虚飾に過ぎなかったことを私は知る。彼にはすでに身ごもった愛人が存在し、あろうことか公衆の面前で彼女を自らの女王として遇していたのだ。愛人は、私に贈られたはずの神聖な番いの証である首飾りを誇示する写真を送りつけ、執拗に私を追い詰める。群れの者たちも、愛人が世継ぎを産めば、血統に問題のある私は排除される運命だと冷酷に囁き合っていた。裏切りに満ちた日々に終止符を打つため、私は二人の記念日に特別な贈り物を用意する。箱の中に収めたのは、署名済みの離婚届と、運命の絆を断ち切る公式な離縁状。愛という名の幻想を捨て去った私は、彼らの前から永遠に姿を消す決意を固めた。信じていた番いへの未練を断ち切り、自分自身の尊厳を取り戻すための逃避行が今始まる。裏切りのアルファ・キングと、運命に抗い自由を求めたメイトの愛憎劇。
アルファの王の禁断の愛、秘めたる復讐 の小説カバー
9.7
最強のアルファである黒崎戒のルナとして過ごした三年間。私は贅沢な品々に囲まれながらも、彼からの愛を一度も感じたことはなかった。彼の瞳が捉えていたのは私ではなく、常に背後に潜む誰かの影だったのだ。父が危篤に陥った際、私は運命の番である彼に必死に助けを求めたが、無情にも拒絶されてしまう。父の最期に立ち会うことも叶わず絶望する中、私に届いたのは、パリで叔母の莉央を慈しむように抱きしめる彼の姿だった。帰国した彼は通信の不具合だと平然と嘘をつくが、書斎に隠された日記が残酷な真実を暴き出す。私との出会いも救出劇も、すべては愛する叔母の身代わりを手に入れるための巧妙な罠だった。私はただの器に過ぎず、宿した新しい命さえも偽りの愛の産物でしかなかったのだ。裏切りを知った私は、彼を欺いて妊娠を隠す儀式の承諾書と白紙の離縁状に署名させる。長老会へ書類を提出し、私は決然と新大陸行きの船へと乗り込んだ。彼の手の届かない場所で、私という存在を永遠に葬り去るために。
アルファの偽り、オメガの蜂起 の小説カバー
8.0
治癒院での過酷な連続勤務を終えた私は、愛する伴侶、神楽湊の喜ぶ顔を思い浮かべながら帰路を急いでいた。しかし、彼がいたのは縄張りの外れにある別邸。そこには見知らぬ女性と幼い男の子と共に、幸せそうに微笑む湊の姿があった。潜伏して耳にしたのは、あまりに非情な真実だ。湊は私を「繋ぎのオメガ」と蔑み、政治的利用価値がなくなれば捨てる駒だと断じた。私を育てた現アルファ夫妻さえも、この欺瞞に加担していたのだ。運命の絆さえもが仕組まれた嘘だと知った直後、彼から届いた「会いたい」という甘いテレパシーが、私の悲しみを冷徹な怒りへと変えた。彼らは来る晩餐会で、私を公衆の面前で追放し、辱める計画を立てている。だが、私も相応の報いを用意した。彼の息子の誕生日を祝うパーティー、その最中に届くのは、彼らの醜い裏切りと秘密をすべて暴くデータクリスタルだ。偽りの愛に溺れたアルファに、絶望という名の贈り物を。復讐の幕が今、静かに上がる。
イカした恋とイカレた妖刀の冒険譚 の小説カバー
9.2
武芸の道に全てを捧げ、ストイックに己を磨き続けてきた傭兵時代。しかし、待っていたのは無慈悲な敗北と挫折の記憶だった。そんな過去を持つ主人公が流れ着いたのは、巨大なカイザード帝都。そこで彼は、捨て犬のような境遇からボトマーズギルド・ハニカムに拾われることになる。かつての面影はどこへやら、現在の姿は「怪人イカ男」と呼ばれるイカの姿をした異様な怪人。さらには、何事にも無気力で面倒を嫌い、金欠に喘いでは物事が裏目に出るチンピラのような男へと転生を遂げてしまっていた。本作は、そんな風変わりな主人公を中心に、物語の語り手が次々と入れ替わる独創的な構成で描かれる新感覚のファンタジー・アクションだ。イカした風貌のイカれた妖刀使いが、混沌とした帝都を舞台にどのような冒険を繰り広げるのか。先の読めない展開と独特の語り口が、読者を不思議な世界観へと引き込んでいく。かつての挫折を胸に秘めた男の、斜め上を行く新たな人生が幕を開ける。
~八歳の王女~不死鳥のごとく甦る の小説カバー
8.2
前世で最も高貴な嫡流皇女として生きた彼女は、家族や夫の愛を一身に浴び、傲慢な性格を募らせていた。しかし、その幸福は全て「母」が仕組んだ罠だった。夫と姉の裏切りを知り、最愛の息子が夫の手で殺害される惨劇を目の当たりにした彼女は、毒杯を煽り、深い怨恨を抱いたまま命を落とす。だが、次に目覚めた時、彼女は八歳の幼き皇女へと転生を遂げていた。その愛らしい体には、前世の悲劇で磨かれた狡猾な野心が宿っている。鳳凰が炎の中で再生するように、彼女もまた美貌と権謀術数を武器に、自分を貶めた者たちへの千倍の復讐を誓う。二度目の人生では国を掌握し、裏切り者を完膚なきまでに叩き潰すと決意したのだ。そんな彼女の前に、圧倒的な武勲を誇り、並ぶ者なき美貌を持つ大国の親王が現れる。当初はこの世に自分と釣り合う女などいないと断じていた彼だったが、無邪気な仮面の下に冷徹な計略を秘めた幼い皇女に、いつしか翻弄されていく。最強の親王をも従わせる彼女の覇道が、今ここから幕を開ける。