
捨てられ妻、敵の将に奪われて
章 3
私は一切の躊躇なく、玄関へ駆け寄ると自分の荷物をかき集め始めた。
かつてロックが贈ってくれた品々、私の服やアクセサリーが、すべて無造作に玄関に山積みされていた。
一つひとつ手にとって整理していると、涙が不意に頬を伝った。
ロックはしばらく後ろで黙って見ていたが、やがてためらいがちに近づき、私の腕を掴んで引き起こした。
「片付けるな。新しいものは、いくらでも買ってやる」
「デビーが子を産めば、彼女は俺の伴侶となる。だが、君との関係が変わるわけじゃない」
私は愕然とした。 「私に、あなたの日陰の恋人になれとでも言うの!?」
彼は屁理屈をこねる。「俺たちは愛し合っている。一緒になるのは当然のことだろう。そんな言い方はないんじゃないか」
私は彼を突き放し、黙々と荷物の整理を続けた。
もしロンとの約束がなければ、このタイミングで戻ってくることなど決してなかっただろう。
彼と言葉を交わすたび、胃の腑が煮えくり返るような思いがするからだ。
彼の言葉のすべてが、私の自尊心を容赦なく踏みにじっていく。
だが、荷物をすべて改めたというのに、あの指輪だけが見つからなかった。
「ロック、私が昔あなたにあげた指輪はどこ?」
ドアに寄りかかっていたデビーが、すっと自分の手を持ち上げた。「これのこと?」
エメラルドが陽光を浴び、きらりと妖しい光を放った。
私は矢のように駆け寄り、指輪を奪い返そうとした。
しかし、デビーの指に触れるよりも早く、彼女はわざとらしく後ろへ倒れ込んだ。
「きゃっ! ジュリー、どうして私を押すの!」
「押してない――」
言葉を言い終える前に、私はロックに荒々しく突き飛ばされた。
昨日殴られた背中の傷が開き、床に長い血の痕を引いた。
昔は、私の指が少し切れただけで狼狽したロックが、今はこの惨状を一瞥だにしない。
彼は壊れ物を扱うかのように優しくデビーを支え起こした。「大丈夫か?」
その声音は水のように優しく、先ほどまでの私に対する凶暴な形相とはまるで別人だった。
「わざとはめたわけじゃないの。ただ、綺麗だと思って……」
彼女は指輪を外そうとするふりをしながら、涙声で言った。「ごめんなさい。今すぐ返すから、叩かないで」
彼女が哀れに見えれば見えるほど、ロックの私に対する怒りは増していく。
彼はデビーの手を固く握った。「これは彼女が俺に贈ったものだ。どうしようと俺の勝手だろう」
「君にやると言ったんだ。なら、これは君のものだ!」
「ロック――」私の弱々しい声が、彼の注意を引き戻した。
地面に蹲って起き上がれない私と、床に広がる血痕が、彼の目に焼き付いた。
「なぜ、こんなに血が……?」
見間違いだっただろうか。彼の瞳の奥に、一瞬だけ痛みの色がよぎった気がした。
デビーが彼の腕にしがみつく。「ロック、全部私が悪いの。やっぱり一度、自分の家に戻るわ」
ロックは我に返ると、彼女を安心させるように強く抱きしめた。「去るべきは、君じゃない」
私はようやく床から体を起こし、ふらつく足で二人の前に立った。
「ロック、私は出て行くわ。だから、お願い。指輪を返してくれない?」
「あれは……両親が遺してくれた、たった一つの形見なの。お願い」
これほどまでに、自分が卑屈になったことはなかった。
「指輪を返してくれるなら、部族での特権はすべて放棄する」
私は歯を食いしばった。「私は……ローグにだってなるわ」
「正気か!」
ロックは信じられないというように吼えた。「そんな言葉、軽々しく口にしていいと思っているのか!」
だが、彼の言葉はもう私の耳には届かなかった。私はただ、指輪を返してほしいと懇願し続けた。
ついには、地面に膝をついて。
ロックは、私の額から流れる真っ赤な血の筋に視線を落とすと、舌打ちし、指輪を私の目の前に叩きつけた。
「消えろ!二度と俺の前に顔を見せるな」
失われたはずの指輪を握りしめると、荒れ狂っていた心が不思議と静まった。
立ち上がったとき、先ほどまでの脆さや懇願は跡形もなく消え失せていた。
「ロック。これで、私たちにはもう何の関係もない」
「後悔しないでね」
おすすめの作品





