
裁かれぬ凶行
章 2
私は腕を振りほどき、胃の奥からせり上がってくる不快感を必死に抑え込んだ。
「あなた、まずは自分の心配でもしたら?またどこかの奥様に見つかって、学校で袋叩きにでもされたら、将来どころか面目も丸潰れよ」
周勇智の容体を確かめるため、
私と楊暁は救急車に同乗して病院へ向かった。
病院に着いて間もなく、人混みをかき分けるようにして、豪奢な身なりの老婦人が飛び出してきた。
彼女は担架へ駆け寄ると、 枯れ木のように乾ききった手を周勇智の胸に置き、泣きじゃくる。
「ああ、私の可愛い孫……。おばあちゃんがたった二日会わないうちに、どうしてこんな姿に……!」
彼女の話によると、周勇智は二週間も前から咳と熱の症状があったという。ただの風邪だとばかり思っていたらしい。
まさか今日、これほど悪化して意識を失うとは夢にも思わなかったのだ。
こんなことなら学校に行かせるのではなかったと、彼女は後悔を口にした。
放っておけず、私は彼女のそばに寄り添い、なだめるように声をかけた。
「おばあさん、まずは落ち着いてください。この年頃の子どもが走って倒れるなんて、低血糖か、あるいは運動不足が原因かもしれません。きっと、大事には至りませんよ」
そうは言ったものの、私たちの淡い期待は無情にも打ち砕かれた。周勇智は病院に着くなり、すぐに救急科へ運ばれてしまったのだ。
長い一夜が明け、ようやく検査結果が出た。
だが、私たちを待っていたのは、あまりにも残酷な診断結果だった。周勇智が患っていたのは、急性間質性肺炎。
原因不明で進行が極めて速く、肺胞の炎症と線維化を特徴とする疾患であり、その発症メカニズムは未だ解明されていない。
つまり、周勇智が倒れたのは、肺が石のように硬化し、呼吸が困難になったためなのだ。
そして医師の説明によれば、一度この病にかかると、肺に刻まれた傷は、二度と元には戻らないという。
それは、周勇智がもう二度と、健常な者として生きられないことを意味していた。
その言葉は、まるで死の宣告だった。老婦人はあまりの衝撃にその場で糸が切れたように崩れ落ち、あたりは一瞬にして騒然となった。
この一家から、わずかな時間で二人も倒れてしまったのだ。
私と楊暁はどうすることもできず、急いでマカオに出張中の周勇智の両親に電話をかけ、状況を伝えるしかなかった。
夫妻は飛行機を予約するやいなや、その日の夕刻には仁和病院へと駆けつけた。
到着するなり、二人は慌ただしく医師のもとへ向かい、説明を求めた。
しかし、医師から告げられたのは、死の宣告に等しい言葉だった。周勇智は急性増悪期にあり、予後は極めて悪いこと。残された時間は、わずか一、二ヶ月であること。そして、家族には心の準備をしてほしい、と。
母である李艾は、その言葉を聞いた途端、狂ったように泣き叫んだ。彼女は床に膝をつき、すがるように医師に懇願する。息子を助けてほしい、と。
国内で駄目なら海外の名医を。どんな大金を払ってでも――その姿は、痛々しいほどに哀れだった。
妻の激情とは裏腹に、周勇智の父、周明義は恐ろしいほど冷静だった。
状況を一通り聞くと、彼は昏睡する息子の顔を見ようともせず、ただ淡々と言い放った。
「治療は最大限に。金が足りなければ、また私に言え」
そう言うと、泣き崩れる妻を置き去りにして、背を向けて去って行った。
実は、周明義が病院のドアをくぐった瞬間から、彼が楊暁に向ける視線に、私はある種の違和感を覚えていた。
最初の一瞥は、驚愕。次の一瞥は、ねっとりとした粘着質なもの。
そして、彼が去り際に振り返った最後の視線には――からかうような、生々しい欲の色が浮かんでいた。
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