望まれざる者、止められぬ者 の小説カバー

望まれざる者、止められぬ者

9.6 / 10.0
児童養護施設での十年を経て、ようやく実の両親に引き取られた私。しかし待っていたのは、完璧な双子の妹・莉奈の生活費を稼ぐための道具として扱われる日々でした。家族の愛を諦め、恋人の蓮だけを心の支えにしていましたが、残酷な裏切りが私を襲います。バイト先で耳にしたのは、両親と蓮の親が、蓮と莉奈を結婚させようと画策する密談でした。その直後、蓮は私の目の前で妹にプロポーズし、一通のメッセージで私との関係を切り捨てたのです。真実を問い詰めると、家族は「お前を連れ戻したのは間違いだった」と私を蔑み、妹は自作自演で私を突き落とし犯に仕立て上げました。父に殴られ、ゴミのように路上へ放り出された私を、両親は警察に凶悪な加害者として突き出します。私という存在を完全に抹消しようとする彼ら。しかし、彼らはまだ気づいていません。その理不尽な仕打ちが、破滅への幕開けになることを。私を「望まれざる者」として捨てた代償は、決して安くはありません。失うもののなくなった私による、静かな反撃が今ここから始まります。

望まれざる者、止められぬ者 第1章

児童養護施設で十年。ようやく、本当の家族が私を見つけてくれた。

夢が叶ったんだと思った。

でも、すぐに自分の立場を思い知らされた。

私は、完璧な双子の妹、莉奈の生活費を稼ぐためのただの馬車馬。

そして妹は、両親が誇る、輝かしい自慢の娘。

私の人生で唯一の光は、恋人の蓮だけだった。

そんなある日、ケータリングのバイト先で、私は聞いてしまった。

私の両親と蓮の両親が、密談しているのを。

彼らは、蓮と莉奈を結婚させようと画策していた。

「あの子は訳ありで、傷物だから」と言いながら。

その数分後。

みんなの前で、蓮は片膝をつき、私の妹にプロポーズした。

歓声が沸き起こる中、私のスマホが震えた。

彼からのメッセージだった。

『ごめん。もう終わりだ』

家に帰って彼らを問い詰めると、あっさりと真実を認めた。

私を見つけ出したこと自体が間違いだった、と。

私は管理すべき恥さらしで、蓮を莉奈に与えたのはむしろ親切心からだ、と。

私を黙らせるため、妹は自ら階段から身を投げ、「突き落とされた!」と絶叫した。

父は私を殴りつけ、ゴミのように路上に放り出した。

打ち身だらけで歩道に倒れ込む私を、駆けつけた警察に「暴力的な加害者だ」と両親は告げた。

彼らは私を消し去りたかった。

でも、彼らはまだ知らない。

自分たちが、たった今、戦争を始めたのだということを。

第1章

迷子になった記憶は、ぼんやりと霞んでいる。

遊園地のまばゆい光と、けたたましい騒音の渦。

私は、四歳だった。

それから十年、児童養護施設での生活が私の全てだった。

いくつもの知らない家と、冷たい視線。

そして、彼らが私を見つけた。

私の、家族が。

高坂家。

最初の数ヶ月、私は薄氷を踏む思いで過ごした。

十年もの間、夢に見てきた愛情が欲しくてたまらなかった。

二つのバイトで稼いだお金は、一円残らず彼らに渡した。

そうすれば、彼らの心を買えるかもしれない、と期待して。

彼らはそれを「貢献」と呼んだ。

長年探し続けたことへの、私からの「恩返し」だと。

双子の妹、莉奈は「貢献」する必要なんてなかった。

彼女は、一度も迷子にならなかった、輝かしい自慢の娘。

都内の一流私大に通い、その未来は、私の薄暗い未来とは対照的に、どこまでも明るかった。

それでも、私の人生にも一つだけ、光があると思っていた。

蓮。私の恋人。

彼は優しかった。そう、思っていた。

私の手を握り、「過去なんて関係ない」と言ってくれた。

今夜、私は豪華なガーデンパーティーでケータリングのバイトをしていた。

蓮の知り合いだという、いかにもな旧家のパーティー。

育ちの良さそうな、完璧な歯並びの人間ばかり。

私の両親も、そこにいた。

蓮の両親と楽しそうに談笑し、何不自由ない郊外の成功者の絵に描いたような姿だった。

私は背景だった。

白と黒の制服に身を包み、シャンパングラスを補充して回る、ただの幽霊。

蓮と目が合わないか、必死で探した。

でも、彼は私を避けているようだった。

胸騒ぎが、胃をきりきりと締め付けた。

その時だった。

追加のグラスを取ろうと、手入れの行き届いた大きな生け垣の陰に隠れた瞬間、彼らの声が聞こえてきた。

母、明美の声。軽やかで、共犯者のような口調。

「蓮くんは本当に素晴らしいわ。野心家で。うちの莉奈にぴったり」

私は凍りついた。

重いグラスのトレーが、急に重さを失ったように感じた。

「少し、ためらってはいたようだがな」

父の声が、低く響いた。

「世間体を…気にしていた」

「ええ、もちろん」

蓮の母親、藤堂夫人が相槌を打つ。

「でも、説得しましたの。莉奈さんは、私たちがずっと望んでいたお嫁さんですもの。洗練されていて、良いご家庭の出で」

私の、家族。

でも、彼らが話しているのは、私のことではなかった。

「結菜さんのことは?」

蓮の父親が、少し心配そうな声で尋ねた。

明美は、氷が砕けるような音で笑った。

「ああ、結菜のことはご心配なく。あの子は…その、苦労の多い人生でしたから。きっと理解しますわ。藤堂家のようなお家柄には、とても釣り合いませんし。施設育ちの、あの重い過去ではね」

「それが最善だ」

父が、最終宣告のように言った。

「蓮くんも、莉奈が正しい選択だと分かっている。自分の未来を確かなものにするために、必要なことをしているだけだ」

世界が、ぐらりと傾いた。

息が喉に詰まる。

動けなかった。

ただ、彼らが私の代わりを用意する、その詳細を詰めていくのを聞いていることしかできなかった。

数分後、音楽が静かになった。

蓮がマイクを手に、パティオの中央へ歩み出る。

彼が浮かべたのは、魅力的で、計算され尽くした笑顔。

今ならわかる。その笑顔は、完全に空っぽだった。

私の両親は、彼の隣で満面の笑みを浮かべている。

莉奈が、彼のそばへ滑るように歩み寄る。

パーティーの光を浴びて、彼女のドレスがきらめいた。

私とそっくりな顔。

でも、完璧で、傷ひとつない。

「莉奈」

蓮が始めた。その声はマイクで会場中に響き渡る。

彼は、片膝をついた。

「結婚してくれないか?」

会場にどよめきが走り、やがて拍手の波が押し寄せた。

私は生け垣の陰で、麻痺したように立ち尽くす。

百人の笑顔の見知らぬ人々の前で、私の人生が崩れ落ちていくのを、ただ見ていた。

手が、制御不能に震え始めた。

トレーが滑り落ちる。

石畳の上で、ガラスが砕け散った。

その音は、祝福の歓声にかき消された。

誰も、気づかない。

みんなが莉奈を、蓮を、完璧なカップルを祝福していた。

私の両親は、蓮の両親と抱き合っている。

莉奈が手を差し出すと、巨大なダイヤモンドが光を捉えた。

ポケットの中で、スマホが震えた。

蓮からのメッセージ。

『ごめん、結菜。もう終わりだ。両親も、これが最善だって』

それだけ。

たった十数文字で、私たちの歴史を消し去るつもりらしい。

私は背を向け、走り出した。

どこへ向かっているのかもわからない。

ただ、走った。

あの笑い声から、彼らの完璧に作り上げられた世界から、逃げるように。

白と黒の制服が、まるで檻のように感じられた。

何時間も経って、ようやく私はあの家に戻った。

彼らの、家に。

鍵が、錠前を引っ掻く。

リビングは暗かったが、キッチンから楽しそうな声が聞こえてきた。

彼らが、廊下に出てくる。

シャンパンと勝利で、顔を上気させて。

「あら、いたの」

明美が言った。その笑顔は、目の奥まで届いていない。

「一番盛り上がるところ、見逃したのね」

莉奈はいない。

きっと、新しい婚約者とまだお祝いしているのだろう。

私は、彼らの幸せそうな顔を見た。

裏切りは、あまりにも完璧で、あまりにも無造作だった。

「私のお金、返して」

かろうじて、囁くような声で言った。

父の笑顔が消えた。

「なんだと?」

「今まであなたたちに渡したお金、全部。莉奈の学費。あの子の車。この家のために払った分も」

私の声は、次第に強くなった。

「全部、返して」

明美は鼻で笑った。

「馬鹿なこと言わないで、結菜。あれは、この家族へのあなたの貢献でしょ」

「家族って何?」

私は、乾いた笑いを漏らした。

「もっと出来のいいモデルのために、私を売り払うのが家族?」

「大げさなことを言うな」

父が一歩、前に出た。

大柄な男。その体格を、威圧するために使う。

「お前はもともと、蓮くんには不釣り合いだった。むしろ、感謝されるべきだぞ」

「感謝?」

私は、毒を吐くようにその言葉を繰り返した。

「私を、めちゃくちゃにしておいて?」

「あなたは見つかった時から、すでに傷物だったじゃない」

明美の声は、鋭く、残酷だった。

「家を与えてやった。家名も与えてやった。感謝すべきよ」

「感謝?何に?あなたたちの馬車馬でいられたことに?莉奈が毎年新しい家具を揃えてもらう間、私が物置みたいな一番小さい部屋で寝てたことに?」

「莉奈はそれに値するのよ!」

明美が甲高い声を上げた。

「あの子は、私たちの誇り。あなたは、過ちを思い出させる、忌々しい存在」

「私を失ったっていう、過ち?」

「お前を見つけ出した、という過ちだ」

父が、平坦な声で言った。

その言葉は、どんな暴力よりも深く私を傷つけた。

心の奥底では、彼らも私を愛してくれているはずだ、と。

ただ…欠点があるだけなんだ、と。

そんな希望にしがみついていた。

でも、ここに愛なんてなかった。

あったのは、ただの恨みと、計算だけ。

施設を出るとき、ソーシャルワーカーが言っていたことを思い出した。

警察の記録によると、私の捜索は二年で打ち切られていた。

彼らは、前を向いていた。

新しい人生を、完璧な一人娘との、完璧な人生を始めていた。

十年後に私が見つかったのは、彼らにとって処理すべき、ただの厄介事でしかなかった。

私が彼らを夢見て過ごした年月、彼らは私を忘れて過ごしていた。

何年も燻っていた怒りが、ついに沸点に達した。

熱く、全てを浄化する炎が、私の哀れな希望の最後の一片まで焼き尽くしていく。

「あなたたち、私を探してなんかいなかった」

怒りで震える声で、私は言った。

「二年で、探すのをやめた」

明美の顔が、青ざめた。

「誰からそんなことを…?」

「どうでもいいでしょ」

私は、狂ったような、壊れた笑い声を上げた。

「知ってる。あなたたちは、私を腐らせるために置き去りにした」

「最善を尽くしたのよ」

明美は、演技を捨てた。

その顔は、冷たい怒りの仮面に変わっていた。

「莉奈には、普通の生活が必要だった。行方不明の姉の影なんて、あの子の人生に必要ないの」

「だから、私の人生をあの子にあげたのね」

私は囁いた。

「私の恋人も」

「あの子の方が、彼にはふさわしい」

父は、まるでビジネスの取引のように、淡々と言い放った。

「それが、この家の格を上げる。お前も、妹のために喜ぶべきだ」

喜べ、と。

彼らは、私に喜んでほしいらしい。

私は、私の血を分けたこの二人を見た。

彼らは、私の親じゃない。

私の、所有者だ。

そして、たった今、私を売り払った。

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