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身籠ったのは、元カレの叔父でした。 の小説カバー

身籠ったのは、元カレの叔父でした。

新婚初夜、信じていた夫の裏切りを知った彼女は、失意のあまり泥酔し、見知らぬ男の寝室へと迷い込んでしまう。そこで交わされた狂乱の一夜が、彼女の運命を大きく変えた。腹に宿った新しい命。その父親は、京城の頂点に君臨する絶対権力者であり、あろうことか裏切った元夫の「叔父」だったのだ。恐ろしさのあまり逃亡を図る彼女だったが、冷酷な支配者が放つ執拗な包囲網からは逃げられない。一方、身勝手な未練を抱く元夫は、再び彼女に復縁を迫るという愚行に出る。そんな元夫に対し、彼女は背後に立つ最強の庇護者を見据え、冷徹に言い放った。「復縁したいなら、あなたの叔父様に許可を取ってみて」と。衆人環視のなか、女嫌いとして知られる冷徹な男が彼女の腰を強く抱き寄せ、隠しきれない独占欲を露わにする。「これからは彼女を叔母上と呼ぶがいい」――。その一言に、元夫は絶望し言葉を失う。権力者の歪んだ愛と復讐が交錯する、衝撃のロマンスが幕を開ける。
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2

新婚初夜のあの晩も、彰人は深夜になってから帰ってきた。汐里は「どうしても気分が優れなくて」と言葉を濁し、最後まで彼に身を許さなかった。だから今日――謝罪さえすれば浮気の一件も水に流せると、本気で思っているに違いない。

「……出ていって。私の部屋から」

汐里は上半身を起こし、氷のように冷たい声で言い放った。

その一言で、彰人の身体に燻っていた欲は一気に冷えた。彼はこめかみを押さえ、苛立ちを隠そうともせずに言う。「もういい加減にしないか。体調が悪くて、気分が不安定なのは分かる。でもな……俺の我慢にも限度がある」

「……言ったでしょう。出ていって」

汐里の表情は、揺るがなかった。その頑なな顔を前に、彰人は関係を取り繕おうと、声の調子を和らげる。「もう夫婦なんだ。こんなことしてどうする。ちゃんとやっていこう。これからは、今まで以上に大切にするから」

――浮気した男というものは、排水口に詰まった髪の毛の塊のように気持ち悪い。見るだけで吐き気がする。

汐里は枕を抱え、静かに立ち上がる。「……客間で寝る」

その行動が、彰人の神経を逆撫でした。彼にとっては、これ以上ないほど譲歩しているつもりだった。ここまで頭を下げているのだから、彼女のほうが折れるべきだ――そう思っている。

「好きにすればいい。行きたければ、行けば?」

投げやりに吐き捨てられた言葉を背に、汐里は自分のスマートフォンとノートパソコンを手に取り、ドアへ向かった。

彰人は苛立たしげに寝返りを打ち、客間へ向かう汐里の細い背中に向かって言った。「明日は伏見家の家族会だ。お前も一緒に来い。結婚して、まだ日も浅いだろ。外野に笑われるような真似はしたくない」

そう吐き捨てると、低く舌打ちし、手に取った枕を床に叩きつけて鬱憤を晴らした。

汐里は、伏見家の家族会など行きたくもなかった。ましてや、彼と並んで人前に立つなど、想像するだけで気が滅入る。だが、彰人は清水グループを盾にして彼女を脅した。出席を拒めば、即座に売却すると言い放ったのだ。

清水グループは、母が彼女に遺したものだった。

あの会社のために、母は人生のすべてを注ぎ、最後は過労で命を落とした。

――母が残してくれた、たった一つの宝。

伏見家。

帝都でも名を知らぬ者はいない名門中の名門。生まれながらにして選ばれた者だけが立ち入る、いわば貴族の家だった。

彰人の車が伏見家の邸宅前に停まるや否や、執事がすぐに出てきて声を荒げた。「ここは関係者以外の駐車は禁止です。すぐに移動してください」

その態度は、あからさまに無礼だった。だが汐里は、もう慣れていた。何も言わず助手席を降り、静かに脇へと移動する。

彰人も「伏見」の姓を名乗ってはいるが、伏見家の中では取るに足らない存在に過ぎない。彼の母親は、伏見家当主の非嫡出の娘だった。かつて、家の反対を押し切り、車も家も持たない貧しい男と結婚したことで、激怒した当主により伏見家を追放された。

年月が流れ、彰人が成長するにつれ、母は悟った。――自分の力では、息子に何も与えてやれない、と。そこで彼女は、あらゆる手を使って彰人を伏見家に戻そうとした。姓を「伏見」に改めさせたのも、その一環だった。

だが、彰人の立場は、伏見家の中でいまだに受け入れられてはいなかった。伏見家に戻るたび、必ずと言っていいほど皮肉や嘲笑を浴びせられる。それでも彼は意地を張り続けていた。――いつか必ず、伏見家の連中全員に思い知らせてやる。自分は「出来損ない」なんかじゃない、と。

彰人が立ち上げた会社の名は「万森グループ」。起業当初の資金――最初の数百万円は、すべて汐里が出したものだった。その後も、清水グループの全面的な後ろ盾があったからこそ、彼は短い年月で会社をここまで大きくできたのだ。

けれど今となっては、汐里にはそう思える。――全部、無に帰したようなものだ、と。あの頃の自分は、人を見る目がなかった。

彰人は車を別の場所へ移動させたが、執事は首を縦に振らなかった。どこに停めても、「ここも不可です」と繰り返すだけだ。

ついに堪忍袋の緒が切れ、彰人は怒鳴った。「自分の家に帰ってきて、車を停める場所すらないのか!」

執事は相変わらずの作り笑いを浮かべたまま、丁寧に頭を下げる。「申し訳ございません。『余分な方』には、余分な駐車スペースもございませんので」

その言葉に、彰人の顔が一瞬でこわばった。消えかけていた怒りが、再び胸の奥で燻り始める。

汐里は、その様子を横目で見ながら、ふと感じた。――正直、少し痛快だ。

そのとき、数台の黒いセダンが、静かに門前へと滑り込んできた。それを見た執事は、表情を一変させ、慌てた様子で彰人を急かす。「早くお下がりください。征臣様がお戻りです!」

伏見征臣。伏見家現当主・宗元の末子であり、次期当主の座に最も近い男。帝都の裏表を支配するその姿は、畏怖を込めて――『黒冥の魔王』と呼ばれている。

汐里は、ゆっくりと門内へ入ってくる数台の車を見つめていた。執事は、先ほどまでの高圧的な態度が嘘のように、弾かれた勢いで駆け寄り、中央の一台のドアを恭しく開ける。

先に目に入ったのは、黒いスラックスに包まれた長い脚だった。地面に降り立つと同時に、磨き上げられた革靴が照明を反射する。

次の瞬間、場の空気が変わる。――圧倒的な存在感。何もしていないのに、人を無言で威圧する力。

汐里の視線は、無意識のうちに男の手元へと吸い寄せられた。指にはめられていたのは、金縁の翡翠の指輪。

心臓が、強く跳ねた。――見覚えがある。あの夜。ホテルの部屋で、暗がりの中でもはっきりと目に焼きついた、あの指輪。

「……まさか……」

息を呑み、汐里はゆっくりと顔を上げた。視線が交わる。鋭く、冷えた黒い瞳。感情を一切映さない、凛とした眼差し。

――あの夜、彼女と一夜を共にした男。それは、彰人の叔父だった。

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