フォローする
共有
身籠ったのは、元カレの叔父でした。 の小説カバー

身籠ったのは、元カレの叔父でした。

新婚初夜、信じていた夫の裏切りを知った彼女は、失意のあまり泥酔し、見知らぬ男の寝室へと迷い込んでしまう。そこで交わされた狂乱の一夜が、彼女の運命を大きく変えた。腹に宿った新しい命。その父親は、京城の頂点に君臨する絶対権力者であり、あろうことか裏切った元夫の「叔父」だったのだ。恐ろしさのあまり逃亡を図る彼女だったが、冷酷な支配者が放つ執拗な包囲網からは逃げられない。一方、身勝手な未練を抱く元夫は、再び彼女に復縁を迫るという愚行に出る。そんな元夫に対し、彼女は背後に立つ最強の庇護者を見据え、冷徹に言い放った。「復縁したいなら、あなたの叔父様に許可を取ってみて」と。衆人環視のなか、女嫌いとして知られる冷徹な男が彼女の腰を強く抱き寄せ、隠しきれない独占欲を露わにする。「これからは彼女を叔母上と呼ぶがいい」――。その一言に、元夫は絶望し言葉を失う。権力者の歪んだ愛と復讐が交錯する、衝撃のロマンスが幕を開ける。
共有

3

その男は、見上げるほどに長身だった。内に光を秘めたような佇まいには、気品があり、俗世の喧騒に紛れても、彼がいる場所だけが別の空間のように浮き上がって見える。

漆黒のスーツは禁欲的で、隙がない。年齢の読めない端正な顔立ちは、整いすぎているほどに美しく、そしてひどく冷たかった。

汐里は、思わず息を詰めた。これほど完成された男を前にすれば、誰だって無意識に呼吸を忘れてしまう。

征臣は、ふと彼女のほうへ視線を投げた。それだけで、汐里の胸が跳ねる。理由も分からないまま、罪悪感に似た感情が込み上げ、反射的に視線を伏せた。

幸いにも、彼はそれ以上こちらを見ることはなかった。部下を伴い、大股でその場を離れていく。

一方、彰人はというと、ようやく見つけたスペース――それはゴミ置き場のすぐ横の横の、わずかな空き地だった。

「汐里、俺たちも入ろうか?」 そう言って、彼は彼女の手を取ろうとする。

汐里は咄嗟に、軽く振り払った。「……一人で歩けるから」

彰人は一瞬だけ表情を曇らせたが、伏見家の中で笑い者になるのは避けたかったのだろう。すぐに口調を和らげた。「……分かった」

家族会が始まっても、征臣の姿はなかった。そのことに、汐里の胸に張り詰めていた不安が、ようやくほどけていく。

もし彼が同席していたら――自分は、きっと平静ではいられなかった。

会の途中、トイレに立つふりをして、汐里はそっと席を抜けた。向かったのは、邸宅の裏に広がる庭だった。

人々は皆、正面ホールに集まっている。裏庭は、驚くほど静まり返っていた。

伏見家の豪奢さは、並の名門とは次元が違っていた。これでは――彰人がどれほど必死になって伏見家へ戻ろうとしたのかも、理解できてしまう。金と権力。その誘惑は、あまりにも露骨な形で、そこにあった。

汐里は裏庭を歩き回っていたが、気づけば完全に道に迷っていた。

やがて、小さな池のほとりへと辿り着く。そのとき――水音と、低く押し殺した声が耳に届いた。反射的に足を止める。

一人の男が、ボディーガードに引きずられるように連れてこられ、そのまま頭を掴まれて、水の中へ押し込まれた。

数秒後、男はもがきながら水面から顔を出し、悲鳴を上げる。

池の周囲には、十数人のボディーガードが立っていた。黒い影が密集し、息が詰まるほどの威圧感を放っている。

汐里はとっさに身を隠し、口を押さえた。心臓が、壊れそうなほど激しく打つ。

再び、男の頭が水中へ沈められる。限界寸前になってから、ようやく引き上げられ、まるで死んだ獣でも扱うかのように、地面へ投げ捨てられた。

「伏見様……本当に、あの日、部屋にいた人物が誰なのか分からないんです。俺は……見てない……」

言い終わる前に、ボディーガードの拳が男の顔を打ち抜いた。「まだ『知らない』と言うか」

「ほ、本当です!あの時、居眠りしてて……何も見えなかった……」

次の瞬間、男の指が一本、無惨に潰され、悲鳴が夜空に響き渡った。

汐里は、頭皮が痺れるような感覚に襲われ、背中を冷たい汗が一気に流れ落ちる。

――やはり。征臣は、あの夜、ホテルにいた男だ。そして今、彼は――彼女の存在を追っている。

――つまり。あの夜の女が、自分だとは、まだ気づかれていない。

その事実に、汐里は恐怖を覚えながらも、ほんのわずかな奇妙な安堵感を覚えていた。――今すぐ、ここを離れなければ。

そう思い、身を翻した瞬間。目の前に、黒服の男が二人、音もなく立ちはだかった。

「……やはり、いましたか」

汐里は引きつった笑みを浮かべ、必死に平静を装う。「た、たまたま通りかかっただけです。何も……見ていません」

高木慎一は、彼女を一瞥すると、池のほうへ視線を送り、淡々と告げた。「若様。伏見彰人の女です」

しばしの沈黙。やがて、低く、磁力を帯びた声が闇の奥から響いた。「……連れてこい」

汐里はボディーガードに挟まれ、否応なくその場へ連れて行かれた。背中を押され、前によろめく。転びそうになり、慌てて足を踏みとどまった。

喉が鳴る。怖くて、とても顔を上げられない。

男は、ガーデンソファにもたれかかるようにして座っていた。黒のVネックのニットに、ゆったりとしたストレートパンツ。 整った顔立ちは庭の照明に浮かび上がり、全身に淡い金色のオーラを纏っているようだった。

――美しすぎる。まるで、闇に展示された一枚の絵画のように。

征臣の視線が、静かに彼女を射抜く。

細く、華奢な身体。雪のように白い肌。恐怖のせいで、長い睫毛が小刻みに震え、その様子がかえって人の庇護欲を掻き立てる。

「……顔を上げろ」低く、抗えない声。

汐里は両手でスカートの裾を強く掴み、唇を噛みしめた。胸の鼓動を必死に抑えながら、ゆっくりと顔を上げる。

視線がぶつかった瞬間、男の表情はどこか淡々としていた。「……なぜ、ここへ来た」

「わ、私は……道に迷ってしまっただけで。決して、他意があったわけではないのです」

「迷った?それとも、彰人に言われて様子を探りに来たか」

「違います!本当に違います。誓ってもいいです!」汐里は小さな手を上げ、必死に訴えた。だが男は、彼女の言葉など最初から眼中にないように、冷ややかに視線を逸らす。その態度だけで、彼女の『誓い』が無意味だったことが分かった。

幸い、征臣はそれ以上追及するつもりはなかったらしい。短く合図を出し、ボディーガードに彼女を下がらせた。

――助かった。胸を撫で下ろした、その瞬間。胃の奥が、突然ひっくり返る。「……っ」吐き気を堪えきれず、汐里は思わず口元を押さえた。

視界の端に、男が横たわっていた長椅子のそばのゴミ箱が映る。――あそこへ。

そう思った次の瞬間、足取りを誤った。身体が前へと傾き、そのまま――男の胸元に、勢いよくぶつかる。「……っ」

――この女、いったい何様のつもりだ。

その場にいたボディーガードたちが、一斉に息を呑み、慌てて駆け寄った。

「動くな」征臣の低い声に、全員が凍りついた。

汐里は彼の胸元に伏したまま、何度かえづいて、ようやく落ち着いた。幸い、吐いたのは空えずきだけだった。

次の瞬間、彼女の身体は突き放された。

「……彰手に使われて、俺に取り入りに来たのか」 怒気を含んだ声。冷ややかな刃のような圧が、言葉に滲んでいる。

汐里は床に座り込んだまま、無垢な目で彼を見上げた。「……体調が悪かっただけです。叔父様、ごめんなさい」

その呼び方に、征臣はわずかに眉を寄せた。――賢い女だ。こうも早く、取り入る隙を見つけてくるとは。

庭の灯りに照らされた彼女の顔は、小さく整っていて、不安と恐怖がそのまま表情に浮かんでいる。まるで、怯えきったウサギのようだった。

「叔父様……それでは、失礼します」

汐里はそう言って立ち上がり、踵を返す。だが次の瞬間――手首を、強く掴まれた。

征臣の視線が、彼女の潤んだ瞳に留まる。逃がさないと言わんばかりに、じっと、丹念に見据えていた。

汐里の鼓動は異様なほど速かった。――まさか、気づかれたの?

続けて視聴する!
物語はいよいよ佳境へ!アプリに切り替えて続きを読む
全エピソードをロック解除
公式サイトを開く

おすすめの作品

囚人番号309番の私を、世界的富豪が買い占めた夜。 の小説カバー
8.5
看護師の長谷杏奈は、夫・和夫が起こした交通事故の身代わりとして三年間服役する。獄中で人命を救い減刑された彼女は、家族との再会を夢見て予定より早く出所するが、そこで待っていたのは残酷な裏切りだった。和夫は杏奈の親友である聡子と不倫に耽り、育児放棄によって愛娘の莉々を死なせていたのだ。さらに、夫が身代わりをさせた事故の真相は口封じのための殺人であり、出所後の杏奈に保険金をかけ殺害する計画まで進んでいた。愛する娘を失い、献身を蹂躙された杏奈の心は深い絶望に染まる。しかし、かつて彼女が命を救った世界的富豪・有馬康太の手が差し伸べられたことで運命は一変する。康太の圧倒的な支援を得て新たな身分を手に入れた杏奈は、過去を捨てて上流社会へと華麗に転身。自分を陥れた者たちへの壮絶な復讐劇を開始する。それはやがて、正義と真実の愛を取り戻す戦いとなり、彼女は巨大なビジネス帝国を導く伝説の存在へと登り詰めていく。裏切りに塗れた過去を清算し、自らの手で新たな栄光を掴み取る波乱の物語。
クズ夫に復讐!離婚後、世界一の大富豪と結婚!? の小説カバー
8.4
極秘結婚から三年、曽根明里は待ちに待った結婚式を目前に控えていた。しかしその前夜、長年尽くしてきた夫から放たれたのは、別の女性と結婚するという非情な宣告だった。「彼女は命の恩人なんだ。今度は僕たちが彼女を支える番だろう?」という夫の身勝手な理屈に、明里の愛は完全に冷め切ってしまう。これ以上、日陰の身として耐え忍ぶ必要はない。形だけの偽装離婚のはずが、明里にとっては未練を断ち切る真の決別となった。自由を手にした彼女の前に現れたのは、冷酷非道と恐れられる世界一の大富豪。彼は明里を力強く抱き寄せ、彼女に固執する元夫を冷徹な眼差しで見下ろす。「勘違いするな。今、明里は俺の女だ」と。一方、離婚後に初めて彼女の価値に気づいた元夫は、狂おしいほどの後悔に苛まれていた。必死に復縁を乞う元夫だったが、明里の隣にはすでに、圧倒的な権力を持つ新たな伴侶がいた。裏切りから始まった第二の人生で、彼女は真の愛と至高の幸福を掴み取っていく。
初恋の身代わりを辞めたら、私にすがりつく狂犬に変貌。 の小説カバー
8.2
極秘結婚から5年。星野凛音は、夫の桐生蒼真が初恋の女性とホテルへ入る場面を目撃し、自身が単なる身代わりに過ぎなかったという残酷な真実を知る。絶望した彼女は蒼真を欺いて離婚届に署名させ、決別の言葉を突きつけた。愛に依存していた過去を捨て、自立した女性として歩み始めた凛音は、仕事で目覚ましい成功を収め、会社を上場間近まで成長させる。一方、彼女を失って初めて執着に似た愛に気づいた蒼真は、後悔に苛まれる狂犬へと変貌していた。ある祝賀パーティーの夜、別の男性と親しげにする凛音の姿に激しい嫉妬を覚えた彼は、更衣室で彼女を待ち伏せ、壁際に追い詰める。「俺は後悔している」と涙を流しながら、かつての冷徹な態度は影を潜め、強引かつ必死に再婚を請う蒼真。身代わりとしての役割を終え、一人の女性として輝き始めた凛音に対し、エリート社長による猛烈な求愛が幕を開ける。一度壊れた関係の行方と、立場が逆転した二人の愛の葛藤を描く現代ロマンス。
虐げられた天才令嬢は、闇の底で最強の伴侶に出会う の小説カバー
8.3
凄惨な事故が神崎結月の運命を暗転させた。最愛の恋人は記憶を失い、あろうことか彼女の従姉と恋に落ちる。さらに父の暗殺、母の急死によって家門は崩壊。全てを失った結月は、九条家の「忌み子」と蔑まれる男のもとへ厄介払いとして嫁がされた。盲目で歩行不能、残忍かつ狂暴と噂されるその男との初夜を、周囲は彼女が生き延びられるはずもないと冷笑した。しかし、結月には隠された真の姿があった。建築界のカリスマであり、先端IT企業の創設者、さらには天才的な創薬者という顔を持つ彼女は、夫と共にA市を震撼させる。夫の正体もまた、街の富を支配する無慈悲なカジノ王であった。かつて彼女を虐げた伯父一家は、二人の圧倒的な力の前に絶望し、膝をつくことになる。一方、記憶を取り戻し後悔に苛まれる元恋人は、財宝を手に許しを乞うが、九条家の覇王はそれを冷酷に一蹴した。数年後には愛娘を授かる未来を見据える夫婦にとって、裏切り者の執着など、もはや視界に入る価値すらなかったのである。
離婚を求めた天才外科医:もうあなたには戻らない の小説カバー
9.1
慶應病院で心臓外科医として働く私は、西園寺財閥の総帥を夫に持つ。しかし、病院の駐車場で目撃したのは、内科医の高橋とその子供を慈しむように抱きしめる夫の姿だった。彼は愛人と隠し子のために、彼女を隣室へ住まわせ、さらには職務上のミスまで権力で隠蔽する。実の両親から暴力を受け、顔から流れる血を拭いながら助けを求めた夜、夫は電話越しに彼女の子供と笑い合い、「自分で何とかしろ」と冷たく突き放した。愛する家族が別にいるのなら、なぜ私が提出した離婚届を破り捨て、私をこの理不尽な婚姻関係に縛り付けようとするのか。絶望の淵で私の心は完全に冷め、彼への未練は消え失せた。私は病院への異動を決め、弁護士を通じた委任状を彼に突きつける決意を固める。もう二度と、この男の支配に怯える日々には戻らない。自らの足で歩み出すため、私は長すぎた悪夢に終止符を打つ。
すでに別の男の妻なのでお構いなく の小説カバー
8.6
結城紗良は、相沢蓮司という男を盲目的に愛し続けてきた。蓮司の心には常に別の女性の影があり、一年の大半を海外にいる彼女に捧げ、挙句の果てにはその女性との間に子供まで授かっていた。それでも紗良は彼への想いを捨てきれず、卑屈なまでに愛を乞い、ついに結婚の約束を取り付ける。しかし、入籍当日。海外から戻った想い人のもとへ向かった蓮司は、役所に姿を現さなかった。この裏切りによって、紗良が七年間抱き続けた未練は完全に潰える。彼女は彼との連絡を断ち切り、思い出の街を去る決意をした。蓮司は「どうせすぐに泣きついて戻ってくる」と高を括っていたが、再会した紗良は、見知らぬ男性と共に婚姻届を手にしていた。形勢は逆転し、今度は傲慢だった御曹司の蓮司が、なりふり構わず彼女を追い回すようになる。「俺が愚かだった、やり直してくれ」と必死に縋り付く蓮司。だが、冷徹な視線を向ける紗良の口から出たのは、拒絶の言葉だった。「いい加減にして。私はもう、別の人の妻なの」