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最凶の狂犬令嬢と、猫かぶりな摂政王様 の小説カバー

最凶の狂犬令嬢と、猫かぶりな摂政王様

京都の街で「不吉」の象徴と蔑まれる侯爵令嬢。実母の死を招き、継母を病ませ、最後には賊に捕らわれるという悲惨な運命を辿る彼女だったが、その絶望の淵で劇的な変化が訪れる。彼女の肉体に宿ったのは、現代で最強の名を欲しいままにした「特級工作員」の魂だった。もはや以前のような、他者に蹂躙されるだけの儚い少女ではない。冷酷な実父や呪詛を吐く継母、そして裏切りに耽る婚約者と義妹。家族という名の敵たちが渦巻く中、彼女は工作員としての卓越した戦闘技術と冷徹な知略を武器に、クズ揃いの一族を完膚なきまでに叩き潰していく。しかし、そんな苛烈な彼女の前に、冷徹さで知られる摂政王が立ちはだかる。なぜか彼は執拗に彼女を見つめ続け、ついには「救われた恩を返すため、この身を捧げる」と忠誠を誓い始めた。復讐に燃える最強令嬢と、裏の顔を持つ摂政王。運命が交錯する中、彼女の新たな戦いが幕を開ける。圧倒的な力で理不尽を粉砕する、痛快な逆転ファンタジーが今始まる。
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ずしりとした重みが身体にのしかかり、服は乱暴に引き裂かれていく。蘇清叙(そ・せいじょ)の耳元では、男たちの下卑た笑い声が渦巻いていた。

かっと目を見開いた瞬間、視界に飛び込んできたのは、獣欲にぎらつく顔の男だった。 「へへ、起きたか。ちょうどよい、でねえと面白くねえゆえな」

男はそう言い終えないうちに、清叙の襟元を乱暴に引き裂いた。

白くきめ細かな肌が露わになり、獣じみた笑い声がいっそう卑しさを増した。

スパイとしての直感が、瞬時に胸の奥で鋭い警鐘を鳴らす。彼女は全身の筋肉に力を込め、のしかかる男を跳ね除けようと抗うが、身体は意思に反して、綿のように力が入らない。

(違う――これは、私の身体じゃない!)

脳裏をよぎるのは、あの灼熱の閃光と轟音。命知らずのテロリストが爆弾を起爆させ、彼女はあの爆発で確かに命を落としたはずだ。なのに今、見知らぬ誰かの身体で目覚めている。

思考はほんの一瞬。清叙の表情から温度がすっと消え、その瞳の奥に氷のような殺意が満ちていく。

(正面からじゃ勝てないなら、手段は選ばない)

彼女は筋肉の記憶のままに全身の力を溜め、男が身を屈めたその瞬間、的確に股間を蹴り上げた。

バキッと、鈍い音が響いた。

それに続いて鳴り響いたのは、男の苦痛に満ちた叫び声だった。

「ぐっ……この野郎、蹴るか!?殺さむ!」 男は股間を押さえてうずくまり、怒りにまかせて罵声を吐き散らした。

仲間たちが一瞬呆気に取られたその隙を突き、清叙は転がるように起き上がり、包囲の輪から抜け出す。

「捕えよ!地獄の思いを味わわせてつらむ!」 山賊の頭領が股間を押さえ、血走った目で叫んだ。

その言葉を合図に、手下たちが一斉に清叙へと襲いかかった。

その光景を、密かに見つめる者がいた。

林の小道の突き当たり、木々に隠れるようにして、護衛に囲まれた一台の豪奢な馬車がひっそりと停まっている。

長く骨ばった指が、馬車の御簾を静かに持ち上げた。

車内の男は漆黒の蟒袍(もうほう)を纏い、彫りの深い顔立ちには冷厳さが溢れている。その身には生まれ持った威圧感と覇気が宿っており、誰もが畏怖を覚えるような、圧倒的な存在感であった。

ただ、その視線があの娘を掠めた時、そこには僅かばかりの驚きが混じっていた。

見た目はか弱く、たおやかですらある。しかし、その一手一手に迷いはなく、洗練された苛烈さを秘めている。常人離れした動きだ。

馬車の傍らに控えていた護衛の小五(しょうご)は、思わず息を呑んで声を漏らす。「身の働き見事なり。されど、いささか力が足りぬが惜しい。さもなくば、あの程度の山賊、物の数ではあるまいに」

馬車は巧妙に身を隠しており、追走が激しく続いている向こうの者たちは、誰一人としてその存在に気づいていない。

清叙の反撃は、男たちを完全に激昂させた。本来、彼らが受けていた命令は、この女の純潔を奪うことだけで、命まで取ることは禁じられていたはずだった。

だが、女一人に翻弄された屈辱が、彼らから理性を奪い去った。

男たちは歯ぎしりをさせながら腰の刀を抜き放ち、鬼の形相で清叙に斬りかかる。

清叙は胸の内で嫌な予感を覚えた。素手の状態ではただでさえ分が悪いというのに、武器まで加われば、さらに不利な状況に追い込まれるのは火を見るよりも明らかだった。

彼女は頭がフル回転していた。

長年にわたるスパイとしての経験が、絶体絶命の窮地にあっても、冷静さを失わなかった。

狙うは、急所を砕いた頭領。彼を人質に取り、残りをけん制する。

数人の山賊を相手にフェイントをかけると、素早く身を翻して頭領のもとへ駆け出した。

だが、彼女はこの身体の限界を見誤っていた。

数メートルも走らぬうちに、ふっと膝から力が抜け、糸が切れた人形のように、前のめりに崩れ落ちた。

――終わった。

脳裏に浮かんだのは、その言葉だけだった。

案の定、彼女が身を起こす間もなく、冷ややかな刃が、その白い喉元にぴたりと突きつけられた。

「……惜しいことでござるな」 馬車の傍らで、小五がため息と共に、静かに首を振った。

(聡明さの窺える娘であった。ただ、運がなかった)

(ましてや、我が主は無用な面倒事を好まない)

彼がそう考えている、その時。馬車の中から、低く、重厚な声が響いた。「――助けよ」

小五は一瞬、目を丸くした。その瞳には明らかな驚きの色が宿っていたが、彼はすぐに身を正し、恭しく「はっ」と応じた。

ところが、彼が振り向こうとした瞬間、耳に届いたのは山賊の凄惨な悲鳴だった。

目を向けると、清叙が、さっきまで優勢であった山賊の一人の襟首を掴み、その喉元にがぶりと噛みついて力を込めている姿が目に入った。

鮮血が勢いよく噴き上がり、山賊はあふれ出る血を押さえつつ地面に倒れ込み、激痛に身をよじった。

残りの山賊たちは、その血腥い光景に呆然と立ち尽くした。その一瞬の隙をつき、清叙は身を翻して、地に落ちていた刀を素早く拾い上げる。

長刀が鋭く振り抜かれ、残る者たちの喉を切り裂く。宙には血の線が弧を描き、凛冽たる刃の光が、彼女の氷のような眉目を映し出していた。

それは紛れもない殺戮でありながら、どこか舞のような美しささえ帯びていた。

小五の目は、驚愕に大きく見開かれていた。

その直後、清叙の身体からは力が抜け、彼女はその場に崩れ落ちるように地面へと座り込んだ。

この身体はあまりにも脆弱であった。ほんのわずかな攻防で、全身の力は使い果たされてしまっている。

山賊はことごとく始末した。喉を噛み切られた残りの者も、もはやどうということはあるまい。

彼女は地面に身を横たえ、呼吸を整えつつ、この身体に刻まれていた記憶が奔流のように押し寄せてくるのを、ただ受け止めていた。

この身体の本来の持ち主は、安定侯爵府の嫡長女。身分は極めて高貴だが、その境遇はいかにもありふれたネット小説の設定の如く、彼女がこの世に生を受けたその日、母である安定侯前夫人は難産でこの世を去った。

清叙は「母殺し」の烙印を押され、実の父をはじめ、一族郎党から疎まれ続けて育った。

やがて安定侯爵は後妻に徐氏(じょし)を迎え、蘇鳶児(そ・えんじ)という娘が生まれた。その後も一男一女をもうけ、徐氏は安定侯爵府での地位を盤石なものとした。

この徐氏という女は、仏の仮面の下に蛇のような狡猾さを隠し持ち、表向きには清叙を慈しむふりをしながら、裏で策を弄し、清叙が父や祖母にいっそう疎まれるよう仕向けていた。

元の持ち主は、幼い頃から、まるで地獄のような日々を送っていたが、彼女には一縷の望みがあった。それが、当代の第四皇子という婚約者である。

ただし、この第四皇子は他の皇子たちとは事情が違っていた。彼の生みの母は、宮中でも最下層に属する宮女にすぎず、その出自ゆえに、彼自身もまた皇帝から冷遇されていた。

だが、どれほど冷遇されていようとも、皇子は皇子である。

彼に嫁ぐことさえできれば、この苦しい現状から抜け出せる――元の持ち主はそう信じていた。ところが、いよいよ縁談がまとまろうというその時に、徐氏が、毎夜悪夢にうなされると訴え始めたのだ。

高名な僧侶に見てもらったところ、その原因は清叙の持つ凶運のせいだという。

その禍根を断つためには、清叙自らが城外の寺へ赴き、仏前で膝をついて許しを乞わねばならぬ――そうして初めて、災厄は取り除かれるというのだ。

彼女はその言葉に従い、寺へ向かったが、戻る途中で山賊に襲われ、純潔を奪われようとしていた……。

まさにその絶体絶命の瞬間、自分の魂が、この身体へと滑り込んだのである。

元の持ち主の記憶をすべて飲み込むと、彼女の表情には瞬時にして底知れぬ冷徹さが宿った。

当の本人には見抜けなかったことも、今の清叙には手に取るように分かった。

記憶を辿るかぎり、あの婚約者と義妹・蘇鳶児は、どうやら浅からぬ仲らしい。

そもそも、婚儀が間近に迫ったこの時期に、徐氏が頭痛を訴え、その上、城から目と鼻の先で山賊に遭遇し、あわや純潔を失いかけるなど、あまりに出来すぎた偶然ではないか。

純潔を失った娘が、皇室に嫁ぐことなどできるはずもない。

清叙は刀を地面に突き、ゆるやかに身を起こし、口の端をわずかに吊り上げると、低く笑い声を洩らした。「なかなかおもしろうござるわ」

その声を聞き、まだ息のあった山賊の頭領は、かすかな意識を保っていながらも、全身は恐怖に震えていた。

彼の目に清叙の姿は、あたかも地獄の業火を背負った閻魔そのものであった。

清叙の視線が自分に向けられたのに気づくと、男は恐怖に目を見開き、傷ついた喉の痛みも忘れたように、転がるように地面を這いながら後へ退いた。

「く、来るな……!こちへ来るな……げほっ、げほっ!」 血にむせて、男の声はひどく掠れ、もはや意味をなさない呻きへと変わり果てていた。

その頃には、清叙の体力はほぼ回復していた。彼女は迷うことなく男の傍らまで歩み寄ると、その胸を力任せに踏みつけ、喉元に刃を突きつけた。その声は、氷のごとく冷ややかに響く。 「吐き申せ。たれが指図したる?」

山賊の頭領は恐怖に顔を歪め、震える声で命乞いをした。「お、お助け……!見逃してくんなせえ!……なんでも申す!」

清叙は応じることなく、踏みつけた足にさらに力を込めた。「三つ数えるわ。その間に白状せぬなら、地獄の閻魔へ申し上げるがよい」

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