
幽霊は検事の隣で真実待つ
章 3
桜庭心 POV:
正人の携帯画面に表示された名前を見た瞬間, 彼の表情は, 一瞬で柔らかなものに変わった.
こんな顔, 彼が私に見せてくれたのは, もう何年も前のことだ.
「もしもし, 美奈子? どうしたんだ? 」.
彼の声は, これまでに聞いたことのないほど優しく, 愛に満ちていた.
私の心臓は, ナイフで抉られたように痛んだ.
「大丈夫か? 何かあったのか? 心配だよ」.
正人は, 美奈子に, 私が決して見ることのできなかった優しい笑顔を向けた.
美奈子.
彼女は, 私の全てを奪っていった.
正人の愛も, 私の信用も, そして, 私の命も.
彼女の名前を聞いただけで, 私の魂は全身が凍り付いたように感じた.
私の心臓は, きりきりと音を立てて締め付けられ, 息ができない.
「すぐに会いにいく. どこにいるんだ? 」.
正人は, 美奈子に, 優しく語りかけた.
「まさか, あの女がまたお前を傷つけようとしたんじゃないだろうな? 」.
彼の目は, 私の遺体安置室の方向を鋭く睨んだ.
「もしそうなら, 絶対に許さない」.
正人の声は, 怒りに満ちていた.
「必ず, あいつを消してやる」.
彼の言葉は, 私に向けられた明確な脅迫だった.
私の魂は, 深い絶望に包まれた.
彼は, 本当に私を排除したがっている.
「心配するな. 私が全て解決するから」.
正人は, 再び優しい声で美奈子に語りかけた.
私の魂は, 自嘲の笑みを浮かべた.
彼は, 私の死を, 今, この場で宣言しているのだ.
彼は, 本当に, 私が死んでほしいと願っているのだろうか.
その思いが, 私の心を深く深く抉った.
「愛しているよ, 美奈子」.
正人の言葉が, 私の魂を打ち砕いた.
私の心は, 完全に死んだ.
全身に, 冷たい水が流れ込んでくるようだった.
彼から, 愛されていると感じたことなんて, 一度もなかったのに.
「ええ, 私もよ, 兄さん」.
電話の向こうから聞こえてきたのは, 美奈子の甘く, しかしどこか悪意に満ちた声だった.
私の魂は, その声を聞いた途端, 全身が震え上がった.
美奈子.
私は, 必死に声を上げようとした.
「正人さん, 美奈子に騙されているのよ! 」.
だが, 声は出ない.
私の叫びは, 誰にも届かない.
私の存在は, 正人にも, 美奈子にも, 見えていない.
彼女の声は, 甘美な毒薬のように, 私の魂を蝕んでいく.
正人は, 電話を切ると, 満足そうな笑みを浮かべた.
「美奈子が心配している. 桜庭の安否を確認してきてくれ」.
正人は, 上司に向かって言った.
彼は, 私の遺体安置室に向かおうとした.
「奥村検事! 」.
上司が, 慌てて彼を呼び止めた.
「桜庭さんの携帯, 繋がらないんです」.
上司の顔には, 真剣な心配の色が浮かんでいた.
「どうせまた, 私を困らせるための狂言だろう」.
正人は, 冷たく言い放った.
「違います! 桜庭さんは, そんなことをする人では... 」.
上司が, 反論しようとした.
「もういい」.
正人の言葉が, 上司の言葉を遮った.
正人は, 再び霊安室を出て行こうとした.
その時, 正人の携帯が, 再び鳴った.
彼の顔から, 不機嫌な表情が一瞬で消えた.
私の魂は, またしても, 不穏な予感に襲われた.
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