フォローする
共有
偽物の彼と、本物の私。 の小説カバー

偽物の彼と、本物の私。

新学期の寮生活。幼なじみに見送られて入寮した私を待ち受けていたのは、外面だけは良いルームメイトの少女だった。彼女は私の連れを見て「品がある」と媚びを売る一方で、私には「そのバッグ、偽物でしょ」と容赦ない皮肉を浴びせてくる。さらに、前日に寮の下見へ同行した私の父を「パトロンのオジサン」だと勝手に決めつけ、事業に失敗したのではないかと嘲笑う始末。極めつけは、私が「卒業したら彼と結婚するつもり」と打ち明けた瞬間、彼女は「今どき男に頼って生きるなんて」と寮中に響き渡る声で私を侮蔑した。しかし、彼女は何も分かっていない。彼女がオジサンと呼んだのは、業界トップに君臨する本物の資産家である私の実父。そして、彼女が目をつけた私の婚約者は、父に仕える運転手の息子に過ぎないのだ。勘違いしたまま勝ち誇る彼女を前に、私は心の中で冷ややかな笑いを堪えきれずにいた。富も愛も、すべてを履き違えているのは一体どちらなのか。真実を知らないルームメイトとの、奇妙な共同生活が幕を開ける。
共有

2

王城紗夜と目が合った瞬間、彼女の表情がわずかに揺れた。

私はその視線をやり過ごして、久我湊のもとへと歩み寄る。

「どうして何の連絡もなしに上がってきたの? ここ、女子寮だよ。もし誰かに見られたら……」

「ち、違うよ綾香。さっき電話かけたんだけど、ずっと話し中で……それで……」

正直、彼の行動には少し苛立っていた。けれど、額に汗をにじませ、身をかがめて必死に言い訳するその姿を前にすると、これ以上責め立てるのは、私のほうが大人げない気がしてきた。

王城紗夜と目が合った瞬間、その表情にわずかなぎこちなさが走った。

「……ふたりって、知り合い?」

そう尋ねたかと思えば、すぐに目を細め、私と久我湊を交互に見比べた。

「お兄さん、せっかく親切で送ってきてくれたのに、手伝いもしないどころか責めるなんて……」

「こんな恩知らずな妹、相手にしないほうがいいわよ、ねぇ、お兄さん!」

私と久我湊が沈黙を保っているあいだに、王城紗夜だけが勢いづいていた。彼女は久我湊の腕をぐいっと掴むと、腰に手を当てて真正面に立ちはだかる。

思わず、くすっと笑ってしまった。

「知らない人が見たら、まるで自分の子どもでも守ってるみたいだよ?」

だが王城紗夜は、むしろ久我湊の腕にしがみつく力を強めた。

それだけじゃない。彼の腕を引っ張るようにして、くるりと向きを変えると、まるで校内を案内するつもりだと言わんばかりに歩き出した。

久我湊は明らかにうろたえて、何度もこちらを振り返ってくる。私はというと、その後ろ姿をのんびり追いながら、肩をすくめて見せた。

(さて、王城紗夜……今度は何を企んでるのかしら)

彼女も、私がついて来ていることに当然気づいていた。けれど引くどころか、むしろますます調子づいているようだった。

バサバサとしたつけまつ毛と、ぎらぎらと光るラメ入りのアイシャドウを瞬かせながら、久我湊に甘ったるい声を向ける。

「お兄さんもこの学校の生徒なんですか? じゃあ私の先輩ですね。これからいろいろお世話してくださいね?」

「お兄さんが持ってた車の鍵、マイバッハですよね? やっぱりセンスいいなぁ、私もマイバッハ好きなんです!」

久我湊は終始、丁寧な微笑みを崩さなかった。ときおり、気のない返事をひと言、ふた言――それだけ。

けれど、彼は「お兄ちゃん」と呼ばれることを否定しなかった。私の“兄”という位置づけにも、何ひとつ反論しなかった。

もちろん、王城紗夜が口にした家柄の推測に対しても、肯定も否定もせず、ただ曖昧に受け流した。

その曖昧さこそが、王城紗夜の中で何よりの証拠となったのだろう。彼女は目を輝かせて、得意げに言った。

「湊お兄ちゃんって、やっぱり他の男の子とは違うよね」

「普通の男の子なら、ちょっとでもお金があると、すぐに見せびらかしたがるのに。湊お兄ちゃんは、そういうの全然しない。ほんと、謙虚だなあって思う」

久我湊は、気まずそうに笑ってみせた。

「そんなことないよ」

王城紗夜がふいに振り返り、わざとらしく自分の短いスカートを引き上げた。その動作があまりに自然を装っていて、あたかも今になって私の存在に気づいたかのように見えた。

「綾香ちゃん、ヒールで歩きづらそうだし、ちょっと手を貸してあげる!」

そう叫ぶやいなや、彼女はまるで突撃するみたいな勢いで私に向かってきて、わざとらしく肩をぶつけてきた。そして、私が倒れ込んだのを見て、すぐさましゃがみ込み、助け起こそうとする。

そのときだった。かがんだ拍子に、彼女のスカートはほとんど腰のあたりまでめくれ上がっていて、その状態のまま、彼女はしばらくのあいだ――というより、意図的に――角度を変えつつ、久我湊に視線を送っていた。

久我湊の耳まで赤くなっていた。いや、首まで真っ赤だった。

私は足首を押さえながら、怒りを抑えきれずに声を荒げた。

「頭おかしいんじゃないの!?」

彼女は無垢な顔で首をかしげた。

「だって、ハイヒールで歩きづらそうだったから。ちょっと支えようと思っただけだよ?」

足をくじいて、手も擦りむいてしまった私を見つけるなり、久我湊が駆け寄ってきて、何のためらいもなく横抱きに抱き上げた。

その瞬間、心の奥がふっと温かくなりかけたのに――次の言葉で、一気に冷めてしまった。

「……まあ、君の同級生も、悪気があったわけじゃないし」

王城紗夜が甲高い声を上げる。

「ちょっと!兄妹なのにお姫様抱っこって、あり得なくない!?」

私はふっと微笑んで、彼女に顔を向ける。

「誰が兄妹だって?」

「――この人、私の彼氏だけど」

言ったとたん、久我湊の腕に、わずかに力がこもるのがわかった。

おすすめの作品

拾った子がまさか億万長者の息子だったなんて!? の小説カバー
8.0
「不妊である」という冷酷な宣告を突きつけられ、清水瞳は四年前、鈴木家を追われるように去った。絶望に打ちひしがれた彼女は、逃げるように辿り着いた地方の町で、激しい雨に打たれ捨てられていた赤ん坊を救い出す。その子を育てる決意をした瞳にとって、息子との暮らしは生きる希望そのものだった。しかし四年後、彼女の質素な住まいに高級車が列をなし、一人の男が現れる。大富豪である天草蓮は、ブラックカードを無造作に差し出し、多額の報酬と引き換えに実子である少年を連れ去ろうとした。瞳は必死に息子を庇い、命を懸けて守り抜く覚悟を鋭い眼差しで蓮にぶつける。我が子を誰にも渡さないと言い放つ彼女の強い意志と、眩しいほどの気高さに触れた蓮は、不敵な笑みを浮かべた。彼は息子を抱き上げるだけでなく、瞳の腕をも強引に引き寄せ、驚くべき宣言をする。子供だけでなく、彼女自身もまとめて自分の手中に収めるというのだ。そこから、孤独な母子と傲慢な億万長者の、新たな運命が動き出す。
偽装死した元カレが愛人契約を迫ってきたので、 の小説カバー
7.9
死んだはずの元恋人が、身重の命の恩人を連れて突如姿を現した。彼は「彼女のおかげで生還できた」と語り、あろうことか私を含めた三人での共同生活を提案する。さらには彼女と入籍し、私には償いとして形だけの結婚式を挙げると告げたのだ。名家の長女であり、若き実業家の妻として誇り高く生きてきた私に、愛人になれというのか。彼の身勝手な傲慢さに、私の怒りは頂点に達する。もし彼が御曹司という地位を捨てる覚悟なら、私には彼を徹底的に破滅させ、無一文に追い込む力がある。裏切られた愛が冷徹な復讐心へと変わる、愛憎のドラマが幕を開ける。
夫に跪くくらいなら、離婚してやります! の小説カバー
9.6
結婚生活が始まってから三年の月日が流れた。冷徹な夫であっても、自分の献身があればいつかはその心を溶かせるはずだと彼女は信じ続けてきた。しかし、一族の祠堂で夫から冷酷にも跪くことを強要された瞬間、彼女はついに残酷な現実に直面する。彼には通じ合える心など最初から存在しなかったのだ。愛のない人間の傍で、自分を押し殺してまで尽くす意味がどこにあるのだろうか。夫から「跪いて従うか、それとも離婚か」という究極の選択を突きつけられたとき、彼女の心に迷いはなかった。彼女は即座に離婚を決意し、自由な道を選ぶ。自身の貴重な時間を、愛を知らぬ男のために浪費する必要などどこにもない。実家に戻れば、莫大な資産を相続する輝かしい未来が待っている。億万長者の令嬢として、華やかで喜びに満ちた本来の人生を取り戻す方が、よっぽど価値があるはずだ。窮屈な結婚生活を脱ぎ捨て、彼女は自らの手で真の幸福を掴み取るために歩み始める。
氷の心を溶かしたのは、離婚届でした の小説カバー
7.9
結婚生活の3年間、彼女は夫の冷え切った心を温めようと献身的に尽くしてきた。しかし、彼が向けたのは食事さえ拒むほどの強い嫌悪感だった。絶望の果てに愛を捨てる決意をした彼女は、離婚届を残して彼の前から姿を消す。執着から解放され、仕事に没頭する日々を選んだ彼女。時が経ち、かつての夫の前に現れた彼女は、彼の会社と肩を並べる大企業の社長へと変貌を遂げていた。さらに凄腕弁護士、天才ハッカー、トップデザイナーという驚愕の素顔が次々と明かされていく。豹変した彼女の姿に自制心を失った元夫は、彼女を壁際に追い詰め、隠されていた真実を問い詰める。しかし、彼女は冷ややかに彼を突き放した。かつての拒絶はどこへやら、今度は彼が執拗に復縁を迫り、愛を囁き始める。なりふり構わず追い縋る彼に対し、彼女は静かに微笑んで言い放った。今さら向けられる深い愛情など、道端の草ほどの価値もない、と。立場が逆転した二人が織りなす、痛快で切ない現代ロマンス。
憎しみから生まれた愛 の小説カバー
9.8
第三者が仕組んだ卑劣な罠によって、彼女は見知らぬ権力者の男と一夜を共にしてしまう。混乱のなかその場から逃げ出した彼女だったが、その逃亡は彼に莫大な損害をもたらす結果となった。それから三年の月日が流れ、彼女は病に倒れた祖父の命を救うため、かつて傷つけたはずの彼の元を再び訪れる。雨が降りしきる冷たい夜、再会した彼は「俺が死なない限り、助けることなどあり得ない」と冷酷な嘲笑を浮かべて彼女を突き放した。復讐とも取れる過酷な条件を突きつけられながらも、二人はやがて結婚という道を選ぶことになる。当初、彼女は彼が自分を辱め、苦しめるために側に置くのだと確信していた。しかし、共に時間を過ごすうちに、彼の冷徹な態度の裏に隠された真意が少しずつ明らかになっていく。憎しみから始まった関係は、彼女が想像していたものとは異なる方向へと動き始める。過去の因縁と現在が交錯するなかで、二人の歪な絆はどこへ向かうのか。圧倒的な権力を持つ男と、家族のために自分を捧げた女が織りなす、愛と憎しみの物語が幕を開ける。
99の顔を持つ元妻は、復縁なんてお断り! の小説カバー
8.7
天野家の令嬢でありながら、数多の裏の顔を持つ天野汐凪は、不慮の事故で植物状態となった黒崎家の冷酷な後継者・黒崎瑛斗と結婚します。汐凪は類まれな医術で瑛斗を献身的に治療し、三年の月日を経て彼を救い出しました。しかし、目覚めた瑛斗は彼女の深い愛を無下に扱い、想い人の帰国と同時に離婚を突きつけます。愛に絶望し、男など己の歩みを鈍らせる存在だと悟った汐凪は、潔く署名を残して彼の元を去りました。その後、彼女は封印していた真の姿を次々と現します。世界的傭兵王が「姉貴」と仰ぎ、天才ハッカーが「師匠」と慕う彼女こそ、伝説の神医であり、最速のレーサーでもあったのです。隠された素性が明かされるたび、世界は驚愕に包まれます。一方、彼女を失って初めてその存在の大きさに気づいた瑛斗は、後悔に打ち震え、かつての傲慢さを捨てて彼女の前に跪きます。目を赤く腫らし、必死に復縁を乞う瑛斗。しかし、自立した輝きを放つ今の汐凪にとって、彼との過去はもはや遠い記憶に過ぎませんでした。月のような孤高の光を放つ彼女を、彼は再び振り向かせることができるのでしょうか。