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偽物の彼と、本物の私。 の小説カバー

偽物の彼と、本物の私。

新学期の寮生活。幼なじみに見送られて入寮した私を待ち受けていたのは、外面だけは良いルームメイトの少女だった。彼女は私の連れを見て「品がある」と媚びを売る一方で、私には「そのバッグ、偽物でしょ」と容赦ない皮肉を浴びせてくる。さらに、前日に寮の下見へ同行した私の父を「パトロンのオジサン」だと勝手に決めつけ、事業に失敗したのではないかと嘲笑う始末。極めつけは、私が「卒業したら彼と結婚するつもり」と打ち明けた瞬間、彼女は「今どき男に頼って生きるなんて」と寮中に響き渡る声で私を侮蔑した。しかし、彼女は何も分かっていない。彼女がオジサンと呼んだのは、業界トップに君臨する本物の資産家である私の実父。そして、彼女が目をつけた私の婚約者は、父に仕える運転手の息子に過ぎないのだ。勘違いしたまま勝ち誇る彼女を前に、私は心の中で冷ややかな笑いを堪えきれずにいた。富も愛も、すべてを履き違えているのは一体どちらなのか。真実を知らないルームメイトとの、奇妙な共同生活が幕を開ける。
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大学の入学初日。幼なじみの彼に送ってもらって寮に着いたら――とんでもないルームメイトと遭遇した。

彼女は私の彼にぴったりくっついて、「年のわりにオーラあるよね~、まさに将来有望って感じ♡」

なんて媚びた声で褒めちぎるくせに、私には態度を一変させて、皮肉混じりに言ってきた。「ブランドもどきのバッグで、成金お嬢様ごっこ?大変ねぇ~」

さらにベッドのシーツを整えていたら、わざとらしく息を呑んで、

「えっ!?昨日一緒に来てた年配のオジサマ、学校近くにマンション借りてくれるって言ってなかった? あれぇ~? お商売、潰れちゃったのかな~?」

極めつけは、私と彼が「卒業したら結婚する」って話を聞いた瞬間。寮中に響き渡る声でこう叫んだ。

「うっそでしょ!?今どきそんな、男にすがって人生楽したい系の“港区女子”みたいな子、まだいたのー!?」

……あまりの面白さに、心の中で爆笑しちゃった。

“年配のオジサマ”? ――それ、うちの親父です。財界でも名の知れた超大物。

そして、今の彼?親父の運転手の息子です。

......

入学初日、久我湊が送り迎えを買って出てくれた。

ようやく両親に認められた彼にとって、今は正念場。

だから今朝、私の家に迎えに来たときも、少し前に私が選んであげたオーダースーツを、わざわざ着てきていた。

父は特別にマイバッハを一台つけてくれて、大学生活のあいだはずっと湊が送り迎えをしてくれることになっている。

キャンパスに着いた私は、まず寮へ向かった。もし中で誰かが着替えていたら、男子がついてくるわけにもいかないと思ったから。

けれど、部屋のドアは開け放たれたまま、中はもぬけの殻だった。

なんとなく目についたベッドに荷物を置こうとした、そのときだった。背後から、刺すような声が飛んできた。

「ちょっと!そこ、私のベッドなんだけど!」

振り返ると、ドアのところに女の子が立っていた。眉を吊り上げ、怒りを隠そうともしない。

私は本当に人の場所を取ろうとしていたのかと焦って、すぐに彼女のもとへ歩み寄り、手を差し出して謝った。

「ごめんなさい。空いてると思って……」

ところが、その手を彼女はパシッと払いのけた。上から下まで値踏みするように私を見て、それから私のバッグに目をとめ、鼻先で笑った。

「置かなくてよかったじゃん。私さ、小さい頃から潔癖なの。ニセモノが触ったら、悪夢見ちゃうんだよね」

ニセモノ?

このバッグ、今季の新作が出た瞬間にサロンから直送してもらったものだ。彼女、まさかそれを偽物だって言ったの?

「本物ってこういうのを言うんだよ。ニセモノで富豪ごっこするなんて、滑稽すぎるでしょ?」

そう言いながら、彼女は肩からバッグを外し、私の目の前でそれをぶらつかせた。

まだ中身を確かめる間もなく、彼女はさっと引っ込めた。

「どきなさいよ!あんたの貧乏くさくて不吉な気なんて、うつされたくないの!」

言い捨てると、勢いよくバッグを背負い直し、肩で私を押しのけるように通り過ぎていった。

……落ち着け、落ち着け。

私は自分に言い聞かせながら深呼吸を繰り返した。

無理だ、無理。今のは、さすがに我慢できない。

袖をまくりあげ、後ろから彼女の髪を掴もうとした、その瞬間――ポケットの中のスマホが鳴った。

通話に出ると、父がいつも通りの堅苦しい口調で、集団生活にはどうしても慣れるように、これは東条家の後継者としての第一歩なのだと、念を押された。

寮に戻ると、いつの間にか久我湊が上がってきていた。少し居心地悪そうに立っている彼の前で、ひとりの女子が過剰なほどに愛想をふりまいていた。

「お兄さん、妹さんの送り迎えですか? 私、王城紗夜って言います。同じ部屋なんです」

「荷物、私が持ちますね。ほら、私ってそういうとこ全然甘えてないんです。ぜんぶ自分でやるタイプで」

「それにしても、お兄さんってほんと品がある。うちの大学の男の子とは格が違うって感じ。ご家庭の教育が良いんですね?」

王城紗夜がやけに馴れ馴れしく久我湊のバッグに手を伸ばし、そのまま胸を彼の腕に押しつけるようにして擦り寄っていた。

高級スーツの中で顔を赤くして立ち尽くす久我湊の姿を見て、私はさっきの王城紗夜の、あからさまな成金趣味な態度を思い出した。そこまでくれば、だいたいの構図は見えてくる。

私は面白がってその場にとどまり、様子を見ていた。すると、ようやく久我湊が私に気づいて、はっと目を見開いた。条件反射のように私のほうへ数歩下がってきて、まるで溺れかけていた人間が突然浮き輪を見つけたかのように、縋るような声を上げた。

「綾香!来てたんだ!」

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