
私が死に、そして再び生きた日
章 3
亜矢の手からスマホが滑り落ち、フローリングの床に音を立てて転がった。
その音は、彼女の平静が砕け散る音と重なった。
「彼が、何ですって?」
蓮のロボット教室。彼女は何ヶ月もかけて調べ、申し込みをし、蓮を盛り上げてきた。
彼は合格した時、ロボットを作る夢を見て、大喜びだった。
それはただの教室ではなかった。彼の情熱そのものだった。
彼女は健司の偽装離婚に同意し、書類に署名した。すべては詩織を「守る」ためだと。
そしてこれが、彼の返礼なのか?息子の、かけがえのないものを奪い取ることで?
その理不尽さが、燃えるように痛かった。
なぜ彼はこんなことをし続けるのだろう?彼女が従順だから、何でも許されるとでも思っているのか?
蓮が泣き始めた。ぽろぽろと大粒の涙が頬を伝う。「僕、本当にロボット作りたかったんだ、ママ」
亜矢は膝をつき、彼を抱きしめた。「わかってるわ、 حبيبي。わかってる」
彼女の心は、彼のために痛んだ。
健司に電話をかけた。留守番電話に直結する。何度も、何度も。
彼は彼女を無視している。意図的に。
数時間後、詩織のインスタグラムが更新された。
満面の笑みを浮かべた彼女と、姪であろう莉奈という少女の写真。
彼らはロボット教室のオリエンテーションにいた。
詩織のキャプション:「優秀な姪の莉奈が、ロボット教室のオリエンテーションを無事クリア!未来の発明家がここに!これを実現してくれた心優しい友人たちに感謝。#家族第一 #リケジョ」
コメントが殺到していた。「詩織さん、最高の叔母さん!」「なんて素敵なの!」
屈辱が亜矢を襲った。怒り。不正義。
蓮が家で泣いている間に、詩織は彼の奪われた機会を公然と祝っていた。
亜矢は鍵を掴んだ。「行きましょう、蓮。あの教室に行くわ」
決意が彼女の顔を硬くした。
彼らは教室が開かれている公民館へ車を走らせた。
駐車場には健司の車があった。
入り口近くで、彼が詩織と莉奈と笑い合っているのを見つけた。
「健司さん!」亜矢の声は鋭かった。
彼は振り返り、彼女と蓮の姿を見て笑顔を消した。
「亜矢?何しに来たんだ?みっともない真似はやめろ」彼の口調は苛立っていた。
蓮は、亜矢の存在に勇気づけられ、一歩前に出た。
「そこは僕の席だよ、パパ!僕が先に入ったんだ!」
彼の小さな声は震えていたが、反抗の色を帯びていた。
健司はしゃがみ込み、最も人を操ろうとする時に使う、甘ったるい声を出した。
「蓮、いい子だからな。莉奈ちゃんのお母さんは、本当に大変なんだ。シングルマザーでさ。それに莉奈ちゃんは、どうしてもここに来たかったんだ。お前は寛大な子だろ?莉奈ちゃんにこのチャンスを譲ってあげられないか?良いお兄ちゃんになってやれよ」
不公平だ。あまりにも不公平。彼は蓮に、見知らぬ他人のために自分の夢を犠牲にしろと言っている。
「いやだ!」蓮は、足をどんと踏み鳴らした。「僕の教室だもん!」
彼がこれほど反抗するのは珍しい。これは彼にとって、それほど大切なことなのだ。
健司の顔が硬くなった。優しい仮面が剥がれ落ちる。
「高橋蓮、もういい加減にしろ!わがままを言うな。お前の母親は、お前の頭にくだらないことを吹き込む代わりに、もっと行儀を教えるべきだな」
彼は亜矢を睨みつけた。「これはお前のせいだ」
蓮はわっと泣き出した。大きく、胸が張り裂けるような嗚咽。
亜矢は彼を強く引き寄せ、庇った。
胸の中で、物理的な圧力を感じるほどの激しい怒りがこみ上げた。
しかし、彼女は前の人生を思い出した。何も解決しなかった、爆発的な怒りを。
彼女は深呼吸をし、それを押し殺した。
「健司さん」彼女の声は驚くほど落ち着いていた。「お願い。蓮に席を返してあげて。彼にとって、とても大切なことなの。私…あなたに何かを懇願するのは、これが初めてよ」
健司は目をそらした。一瞬、何か――罪悪感?――が彼の目にちらついた。
それは現れたのと同じ速さで消えた。
「もう遅い、席は埋まってる」彼は呟き、それから考え直したように言った。「ほら、蓮が欲しがってた新しいスターウォリアーのレゴセットを買ってやるよ。そっちの方がもっとかっこいいだろ?」
彼は理解していない。決して理解することはないだろう。
砕かれた夢の代わりに、物質的なおもちゃを。
亜矢は深く、絶望的な気持ちになった。
彼は常に詩織を優先する。常に。彼女の家族、彼女の気まぐれ、彼女の要求を。
亜矢と蓮は、常に二の次なのだ。
「心底がっかりした」という言葉では、到底言い表せない。
亜矢は健司を押し退け、教室の責任者に話をしに行こうとした。もしかしたら間違いかもしれない、キャンセル待ちがあるかもしれない。
「すみません」彼女は受付のテーブルに近づこうとした。
健司が彼女の腕を掴んだ。その握力は驚くほど強い。
彼の建築事務所の若い社員が二人、彼と一緒に来ていたようで、気まずそうにしながらも従順に彼の両脇を固めた。
「亜矢、騒ぎを起こすな」健司は低い声で言った。「自分と蓮を恥さらしにする気か」
「離して、健司さん!」亜矢は叫び、引き離そうとした。「蓮があの席にふさわしいのよ!」
彼女はよろめき、倒れそうになった。彼女の声は、聞き届けられることのない苦悩でひび割れていた。
教室の責任者が心配そうにこちらを見たが、健司はうんざりしたように手を振った。
健司は、顎を引いて彼女を見ていた。
彼はおそらく、詩織の父親のこと、自分が負っている「恩」のことを考えているのだろう。
蓮の幸せを「犠牲」にすることは、彼の歪んだ心の中では、その恩を返す一環なのだ。
自分の息子を犠牲にしてでも、詩織を守る。
若い建築士たちは、優しく、しかし断固として、亜矢と泣きじゃくる蓮を出口の方へといざなった。
亜矢は、打ちのめされながらも、帰り際に受付のテーブルに立ち寄った。
「息子の、高橋蓮ですが、合格していたはずなんですが…」
受付の、人の良さそうな女性は、同情的な視線を向けた。「申し訳ありません、奥様。今朝、ご主人の高橋様からお電話がございまして。蓮君は参加できなくなったので、ご同僚の姪御さんに席を譲りたいと。現在、すべての席が埋まっております」
丁寧で、最終的で、覆すことのできない言葉だった。
亜矢が傷心の蓮を連れて去ろうとすると、詩織が勝ち誇ったような笑みを浮かべて近づいてきた。
「亜矢さん、理解してくれて本当にありがとう。蓮君が莉奈にこれを譲ってくれるなんて、本当に優しい子ね。莉奈にとって、かけがえのないものになるわ」
彼女の声は、偽りの感謝に満ちていた。彼女は亜矢を嘲笑っていた。
健司が詩織の隣に歩み寄り、彼女の肩に腕を回した。
「ほらな、亜矢?詩織さんは感謝してる。お前も彼女を見習うべきだ。もっと協調的になれ」
彼の言葉は、さらなる裏切りであり、ナイフをさらにねじ込むようなものだった。
亜矢は胸に鋭い痛みを感じ、息が詰まった。
不正義、あからさまな操作、それは息苦しいほどだった。
彼女はただ、蓮をそこから連れ出したかった。
健司はまだ終わらなかった。「お前はいつも物事を難しくする、亜矢。昔からずっとそうだ。お前がもう少し理解があれば、こんなことにはならなかったんだ」
いつもの非難。いつもの責任転嫁。
彼の目には、いつも彼女が悪いと映っていた。
おすすめの作品





