
仮面夫婦の残酷な真実
章 3
琴莉 POV:
「そうか, 良かった. 心配したよ」
一朗は, 安堵したように息をついた.
彼の表情は, 私には読めない.
本当に私を心配しているのか, それとも演技なのか.
しかし, 今の私にとっては, どちらでも良いことだった.
「ねえ, 一朗. 明日は私の実家に帰らせてもらってもいいかしら? 」
私は, 平静を装って尋ねた.
「最近, あまり顔を出せていなかったから」
母と父の顔が, 脳裏に浮かぶ.
彼らもまた, この裏切りに加担していることを, 私は知っていた.
一朗の顔に, わずかな動揺が走ったように見えた.
「実家か…もちろん構わないが, 体調は大丈夫なのか? 」
彼は努めて冷静を装っている.
私は, 彼の心の奥底にある不安を, 敏感に感じ取っていた.
彼は, 私が実家で何かを嗅ぎつけることを恐れているのだろう.
「ええ, 大丈夫よ. 少し気分転換になるかもしれないし」
私は, 笑顔で答えた.
「それに, 藍も妊娠しているのよね. 母も喜ぶと思うわ」
わざと, 藍の名前を出した.
彼の顔が, 一瞬にして強張る.
「ああ, そうだな. 藍も喜ぶだろう」
一朗は, ぎこちなく答えた.
彼の視線が, 私の腹部に向けられる.
私は, 彼の視線の意味を, 痛いほど理解していた.
彼は, 私が彼の計画通りに, 子供を産むことを期待しているのだ.
「分かった. 無理はするなよ. ゆっくり休んでくるんだ」
一朗は, そう言って私の頭を優しく撫でた.
その手つきは, 本当に私を愛しているかのようだった.
彼の演技は, 完璧だった.
私は, 彼に感謝の言葉を述べた.
「そういえば, 琴莉. これを君に」
一朗は, ポケットから小さな箱を取り出した.
中には, まばゆいばかりのダイヤのネックレスが収まっている.
それは, 藍が身につけていたものと, 全く同じデザインだった.
私の心臓が, ドクンと音を立てた.
「ありがとう, 一朗. とても綺麗だわ」
私は, 震える声で言った.
しかし, その心は, 冷たい怒りで満たされていた.
彼は, 私をどこまで愚弄すれば気が済むのだろうか.
彼は, このネックレスを, 私と藍, 両方に贈るつもりだったのだろうか.
それとも, 藍に贈るはずだったものを, 間違って私に渡したのだろうか.
「琴莉には, 本当に良く似合うよ. 僕の選んだものは, 間違いないな」
一朗は, 満足げに微笑んだ.
その笑顔が, 私の目には, ひどく醜く映った.
私は, 彼に首筋にキスをされて, 身震いした.
私の心は, もう彼を拒絶している.
私は, そのネックレスを, そのまま身につけて実家に向かった.
手術の前日だ.
この家には, もう戻らない.
私は, この偽りの家族と, 永遠に決別するつもりだ.
実家のドアを開けると, リビングから母と父, そして藍の声が聞こえてきた.
私は, 足音を忍ばせ, リビングのドアの陰に身を潜めた.
彼らの会話が, 私の耳に飛び込んでくる.
「琴莉は, 本当に厄介な子だわ. いつになったら, 私たちから離れてくれるのかしら」
母の声が, 私の胸を深く突き刺した.
「そうよ, お母様. 琴莉のせいで, 私の計画が台無しになるかと思ったわ」
藍の声には, 苛立ちと, 私への憎しみが込められている.
「あの女, いつまで経っても, 一朗を諦めないんだから」
私は, 耳を疑った.
彼らは, 私のことを, 一体何だと思っているのだろう.
「大丈夫だ, 藍. 一朗も, 琴莉が邪魔だと言っていた. 心配するな」
父の声が, 私をさらに絶望の淵に突き落とす.
「琴莉は, 藍のためなら, どんなことでもすると言っていたからな. まさか, あんなことになるとは思わなかったが」
彼らは, 私を利用することしか考えていなかったのだ.
私の心の中で, 何かが音を立てて砕け散った.
「そうよ, お父様. 一朗も, 琴莉がもうすぐいなくなるって言ってたわ. そうすれば, 晴れて私と一朗の子育てができるものね」
藍の声には, 歓喜が満ちている.
「琴莉は, 私たちにとって, ただの道具でしかないのよ」
私の両親は, 藍を溺愛し, 私を犠牲にすることを厭わなかった.
彼らは, 私を愛していなかった.
私は, その場に立ち尽くした.
私の心は, 冷たい怒りで満たされていた.
私は, 彼らが私に贈ったネックレスを, 引きちぎるように外した.
ダイヤの石が, 床に落ち, 音を立てて砕け散る.
私の心も, このネックレスのように砕け散った.
その音に, リビングのドアが開いた.
父が, 驚いた顔で私を見つめている.
「琴莉, お前, いつからそこにいたんだ! 」
彼の顔は, 恐怖に歪んでいた.
私は, 冷たい視線で彼らを見つめた.
その瞬間, 私のスマートフォンが鳴り響いた.
一朗からの電話だった.
私は, 着信を無視した.
しかし, 彼は諦めずに何度もかけてくる.
彼の声が, 私の耳に届く.
「琴莉! どこにいるんだ! なぜ電話に出ないんだ! 」
彼の声は, 焦りと怒りに満ちていた.
私は, 冷たい笑みを浮かべた.
「一朗, 私, 今, 病院に向かっているわ」
私の声は, ひどく冷たかった.
「病院? 何のことだ! 琴莉, まさか…」
彼の声が, 突然途切れた.
電話の向こうから, 秘書の慌てた声が聞こえてくる.
「夏目社長! 牧野様のカルテに, 堕胎手術の予約が…」
私は, 彼の顔が, 完全に凍りついたのが分かった.
「琴莉! 待て! 何をしようとしているんだ! 」
一朗の悲鳴のような声が, 電話から聞こえてくる.
彼の声は, 絶望に満ちていた.
私は, 冷たく言い放った.
「もう, あなたたちの計画通りにはならないわ」
「琴莉! やめろ! 頼む! やめてくれ! 」
彼の叫び声が, 私の耳に届く.
しかし, 私の心は, もう彼には届かない.
私は, 電話を切った.
そして, スマートフォンの電源を落とした.
これで, 彼らとの関係は, 完全に終わりだ.
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