婚約破棄、偽りの愛と真実 の小説カバー

婚約破棄、偽りの愛と真実

8.4 / 10.0
結婚目前に婚約者の勇輝から裏切られた静世。彼は看板レシピを病弱な幼馴染に譲り、無断で人工授精まで行っていた。二十年の献身を否定され、悪者に仕立て上げられた彼女は、偽りの愛を捨て去る決意を固める。人気ジャンルのromance modernを描くこのweb novelでは、理不尽な婚約破棄から始まる一人の女性の自立と再生の物語が展開される。全てをキャンセルし、パリへと旅立つ彼女を待つ運命とは。free web novelとして、真実の愛を求める読者に贈るfiction booksです。
「婚約破棄、偽りの愛と真実」のあらすじ
結婚式を目前に控えた静世は、20年間連れ添った婚約者・勇輝から残酷な要求を突きつけられる。彼は重い心臓病を患う幼馴染・心穂の「最後の夢」を叶えるため、店の看板レシピを譲ると宣言したのだ。さらに勇輝は、5年前の火災で自分を救った恩人である心穂に対し、静世に無断で人工授精まで行っていた。反対する静世を「恩義を理解しない」と責め立てる勇輝。そんな中、心穂は自ら転倒して静世に突き落とされたと偽装し、勇輝はその嘘を信じて静世に謝罪を強要する。長年彼を支え続けてきた自負は打ち砕かれ、自分は彼の人生において脇役にすらなれていなかった事実に絶望した静世の心は、完全に冷め切ってしまう。彼女は迷うことなく結婚式の全予定を白紙に戻した。そして、本来であれば二人で店をオープンさせるはずだった当日。静世は裏切りに満ちた過去をすべて捨て去るため、たった一人でパリへと旅立つ飛行機に乗り込んだ。もはや彼女の瞳に、かつての愛した男の面影は残っていなかった。
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婚約破棄、偽りの愛と真実 第1章

結婚式を目前に控えたある日, 私は二十年来の婚約者である勇輝から, 彼の幼馴染に店の看板レシピを譲ると告げられた.

理由は, 彼女が重い心臓病を患っており, それが「最後の夢」だから. そして, 五年前の火事から彼を救った「命の恩人」だから, と.

さらに彼は, 私に隠れて彼女と「人工授精」まで済ませていた.

私の反対を押し切り, 彼は「これは家族の恩義だ」と私を責めた.

彼の幼馴染, 心穂は私の前でわざとらしく転んで見せ, 「静世さんに突き落とされた」と嘘の涙を流す.

勇輝は私を睨みつけ, 吐き捨てるように言った.

「謝れ! 」

二十年間, 彼を支え続けた私は, 彼の人生の脇役ですらなかった. 彼が本当に救われたかったのは, 私ではなかったのだ. 私の心は, 完全に死んだ.

私は静かに結婚式のすべてをキャンセルした.

そして, 彼と二人で立つはずだった店の開店日, 私は一人, パリ行きの飛行機に乗った.

第1章

私は, 私の名を冠したパティスリーの開店を目前に控えた一ヶ月前, 婚約者であり共同経営者でもあるシェフの菊池勇輝から, 彼の幼馴染である松村心穂に, 店の看板デザートのレシピを譲渡すると告げられた. その瞬間, 私の頭の中は真っ白になった. まるで, 夢にまで見た結婚式のベールが, 突然, 鈍い刃物で引き裂かれたような衝撃だった.

私がその決定に猛烈に反対したのは, 当然のことだった. 何度も何度も試作を重ね, 夜を徹して改良を加え, ようやく完成させた, まさに私の魂そのものであるレシピだ. それを, なぜ見ず知らずの他人に, しかも開店直前に譲渡するというのだ.

しかし, 勇輝は耳を貸さなかった. 彼は「彼女は重い心臓病を患っていて, それが最後の夢なんだ」と言い募り, さらに「彼女はあの火事から, 俺たちの秘伝のレシピノートを救ってくれた命の恩人だ」と繰り返した. 彼の言葉は, 私をじりじりと追い詰める. 私は, まるで彼の恩義の重さに押しつぶされそうだった.

ある日, 私の手元に届いたのは, 一枚の国際製菓コンクールのエントリー完了通知だった. 心臓が跳ね上がった. 震える手で封筒を開けば, そこには出品者名: 松村心穂, と明確に記されていた. 勇輝の言葉が, 現実を突きつける.

その時, 私は悟った. 勇輝は最初から私の許可など求めていなかったのだ. 彼の「相談」は, 単なる「事後報告」に過ぎなかった. 私の体は, 心の奥底から冷たい感覚が全身を駆け巡った. それは, まるで魂が凍りつくような冷たさだった.

私は, すぐに結婚式の予約をキャンセルした. ドレスショップに電話をかけ, 用意していたウエディングドレスの引き取りを断った. 私の声は, 驚くほど冷静だった.

次に, 私はテーブルの引き出しから, 二人で選んだ結婚式の招待状を取り出した. 一枚一枚, 丁寧に印刷された私たちの名前. それを, 音を立てて破り捨てた. 紙片が床に舞い落ちる音は, 私の心の中で何かが崩れ落ちる音のように響いた.

そして, 勇輝がプロポーズの時にくれた指輪と, 愛を誓った手紙. 私はそれらを暖炉の火の中に投げ入れた. 炎が, 一瞬, 強く燃え上がる. 二人の思い出が, 灰となって消えていく. それは, 徹底的な決裂であり, 私自身を焼き尽くす行為でもあった.

開店予定日. 勇輝と二人で立つはずだった, 私の名前を冠したパティスリー. その日, 私は一人, パリ行きの飛行機に乗っていた. 伝説的なパティシエの元で, 新たなキャリアを歩み始めるために.

私の中では, すでに勇輝との関係は完全に断絶されていた. そう, 信じていたかった.

勇輝が心穂にレシピを譲渡しようとした理由. それは, 彼の口から何度も語られた「命の恩人」という言葉に集約されていた. 五年前のあの火事の日, 心穂がレシピノートを命がけで救ってくれた, と. そして, 彼女が重い心臓病を患っており, 私のレシピでコンクールに出て優勝することが彼女の「最後の夢」なのだと. 彼は, これを「家族の恩義」だと表現した.

私は, あの五年前の出来事を鮮明に思い出していた. 彼のレストランで火災が発生し, 私が駆けつけた時には, 炎が厨房を飲み込もうとしていた. 彼がレシピノートを救い出そうと炎の中に飛び込もうとしたのを, 私が必死で止めたのだ.

私は理解できなかった. なぜ, 私を裏切ってまで, 心穂に報いようとするのか. 私が彼を支え, 共に夢を追いかけてきた日々は何だったのか. 彼の言葉は, まるで「レシピを譲渡しても, 俺たちの関係には何の影響もない」と言っているようだった. 彼は, 心穂との関係を「ただの人工授精のようなものだ」と軽々しく言った. 感情はない, ただ恩を返すだけだと.

勇輝は, 愛という言葉を使って, 私に彼の決定を支持するよう求めた. それは, 私にとって究極の感情的な脅迫だった.

「私の人生は, あなたの『恩返し』のために存在するわけじゃない! 」

私は叫んだ. 声が震え, 涙が止まらなかった. 彼の中で, 私は一体どんな存在だったのだろう? 彼の人生の脇役? それとも, 都合の良い道具?

勇輝は一瞬, 言葉に詰まった. しかし, すぐに彼は顔を上げ, 「これは家族の決定だ」と, 責任を私に押し付けるように言った. 私の心は, 彼から遠く離れていくのを感じた. まるで, 見知らぬ人を見ているようだった.

私と勇輝は, 幼い頃から一緒に育った. 彼の店, 私のパティスリー. 二人の夢は, いつだって一つだった. 結婚も, その夢の延長線上にあると信じていた. 私は, 彼にとって「適切な未婚の妻」でしかなかったのだろうか.

彼にとって, 本当に特別な存在は, 私ではなかったのだ. 心穂. 彼の口から出る, その名前.

その時, 彼の携帯電話が鳴った. 画面に表示された名前を見た勇輝の顔に, 私が今まで見たことのない, 優しい笑顔が浮かんだ. それは, 私に向けては決して向けられることのない笑顔だった.

私は悟った. 彼のその優しい笑顔は, もう私のものではないのだと. 私の心は, 完全に死んだ.

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