
七年の愛は、裏切りに終わる
章 2
私の問いかけに対し, 一成は何も言えなかった. ただ, 深く沈黙するばかりだった.
「その女の弁護を, あなたが引き受けるってこと? 」私は冷たい声で聞いた.
一成は, ゆっくりと頷いた. 彼の顔は, まるで灰色の石膏のようだった.
「彼女の夫は, 大手投資会社の重役だ. 力も金もある. 彼女は弁護士費用もままならない状況で, 途方に暮れていた. 」一成は, ため息混じりに説明した. 「僕が手を貸さなければ, 彼女は全てを失うだろう. 」
「それで, 私との婚約を解消して, 彼女を救うと? 」私の声は, 嘲るように響いた. 「それが, 私を守ることになる, と? 」
一成は, 何かを言おうとして口を開いたが, すぐに閉じた. 彼の目は私の目を避け, 床を見つめていた.
「バカバカしい. 」
私は立ち上がった. 椅子を引く音が, 静かな部屋に響き渡った.
「その虚しい言い訳はもう結構よ. 」
一成が慌てて立ち上がった.
「心紗, 待ってくれ! 」
私は彼に背を向け, ドアに向かって歩き始めた.
「どこへ行くんだ? 」彼の声に焦りが滲んでいた.
「もうあなたには関係ない. 」私はドアノブに手をかけた. 「私たちは, 今日で終わりだ. 」
「心紗! 」一成が私の腕を掴んだ.
私は振り向いた. 彼の顔は, 絶望に歪んでいた.
「七年前, あなたは雨の中で言ったわね. 」私の声は静かで, しかし確固たる響きを持っていた. 「『心紗, 僕には君しかいない. 君だけが, 僕を信じてくれた. いつか必ず, 僕を裏切った奴らを見返してやる. そして, 君には最高の幸せを捧げる』って. 」
私の言葉に, 一成は息を呑んだ. 彼の顔から血の気が引いていくのが分かった.
「あの時のあなたは, どこへ行ったの? 」私はドアを開けた. 一成の, 蒼白になった顔が, ゆっくりと閉じるドアの向こうに消えていった.
彼の言葉は, 本当に私を守るためのものだったのだろうか. それとも, かつて自分を捨てた女への, 復讐にも似た執着なのだろうか. 私には, もう分からなかった. ただ, この関係が完全に終わったことだけは, はっきりと理解できた.
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