99回の裏切りと私の選択 の小説カバー

99回の裏切りと私の選択

8.7 / 10.0
献身的に支え続けて七年。九十九回目の結婚記念日に、純白の衣装で区役所へ向かった私を待ち受けていたのは、アシスタントの女性と腕を組む恋人の姿だった。彼は「実家の事情で彼女と偽装結婚するが、すぐに別れるから待っていてくれ」と、信じがたい身勝手な言葉を平然と言い放つ。絶望はそれだけに留まらない。彼の父親の古希祝いで、私は「息子に相応しくない」と罵倒され、顔に熱い茶を浴びせられるという屈辱を受ける。しかし、最も愛していたはずの彼は、その光景をただ冷淡に傍観しているだけだった。度重なる裏切りと彼の家族からの非道な仕打ちに、私はついに七年間の愛に終止符を打つ。すべてを捨てて京都の実家へ逃げ帰ったが、彼は執拗に私を追い、あろうことか倉庫に監禁するという暴挙に出た。「君なしでは生きられない」と涙ながらに縋る彼に対し、私は一切の情を捨て、静かに警察へ通報する。長すぎた悪夢から目覚めるため、私は自らの手で彼との関係を完全に断ち切る決断を下した。

99回の裏切りと私の選択 第1章

7年間, すべてを捧げてきた恋人との99回目の結婚記念日. 今日こそはと純白のワンピースで区役所に向かった私を待っていたのは, 彼の腕に絡みつくアシスタントの女だった.

「ごめん, 完全に忘れてた. 麻耶が実家から結婚を迫られてて, 偽装結婚だからすぐ離婚する. だから, お前は少し待っていてくれ」

信じられない言葉を平然と口にする彼. さらに彼の父親は, 古希祝いの席で「お前なんか慎和の妻にふさわしくない」と私を突き飛ばし, 熱いお茶を顔に浴びせた. それでも彼は, ただ傍観しているだけだった.

99回の裏切り. 彼の家族からの屈辱. そして, 私を助けようともしない彼の冷たい視線.

私の7年間は, 一体何だったのだろう.

すべてを捨てて京都の実家へ帰った私を, 彼は執拗に追いかけてきた. そして, あろうことか私を倉庫に監禁したのだ. 「君がいないと生きていけない」と涙を流す彼に, 私は静かに警察へ通報した.

第1章

塚本美優 POV:

「お嬢さん, また来ましたね」

受付の女性が私を見て微笑んだ. その声には, 親しみと, どこか諦めが混じっているように聞こえた.

私は顔を赤らめた.

彼女の言葉は, 私の心を直接えぐった.

今日で99回目だ.

榊原慎和と私が, 区役所に婚姻届を提出しに来るのは.

「今回は, うまくいくといいですね」

そう言ったのは, 隣の窓口にいた男性職員だった.

彼は新聞を広げながら, 私たち夫婦の" ドラマ" を毎週楽しみにしているようだった.

「ほら, 見てみろよ, 部長! 」

「また塚本さんだぜ」

他の職員たちもざわめき始めた.

私は, 彼らの視線から逃れるように, 俯いた.

私たちの結婚は, 彼らにとって, もはや見世物なのだ.

「部長, 賭けましょうか」

「今回は, うまくいくか, いかないか」

彼らの声が, 私の耳に届く.

「いや, 今回はどうだろうな」

「彼女, いつもより気合が入ってるみたいだし」

「でも, 相手の榊原社長は, なかなか手ごわいぞ」

彼らの言葉が, 私の心を締め付ける.

私は, 慎和を信じていた.

今日こそは, と.

誓っていたから.

その時だった.

見慣れた高級車が, 区役所の駐車場に滑り込んできた.

私の心臓が, 高鳴る.

慎和だ.

慎和が, 来てくれた.

私は, 弾かれたように車に駆け寄った.

車から降りてきたのは, 慎和と, そして--

もう一人, 女性がいた.

甲斐麻耶.

慎和のアシスタントだった.

麻耶は, 慎和の腕に, そっと手を絡めている.

二人は, 私の方には目もくれず, 区役所の入り口へと向かっていた.

私の足が, 地面に縫い付けられたように動かない.

「慎和! 」

私は, か細い声で, 彼の名前を呼んだ.

彼は, 振り返った.

その顔には, いつもの優しい笑顔はなかった.

「あれ? 」

「美優, どうしてここに? 」

彼は, 心底驚いたような顔をしている.

その隣で, 麻耶が, 不安そうな顔で慎和を見上げている.

「どうしてって…」

「今日, 結婚記念日よ」

「99回目の」

私の声が震える.

慎和は, ハッとしたように目を見開いた.

「ああ, そうだったな」

「ごめん, 完全に忘れていた」

彼の言葉が, 私の胸を深く突き刺した.

「でも, 大丈夫だ」

「麻耶が, 実家から結婚を迫られていて」

「偽装結婚だから, すぐに離婚する」

「だから, お前は少し待っていてくれ」

彼は, そう言って, 麻耶の手を引いて区役所の入り口へと向かおうとする.

「待って! 」

私は, 彼の腕を掴んだ.

「どうして…」

「どうして, こんなことするの? 」

私の目から, 涙が溢れ落ちる.

「美優, 君はいつもそうだな」

「少しは, 僕の気持ちも考えてくれ」

「麻耶は, 本当に困っているんだ」

慎和は, 苛立たしげに私の手を振り払った.

その瞬間, 麻耶が, 慎和の腕にさらに強くしがみついた.

「社長…」

「私なんかのために, 美優さんを困らせて…」

麻耶は, そう言って, 涙を浮かべている.

その演技に, 私は吐き気がした.

「大丈夫だ, 麻耶」

「僕が, 君を守る」

慎和は, 麻耶の頭を優しく撫でた.

その光景が, 私の心を切り裂いた.

「慎和…」

私は, もう一度, 彼の名前を呼んだ.

しかし, 彼は, もう私の方を見ていなかった.

彼は, 麻耶の手を引いて, 区役所の奥へと消えていく.

私は, その場に立ち尽くしていた.

彼の背中が, 遠ざかるにつれて, 私の心は, 急速に冷え切っていく.

彼は, 今日のために, いつもよりも念入りに髪をセットしていた.

新しいスーツも, おろしたてだった.

私との結婚式のために, 気合を入れたのだと, 信じていたのに.

もしかしたら, 彼は, 最初から, 私と結婚するつもりなどなかったのかもしれない.

私に, 彼の嘘を見抜く力がなかっただけなのだ.

私は, ゆっくりと, 区役所の入り口へと向かう.

中では, 慎和と麻耶が, 婚姻届を提出しているところだった.

彼らの姿が, まるで夢のように, 私にはぼんやりと見えた.

私は, タクシーを拾い, 自宅へと向かった.

部屋に戻ると, 私は, 今日のために準備していた純白のワンピースを脱ぎ捨てた.

ハサミを取り出し, ビリビリと切り裂く.

白い布が, 雪のように舞い散る.

7年間.

私は, 彼のために, 全てを捧げてきた.

しかし, 99回目の裏切りで, 私の心は, 完全に折れてしまった.

もう, 彼を信じることはできない.

私の7年間は, 今日で終わったのだ.

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