視力と命を奪われた妻の復讐 の小説カバー

視力と命を奪われた妻の復讐

9.0 / 10.0
夫である潤治の身代わりとなり、事故で視力のほとんどを失った私。不自由な体になっても夫への愛を信じていたが、現実はあまりに残酷だった。彼は秘書の栞音と不倫関係にあり、私の視力を「濁った目」と嘲笑っていたのだ。裏切りを知り離婚を決意した矢先、私の中に新しい命が宿っていることが判明する。しかし、その小さな希望さえも、逆上した栞音によって階段から突き落とされ、無残に奪われてしまった。愛する夫の裏切り、そして最愛の我が子の死。すべてを失った私の心に宿ったのは、二人に対する底知れない憎悪だけだった。形だけの謝罪を繰り返す潤治と、私の幸せを蹂躙した栞音。地獄の底に突き落とされた女の絶望は、やがて冷徹な殺意へと変わっていく。あなたたちが手にした地位も名誉も幸福も、そのすべてをこの手で徹底的に叩き潰してやる。人生のすべてを懸けて挑む、孤独で壮絶な復讐劇が幕を開ける。もう二度と、あの頃のような慈悲など持ち合わせてはいない。

視力と命を奪われた妻の復讐 第1章

夫の潤治を庇って, 私は視力の大半を失った.

それでも, 彼を愛していた. 夫が秘書の栞音と体を重ね, 「あんな濁った目をした女」と私を嘲笑するのを目撃するまでは.

離婚を決意した矢先, 私のお腹に新しい命が宿っていることがわかった. しかし, その幸せも束の間, 逆上した栞音に階段から突き落とされ, お腹の子どもを失ってしまう.

愛も, 希望も, 未来も, すべてを奪われた. 私の心に残ったのは, 底知れぬ絶望と, 二人への燃え盛るような憎しみだけだった.

虚偽の懺悔を繰り返す潤治と, 私からすべてを奪った栞音.

あなたたちが築き上げたすべてを, この手で徹底的に破壊してやる. 私の人生を懸けた, 冷徹な復讐が今, 始まる.

第1章

奈津美 POV:

電話のベルが, しつこく鳴り続けていた. 夢と現実の狭間で, その音が耳の奥にへばりつく. まるで何か悪い予感を告げているかのようだった.

ベルは一度途切れて, すぐにまた鳴り始めた. その執拗さが, 私の胸を締め付ける. ベッドの隣で, 潤治が小さく身動ぎした.

「奈津美, 寝てるのか? 」

彼の声が, 静かな部屋に響いた. 私は目を閉じたまま, 息を潜める. 何も答えなかった.

潤治はゆっくりとベッドから起き上がった. 足音が遠ざかり, 寝室のドアがそっと開く. そして, バンという乾いた音がして, ドアが勢いよく閉まった.

あまりにも急な音に, 私の心臓が跳ねる. 潤治が慌てて出て行ったのが分かった. 私は迷わず, 彼を追うことを決めた.

真実を確かめたかった.

車を走らせた先で, 私は信じられない光景を目の当たりにする. 潤治が, ある女性と親密に抱き合っていたのだ.

その女性は, 早見栞音. 彼の秘書だった.

彼女が私たちの生活に現れたのは, もう二年も前のことだ. 潤治は彼女を「優秀な人材」だと褒め称えていた. 私は夫を信じていた. それなのに.

栞音は潤治に甘えるように囁き, 自分の魅力を問いかけていた. 「私, どうかな? 潤治さんが夢中になるほど可愛い? 」

潤治は満足げに頷き, 彼女を抱き寄せた. その顔には, 隠しようのない笑みが浮かんでいた. 私の心は, 冷たい氷で覆われる感覚に陥る.

「潤治さん, 全然電話に出なかったね. どうせ, あの女と一緒だったんでしょ? 」

栞音が, わざとらしく不満を口にした. 私の存在を, 彼女は知っている. 確信した.

潤治は嘲るように鼻で笑った. 「まさか. あんな濁った目をした女といるわけないだろう. 見ていて気分が悪くなる」

その一言が, 私の胸を深く抉った. 私の視力を嘲笑する言葉. それは, これまでで一番残酷な刃だった.

栞音は満足げに潤治の首に腕を回し, 唇を重ねた. 二人はまるで当然のように, 彼らの私的な空間へと消えていった.

私はそこに立ち尽くすしかなかった. 体中の血液が凍りつき, 寒さが四肢から全身へと広がっていく.

魂が抜けたように, ふらふらと家に帰った. 潤治の言葉が, 耳の奥で何度も反響する.

「濁った目」「気分が悪くなる」.

この目は, あなたを守った代償として, 光を失った目なのに.

私の人生は, いつも不幸と隣り合わせだった. 幼い頃, 両親は離婚した. 母は父に捨てられ, 絶望の淵に立たされた. その後, 母は潤治の家で家政婦として働き始める.

それが, 潤治と私の最初の出会いだった. まだ幼かった潤治は, 私に優しく接してくれた.

しかし, その三年後, 母は自ら命を絶った. 私は再び, 一人ぼっちになった.

潤治はそんな私を哀れみ, 家に引き取ってくれた. 彼は私の手を握り, 力強く言った. 「奈津美, 心配いらない. 僕がずっと君を守る. ここが君の家だ」

その言葉は, 当時の私にとって唯一の光だった. 私は潤治に, 純粋な愛情を抱き始める. けれど, 自分の境遇を恥じ, その気持ちを必死で隠した.

数年後, 潤治は建築家として独立し, 若くして成功を収めていた. しかし, その過程で多くの敵を作った. 彼のビジネスは, 常に危険と隣り合わせだった.

ある日, 建設現場での崩落事故が発生した. 潤治は, 設計上のミスを隠蔽しようとしていた. その隠蔽工作が露呈しそうになり, 彼は窮地に立たされていた.

私は彼の危機を救うため, 身を挺して彼を庇った. それが, 私の視力の大半を奪う大怪我となった.

病院のベッドで目覚めた私に, 潤治は跪いてプロポーズした. その時の彼は, 心から私を愛してくれているように見えた. 彼は私の希望だった.

私はそのプロポーズを受け入れた. それが, 私の人生のすべてを彼に捧げる始まりだった.

しかし, 今になって思う. 彼の愛は, 罪悪感と打算に満ちたものだったのではないかと. 彼はいつも, 私を絶望の淵に突き落とし, その後に甘い言葉で救い出す. 私はそのサイクルに陥り, 抜け出せずにいた.

夜が明ける頃, 潤治が家に戻ってきた. 彼は, 部屋の明かりが灯っているのを見て, 少し驚いたようだった.

しかし, その驚きの表情はすぐに消え失せた.

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