婚約指輪と裏切りの五年間 の小説カバー

婚約指輪と裏切りの五年間

7.8 / 10.0
交際5周年という節目に、私は彼が隠し持っていた婚約指輪を見つける。今日こそプロポーズされると期待に胸を膨らませていたが、翌朝のSNSには残酷な現実が綴られていた。そこには、大手建設会社の令嬢・莉枝の指で輝くあの指輪と、彼からの愛の告白が投稿されていたのだ。裏切りを確信し、問い詰めるためにプロポーズの現場へと向かった私を待っていたのは、さらなる地獄だった。私は莉枝のネックレスを盗んだという無実の罪を着せられ、あろうことか彼から平手打ちを浴びせられた末に会社を解雇されてしまう。彼の夢を支えるために尽くした5年間は、単なる都合のいい駒として利用されていたに過ぎなかったのか。絶望の淵に立たされた私は、両親が以前から勧めていた縁談を受ける決意を固める。「お母さん、お見合い相手と結婚するわ」。彼らがまだ知らない私の真実の素性と、用意された最高の婚約者。すべてを失った女による、華麗なる復讐劇がいま幕を開ける。

婚約指輪と裏切りの五年間 第1章

付き合って5年目の記念日, 私は彼が隠していた婚約指輪を見つけた.

この特別な日にプロポーズされると信じていたのに, 翌朝SNSで見たのは, 大手建設会社の社長令嬢の薬指にその指輪が輝いている写真だった.

「愛してる, 莉枝」という彼の投稿. 私との5年間は, 一体何だったのだろう.

絶望の中, 私は彼らのプロポーズの現場に駆けつけた. そこで私を待っていたのは, 彼の裏切りだけではなかった.

会社では, 莉枝のネックレスを盗んだと濡れ衣を着せられ, 彼に平手打ちされ, 解雇された.

5年間, 彼の夢を支えるために全てを捧げた結果がこれ? 私の人生は, 彼の都合のいい駒だったというの?

だが, 彼らが知らないことがある. 私の両親が, 私のためにもっともふさわしい婚約者を用意していたことを.

「お母さん…私, 結婚する. お見合い相手と」

これは, 私の復讐の始まり.

第1章

私は昨日, 彼が婚約指輪を隠しているのを見つけた. 今日, 私たちは付き合って5年目の記念日. この特別な日に, 彼からのプロポーズを期待していたのに, 私の世界は一瞬で崩れ去った.

勇信の建築事務所の設立5周年記念パーティーの準備で忙しい合間, 私は彼の机の引き出しを整理していた.

奥の方に, 小さなベルベットの箱が隠されているのを見つけた時, 心臓が跳ね上がった.

開けてみると, そこにはキラキラと輝くダイヤモンドの指輪が収まっていた.

シンプルなソリティアリング. 私たちが以前, 冗談交じりに「もし結婚するなら, こんなのが良いね」と話していた通りのデザインだった.

私は箱をそっと閉じ, 元の場所に戻した.

指先が震えていた. 喜びと, かすかな不安が混じり合った感情だった.

勇信は最近, 忙しそうだった. 新しいプロジェクトに取り掛かっていると聞いていたから, きっとサプライズの準備も大変だったに違いない.

明日, 私たちの5周年記念日. きっと, あの指輪を渡してくれるのだろう.

私は一人, アパートのリビングで微笑んだ. 壁には, 勇信と私の写真が飾られている. 初めて二人で旅行した沖縄のビーチでの写真, 彼の初めての建築コンペで優勝した時の写真, そして私が作った和菓子を彼が美味しそうに食べている写真.

どの写真も, 私たちの愛の証だった.

「みか, 愛してるよ」

彼がそう言ってくれた時の声が, 今も耳に残っている. 彼はいつも, 言葉で愛情を表現してくれる人だった. だから, きっとプロポーズも, 私を最高に幸せな気持ちにしてくれるに違いない.

私は携帯を手にとって, 彼とのメッセージ履歴を開いた. 最後のメッセージは今朝の「頑張ってね」だった.

私の心は, 期待と幸福感で満たされていた. まるで, 甘い和菓子を一口食べた時のように, じんわりと温かさが広がっていく.

この5年間, 私は勇信のために生きてきたと言っても過言ではない. 彼の夢を支え, 無給で働き, 自分の貯金まで切り崩して資金援助をしてきた.

「立花堂」の一人娘として, 和菓子の才能を評価されることもあったけれど, 私はいつも彼の影に隠れることを選んだ. 彼の成功が, 私の喜びだった.

彼の笑顔が, 私のすべてだった.

そんな私が, 今日, ついに彼の隣に並び立つ日が来るのだと信じていた. 人生の新しいチャプターが, 今まさに開かれようとしている.

私の指には, まだ何も飾られていない. でも, 明日には, あの輝くダイヤモンドが私の指に嵌められるのだろう.

そう思うと, 胸が高鳴って, 眠れない夜を過ごした.

翌朝, 私は最高の気分で目覚めた. 今日は特別な日.

朝食を済ませ, パーティーの最終チェックのため, 勇信の事務所へ向かう前に, SNSを何気なく開いた.

勇信のアカウントに, 新しい投稿があった.

「最高の夜だった. 君といると, どんな困難も乗り越えられる気がするよ. 愛してる, 莉枝」

写真には, 勇信と, 大手建設会社の社長令嬢, 畑山莉枝が写っていた.

莉枝の薬指には, まぎれもないあのダイヤモンドの指輪がきらめいていた.

私の心臓が, まるで誰かに握りつぶされたかのように, 激しく痛んだ. 息が, 止まる.

世界が, 一瞬で色を失った.

頭の中が真っ白になり, 何も考えられない. 手が震え, 携帯を落としそうになる.

「莉枝... ? 」

勇信は私に, 莉枝を「お腹の子の父親です」と紹介した. その言葉が, 私の脳裏に焼き付いている.

私は, 昨夜のパーティーの準備で忙しかった. 彼が莉枝と会っていたなんて, 全く知らなかった.

勇信は, 私と5年間付き合っていた恋人だったはずだ. それなのに, 彼は別の女性にプロポーズしていた. しかも, その女性は妊娠しているという.

私が必死に支えてきた5年間は, 一体何だったのだろう.

私は急いでタクシーを拾った. 行き先は, SNSに投稿された写真の背景から推測できる, あの高級ホテル.

心臓が喉元までせり上がる. 呼吸が苦しい.

ホテルに着くと, ロビーは華やかな装飾で彩られていた. どこかのパーティーが開かれているのだろう.

私は人混みをかき分け, 彼のSNSの写真に写っていた場所へ向かった.

そこには, 多くの人々が集まっていた. 中央には, 勇信と莉枝が, 笑顔で寄り添っていた.

勇信は, 私の知っている, あの優しい笑顔で莉枝を見つめていた. まるで, 私が一度も見たことのないような, 深い愛情を込めて.

莉枝の左手には, 私の指輪が光っていた.

私の目の前で, 勇信は莉枝の膝をつき, 彼女の手を取り, 何かを囁いている. 莉枝は顔を赤らめ, 嬉しそうに頷いた.

周囲からは, 拍手と歓声が沸き起こった.

「おめでとう! 」「お幸せに! 」

祝福の声が, 私の耳に刺さる. そのどれもが, 私を嘲笑っているように聞こえた.

私はその場に立ち尽くした. 足元がぐらつき, 立っているのがやっとだった.

まるで, 時間が止まってしまったかのようだった. 私だけが, この幸福な世界から取り残された, 異物のように感じられた.

胸が, 張り裂けそうだった. いや, もうすでに, 粉々に砕け散ってしまったのかもしれない.

私の頬を, 温かいものが伝った. 涙だった.

でも, 声を出すことも, 泣き崩れることもできなかった. 全身の力が抜け, ただ麻痺したようにそこにいた.

周囲の人々は, 幸せそうな二人を見つめ, 互いに祝福の言葉を交わしている. 誰も, 私の存在に気づかない.

私は, 透明人間になったようだった.

勇信は, 莉枝の手を握りしめ, 幸せそうに笑っている. その笑顔は, かつて私に向けられていたものと寸分違わなかった.

その時, 携帯が震えた. 母からの電話だった.

「みか? どうしたの, 何かあった? 」

母の声が, 遠く聞こえる. 私は震える声で, 絞り出すように言った.

「お母さん... 私, 結婚する」

静まり返ったロビーで, 私の声はか細く響いた.

母は一瞬, 言葉を失ったようだった.

「え, 美歌? どういうこと? 勇信くんと? 」

私は答えることができなかった. ただ, 息を吸い込むことすら苦しかった. 喉が詰まって, 言葉が出ない.

「勇信くんじゃない. 別の, お見合い相手と」

絞り出した言葉は, 自分でも信じられないほど冷たく響いた.

母は驚きを隠せない様子だったが, すぐに声のトーンを変えた.

「あら, そう! まあ, 美歌もそういう気になったのね. お父さんも喜ぶわ. やっぱり, 家柄のしっかりした方が安心だものね」

母の声は, 喜びと安堵に満ちていた. その声が, 私の心にさらに深く突き刺さる.

「ええ... そうね」

私はそれ以上何も言えなかった. ただ, 母の言葉に同意することしかできなかった.

「じゃあ, すぐにでも一度, お相手の方と会ってみましょう. お父さんと話して, 日程を決めるわ」

母は矢継ぎ早に話を進める. 私の気持ちなど, 全く考えていないようだった. いや, 考える必要がなかったのかもしれない.

私は, もう何もかも, どうでもよかった.

「わかった. 数日中に, 私物を整理したら, 実家に帰る」

そう言って, 私は電話を切った.

冷たい風が, 私の頬を撫でる. 私は, まるで魂が抜けたかのように, そこに立ち尽くしていた.

勇信と莉枝が, 抱き合ってキスをしている. 周囲からは, さらに大きな拍手と歓声が上がった.

その光景は, 私にとってあまりにも残酷だった.

私は, 自分がまるで木偶の坊になったようだった. 動くことも, 感情を露わにすることもできない.

心が, 完全に麻痺してしまったかのようだった.

再び携帯が鳴る. 今度は父からだった.

「美歌! お母さんから聞いたぞ! 本当にそれでいいのか? お前が, 勇信くんと結婚するって, ずっと言ってたじゃないか」

父の声は, 心配と同時に, どこか戸惑いが混じっていた.

「うん. もう, いいの」

私の声は, 感情のこもらない, 乾いた声だった.

「そうか... まあ, お前が決めたことなら, 親として異論はない. むしろ, 安心した」

父の声に, 安堵の色が混じる.

「実家, いつ帰ってくるんだ? 」

「数日中に荷物を整理して, 帰る」

「わかった. 無理はするなよ」

父はそう言って, 電話を切った.

私は再び, 勇信と莉枝の方を見た. 二人は, まだ幸せそうに抱き合っている.

その時, 勇信がふと, 私のいる方を見た. 彼の視線が, 私と交錯する.

一瞬, 彼の笑顔が消え, 驚きと, かすかな動揺が顔に浮かんだ.

彼女はなぜここに? こんな時に, 邪魔をするな.

彼の心の声が, 私の心に直接響いたような気がした.

勇信はすぐに莉枝の手を取り, そそくさと会場の奥へと消えていった. まるで, 私から逃げるかのように.

莉枝は, 勇信の腕に抱かれながら, 私を一瞥した. その視線には, 勝ち誇ったような笑みが浮かんでいた.

私は, 二人が消えた後も, しばらくそこに立ち尽くしていた.

かつて, 勇信は私に言った. 「いつか, 君を一番美しい花嫁にするよ」と.

あの言葉も, すべて嘘だったのだろうか. 彼にとって, 私はただの都合の良い存在だったのだろうか.

私の誕生日に, 彼はいつも私を最高のレストランに連れて行ってくれた. そして, サプライズのプレゼントを用意してくれた.

そんな彼が, 今日, 別の女性にプロポーズしていた. しかも, その日は, 私たちの5周年記念日だった.

私の心は, 凍りついてしまった.

私は, ゆっくりと踵を返し, ホテルを後にした. 背後からは, まだ彼らの幸せそうな笑い声が聞こえてくる.

勇信の友人たちの祝福の声も聞こえた. 彼らは, 私たちの関係について, 何も知らなかったのだろう.

私と勇信が, どれほどの時間を共に過ごし, どれほどの夢を語り合ってきたか. 彼らは, そのすべてを知らない.

そのことに, 私はひどく心酸を覚えた.

私はバス停に向かい, 一番遠くまで行くバスに乗り込んだ. 窓の外の景色が, 涙で滲んでいく.

何をする気力もなく, ただバスに揺られていた.

アパートのドアを開けると, 玄関に大きな段ボール箱が置かれているのが目に入った.

配達員がもう帰った後だった. 箱には, 私の名前が書かれている. 送り主は, 勇信だった.

「お誕生日おめでとう, 美歌」

箱の横に貼られたメッセージカードには, 彼の筆跡でそう書かれていた.

今日は, 私の誕生日でもあった. 私は, すっかり忘れていた.

配達員の声が聞こえた. 「前川様は, いつも奥様を大切になさっていて, 本当に素敵な旦那様ですね! 」

私は, その言葉に何も反応できなかった. ただ, 冷たい視線で箱を見つめた.

箱をリビングに置き, 私はソファに無力に倒れ込んだ.

部屋は, 静まり返っていた. 勇信はまだ帰ってきていない.

この部屋には, 勇信と私が共に過ごした5年間の思い出が詰まっている. 壁には, 彼と私の写真が飾られている. 彼の使っていたマグカップ, 彼が読んでいた本, 彼のギター.

そのすべてが, 今は私を嘲笑っているように感じられた.

私の目から, 大粒の涙が溢れ出した.

勇信からのプレゼントは, まるで汚物のように感じられた. 触れることすら嫌悪感を覚える.

私は, そのままソファに座り込み, 時間が経つのも忘れて横たわっていた.

どれくらい時間が経っただろうか. 部屋のドアが, 突然開く音がした.

続きを読む

婚約指輪と裏切りの五年間 目次一覧

Ch. 1 Ch. 2 Ch. 3
Ch. 4
Ch. 5
Ch. 6
Ch. 7
Ch. 8
Ch. 9
Ch. 10
Ch. 11
all

おすすめの作品

新着リリース小説

男装17年、女帝はじめました の小説カバー
8.0
生まれた瞬間、母の野心によって性別を偽る運命を背負わされた皇太子。あるはずの「男の証」を持たぬまま、過酷な胸の締め付けと男装に耐え、十七年もの歳月を皇太子として完璧に演じ抜いてきた。文武両道で聡明な後継者として名を馳せるも、ついにその正体が露見する日が訪れる。裏切られたと感じた忠臣たちが怒りの眼差しを向け、死罪を免れない絶体絶命の窮地に立たされた時、彼女は静かに剣を抜き放ち、世の理を覆す宣言を放った。「女が皇帝になってはならぬと、誰が決めたのか」と。自らの力で帝位を掴み取った彼女を待っていたのは、かつて共に学問に励んだ文官と、武芸を叩き込んでくれた武官による、熾烈な寵愛争いだった。かつての仲間から側室候補となった彼らの肩を抱き寄せ、女帝は不敵に微笑む。後宮にさらなる新人が増える未来を見据え、嫉妬に燃える男たちを軽やかにいなしていく。男装の皇太子から前代未聞の女帝へ。彼女の歩む道には、華やかな恋の火花と波乱の治世が待ち受けていた。
アルファの偽りの番、オメガの静かなる戦い の小説カバー
8.7
最下層のオメガである私は、アルファのカイネと「運命の番」として結ばれ、幸せな物語の中にいた。彼の世継ぎを身籠って八ヶ月、その愛を疑うことなどなかった。しかし、偶然見つけた羊皮紙がすべてを覆す。彼は一年前、別の女のために世継ぎを成せぬ体となる儀式を済ませていたのだ。私との日々は、彼とその部下たちが仕組んだ残酷なゲームに過ぎなかった。お腹の子の父親が誰かを賭けの対象にされ、寒い夜には慰みものとして嘲笑われる。さらに彼は私に薬を盛り、最愛の女性であるセイラに私の膨らんだ腹を蹴らせ、意識を失った私の体を部下たちへの褒美として差し出した。信じていた未来は、吐き気を催すほど歪んだ娯楽として踏みにじられた。心も体も無残に引き裂かれた私は、絶望の淵でただ壊れたわけではない。その心は氷のように凍てつき、復讐の炎を宿した。私は禁忌の薬草を煽り、自らの手で胎内の命を断つ。これは絶望による幕引きではない。私を弄んだ者たちすべてを地獄へ引きずり戻すための、孤独で苛烈な戦争の始まりなのだ。
離婚届にサインしたら、私は元夫では手の届かない真の令嬢でした の小説カバー
9.5
交通事故で視力を失い、誰からも見捨てられた蕭明隼人を救ったのは、明石凛ただ一人だった。彼女は彼と結婚し、三年の歳月を費やしてその目を治療する。しかし、視力を取り戻した隼人が彼女に突きつけたのは、あまりに非情な離婚届だった。かつての恋人・秋子との時間を奪ったと凛を責め立てる彼は、三億円の宝飾品を贈り、彼女を冷酷に追い出す。世間からも「身の程知らず」と嘲笑され、全てを失ったかのように見えた凛。だが、彼女こそが隼人の目を治した名医であり、三億のジュエリーを手がけたデザイナー、さらにはウォール街やハッカー界を震撼させる伝説の天才にして、大統領家の真の令嬢という正体を持っていた。真実を知り、後悔に震えながら復縁を乞う元夫の前に、京の実業界に君臨する冷徹な権力者が現れる。「彼女は俺の妻だ」と宣言し、凛を抱き寄せる男。その傍らで、彼女は余裕に満ちた微笑を浮かべる。かつての献身を捨て、真の輝きを取り戻した令嬢による、華麗なる逆転劇が幕を開ける。
婚約破棄当日、彼女は帝都の御曹司の禁断の花嫁となった の小説カバー
9.4
結婚式を目前に控えた宮沢沙織は、婚約者と実姉の不貞を映した映像を突きつけられ、残酷な破局を迎える。参列者からの嘲笑を浴び、ワインで汚れたドレスを脱ぎ捨てて激しい雨の中へ飛び出した彼女は、偶然通りかかった高級車を止め、車内にいた見知らぬ男に復讐心から強引なキスを仕掛けた。その場限りの過ちで終わるはずだったが、相手は帝都で強大な権力を誇る上田家の御曹司、上田拓海であった。翌朝、沙織のアパートを訪れた元婚約者は、冷酷無慈悲と恐れられる拓海がエプロンを纏い、献身的に朝食を作る姿を目撃し愕然とする。拓海は沙織の腰を力強く引き寄せ、逃がさないと言わんばかりにその首筋に顔を埋めた。そして独占欲に満ちた瞳で、冷徹かつ官能的に囁く。「選べ、俺かあいつか。もし選択を間違えれば……一生檻に閉じ込めて、俺だけを見続けることになるぞ」。最悪の裏切りから始まった運命は、帝都の支配者による執着と狂愛に満ちた新生活へと塗り替えられていく。
四十九冊の本、ただ一つの清算 の小説カバー
9.3
夫・彰人が不貞を働くたび、私の本棚にはその代償として希少な古書が増えていく。四十九回の裏切りと、沈黙を買うための四十九冊の謝罪。そんな歪な均衡は、彼のあまりに無慈悲な嘘によって崩壊した。彰人は亡き父との約束を反故にし、高校時代の恋人・樹里にマンションを買い与えるため、父の授賞式を欠席したのだ。さらに彼は、私の母の追悼庭園を樹里の愛猫の墓で汚すことを許し、あろうことか私に「彼女への思いやりを持て」と言い放つ。私の流産という深い悲しみさえ不倫相手に漏らしていた彼に、もはや慈悲の心など残っていない。母の記憶と自らの尊厳を蹂躙された私は、彼と共に築き上げた偽りの日々をすべて解体することを決意する。私は数々のキャリアを葬ってきた選挙プランナーだ。眠る夫の端末に盗聴器を仕掛け、反撃の準備を整える。次に本棚へ並ぶのは、彼からの謝罪の品ではない。私による冷徹な清算の記録であり、彼への最後通牒となるのだ。
殺すはずだったあなたに、また恋をした の小説カバー
8.4
物語の世界へ転生した私に課せられた唯一の使命は、ターゲットである男を暗殺することだった。しかし、夜空に大輪の花火が打ち上がる中、膝をついて愛を誓う彼の姿に、私は殺意を封じ込めてしまう。袖に隠した刃を収め、脳内に響く警告を無視して、私は彼と生涯を共にする道を選んだ。だが、幸せな日々は長くは続かなかった。結婚から三年、子を授かれないことを理由に正室の座を追われ、絶望の淵に立たされる。その夜、燃え盛る炎に包まれた屋敷の中で、私はようやく苦痛に満ちた運命から解放されるはずだった。ところが、次に意識を取り戻したとき、私はあのプロポーズの日へと時間を遡っていた。目の前には、かつてと同じように跪く彼の姿。しかし、以前とは様子が異なり、彼は瞳に涙を浮かべながら「行かないでくれ」と切実な声を絞り出す。繰り返される運命の中で、殺すべき相手だったはずの彼と、私は再び向き合うことになる。残酷な結末を知りながらも、抗えない愛と宿命が交錯する、切なくも激しい再会の物語が幕を開ける。
今すぐ読む
共有