殺すはずだったあなたに、また恋をした の小説カバー

殺すはずだったあなたに、また恋をした

8.4 / 10.0
物語の世界へ転生した私に課せられた唯一の使命は、ターゲットである男を暗殺することだった。しかし、夜空に大輪の花火が打ち上がる中、膝をついて愛を誓う彼の姿に、私は殺意を封じ込めてしまう。袖に隠した刃を収め、脳内に響く警告を無視して、私は彼と生涯を共にする道を選んだ。だが、幸せな日々は長くは続かなかった。結婚から三年、子を授かれないことを理由に正室の座を追われ、絶望の淵に立たされる。その夜、燃え盛る炎に包まれた屋敷の中で、私はようやく苦痛に満ちた運命から解放されるはずだった。ところが、次に意識を取り戻したとき、私はあのプロポーズの日へと時間を遡っていた。目の前には、かつてと同じように跪く彼の姿。しかし、以前とは様子が異なり、彼は瞳に涙を浮かべながら「行かないでくれ」と切実な声を絞り出す。繰り返される運命の中で、殺すべき相手だったはずの彼と、私は再び向き合うことになる。残酷な結末を知りながらも、抗えない愛と宿命が交錯する、切なくも激しい再会の物語が幕を開ける。

殺すはずだったあなたに、また恋をした 第1章

私がこの物語の世界にやって来たのは、ただ一つ。北燕侯・顧景之を暗殺するという任務を遂行するためだった。

「泠、愛している」

空一面に咲き誇る花火が、まるで私を祝福しているかのようだった。眼下では、顧景之が片膝をついて私を見上げている。その真摯な眼差しに、私は袖に隠した刃を握る力を、思わず緩めてしまった。

「妻として、私に嫁いでくれないか。生涯、ただ君だけを愛すると誓う」

「はい」

脳内でシステムが警告をけたたましく鳴らし続けていたが、私は構わず、その手を取った。

だが、現実は私の頬を容赦なく打ちのめした。

「蘇泠、侯爵夫人でありながら三年も子をなさぬとは。潔くその座を退き、賢明な者に譲るべきだ」

「……はい」

かつて彼からの求婚を受け入れた時と同じように、私は力なく頷いた。

その夜、燃え盛る炎が私の住む屋敷を焼き尽くし、私をこの苦海から解き放ってくれた。

再び目を開けると、私はあの日――彼が私に求婚した、あの日に戻っていた。

だが今度は、彼が泣きながら懇願していた。「泠、行かないでくれ」

私は震える手で桶を持ち上げ、井戸へと縄を投げ入れると、力いっぱい引き上げた。

侍女も下男もいない暮らし。全てを自分の手でこなさなければならない生活には、とうに慣れてしまった。

ろくな食事もとれない日々が続き、私の手は枯れ木のように痩せ細っている。

感情のこもらぬ手つきで、水の入った桶を地面にどすりと置いた。

水を汲むという単純な作業も、毎日繰り返さなければ、飲む水も体を清める水もないのだ。

「宿主、後悔していますか?」

システムの無機質な声が、脳内に響く。

私は力なく笑みを浮かべるだけで、何も答えなかった。

後悔しているか? もちろん、後悔している。 だが、この世に後悔をなかったことにする薬など、どこにも売ってはいない。

「蘇泠!蘇家はもはや没落した。今のそなたなど、ただの野良犬ではないか!」

北燕侯・顧景之は、彼の愛人を伴って私の前に現れ、そう言い放った。

かつて、盛大な輿入れで正式な妻として迎えられたはずの私は、今や一人の愛人に踏みつけられている。

彼と祝言をあげてから、わずか数年。父も母も、父方と母方の一族も、皆ことごとく没落してしまった。

もはやこの盛京城で、私のことなど覚えている者もいないだろう。

かつての輝きも、この窮屈な暮らしの中で削ぎ落とされ、牙を抜かれてしまった。

「侯爵夫人として三年も子をなさなかったのだ。当然、その座を譲るべきだ」

彼は隣に立つ女の腹を優しく撫でながら言った。私に対する苛立ちとは対照的なその光景は、目を焼くほど痛々しかった。

「……はい」

粗末な麻の衣をまとい、私は水桶のそばに立ち尽くす。

もはや抗う気力もなかった。とうの昔に、自分の運命を受け入れていたのかもしれない。

この三年間、初めのうちは優しかった彼も、時が経つにつれて苛立ちを隠さなくなり、屋敷に帰らない夜が増えていった。彼の冷淡な態度は使用人たちにも伝わり、私は日に日に軽んじられるようになった。

盛京城ではとうの昔から噂が流れていた。北燕侯が外で愛人を囲っている、と。

私もずっと知っていた。だが、まさかその女を私の目の前に連れてきて、出て行けと迫るとは思わなかった。

最初に私を求めてきたのは、彼のほうだったのに。

灯篭祭りの夜、夜空を彩る花火と、大勢の民衆が見守る中で交わした誓いを、どうしてこうも簡単に忘れられるのだろう。

いや、もしかしたら――あの約束を心に刻んでいたのは、私だけだったのかもしれない。

その夜、私は屋敷にいた侍女と下男に暇を出し、燭台の火を手に取ると、屋敷中に火を放った。

燃え盛る炎の中で、使用人たちの叫び声が遠くに聞こえる。薄れゆく意識の中、最後に見たのは、慌てて駆けつけ、愕然と立ち尽くす顧景之の姿だった。

ようやく、解放されたのだ。

この世界での私の任務は、どうやら失敗に終わったようだ。

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